小悪魔な魔王
帝都フィルディア内にある城…フィルディア城の一室である貴賓室に通された千棘、鏡、ノエル、ベルセ、エル、デルの六名はテーブルを囲んで用意されていたお茶を口に付けながらノクス・フォン・アルティス・シドフィア皇帝との会談時間まで時間を潰していた。
「さて…会談まで10分って所だけど、簡単に擦り合わせだけしておこうか」
千棘はそう言いながらインベントリから今回の情報が纏められている一枚の紙を取り出し、いかにも高級そうなテーブルの上に置く。
「まず僕達がこれからの会談で取る行動は一つ目、何もせずに会談を終わらせる。二つ目、シドフィア帝国と同盟を組む…この2パターンの内どっちかになる。そしてまず大前提として、僕達は帝国から何も受け取るつもりはない。同盟を組むと言ってもそれは僕達の建国の邪魔にならない様にという意味が大半を占めている。ここまではみんないいね?」
皆がゆっくりと頷いたの確認した千棘はもう一度口を開く。
「何故一つ目が何もせずに会談を終わらせるか…これは前皇帝のバルトリアと公爵の成りすましをしていた魔族のアルマートへキツイお仕置きをする為だったから。正直、バルトリアに関してはもう身内切りされているからどうでもいいけど、アルマートの方はまだわからないからそれを確認してすぐに帰る。これが一つ目のパターンね?」
千棘は皆が言葉も発さずに頷いたのを見て二つ目の説明をし始める。
「そして二つ目…これは正直どうでもいいんだ。何故なら同盟を組んだとしても、帝国が僕達の利益になる物を提供出来ないから…もし、建国に必要な労働力を提供するというのなら、労働力は海上王国アクエリアから提供してもらえる事が確約されている。次に建国するにあたっての労働者への配給…食糧支援だね。これに関しても正直僕達には旨味が存在しない…労働者に配給する食料はアンダーパラダイスのダンジョンコアを制御して食用となる魔獣の確保で補えるからね。じゃあ、建国する為の資源提供を、と言ってきたとしても、これも僕達に旨味は存在しない。何故なら、建築資材は魔力を与えればほぼ無限に生える木材とダンジョンコアの性質を利用すれば石材どころか鉱石も魔獣の素材も何もかもがほぼ無限に手に入る。じゃあ技術者はどうだと技術者の提供をされても、こっちの技術が持ち逃げされる可能性もあるからこれもあり得ない…だから正直な所、同盟を組んだとしても僕達からしたら旨味がないんだ。もし同盟を組んで得られる利益…それは建国の邪魔を強制的にさせない様に出来るぐらいか。でも、もし同盟を組んで何も要求しないでこっちの建国を邪魔するなだけじゃきっと不審に思われるから、些細な要求をしてカモフラージュする。そして帝国がこちらに何か要求するのであればそれは素直に受けて友好的な国としてアピールする。同盟と友好は似ているようで違うから、僕達は友好を結ぶ様に持っていくのがベストかな?」
千棘の言葉を聞いたベルセ以外の者は頷くが、ベルセは首を傾げながら千棘へ問う。
「確かにアンダーパラダイスのダンジョンコアを操作すれば魔王様が仰ったことは可能ですわ。もし同盟を組む事になったのなら、逆にこちらからほぼ無限とも言える資源を餌に帝国を釣り上げる事も出来ると思うんですの…それはなさらないのかしら?うまく立ち回れば優位に立つ事も出来ますわよ?」
ベルセの当然の問い…自分達の強みを相手に提示し、相手より優位な立場に立てればこちらの要求も通しやすいという言葉を聞いた千棘は、肯定しながらも自分の考えをベルセへ伝える。
「そうだね。ベルセの言った通り、こっちが痛くも痒くもないほぼ無限の資源を各国に提供すればきっと優位に立てると思うし、こっちがこうしたい、ああしたいっていう要求も通りやすくなるはずだよ。…だけど各国の上に立つより友好的な国という体裁をとる方が後々面倒くさい事にならないで済むんだよね」
ベルセは千棘の言葉を聞いて更に首を傾げ、それを見たノエルがベルセに千棘と擦り合わせた内容と伝える。
「もし、私達が各国より目立って上に立った場合、未だ人の心に根付いている魔王という悪の称号が私達の障害になってしまいます。魔王は武力ではなく人々の生活を支配しようとしている…そう思われてしまう可能性が十分にあるんです。なら、私達は友好的な国という立場を取り続け、他国から要求された物を出来るだけ提供し、その見返りとして同等の物を要求する…一般的な各国のやり取りを行う事で支配では無く融和を試みていると世間にアピールする事が出来るんです。だから私達は友好的な国という立場で居続けないといけないんです」
ノエルの言葉を聞いたベルセは納得と驚きが混じった様な表情を浮かべ、千棘に熱心な視線をぶつけながら言う。
「さ、流石魔王様!!そこまで考えていらっしゃるんですのね!?私、ますます魔王様の事をお慕いしてしまいましたわ!!」
ベルセの熱い視線を受けた千棘は苦笑しながらも軽く否定する。
「違うよベルセ。これは僕だけの考えじゃない…これはノエルといううちの内政官が居てくれたおかげで作れた道なんだ。僕は常に誰かに支えられている…だから僕の事が凄く見えるのなら、それは仲間達が支えてくれた結果、本当に凄いのは僕じゃなくてみんななんだよ。もちろんベルセがアンダーパラダイスを作り上げた結果もこの作戦に組み込まれている。だからみんな本当にありがとう」
皆に感謝を伝える為、深く頭を下げた千棘からは皆の表情は見えなかったが、皆は笑顔を浮かべながら自分がこの人に付いていく理由を再確認して、自分の考えは間違っていなかったと確信する。
「ハッ!俺様達を纏められんのはちーだけだ。そこは誇っていい所じゃねーのか?」
「ええ、チヅルさんじゃなきゃこうして私はここにいません」
「魔王様がいなかったら私も人間の方々と手を取り合う事なんて行動も考えもしませんでしたし、色んな種族を纏め上げてその上に立つ…とても立派で素敵な才能ですわ!!私はこの身が灰になって朽ちるまで、魔王様について行かせてもらいますわ!」
「皆様の仰る通り、わたくし達は千棘様だからこそ仕えさせて頂いております」
「エルの言う通り、わたくし達は只のNPCでしたが…この世界で召喚され、他の方々と同じ感情を持っています。…それでも考えて、わたくし達が仕えさせて頂いているのは千棘様だからです」
「みんな…本当に僕には過ぎた仲間達だよ…」
千棘は知らぬ間に滲んでいた涙を礼服の裾で拭い、若干赤くなった目を閉じながら身体の空気を入れ替え笑顔で皆に言う。
「よし!みんな会談に行こう!僕達でこの世界に誰とでも手を取り合える新しい国を興す為に!」
黒と赤のマントを翻して貴賓室を後にしようとしている魔王の後ろに笑顔の仲間達がついていき、会談の時間を知らせに来た人物に連れられた魔王達は、ノクス・フォン・アルティス・シドフィア皇帝が待つ会議室へ向かって行く…。
■
所々金の装飾が施され、木で出来た高級感溢れる重厚な両開きの扉…会議室の扉の前で呼びに来た使用人らしき人物が扉を開けるのを待つ千棘達。
この扉の前に来るまで一言も喋らなかった千棘達だが、その表情は皆不敵な笑みを浮かべ、今か今かと気持ちを逸らせる。
「大変お待たせ致しました。こちらが本日会談を行わせて頂く一室でございます。既に我が皇帝、ノクス・フォン・アルティス・シドフィア皇帝とカトレーヌ・フォン・アルティス・シドフィア第一皇女、アルセーヌ・フォン・アルティス・シドフィア第二皇女がお待ちになられております」
「わかった、ここまでの案内ご苦労だった」
使用人にそう言葉を投げた千棘は後ろに控えている鏡、ノエル、ベルセ、エル、デルの顔を一瞬見てから扉に手をかけてゆっくりと開いていく。
すると白を基調とした大きな部屋の左右の壁には国旗が飾られ、その下には片側50人ほどの不動の騎士が並んでおり、奥の壁には一番大きい国旗、その下に顔を隠した冒険者風の者が二人立っていた。
部屋の真ん中…円形のテーブルに玉座を置いて座る者…中心にノクス・フォン・アルティス・シドフィア皇帝、左隣にカトレーヌ・フォン・アルティス・シドフィア第一皇女、右隣にアルセーヌ・フォン・アルティス・シドフィア第二皇女という並びで千棘達を向かい入れ、ノクス・フォン・アルティス・シドフィア皇帝が仰々しく両手を開きながら口を開く。
「ようこそ魔王チヅル殿。我がシドフィア帝国までわざわざ足を運んでくれて嬉しく思う。今は式典パレード中故、魔王チヅル殿に粗相がなかったか心配だが」
少し長めの黒髪、瞳の色は青、顔立ちは物語の主人公と言われても納得できるほどの美形で、声色は柔らかく安心感を与えてくれる様な人物が影武者でもなく、正真正銘本人だと確認した千棘は頭を下げずに口を開く。
「招いてくれた事、感謝する。何、式典パレードは大切だ。それにそちらの護衛が外からこの城に入まで遠くから見ていてくれたおかげで何も無かったとも」
肩を竦め、おどけた様にアルセーヌ・フォン・アルティス・シドフィア第二皇女を見つめた千棘は、アルセーヌ第二皇女の表情が一瞬強張ったのを見逃さなかった。
「…そうか、外からずっと見守ってくれていたのはアルセーヌ・フォン・アルティス・シドフィア第二皇女だったのか。皇族に手間をかけさせてしまったのだな、ここに感謝を」
すると何か弁明しないといけないと思ったアルセーヌ第二皇女は口を開き、
「いえ…私はそんっ『私が魔王チヅル殿を見守る様に伝えたのだ。先程も言ったが、粗相があってからでは遅いからな』…」
千棘に自分ではないと伝えようとするがここで下手に嘘を吐いて立場が悪くならない様、ノクス皇帝がアルセーヌ第二皇女の言葉を遮って何故見守らせていたのか理由を告げる。
「そうだったか。おかげで式典パレードをゆっくり見る事も出来た。別に見守られていた事を咎めようなんて考えてもいないから安心して欲しい」
千棘はそんな事を言いつつ不敵な笑みを崩さず、ゆっくりと円形のテーブルまで歩いていくと、千棘達に合わせて奥で控えていた冒険者風の二人もテーブルに近づいてくる。
ある程度テーブルに近づいた千棘は足を止め、奥の冒険者達も足を止めた事を確認してノクス皇帝の次の言葉を待つ。
「魔王チヅル殿、是非腰を落ち着けて欲しい。今回の会談はとても長くなるかも知れないのでな」
千棘はそう言われ、皆と一緒に椅子へ腰を掛けるが不敵な笑みを崩さずにノクス皇帝へ告げる。
「いや、今回の会談はすぐ終わらせるつもりだ。単刀直入に言おう…私が討伐した絶望の魔王と手を組んで世界を危機に晒そうとしていたバルトリア・フォン・アルティス・シドフィアと、『人工勇者計画』という非人道的な人体改造の総指揮を執っていたアルマート公爵家当主は今どこにいる?私達はそいつらにキツイ仕置きを与える為に正式な手順を踏んでようやくここまで組み立てていたのだ…包み隠さずに話してもらうぞ…?」
笑みのままそう千棘が告げると空気の重さが一回りも二回りも重くなり、壁で待機している騎士達は苦悶の声を漏らすがすぐにその声は聞こえなくなる。
そんな空気の中、何も感じさせない様に振舞っているのは円形のテーブルに集まっている千棘達、ノクス皇帝達、そしてその後ろにいる冒険者風の二人だけだった。
「正式な手続きを踏んでもらっていたが、たまたま偶然、私達が改革を起こしたタイミングと被ってしまったみたいだからな。それでは魔王チヅル殿にも迷惑がかかると思って会談を開催させてもらったのだが…いやはや、本当に申し訳ない事をしてしまったね。既にバルバトスは犯罪奴隷として縛ってしまっているから魔王チヅル殿が制裁を加える事は出来ないのだ。…これが正式な手続きで行われた犯罪奴隷化の詳細書類だ」
ノクス皇帝がテーブルを滑らせるように書類を対面の千棘へ渡し、受け取った千棘はその書類からバルトリアを犯罪奴隷にした経緯と現状を読み解いてもう一度ノクス皇帝の手元まで書類を滑らせる。
「そうか。バルトリアについてはわかった。正式な処罰を受けているのであれば私ももう問題ない…が、アルマート公爵…いや、アルマート公爵に成りすましていた魔族はどうなっている?」
するとノクス皇帝は困った様な表情を浮かべるが、千棘は心底困っているというわけではなく表面上でそういう表情を作っていると推察する。
「いやはや…それが本当にわからないのだ。わかっているのは約一か月前…大量の私兵を連れて聖教国ファーレンに向かったという報告のみなのだ。それ以来この帝国にも戻っていないし何もわからないのだ」
千棘は胡散臭いノクスの言葉を怪しんでいたが、心当たりのある人物が千棘にしか聞こえない声量で耳打ちをする。
「ちー…多分あいつの言ってる事は本当だ…というか、多分帝国からの援軍がアルマートの野郎で…ユーランの神格武装の一撃で殲滅されちまってると思う…」
「はぁっ!?」
そんなあっけない幕引きがあるのかと思い千棘は驚きの声を漏らすが、何も事情を知らないノクス達は訝しむ様に千棘を睨む。
「…そちらの従者から何の情報を頂いたのかな?もしや…魔王チヅル殿が魔族のアルマートを匿っている…なんて事はないだろうね?我が帝国でも魔族アルマートについては追っているんだ」
千棘はどう説明しても信じてもらえないだろうと思いながらも事実をノクス皇帝へ告げる。
「私が魔王を討伐する際、帝国方面から魔族の軍勢が援軍に来たんだが…1000を超える援軍を私の仲間が一撃で屠っていたらしい。…多分それに巻き込まれてアルマートは死んだはずだ…私もまさかこんなあっけない幕引きをされるとは思っていなくて思わず声を上げてしまった…」
千棘の言葉を聞き、訝し気な表情をしたノクス皇帝だったが、隣にいるカトレーヌ第一皇女の耳打ちを聞いて頷く。
「…にわかに信じられないが、カトレーヌがそう言うなら間違いないのだろう」
ノクス皇帝が言った「カトレーヌがそう言うなら間違いないのだろう」という言葉が引っかかった千棘は、カトレーヌは相手の嘘を見抜ける特技か能力を持っていると判断して早々に会談を切り上げようとする。
「なら私の用事は既に済んだ。わざわざ時間を作ってもらって感謝する。後はノクス・フォン・アルティス・シドフィア皇帝も式典パレードを楽しむといい。…我々は失礼させて『待っていただこう、魔王チヅル殿』…」
千棘は内心舌打ちしながらもノクス皇帝の話に表情も変えずに耳を傾ける。
「全種族が手を取り合う国を建国すると掲げていたのに早々に帰ってしまってはもったいないのではないか?」
「…それとここで話を聞くのに何の繋がりがあると言うのだ?先程ノクス殿は言っていたであろう。…魔王チヅル殿にも迷惑がかかると思って会談を開催させてもらったと。私が計画していた会談が潰れてしまった埋め合わせは先程の情報でしてもらった。そちらにももう私達に用はないんじゃないか?」
すると今度はノクス皇帝が不敵な笑みを作り、早々と帰ろうとしている千棘達へ言う。
「それは会談を潰してしまった埋め合わせをしたまでだ。まだ前皇帝との会談が終わっても、私との会談がまだ終わっていない…是非これからの事について語らう時間をお互い設けないだろうか?」
なかなか逃げにくい言葉でこちらの動きを縛るノクス皇帝を表情に出さずに睨み、観念した様に千棘は立ち上がった腰をもう一度椅子へ下ろす。
「…そうか。なら、ノクス殿は私達と何を話したいのだ?」
「そんなのは決まっている。我々は同盟を組むべきだと思うのだが、そこはどのように考える?魔王チヅル殿」
「…魔王は付けなくていい。先程から私もノクス殿と呼んでいるからそうして欲しい」
「わかった、ではチヅル殿?どのように考える?」
千棘はこれからの話し合いで一番強敵になるであろうカトレーヌ第一皇女を見つめ、本当に嘘が見抜けるのか確かめる為に敢えて嘘を告げる。
「そちらから同盟の話を持ち掛けてくれるとは思わなかったからな…何も考えていなかった」
そう言うとカトレーヌ第一皇女はじっと見つめていないとわからない程に眉を動かし、テーブルの下で小さく腕が動いた事を確認した千棘はノクス皇帝に視線を戻すと、ノクス皇帝も同じ様に小さく眉を動かして口を開く。
「まさかまさか…これから一国の王となろうとしている者が何も考えていなかったは無理が過ぎるぞ?本当は何を考えていたんだ?」
確実に嘘が見抜かれている事を確信した千棘は面倒くさく思いながらも肩を竦め、おどけながら本当の事を言う。
「正直どちらでも構わないんだ。私達からしたら貴国と同盟を組むメリットが微塵も感じられないが、組みたいと言うのなら別に組んでも構わない」
「「「……」」」
嘘は見破れてもこの回答は予想できなかったのかノクス皇帝達は思わず眉根を寄せてしまうが、千棘は構わずに続ける。
「ぶっちゃけ、この喋り方ももう疲れたから普通に話すけどさ?カトレーヌ第一皇女は嘘を見破れるんでしょ?なら僕が今言った事が嘘じゃないってわかるよね?」
ニコニコしながら千棘はじっとカトレーヌ第一皇女を見つめていると諦めた様な表情を浮かべながらノクス皇帝に言う。
「ノクスお兄様…チヅル様が仰っている事は本心です…本当に我々との同盟は組んでも組まなくてもどちらでもいいと思われています…」
「そ、そんな馬鹿な…土地をエルラシア王国からもらったとしても人材は!?資材は!?技術者はどうするつもりなんだ!?我が帝国ならその全てを提供出来るんだぞ!?」
テーブルに手をつき、身を乗り出しながら問うノクス皇帝に千棘は苦笑をしながら伝える。
「労働力は既に海上王国アクエリアから。資源はほぼ無限に近い量を安定して供給出来る術を既に確保している。技術者は産業スパイが潜り込みやすいから、僕達の聖地セルファスに施した技術は信用出来る人にしか教えるつもりはないから特に問題ないかな?」
ノクス皇帝は信じられないと言った表情を浮かべ、カトレーヌ第一皇女を見つめるが…カトレーヌ第一皇女は千棘が一切嘘をついていないと首を縦に振るしかなかった。
「な、何故だ…!チヅル殿は『魔王として人々により良い暮らしを提供し、行動で真の平和を目指すという言葉が戯言ではない事を証明する』と言っていたではないか!!まさか帝国だけ除け者にするつもりなのか!?」
帝国だけがあの暮らしの恩恵を受けられないと思ったノクス皇帝は明らかに動揺しながら千棘を問い詰めるが、問い詰められている千棘はそんな事を気にもせずに言う。
「それは嘘じゃないよ?実際に同盟を組んでいる三国…エルラシア王国と海上王国アクエリア…後は精霊の国のシルト国にはその手配を進めている最中だし」
同盟を組んでいるという言葉を敢えて強調した千棘はノクス皇帝の表情が段々怒りに染まっていくのを見ながら続ける。
「この三国はしっかりと僕達と僕達の考えを理解してくれている。だから迷わずに同盟を組んだんだよ。…言っている意味わかる?」
千棘は初めて不快そうな表情を浮かべ、わざとらしくテーブルに足を乗せながら告げる。
「明らかにこちらを食い物にしようとしていたり、こそこそ何かを企んでいる様な奴らに手を差し伸べる程こっちは甘くないんだよ。…どういう意図があってわざとバルトリアとの会談の日にクーデターを起こして皇帝の座を奪ったのかは知らないけど、そういう相手を食い物にしようとするやり方は相手を選んでからやれ」
千棘の不遜な態度と物言いに冒険者風の二人と千棘の仲間達以外が殺気立ち、一触即発の雰囲気が会議室に充満していく。
ノクス皇帝は怒りで顔を赤く染め、カトレーヌ第一皇女とアルセーヌ第二皇女はノクス皇帝に不遜な物言いをした事に怒り、その両方に怒りを露にした騎士達は手に持った槍をカチャカチャと鳴らしながら堪えているのがわかった千棘はノクス皇帝に吐き捨てる。
「何とか言ったらどうなの?黙って怒りで顔を赤くしても話し合いは進まないんだけど?用が無いんだったら僕達は帰るか…っ」
帰るからと言おうとした千棘は突然の出来事に言葉を無くす。
テーブルを挟んで3m程離れていたはずのノクス皇帝が突如目の前に現れ、礼服の胸元を掴み上げていた事に驚きながらも千棘は遮られた言葉を別の言葉にして口を開く。
「黙って相手の胸倉を掴む…自分の要求が通らなければ駄々っ子の様に暴力を振るう…ハッ!!ノクス殿の方が魔王に向いているんじゃないか!?」
そう言いながら千棘は腰に納めている信仁が持たせてくれた物に手をかけながら怒りで震えているノクス皇帝の出方を伺う為に右眼の権能を使い、これから起きるであろう事象を全て読み取っていく。
すると無数とも言える事象の中に一つだけ、比較的平和な事象を見つけた千棘はそうなる様にその事象をなぞっていく。
「…へぇ…君、僕の事を転移者か転生者か見極たかったんだ?悪者なら僕が手を出したのをきっかけに大義名分を掲げて魔王討伐をしようとしてたんだね?」
「なっ!?」
ノクス皇帝は絶対に悟られていなかったはずの思惑を言い当てられ、わざと攻撃されてこちらが攻め込む大義名分を果たせなかった事を悟って声を漏らす。
「何も企まず、素直に聞いてくれればちゃんと答えてやるのに…君、見極めるつもりだったんだろうけど、僕が悪者だって最初から決めつけてたからこうやって実力行使に出たんだよね?」
「っ…」
何も言えなくなったノクス皇帝に千棘はノクス皇帝の耳元まで口を近づけて囁く。
「ならもう同盟の話は無しだね……せっかく元の日本と同じ暮らしを手に入れられるチャンスだったのに残念だったね?ユウキ君?」
千棘は男とは思えない可愛い顔を魔王ではなく小悪魔の様な笑みに変え、驚いて口を大きく開けているノクス皇帝を見つめた…。




