アンダーパラダイス
王都リライアの屋敷の一室…そこには三人の女性が顔を合わせていた。
「この格好…懐かしいなぁ…」
「そういえばシンシアは暗殺者だったわね?可愛い顔して結構エグイ仕事してたのよね」
「千棘が言えた事じゃない」
身体のラインがくっきり浮き出るような黒装束を着こんで黒いボロボロのマフラーを上にずらし、マスクの様に口元を覆って何処からどう見ても暗殺者という格好をしたシンシアは、しきりに腰に装着した黒鞘に収まった黒塗りの短剣の位置を調整していた。
明らかに昔の血が騒いでいるのか、可愛らしい顔についているくりっとした大きい目は自然と細まり、暗殺者の様な顔つきになったシンシアはアエリアとアルメラの格好を見て感想を伝える。
「アエリアさんはなんというかかっこいいですけど、アルメラさんは角も相まって女淫魔っぽく見えますね…」
アエリアは魔獣の国に行くという事でいつもの聖職者の様な格好ではなく、黒いレザージャケットに胸の谷間が見える程開いたタンクトップと太ももを露にするホットパンツ姿で、手と脚には白と黒のブーツとグローブというとても動きやすそうな格好をしていた。
アルメラもいつもの軽鎧ではなく、胸元ががっつり開いた身体のラインが出る黒いボディースーツを隠す様にアエリアと同じ服を身に纏っており、長いピンク色の尻尾も悪魔の様な尻尾に変わっていた。
そのアルメラの姿を見たシンシアは羊のアモン角と格好も相まって女淫魔の様に映っていたらしく、何気ない呟きで発したシンシアの感想を聞いたアエリアは酷く驚いた表情を作りながらシンシアの肩を徐に掴んで問いただす。
「シンシア!?サキュバスがいるって本当なのかしら!?」
「え!?え、ええ…200年前は居ましたよ…?」
「ちょっと千棘、何いやらしい事考えてるの?」
アルメラの蔑む様な視線も気にせずアエリアはシンシアの肩から手を離し、アルメラの肩を強くつかんで何故驚いているのか理由を説明しだす。
「アルメラ何言ってるのよ!!サキュバスは私が欲していた新しい国のピースなのよ!?サキュバスがいるならインキュバスもいるはずだわ!!日頃溜まった鬱憤を発散する場所は絶対必要!!そしてそれを糧にサキュバス達が生きているのならこちらは鬱憤晴らし、相手は生きる糧を得るwin-winの関係を築けるし、行為を行わずに済ませられるなら感染症の心配もないわ!!しかも成功するなら性犯罪率も絶対に低くなるはずよ!!クリーンな運営が出来るかも知れないのに興奮せずにいられるって言うの!?」
「ご、ごめ…わわかったからららゆらささないいでええ」
アエリアに角で重くなった頭を揺らされ、顔色がだんだん悪くなっていくアルメラを助ける為にシンシアはアエリアを落ち着かせる。
「あ、アエリアさん…落ち着いてください。アルメラさん吐きそうですよ?」
「あ…ご、ごめんなさいね。…でもまぁ、それも可能性の話よ?もし、魔獣の国にいるなら絶対に国民に欲しいわ…この情報でシンシアの役割がぐっと重要度を増したからその分頑張って頂戴ね?」
「わかりました。元暗殺者の実力を発揮する絶好のチャンスですからね…アエリアさんの役に立てるよう、全力で当たらせて頂きます」
「あんまり頑張り過ぎないでよ?貴女と信仁は生産方面で頑張ってもらうんだから。戦闘行為は自分の身を守る時だけ許可するわ…それと貴女達にこれを渡しておくわ」
アエリアはシンシアにそう言いつつインベントリからチョーカーと透明な瓶に入ったコンタクトレンズを三人分取り出し、不思議そうな顔をするアルメラとシンシアに渡した物の説明をする。
「これはね、聖地セルファスを復興する前から信仁と協力して作った新しい魔道具よ。シンシアはわからないかもしれないけれど、この透明で薄いのはコンタクトレンズっていうの。これを怖いと思うけど目に入れてちょうだい」
「わかりました」
「了解」
コンタクトレンズを付けた事があるアルメラは特に驚く事は無かったが、シンシアは今まで見えていなかった物が見え始め、驚いた様に見えている物を伝える。
「あ…すごいですねこれ?この周辺の地図と皆さんの位置がわかります…それに…このアエリアさんの横にある数字は何ですか?」
「この数字…心拍数?」
「ええ、アルメラ正解よ。一から説明するわね?」
アエリアは一度こほんと咳払いし、自分のつけたチョーカーを指で差しながら機能を説明していく。
「まずはこのチョーカーの機能なんだけれど、このチョーカーを付けている人の脈拍と位置情報を常にモニタリングしてるのよ。そして次にこれね」
チョーカーから目に指を移動させ、コンタクトレンズの機能をアルメラとシンシアに伝える。
「このコンタクトレンズは周辺地域の地図が見れて、その地図上に周辺の人の位置とチョーカーを付けている仲間と心拍数が表示されるわ。私とかアルメラはこれを付けなくても何処にいるのかはわかるんだけれど、シンシアは何処にいるかわからないでしょ?」
「そうですね…声はこのイヤリングで聞こえますが、何処にいるかまでは結局場所を言ってもらわないとわかりませんでした」
「そうなのよ。だからこのコンタクトレンズで仲間が何処にいるか丸わかりって事。コンタクトレンズだから敵に奪われる事もなかなか無いだろうし、秘匿性も十分ね」
「確かに…眼鏡とかだと敵に奪われたり破損したり、激しく動いた時にずれる可能性もありますね」
「…でもこの心拍数は何の為にあるの?」
「ああ、そうね?心拍数が何で見えるか言ってなかったわ。イヤリングで通信する時、声を出さないといけないでしょ?もし何者かに捕まったり、致命傷を負わされて声が出せなかったり死にかけたり…そんな時にこの心拍数で状態を確認するって感じよ。後はやむを得ない状況で戦闘が始まった時もわかりやすいわね」
アエリアの説明でコンタクトレンズの凄さを知ったアルメラとシンシアはきょろきょろしながら性能を確かめ始めるが、アルメラが首を傾げながらアエリアへ問う。
「…でもこれ、表示が邪魔な時どうすればいいの?」
「その時は頭の中で消すイメージをすれば消えるし、透明度を弄る事も出来るわ。見やすい所に表示を移す事も出来るし便利でしょ?」
「なるほどね、理解した」
「これは凄いですね…仲間の位置と状況、更に自分の位置が一目でわかるのはとても便利です」
「ええ。後はそうね…このチョーカーを付けている仲間の位置情報は青、チョーカーを奪って私達以外の人が付けた場合は赤で表示、チョーカーを付けてない人は青で表示されるのだけれど、このコンタクトレンズには標的の追跡機能もあって、追いたい相手を見つめながら追跡するってイメージすれば追跡対象は緑で表示されるわ。…試しに私を追跡してみて頂戴」
するとアルメラとシンシアはアエリアの言った通りにイメージし、驚きの表情を作る。
「へぇ…これ、足跡機能?」
「すごい…何処を歩いたのか地図に表示されるんですね…」
「そうよ。但し、これは追跡したタイミングからだからそこだけは注意よ?後は…」
そう言ったアエリアは顎に指を当てながら首を傾げ、何かを思い出す様な仕草をしながら思考を巡らし、しばらく考え込むと手を叩いて思い出した内容を伝える。
「ああ、そうだったわ、これが一番大事な機能よ。このコンタクトレンズね?視界共有機能と録画機能があるのよ」
「視界共有!?」
「ええ、すごいでしょう?一旦二人とも目を閉じて私をイメージして頂戴」
アエリアは酷く驚いた二人に目を閉じる様伝えて一人で部屋の外に向かい、自分に見せつける様に手を振ると部屋の中から二人の感嘆の声が響く。
「どう?私の視界、見れたかしら?」
「凄いですね!?これなら情報を誤差なく伝えれます!」
「これなら偵察も100%の効果を引き出せる…」
「私はアイデアを信仁に伝えただけで殆ど何もしてないからお礼は信仁に伝えてちょうだいね?後は声を出さなくても通信できる魔道具を作ってもらってるけれど…それは難航してるみたいだからまた今度ね。これから魔獣の国に行くけれど、10分だけ自由時間を取るからコンタクトレンズの扱い方に慣れてちょうだい」
「わかりました」
「了解」
今回の作戦を実行する三人は各々のやるべき事と新しく用意された魔道具の確認をしながら作戦開始時間まで悠々と過ごす…。
■
『信仁?私達の視覚のモニタリングは順調かしら?』
『ああ、音声映像とも良好だ。一応地下でも使えるように調整はしたはずだが、何か不備があるかも知れない。あまり過信しすぎないで使ってくれ』
『了解よ。じゃあ、私達は潜入するからそっちでも映像と音から情報を集めて頂戴』
『了解』
…
「じゃあ、今から転移するけれど…上空に出ちゃうのよね。目立たない様、姿を消していくから絶対に私の手を離しちゃダメよ?」
「わかりました」
「了解」
アエリアは魔獣の国に一緒に行くアルメラとシンシアの手を取り、一瞬しか見えなかった国の光景を思い浮かべながら転移魔法を発動させる。
一瞬の浮遊感の後、屋敷の一室から魔獣の国の上空に転移したアルメラ達は落下しながら暴れる髪も抑えず、眼下に広がる国を一望していた。
「改めて見ると凄いわね!?」
「ええ!!地下にこんな国があるなんて知りませんでした!!」
「そんな事より足場作って!!」
空を切る音に負けないぐらいの声量で感想を伝えあってたアエリアとシンシアはアルメラの叫び声で我に返り、弾力のある透明な足場を作り出して跳ねながら上空に着地する。
「これ結構楽しいわね?国で遊び場作る時に採用しようかしら?」
「命綱無しで上空から落ちる…結構楽しい遊び場になりそうですね?」
「紐なしバンジーとか絶対にやりたくないんだけど」
「まぁ今は作戦に集中しましょうか。…早速で悪いのだけれど、シンシアは作戦通りにこの国のトップとどういう国なのか探ってちょうだい。私とアルメラはここに流れ着いたよそ者の体で探るわ」
「わかりました、では行ってまいります」
アエリアの言葉を聞いたシンシアは弾力のある足場を強くたわませ、反動を利用して跳ねると地上の陰に溶け込んでいく。
「へぇ…シンシア凄いわね?マップで追跡しなきゃ一瞬で見失っちゃうわ」
「さすが元暗殺者のエース。…というより、千棘は角とか耳付けなくていいの?」
「確かにそうね?なら、アルメラとお揃いの角にするわ」
アルメラの指摘を聞いたアエリアはインベントリからアルメラの様なアモン角のカチューシャを取り出し、外れない様に調整しながら眼下に広がる城下町とも言える場所を見据える。
「こう上から見ると地上の暮らしとなんら変わらないわね?」
「うん。冒険者ギルドの様な場所があるか探して、もし見つからないなら酒場とか賭場を見た方がいい。後は正規の入り口を探しておいた方がいい」
「なるほどね。なら適当な暗い路地に降りて先に正規の入り口を探しましょうか」
そう言いながらアエリアとアルメラもシンシアと同じ様に暗闇に飛び込み、人気のない場所へ何事もなく着地して人間となんら変わりのない魔獣達が歩いている道に紛れ込む。
「すごいわね…姿形以外普通の国だわ」
「うん。しかもかなり綺麗な街並み…地下なのに魔石を使った街頭がちゃんとあるから明るいし」
レンガで綺麗に舗装された道、レンガで作られた大小の建物、所狭しと並ぶ屋台、荷台に荷物を乗せながら道を行く魔獣…アエリア達はここが商売が盛んに行われている商業区だと悟る。
売られている物は異形の姿の魔獣達に合わせた様々な形の服、森などで獲ったであろう動物の丸焼きや串焼き、更には生活用の魔道具等も売られており、奇抜な物を売っている屋台はあったがアエリアとアルメラの目を楽しませるには十分の品揃えだった。
「へぇ~?この魔道具すごいわよ?この魔道具の中に使用した食器を入れたら自動で洗ってくれるらしいわ。…力が強い人用?」
「力が強い人用…?」
アエリアとアルメラが魔道具を売っている屋台で自動食洗器の様な魔道具に添えられていた値札に書かれた力が強い人用という文字に頭を悩ませていると、トカゲの様な筋骨隆々の屋台の主人がその意味を教えてくれる。
「その力が強い人用っつーのは力の加減が上手く出来ねえ奴の為なんだよ。異形型だと皿を洗おうとして摘まんだつもりでも割れちまうからな」
「なるほどねぇ…確かに生活する中で強すぎる力は不便よねぇ…」
「というか嬢ちゃん達、あんまここらじゃ見ねー顔だけど、どっから来たんだ?」
そう問われたアエリアとアルメラは内心ドキリとしながらも澄ました表情で質問に答える。
「私達姉妹なんだけれど、ここで一旗上げたくて最近来たのよ」
「正直この国でやっていけるか不安」
「そうかそうか。嬢ちゃん達はサキュバスなのか?」
「あら、そう見える?」
「そりゃぁなぁ…そんな色っぽい格好してりゃぁ誰だってそう思っちまうぜ?違うのか?」
「まぁ違わない。おじさんはこの国長いの?」
「そうだなぁ…まぁ長い方だと思うぞ?」
「ふ~ん?じゃあ、おじさま?私達、この国についてまだよくわかってないから情報を仕入れたいんだけれど…例えば何処のお店の料理が美味しいとか、民間的な情報を扱ってる人とか知らないかしら?」
「知ってるっちゃ知ってるが…」
「…教えてくれないの?」
「アル違うわよ。こういう時はおじさまから物を買ってあげるのよ?おじさま、このお皿を洗う魔道具を買うから教えて頂戴?」
「お、話が分かるねー?ここは商業区なんだが、この道を真っ直ぐ行った所に国の出入りを管理している奴らの詰め所があるんだよ。そこんところに職業案内所とかがあるぜ?まぁ人間風に言うなら冒険者ギルドみてーなとこだな。…ほら、お釣りと品物だ」
「お釣りはいらないわ。情報量として受け取っておいてちょうだい。おじさま情報ありがとね~」
「じゃあね」
「おう。嬢ちゃん達襲われない様に気を付けろよ~?」
…
「この街にも冒険者ギルドみたいな場所があるみたいね」
「まぁ順調だね」
アエリアとアルメラは屋台の主人から買った魔道具をポンっと上に放り投げ、インベントリの中に魔道具を落として教えてもらった場所まで街並みを観察しながら歩いていく。
「それにしても…私達は随分注目の的なのね?」
「さっきの人も言ってたけど、サキュバスだと思ってるんじゃない?」
そんな事を話しながら周りの者達の視線を浴び、目的地に向かっていたアエリアとアルメラは突然目の前を誰かに塞がれてしまう。
このまま押し退けて進んでしまおうと思っていたが逆にチャンスなんじゃないかとアエリアは思い、足を止めて行く手を阻む3m程の体躯で腕を4本持つ鬼の異形を見つめる。
「あら?私達に何か用かしら?」
「ハッ…わかってんだろ?この国は弱肉強食の世界…お前等弱者は俺の鬱憤を晴らす為にいんだよ。さっさと宿で俺を楽しませな」
下卑た笑みでアエリアとアルメラの身体を舐めまわす様に見た4本腕の鬼はアエリアとアルメラの腕を掴み、宿まで連れていこうとしたが…
「あ、あぁ?何だこのサキュバス共…ピクリとも動かねぇ…」
「私達と宿で楽しみたいんでしょう?力尽くで連れていけばいいじゃない。ここは弱肉強食の世界なんでしょう?」
「私達を動かせない時点で弱者はこの鬼。姉さん察してあげて」
「あら、確かにそうね?私達が強者ならこの前にいる筋肉達磨に構う必要なんてないわね」
「ぐっ!?」
アエリアとアルメラはクスクス笑いながら掴まれた腕を払いのけて4本腕の鬼の膝裏にお互い蹴りを入れ、膝をつかせて先に進む。
弱肉強食の掟通り、周りで4本腕の鬼とアエリア達のやり取りを見守っていた者達は鮮やかな立ち回りに口笛を吹いていたり、おおっという感嘆の声を漏らしていた。
そんな周りのムードとは全く別…アエリア達に並々ならぬ殺気を向けている者が口を開きながらアエリア達の行く手を再度阻む。
「おいクソアマ…お前らは俺を怒らせた…ぶっ壊れるまで玩具にしてやる…覚悟しろ!!」
先程膝をつかせた4本腕の鬼は肌の色を紫色に変色させ、膝をつく前より二倍以上に膨れた腕でアエリアとアルメラを殴りつけようとするが…
「こんな遅くて弱いパンチじゃ虫すら殺せないんじゃないかしら?」
「うん。見掛け倒しすぎる」
「なっ!?」
4本腕の鬼は渾身の拳をゆっくり振り返ったアエリアとアルメラの小さな手に受け止められたという事実に驚きの声を漏らし、化け物を見るような目で見つめる。
驚きの声を漏らしたのは4本腕の鬼だけではなく三人のやり取りを見守っていた者達も同様に驚きの声を漏らし、風切り音と風圧を感じさせた拳を涼しい顔で受け止めたアエリアとアルメラを称えるような声を上げ始めた。
「おー!!嬢ちゃん達やっちまえー!!」
「そんな奴ぶっ殺しちまえ!!」
「しばらく遊べねーよーにもいじまえよー!!」
そんな観客の野次を聞きながらアエリアは受け止めた4本腕の内の一つを両腕で締め上げていく。
「ぐっ…ああああ!?」
「あら?私達と遊びたかったんでしょう?こうやって抱きしめて欲しかったんじゃなかったのかしら?」
「姉さん、この人は腕じゃなくて首に抱き着いて欲しいみたい」
そんな事を言いながらアルメラは重さを感じさせない軽い跳躍で3m程の巨体の首に脚を巻き付け、頭を暴れさせない様に両腕でガッチリと固定する。
「うっ…うううううううう!?!?」
「本当ね?嬉しそうに声をあげてるわね」
紫色の肌がどんどん青黒くなり、眼が充血し始めた4本腕の鬼は形振り構わずにアエリアに掴まれている腕以外の腕を振り回し始めるが、抵抗虚しく白目を向きながら前のめりに巨体を寝かしてしまう。
「あら、一人で勝手に寝ちゃうなんて…そんなんじゃ私達の事を楽しませるなんて到底無理ね」
「私達が抱き着いてあげたんだから感謝して欲しい」
4本腕の鬼とアエリア達を交互に見ていた観客達はようやく状況が理解できた様で、二人の鮮やかな手口に称賛の声を上げながらアエリア達に道を開けていく。
「すげーぜ嬢ちゃん達!!」
「はいはい、凄いのはわかってるわよ」
「ピンク髪のねーちゃん!俺の事も抱きしめてくれよー!!」
「命が欲しくないならやってあげる」
しばらくの間、囃し立てる声に適当に答えながら道を歩いていたアエリアとアルメラの二人はようやく目的地であるしっかりとしたレンガ造りの情報屋に辿り着き、疲れたように息を吐き出す。
「ふぅ…ファンサも大変よね、ほんと」
「アイドル業よりマシだと思う」
身体の中の空気を入れ替え、少し火照った身体を冷ました二人は建物の中を見渡しながら周囲の話し声に耳を傾けて情報収集をしていく。
しばらくこの辺で起きた事件や噂話に耳を傾けていたアエリアとアルメラは付けているイヤリングから最初に別れたシンシアの声が聞こえ、周囲の音からシンシアの声に耳を傾ける。
『基礎情報を手に入れたのでお伝えしますね』
一つ、この国は正式に国としてあるわけではなく、知性のある魔獣達が冒険者達から身を守る為に協力して暮らしていたら、色んな場所から同族が集まって国とも呼べる規模の集まりへと昇華した。
二つ、集まりの名前はアンダーパラダイス…国ではないので国王という存在はなく、最初に集まりを作った者…吸血鬼が国王の様な役割を担っており、数名の部下で広大なアンダーパラダイスを管理している。
三つ、アンダーパラダイスは掟として、『弱肉強食』を掲げていて街での殺傷等も頻繁に起きているが、弱いのがいけないという事で特にお咎めはない。
四つ、新たな魔王が全種族と手を取り合う国を興すと宣言した事によって、長の役割をしている吸血鬼が新たな魔王と手を組むか検討している。
この短時間でここまでの情報を仕入れてくれたシンシアの手腕にアエリアとアルメラは驚きながらも仲間の優秀さに感謝する。
『よくここまで情報を集めれたわね…本当に感謝するわ』
『シンシア有能』
『ありがとうございます。引き続き情報を集めますが…長の吸血鬼がアエリアさんと手を組もうと検討しているらしいので、割と楽に事が進みそうですね?』
『確かにね…でもまぁ…もし、手を組むとしても弱肉強食の掟はダメね…強いから何でもありじゃ国の治安が悪くなるもの』
『そこは交渉次第じゃない?』
『そうですね…最悪の場合はアエリア様が弱肉強食の掟を利用し、長の吸血鬼に力を見せつけてアンダーパラダイスの長に…という事もありそうですね』
『それが一番手っ取り早いのかしらねぇ…出来れば穏便に済ませたいのだけれど…でもわかったわ。シンシアはそのまま詳しい情報を探ってちょうだい』
『わかりました、では後程』
…
「なるほどねぇ…まずはその吸血鬼ってやつに会うのが手っ取り早いかも知れないわね」
「うん。でも何処にいるかわからない」
「まぁ、それはこの情報屋で探ればいいわ」
「そうだね。じゃあ早速…」
次の目標を決めたアエリアとアルメラは椅子から腰を上げて各々で情報収集しようとした時、建物の中に聞き覚えのある怒声が響いて呆れた様に項垂れる。
「さっきのクソアマ二匹はどこだぁ!?!?絶対にぶっ壊してやる!!!」
「「はぁ…」」
先程絞め落とした4本腕の鬼を見据えたアエリアとアルメラは何も言わずに4本腕の鬼へ駆け出し、振りかぶった右腕と左腕を同時に鬼の顔に叩きこんで吹き飛ばす。
そして二人は観客の歓声を浴びながら先程のショーを肴に吸血鬼の居そうな場所を聞き出していた…。




