会談前のサプライズ
「…私も行きたかった…」
「ご、ごめんアルメラ…今回は鏡とノエルの三人の方が都合がいいんだよ…」
「もー、アルメラ?私も行きたいけど私達は新しい国の宣伝活動!!ほら、時間がないからいくよー!!ちーちゃんまたね!」
「あ、ああ…フェイナ、アルメラをよろしくね」
アンダーパラダイスのベルセを仲間に加えた一週間後、シドフィア帝国にいる皇帝と魔族のアルマートに今までの清算をさせようと準備していた千棘は、アイドル活動でいけなくなってしまったごねるアルメラを連れていってくれたフェイナに感謝しつつ、千棘の自室で寛いでいる鏡へ話しかける。
「さて…今回の事はルノには伝えていないから内緒にしておいてね?」
「おう。いちいちあいつのトラウマを掘り返す必要もねぇしな」
「ありがと。それじゃあ準備をしちゃおうか」
本当であれば翌日にでも訪問して全てを終わらせたかった千棘だが、ノエルからそのやり方ではダメだと言われてしまい、正規の手続きを踏む為に一週間しっかりと準備していた成果が机の上に散らばっていた。
全て豪華な封筒にエルラシア国王の封蝋…一週間の間にシドフィア帝国とやり取りしていた手紙を一つにまとめ、インベントリにしまいながら一つの書類を見つめる。
「信仁にもらったこれがあれば確実に皇帝は終わるし、後はアルマートが何をしているかなんだけど…まぁ逃げてるんだろうな~」
「まぁ普通逃げるよな。もしいなかったらどうすんだ?」
「んー…隅々まで探す程の大物じゃないし、見つけらたお仕置きって感じかな?…本音を言うならルノの事を好き勝手いじったツケを清算させてやりたいけど…小物に構っている時間が本当にないから…」
「…そうだな。俺様達は今後来るかも知れねぇ超大型レイドボス魔神を退ける為に対策してんだからな…でもよ?アルマートが陰でこそこそやってたらどうするよ?」
「その為にも各国のコネクション作りかな?…正直、僕達だけでこの広いネシアを守り切るのは厳しいものがあるし、目撃情報を上げてもらえればかなり負担が減るしね」
千棘と鏡は書類を読みながら今後について語っていると、通信できるイヤリングからやけに焦った声色が聞こえてくる。
『チヅルさん!!大変です!!』
『わっ!?…の、ノエル?どうしたの?』
『大変なんですよチヅルさん!!!』
『ちょ、落ち着いてノエル…今どこにいるの?』
『今そっちに向かっています!!それより大変なんです!!バルトリア・フォン・アルティス・シドフィア皇帝の第一皇子、ノクス・フォン・アルティス・シドフィアがクーデターを成功させて皇帝が入れ替わりました!!!』
『は、はああああああ!?!?クーデター!?』
千棘はノエルの話を聞き、一つに纏めていたエルラシア国王の封蝋が付いた手紙を撒き散らしながらノエル以上に驚愕を露にして放心していた…。
■
「ありがとうございます…」
ノエルは千棘の屋敷に辿り着き、応接室で天使と悪魔のメイドからお茶を受け取って喉を潤し、早まった鼓動を抑えていく。
「ノエル…詳しく説明してくれる?」
「ええ…まだ詳しい状況はわからないですが…私が手に入れた情報ですと、今回の魔王騒動が起きた時からノクス皇子…ノクス皇帝がバルトリア前皇帝に異を申し立てていたそうなんです。そして今日、チヅルさんが魔王として会談する為にシドフィア帝国に赴くことを知り、以前から練り上げていたクーデターを起こしたようなんです」
「僕がシドフィア帝国にいくからクーデターを起こした…?僕が理由なのか…?」
「会談を取り付ける為に私の部下がシドフィア帝国に滞在しているんです。クーデターを起こせば新鮮な情報が私の耳にも入ってくる…きっとそこも加味しての行動だと」
ノエルの言葉を聞き、千棘は顎に指を当てながら考えた事をそのまま口から零す。
「ノエルにいち早く皇帝が入れ替わった事を伝えたかった…?なら、一週間前にクーデターを起こしても…それだと僕が帝国に行く事にならなかったから…?というより、今クーデターを起こしたら僕が帝国にいかないと思わなかったのか…?」
するとノエルは目を閉じながら胸の前に手を上げ、数を数えるよう指を立てていく。
「考えられるのは…一つ、内情がばたついている事を理由にチヅルさんの入国を阻む、もしくは遅らせる。二つ、ただ単にクーデターが今日に予定されていた。三つ、チヅルさんと友好関係を結ぶためにチヅルさんと対立して邪魔だったバルトリア前皇帝を引きずり下ろした。四つ、バルトリア前皇帝が魔族と組んで、他国に戦争を仕掛けようとしていた汚点を消した…私としてはこの3と4の掛け合わせで、チヅルさんと友好関係を結びたいが、バルトリア前皇帝が魔族と組んで他国を攻めようとしていた事実が邪魔をしていた…それをもし、今回の会談でチヅルさんに暴かれたら帝国としてはチヅルさんに頭が上がらなくなってしまう。だから身内で帝国の汚点を清算し、何も弱点が無い状態であれば対等な関係で同盟を結べる…そんな所でしょうか?」
ノエルの考えを聞いた千棘は目を見開き、この短時間でそこまで考えられるノエルに舌を巻きながらクーデターを起こしたノクス・フォン・アルティス・シドフィア皇帝の事を考える。
「…確かに。ノエルが言った3と4の掛け合わせが濃厚っぽいね…僕は今日、バルトリア前皇帝を引きずり降ろして有利な条件をと思ってた。だけど、もしノクス皇帝がそう考えて今日、クーデターを起こしたのであれば…かなりの切れ者だね。…ノエル、皇族の情報が欲しいんだけど何かわかる事はある?」
ノエルはそうですねと言葉を切り、お茶を口に付けながら皇族の情報を開示していく。
「まずバルトリア・フォン・アルティス・シドフィア前皇帝、この方はかなり独裁的な政治を行っていてあまり評判は良くなかったです。バルトリア前皇帝は借金奴隷、犯罪奴隷以外認められていないのにも関わらず、奉仕制度というのを実施して、実質奴隷の様に人を扱う事を許可している節がありました。…そしてかなり歪んだ好色家ですね…正妃はおらず、妾として優秀な女性達を侍らせていて、その妾達に産ませた子供達が約30名…その中でももっとも優秀だった者だけが皇族として向かい入れられていた様です」
「…権力を笠に着たクズか…しかも30人の子供…?」
「ええ、皇族として血を絶えさせない為に複数の妻を娶り子を作る事は何も間違ってはいませんが、バルトリアス前皇帝の御眼鏡に叶わなかった者達は平民として街で暮らしています。本人達は皇帝の血が入っている為に自分は皇族だと横柄な態度に出る方が多く、犯罪を犯す子供も少なくはなかったそうです」
「救いようのない正真正銘のクズ共だな…」
自然と拳を握り、自分の中に湧き上がる振りようの無い怒りをどうにか抑えつつ、千棘はノエルの話の続きを聞く。
「そして皇族として残った第一皇子だったノクス・フォン・アルティス・シドフィア皇帝、そしてノクス皇帝と母は違いますが、第一皇女のカトレーヌ・フォン・アルティス・シドフィア皇女と第二皇女のアルセーヌ・フォン・アルティス・シドフィア皇女…この二人は同じ母から生まれた姉妹です。ノクス皇帝は今年で18歳、カトレーヌ第一皇女とアルセーヌ第二皇女は14歳と12歳…この三名が30名の中から選ばれた皇族です」
すると千棘は今の話に違和感を感じ、その違和感を解消する為にノエルに問う。
「少し疑問なんだけど…30人の中からもっとも優秀だった者だけが皇族になる…何で皇族が三人もいるの?」
「そうですね…これは簡単に言ってしまえば政略結婚の道具として扱われているんでしょう」
「政略結婚の道具…?」
ノエルは道具という言葉を聞き、激しく苛立った千棘の殺気に息が詰まりそうになるが、今まで仲間と接してきたおかげで狼狽える事もなく続ける。
「チヅルさん、落ち着いてください。…この世界では政略結婚は当たり前ですし、貴族の間どころか有名な商家ですら行ってます。前皇帝の事を思えば皇女方を道具の様に使うと私の推測も入っていますが…そんな殺気を会談中に出したら脅しだと間違われますよ?」
「っ…ごめん…」
千棘は無意識に握りしめていた拳を解き、内出血した手の平を擦りながら心を落ち着けてノエルに促す。
「ふぅ…ごめん、続きを聞かせてくれる?」
「ええ、ここからはあんまり詳しい情報がないんですが…ノクス皇帝はバルトリア前皇帝とは全く違う考えを持つ方らしく、どちらかというと貴族…いえ、平民と肩を並べていても違和感が無い程温厚な方らしいですが、30人から選ばれた皇族ですのでその才は武と知、両方兼ね揃えていると言われてます」
「人当たりが良くて頭がいい、更に強ければ完璧超人って感じか…」
「その感想は的を得ているかと。武においては帝国最強と呼ばれていた親衛隊を10歳の時に魔法と剣を使った一騎打ちで負かしてます。知においては5歳の頃から政治を行えるだけの知力を持っていて、更には薬学や生産方面に関しても専門家に引けを取らない程の才を発揮しています」
「マジか…クズの皇帝から生まれてるとは考えられないな…」
「妾であった女性の血を濃く受け継いだのでしょう。そしてカトレーヌ第一皇女は知を、アルセーヌ第二皇女は武を極めております。カトレーヌ第一皇女はノクス皇帝と同じ5歳から政治や様々な分野で目覚ましい才を発揮し、知だけであればノクス皇帝を上回っているとの事です。アルセーヌ第二皇女は7歳…ノクス皇帝より3年も早く親衛隊10名を同時に負かしています。…そして今は第二皇女なのにも関わらず、ノクス皇帝の護衛を行う程の猛者との事です」
「…妹もヤバいのか…しかも第二皇女はまだ12歳なんでしょ…?しかも10人同時にって…」
「ええ…末恐ろしいです。その負かした時の試合は最上級魔法1回、上級魔法5回、中級魔法約150回行使したそうです…」
「なっ…」
ノエルの口から告げられたアルセーヌ第二皇女の話に千棘は絶句し、頭の中が真っ白になってしまう。
すると今まで腕を組み、目を閉じて何も発さなかった鏡が放心している千棘の肩を肘で突きながら口を開く。
「おい、何ビビってんだよちー。おめーは俺様達のリーダーで魔王様…更にはダフネの十英傑だろ?生まれも育ちも才能もちげぇ。まだ顔すら見てねぇ相手の事を聞いた話だけで枠に嵌めて見るのはちげーんじゃねーか?」
「うっ…そうだけどさ…」
「どっちかっつーと、ちーの方がチートだろ?神格使えて神龍従えて、神の権能使えて魔王、悪魔、天使の力も使えて手に持てる物は自在に扱え、手に何も持ってなくてもつええ。おめぇのほうが恐ろしいわ」
「確かにそうですね…言われてみれば何もかもが規格外ですもんね、チヅルさんは」
「…そう言われてみればそうだよね。…エドワード王とかはなんていうか、親戚のおじちゃんって感じで話しやすいから王族って言う事忘れちゃうんだよね…今回は本当に面識のない皇帝との会談だから少し不安になりすぎた」
二人のフォローのおかげで落ち着きを取り戻した千棘は深呼吸をして身体の空気を入れ替え、別の事を考え始める。
「実際、会談する日にクーデターが起きたなら会談は中止?」
「ええ、普通であれば内戦状態で他国の要人、それも王となれば会談を開く事はあり得ないでしょう…ですが、今回の要人は魔王…武の王と言える人物なので、このまま会談は開かれるかもしれません。護衛にはアルセーヌ第二皇女が付くはずですし、腕利きの冒険者を雇う可能性もあります。アルセーヌ第二皇女と皇族が雇う最高戦力の冒険者が束になっても勝てない相手ならシドフィア帝国は為す術もありませんから」
「そうか…友好を結ぶために身内の膿を切り捨てたのなら、早く友好を結んで帝国を変えたいと考えれば会談は行われる可能性の方が高いね。…やっぱりノエルがいてくれて本当によかった…ノエルを引き込めたのはでかすぎるな」
千棘がノエルの事をべた褒めしているとだんだん顔を赤くしたノエルがわざとらしい咳払いで褒め殺しを辞めさせる。
「んんっ!!私の事はいいですから、とりあえず行われるであろう会談に向けて準備をしないといけないですよ?」
「そうだね…一応こっちは僕とノエル、鏡の三人で行くつもりだったんだけど…」
「一応見栄えの為にも護衛は連れていった方がいいだろ。エルとデルなら適任じゃねーか?全種族と手を取り合う国を謳ってんだからよ」
「…エル、デル、ついて来てくれる?」
名前を呼ばれたエルとデルは満面の笑みを浮かべ、待ってましたと言わんばかりに胸に手を当てながら言う。
「何なりとお申し付けくださいませ、千棘様」
「じゃあ、よろしく頼むよ。…そうだな…あの人も連れていった方がいいだろうな」
千棘はある人物をイメージしながらイヤリングに手を当てて通信を飛ばす。
『ベルセ?これからシドフィア帝国の皇帝と会談するんだけど、よかったら一緒に来てくれない?』
『え…この声は…もしかして魔王様!?』
『うん、魔王チヅルだよ。もし忙しいなら『迎えに来てくださいます!?是非お供させて頂きますわ!!!』…う、うん…皇帝の方から会談するって言われたら迎えにいくから…』
『わかりましたわ!!お待ちしておりますの!!』
アンダーパラダイスの管理者にして元魔王軍の四天王…吸血鬼のベルセとの通信を切った千棘は本当に呼んでよかったのかなと自問自答しながら、帝国にいる部下とやり取りをしているノエルを見つめていた…。




