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弱肉強食の管理者

「ふーん…ここが長の吸血鬼がいる場所ねぇ…」


「なんか…普通の場所」


「私の方でも裏を取りましたが、間違いないですね」



 アエリアとアルメラ、シンシアの3人は情報屋で仕入れた()()()()()()()()()()()とシンシアの裏取りによって確定させた長の役割を果たしている吸血鬼が住む、()()()()()()()()に足を運んでいた。



 アエリアとアルメラは吸血鬼なら貴族の様な豪華なお屋敷に住んでいて、周りには吸血して命果てた者達のお墓が建っているという先入観から、目の前にある普通の二階建ての一軒家に吸血鬼がいるとは思えなかった。



 だからシンシアに情報の裏を取ってもらい、間違いがないのか確かめたが情報に誤りはなく、むしろ情報を集める度にこういう普通の家に住んでいるのが合理的にすら思えてきていたた。



 まず吸血鬼は夜闇の眷属…目立たず闇に紛れ獲物を狙う者達。



 目立つような城を建ててしまえばそこに長の吸血鬼がいるとばれてしまい、血気盛んな者達はきっと吸血鬼の首を求めて『弱肉強食』のアンダーパラダイスで血の雨が降る事は間違いないだろう。



 だからこそ適度に目撃情報を与えつつ、本当に長の吸血鬼がいると知らせながら身を隠す…そして普通の者達に紛れやすい場所…レンガ造りで統一された居住区の普通の一軒家に長の吸血鬼は居を構えていた。



「名前はベルセ。誰かに名付けてもらったわけではなく、自身がそう名乗っているだけで本当の名かはわかりませんがベルセと名乗っている様です…限られた時間だったので私が調べられたのはここまでです」



 シンシアは調べた事が記されたメモを見つめ、コンタクトレンズの録画機能で情報を残した後、指先から小さな魔法の炎を出して証拠を隠滅する。



「…なるほどねぇ…助かったわシンシア。というより、本当にシンシアの情報収集能力はすごいわね?私達の仲間の中じゃダントツじゃないかしら?」


「うん、ユリスもなかなかだけど、シンシアの方が頭一つ抜けてる」


「それはきっと職業柄でしょう。ユリスさんは冒険者として対人の情報収集より対魔獣の情報収集や、その周辺の採集出来る物の情報収集に優れ、私は暗殺者として世情や対人の情報収集に特化していますから」



 アエリアとアルメラはシンシアの言葉を聞いて納得したような表情を浮かべたアエリアは感心した様に言う。



「なるほどねぇ…信仁の事を暗殺しようとしてただけはあるのね」


「…ええ、それぐらい出来ないと()()()()()()()()に私の刃は届かなかった…結局、振るわずに一緒に暮らす事になっちゃいましたけどね」



 一瞬、つい昨日の事の様に思える過去を思い出したシンシアは呆気に取られるが、アエリアが嫌味でそんな事を言ってるとは全く思わずに幸せそうな表情で思い返す。



「でもそういうの素敵。シンシアは絶対に間違った事をしてなかった」


「ふふ。アルメラさん、ありがとうございます。…こうやって生きて、シンジと…皆さんと居られるのも我が王とその仲間であるアルメラさん達、女神セッテ様のおかげです」


「だから我が王はやめてって言ってるでしょう?…確かにバハムートと獣神化してた時は結構いいかもと思っちゃったのは事実だけれど…」



 そんな他愛もない会話に花を咲かせ、吸血鬼の家の前で待機していると通りすがった住人達はひそひそと噂話に興じていた。



「サキュバスが二人…三人?あそこの家に住んでる人は()()()?…そう言う事なのか?」


「お盛んなんだな…」



 そんな声が耳のいい三人に聞こえ、気まずそうな表情を浮かべながら長の吸血鬼に謝る。



「ベルセ…申し訳ないわね…私達のせいでそういう趣味にされちゃったわ…」


「…身を隠せる場所が少なかったとはいえ、堂々と家の前で壁に寄り掛かってたらそうなる…」


「まぁ…襲撃しに来たわけではないので…」



 通り過ぎていく色を好む住人達の視線を受けながら家に不在のベルセを待つ事一時間…アエリア達は退屈しのぎで手遊びに興じていると女性の声が聞こえ、手遊びをやめて声のした方に顔を向ける。



「貴女達!!私の家の前で何をしていらっしゃるのかしら!?おかげで私が同性を好きになる人だって周りから生暖かい視線をむけられているのですのよ!?」



 その声の主…ミルクティーの様な髪を高い位置で二つに分け、毛先が綺麗にロールしたツインテールに青と赤が混じった紫の様な瞳、口を開けばほんの少しだけ目立つ犬歯…肌は陶器のように白く、胸は異性であれば絶対に目が言ってしまう程の大きさで、服は派手な容姿を台無しにするどころか逆に引き立たせる素朴なエプロンドレスを着た身長160㎝程の女性がいた。



 その女性は怒った表情を浮かべ、胸を強調する様に上半身を倒しながら自分の家の前にいるアエリア達を叱るがアエリア達の視線は顔ではなく…悲鳴を上げて今にでも張り裂けてしまいそうな服に包まれている胸に視線を奪われる。



「す、すごい…わね」


「どうやったらこんなに育つの…?」


「…私もこれぐらいあったら…」


『シンシアはそのままが素敵だから安心しろ』


「シンジ…」


「ちょっと貴女達!?私が話しかけているのに何処を向いてらっしゃるの!?私の顔はこっちですわよ!?」



 するとその女性がアエリアの顔を掴み、強制的に胸から顔に視線を向けさせると我に返ったアエリアはその女性の名を呼ぶ。



「あ、ああ…ごめんなさいね()()()。貴女の胸が凄かったからつい見てしまったわ」


「なっ!?その名…」



 名前を呼ばれた女性…ベルセは驚いた様な表情を浮かべ、周囲に人の視線があるか確認しながら器用に小声で怒声を発する。



「どうやってその名を!!その名前で呼ばないでくださいまし!!…もう!貴女達!私の家に入ってくださるかしら!?」


「ちょ、か、顔を離してくれるかしら?」


「いいから問答無用ですわ!!」



 ベルセは呆気に取られて抵抗していないアエリアの顔を掴んだまま家に引きずり込み、その引きずられているアエリアに続くようにアルメラとシンシアも自主的に家に入る。



 すると慌てて家の戸締りを確認しだしたベルセを見つめつつ、暴れている胸にまた視線を奪われていた三人は息を切らして落ち着き始めたベルセを見てアエリアは問いかける。



「貴女がベルセでいいのよね?」



 ようやく息が落ち着いたベルセはアエリアをじっと見つめ、赤と青が混ざった様な瞳を真っ赤な色に、ミルクティーの様な髪色を金糸に変えて頷きながら答える。



「そうですわ…でも、普段はベルリーナと名乗っていますわ。だから街ではその様に呼んでくださるかしら?()()()()()()()()()()?」


「…へぇ?私達が魔王の仲間で接触してくる事まで察していたのね?」


「貴女に触れた時に気付きましたわ。傍から見たら魔力の乏しい者に偽装されていましたが…あり得ない程の莫大な人間の魔力…でもその中に確かに魔の魔力もありましたわ。でもその魔の魔力は嫌な感じがしない…純粋な魔の魔力でしたわね」


「ふぅん。触ってわかったのね?触られてもわからない様にしていたのだけれど…貴女は相当鋭い感覚を持っている事がわかったわ」


「…ここで立ち話もなんですのでそこの席におかけになって。お茶を入れますわ」


「ええ、そうさせてもらうわ」



 一度話を区切り、長くなる話をする為に用意されたお茶を四人は飲みながらお互いの生活が懸かった未来の話を始める。



「まず私達の事情を知ってもらう為に昔話をさせて頂きますわ」


「わかったわ、聞かせてちょうだい」



 ベルセの言葉にお茶を口に付けながらアエリアが先を促す。



「私の名前はベルセ…約200年前に討伐された()()()()()()()()()として所属していましたの」


「200年前の魔王軍に所属…」



 ベルセが元魔王軍の幹部だったと聞いたアエリアは顎に指を当て、その当時を思い描きながらベルセの話に耳を傾ける。



「ええ、私は魔王軍の中でも穏健派で、無闇な殺しや略奪を好んでいませんでしたわ。…まぁ、信じて頂けるとは思っておりませんわ」


「…そこに関して心配はいらないわ。私達には確かめる方法があるもの」


「…確かめる?」



 アエリアの言葉に訝し気な表情を浮かべたベルセを無視し、アエリアは当時を知る者をイメージしながら問いかける。



『信仁?ベルセの言っている事は本当かしら?』


『詳しくは覚えていないが…確かに魔王軍四天王と呼ばれていた奴らがいて、そのうちの一人は友好的だったのは覚えている』


『わかったわ』



 するとアエリアが問いかけた名前に聞き覚えがあったベルセが驚きの声を上げながらアエリアへ問う。



「なっ!?シンジって…勇者、シンジ・サクラバですの!?確かあの勇者は何かがきっかけで魔王となって現魔王に殺されたはずでは!?」


「そうよ、ベルセが考えてるその信仁で間違いないわ。確かに私達は魔王になった信仁を殺したけれど、生き返らせて今は私達の仲間よ」



 アエリアの口から告げられた意味をどうにか噛み砕き、理解したベルセは驚きながらも口を開く。



「そ、そうなんですのね…なら、話が早いですわね…あの時、勇者が当時の魔王を殺しに来た際、私は見逃してもらいましたわ。それから私は眷属である数名の部下を連れて逃げ、ひっそりと暮らし始めましたわ。…その時に魔獣なのにも関わらず、知性を持っている者と出会いましたの」


「それがここ、アンダーパラダイスの始まりというわけね?」


「そうですわね。その時はただの洞窟で過ごしているだけの集まりでアンダーパラダイスとはかけ離れていましたわ。…でもある時、まだ誰も発見していない地下のダンジョンを見つけまして、そこで暮らし始めるようになって知性のある魔獣達の間に噂が立ち、ここに冒険者の魔の手から逃れ、安息を求めるように住み着きアンダーパラダイスが出来上がったという事ですわ」



 ベルセからここが出来上がった時の話を聞き、アエリア、アルメラ、シンシアは違和感を覚え、シンシアが口を開く。



「すみません、このアンダーパラダイスを調べてて思ったのですが…何故、冒険者達から『身を守る為』に作られたここが『弱肉強食』の世界になっているんですか?それに弱者が殺されてもお咎めなし…明らかに矛盾していますよね?」



 するとベルセは苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべながら答える。



「それはここがダンジョンだからですわ…まず、私達は知性ある魔獣達を総じて魔族と呼んでおりますの。魔族とは違うダンジョンの魔獣…こちらはモンスターと呼んでまして、そのモンスターに対しての『弱肉強食』の掟だったんですのよ。…それをいつの間にか魔族同士にも適応されると馬鹿な考えを持つ者が増えまして、私達吸血鬼が押さえられないぐらいの規模で諍いが起きたのがきっかけですわ」


「些細な齟齬から生まれた歪んだ掟って事ね」


「情けない話ですがその通りですわ。吸血鬼も数がいるわけではありませんのでどうしても手が届かなくなってしまいますの…」



 ベルセの話を聞き、簡潔に纏めたアルメラは腕を組みながら俯いて口を閉ざした。



 少しの沈黙の後、アエリアが聞きたい事をベルセに問う。



「事情はわかったわ。なら何個か確認したいのだけれど、いいかしら?」


「ええ、答えれる事なら隠さずに答えますわ」


「感謝するわ。まず一つ目、ここはダンジョンを使って暮らしてるのよね?なら何で街中にモンスターがいないのかしら?」


「それは私達吸血鬼が()()()()()()()と呼ばれる『再現不能の遺物(アーティファクト)』を管理しているからですわ」


「ダンジョンコア…名前からしてモンスターの出現数を抑えたり、特定の場所にしか出現しない様にする物…でいいわよね?」


「機能はそれだけではありませんが、概ね正解ですの」


「なら二つ目、貴女達吸血鬼…便宜上管理者と呼ぶけれど、管理者達は私達が興す『全種族が手を取り合う国』と手を組むつもりはあるかしら?」


「…実際にお会いするまでどうするか悩んでおりましたが、今は手を組むというより安息を約束してもらえるのでしたら国の民になりますわ」


「あら?この短時間で心変わりなんて…どうしてかしら?」


「それは貴女に触れて綺麗な魔の魔力を感じたからですわね。もし、淀んでいれば災厄を振りまく可能性がありますわ…それであれば私達は手も貸さず、また別の場所で同じ様に暮らしてましたわ」


「そう。…元々私達は貴女達を初の国民として向かい入れようとしていたから好都合よ。貴女達に幸せな暮らしを送らせる事を約束するわ。そして三つ目…」



 アエリアは不敵な笑みを浮かべ、ベルセを見つめながら言う。



「ここの『弱肉強食』の掟に乗っ取り、勘違いしている奴らを全員私の力で叩きのめすから『武道大会』を開くことは出来るかしら?」


「ぶ、武道大会ですか!?」



 驚くベルセを愉快そうに見つめ、アエリアは手を大きく広げて理由を告げる。



「貴女達管理者の人手不足が祟って纏めきれないなら私はこの力で全てを纏めあげてあげるわ。それに、ここに来るまでに馬鹿な鬼に絡まれてね?あんな躾けもなってない獣同然の者達も国民に迎えるなら、きっちり力の差を見せつけて躾けてあげなくちゃいけないもの」



 魔王らしく力の差を見せつける事を提案したアエリアを呆れた様に見つめるアルメラとシンシア。



 呆れていても、何処か楽しそうな雰囲気を纏っている二人を見たベルセは不思議そうな表情を浮かべて問う。



「で、でも…貴女達は魔王の眷属ですわよね?そ、そんな勝手な事が許されるんですの?」


「ええ、何たって私が魔王だもの」


「え、えええ!?」


「「で、でかい…」」



 アエリアの言葉を聞いたベルセはテーブルに手をつき、身を乗り出すようにしてアエリアに近づく。



 ベルセはそんなつもりはないのだろうが暴力的なまでの胸が強調され、アルメラとシンシアの視線を釘付けにするが、アエリアは鋼の自制心を以て胸の誘惑に負けないよう堪え、ベルセの顔を見つめ続ける。



「新しい魔王は年端もいかない様な少年の姿をしていると聞いておりますわ!?どういうことですの!?」


「あ、あれは私の変装みたいなものよ。もし、貴女が私の仲間になったら詳しく教えてあげるわ」


「そ、そんな…あ、あれが貴女の変装なんですの…?わ、私、あんな可愛らしい魔王様ならこの身を捧げて初めてを迎えてもいいと思っていましたのに…」


「べ、ベルセ!?あ、貴女とんでもない事を口走ってるわよ!?」


「あっ…も、申し訳ありませんわ…」



 ベルセは自分が何を口走ってしまったのか理解して陶器の様な白い肌をピンクに染めるが、小さく咳払いをして落ち着きを取り戻し、『武道大会』について詳しく問う。



「んんっ…それで、『武道大会』と言いますが…どうするおつもりなんですの?魔王様」


「私はリアよ。まず貴女がアンダーパラダイスの長を降りるという事を広めて『武道大会』の優勝者に長の座を渡すというシナリオで進めるわ。そうすればここを手に出来ると思った自称猛者達が挙って参加するはずよ。そこで私が優勝してここの長になって国と合併させる…これが一番手っ取り早いわ」


「そうですわね…ならここがリア様の国になるんですのね?」


「リアでいいわよ…どちらかというと、私達の国はこのアンダーパラダイスの上に建国する予定なのよ。だけれど、ここの存在があって地上で突然変異の木が生えていたり、作物が育たないのよ。その原因を探る為にここに来たのだけれど…これはこれでいい方向に転がってるから全然いいわ」


「ならアンダーパラダイスと上の国を合わせるんですのね?」


「そうよ。だから協力してくれるかしらベルセ?」



 ベルセは一度思考を巡らせ、本当にこれでいいのかと自分に問うが、何も問題が無い事を確信して告げる。



「ええ、私もリアの配下に加えて頂きますわ。…ただ、広大なアンダーパラダイス全体に噂を流すのは容易ではありませんわ…少し時間がかかってしまいますがよろしくて?」


「何も問題ないわ。なら、ベルセにもこのイヤリングを渡しておくから何か進展したらこれで連絡くれるかしら?」


「このイヤリングで連絡が取れるんですのね?…わかりましたわ。なら早速取り掛からせて頂きますけど、この後の予定はどうされるんですの?」


「そうね…」



 アエリアはベルセにこの後の予定を問われ、次の目標を考え数瞬の沈黙が生まれるが目標を定めて伝える。



「そろそろシドフィア帝国で暗躍していたアルマートっていう魔族にお仕置きしようかしらね。それに、現皇帝も縛り上げて今までの悪行を清算させなくちゃいけないわ」



 すると口を閉ざしていたアルメラが笑みを作り、今までの鬱憤を吐き出すように呟く。



「ようやく帝国を潰せる…二年間も好き放題やった…きっと満足してるはず」


「そうね。今まで好き放題したんだもの。しっかりとお灸を据えなくちゃいけないわよね」



 アエリアも笑みを浮かべ、ルノアールの身体を弄ったアルマートにどういうお仕置きするか考えているとベルセが口を開く。



「わかりましたわ。なら、私達はアンダーパラダイスで武道大会を開催する為に動きますわね」


「ええ、これからよろしく頼むわベルセ」


「こちらこそお願いしますわ、新しい魔王様?」



 建国するはずだった土地の地下…そこに築かれた魔族達の楽園の管理者を仲間に加え、全種族が手を取り合う国を思い浮かべながら四人は笑顔で固く握手を交わした…。

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