現地調査は土の中
「ふぅん?ここがエドワードがくれた土地ねぇ…」
白黒の髪色を持つ女性は草木が乱雑に自生し、人の出入りを拒む土地で周辺の探索を行っていた。
「頻発する地揺れ…強力な魔獣が我が物顔で闊歩…作物が育たないって言っていたけれど、これだけ生命力の強い草木が生えちゃ作物の養分を横取りしちゃうのかしらねぇ…」
女性は近くに生えた木に手を当てながら魔力を流し込むと木が喜ぶように震え、葉の擦れる音と共にわずかに身長を伸ばす。
「なんなのかしらこの木…前に読んだ本じゃこんな木があるなんて書いてなかったし…この木の正体が判らなかったからエドワードも諦めたのかしらね…」
そう言いながら女性は木から手を離し、他の木々よりも少しだけ背丈の低い木を見つめて溜め息を吐く。
「はぁ…切ってもすぐに伸びるわね…根っこごと抜かないとダメ…しかも根っこが一ミリでも残ってれば魔力を吸っちゃうし…確かこの木が…」
少しだけ背丈の低い木に括り付けられた紐に垂れ下がる紙を確認した女性は目を見開きながら独り言を呟く。
「6時間前!?……あんた育ち盛りなのねぇ…」
6時間前に切り倒した木が既に周りの木の背丈に追いつこうとしているのを確認し、対策を考えながら女性は目的地へ向かってとある人物達と合流する。
「我が王、そっちはどうでした?」
「我が王、私が調べた場所はこういう状況でした」
「あなた達ねぇ…我が王はやめてって言ったでしょ?アエリアって呼んでちょうだい、信仁、シンシア」
我が王と呼ばれた女性…アエリアは金髪の青年と緑髪の女性…前勇者であり魔王だった信仁とその想い人、シンシアに名前で呼ぶよう言いながら書類を受け取り状況を確認する。
「ふぅん…シンシアの方も私の方とあんまり変わらない状況ね…信仁の方は何かわかったのかしら?」
「我が『アエリアよ』…アエリア、一応調査用の器具を創造して分かった事をこの書類に纏めてある。シンシアの書類を見てから見比べてみてくだ『見てくれ』…見てくれ」
「助かるわ。…エルラシア王国にあった文献とも照らし合わせると、この木は突然変異って事かしら?」
「その可能性が高いで…高いな。俺が調査した結果を合わせるなら、本来木や作物は土に蓄えられた養分と、この地面の下に無数に張り巡らされた地脈…魔力を吸い取って、本来の形に成長するんだが…」
信仁は書類の一点を指差しながらアエリアとシンシアにわかりやすく説明する。
「ここの地下にはその地脈を途切れさせる何かがある。…そして突然変異の原因は此処に住んでいる魔獣達だな。…正常な魔力が受け取れず、魔獣から漏れ出る魔力で育ってしまったのが原因で魔力を与えれば与える程育つ木になってしまった」
その説明を聞いたシンシアは顎に指を当てながら頭の中で思いついた事を口から零す。
「その習性を利用して、常に成長し続ける木を加工すれば木材はほぼ無限…?」
「確かにシンシアの言う通りだ。だがそれには欠点が一つあるんだ」
「欠点?」
「…加工後に魔力を吸わせてしまったら大きさの変動が起きて建築材料にならないわ」
「アエリアの言う通りそうなんだ。建築材料にするなら全て同じ大きさ…後から小さくなったり大きくなったりしたら自然と建物が崩れてしまう。…この世界では誰でも魔力を持っているから身体から漏れ出た魔力だけで成長して倒壊する事だってあり得る」
「そっか…じゃあ、今の私達からしたら厄介な木でしかないのね…」
「そうね。でも、このまま根絶やしにしてしまうのはもったいないのも確かよね…」
「そこに関しては時間さえあれば俺が何とかする」
「頼もしいわね。なら次の問題はこれかしら?」
そう言いながらアエリアは信仁の書類の地面と地中の間に描かれている空洞の図に指を差す。
「ああ、地脈からの魔力が断たれている原因はこれで間違いない。地中にエコーを放って大きさを確かめてみたんだが…この土地と同じ大きさの空洞があった」
「こ、この土地と同じ大きさですって!?」
信仁の言葉に驚きの声を上げたアエリアは想像を絶する規模に肩を落としてしゃがみ込んでしまう。
「この土地と同じ大きさ…北海道と同じ大きさが地下にもあるって事なの…?」
「ああ………」
北海道という大きさを知っているアエリアと信仁は肩を落とし、途方もなさに絶望しているとシンシアは不思議そうな顔をしながら問いかける。
「そのホッカイドウ?というのは私は知らないですけど、国の規模って普通これぐらいじゃないですか?」
シンシアの言葉にぎょっとしたアエリアと信仁は目を見開き、シンシアの口から出た普通の意味を悟る。
「そ、そういえばそうね…国よね…逆に小さいぐらいなのかしら…?」
「た、確かに…俺達は狭い国で育ったようなもんだから感覚が違うのか…」
アエリアと信仁は自分達の庶民感覚に溜め息を吐き、アエリアはこの土地をくれたエドワードを思い浮かべて怒声を響かせる。
「あの王様…最初はリライアと同じ規模って言ってたのに、何が『開拓出来そうならこの一帯もくれてやる。その分我が国を融通してくれると助かる』よ!!完全に腐った土地を有効活用しようとしてるじゃない!!!」
「そんな甘い罠に引っかかったアエリアも悪いだろ…」
「うっ…それを言われちゃ何も言えないわ…」
エドワードを思い浮かべながら地団駄を踏んでいたアエリアに信仁が冷静な言葉を浴びせて二人は頭を抱える。
「リライアと同じ規模…東京ドーム20個分とかなら何とかなったのに…そう思うとこの世界ってあり得ない程広大なのね…」
「ああ…俺達からしたら想像もつかない大きさだな…」
「…?大きさに悲観してる暇があったら少しでも作業を進めた方がいいと思いますけど?」
「「うっ…」」
シンシアに現実を突きつけられたアエリアと信仁は呻き声を漏らしながらも頭を回す。
「でも実際どうする?聖地セルファスの規模…10個分でほぼ休みなし、昼夜問わず復興して一ヶ月…それも基盤があった状態でだぞ?今からやろうとしてるのは地下の状況確認と問題解決、その後に木の問題解決…そこからようやく土地を人が住める状態まで持って行って建築…そこからライフラインの敷設やらなんやら…」
「わ、わかってるわよ……まずは地下の調査を終わらせて、ちゃっちゃと地均しして、王都となる場所だけでも作ってしまえば後は国民達と一緒に開拓よ!!」
「そうですね。全て私達だけでやらなくちゃいけないわけじゃないですから、まずは国民となる人々が安心して暮らせる場所を作る事を目標として作業を始めてしまいましょう」
「っし、やってやるわよ!!信仁!シンシア!準備なさい!」
「…アエリア、まずどうやって地下に行くんだ…?」
「…まぁ今から考えるわ。少し待ってなさい」
「「…」」
アエリアは信仁とシンシアの冷たい視線を受けながら、白黒の髪を左右に揺らして考えを巡らせ始めた…。
■
「それにしても、信仁のチート能力にも制限があったのね?」
「ああ、だからいきなりこれを作れと言われてもすぐには作れないんだ…すまないな」
「いいわよ。これぐらいなら私の魔力で何とかなるし」
アエリアは魔法で地面を階段状に掘り進めながらマップを見つつ、信仁とシンシアの二人と一緒に地下の空洞を目指していた。
最初は信仁に土を掘る為のドリル等を作ってもらおうと思っていたが信仁曰く、初めて作る物には一ヶ月程の時間がかかってしまうとの事だった。
早めに地下の探索を終わらせ、土地の整地に手を出したかったアエリアはそのまま自分の魔法で地面を掘り進める事を提案し、掘った土はシンシアの魔法で地表へ排出するという方法を取っていた。
「シンシア?あなたの魔力は大丈夫かしら?」
「ええ、ポーションも頂いてますし、これぐらいなら特に問題ありません」
「そう、ならよかったわ。信仁?そっちは何か反応あったかしら?」
「そうだな…エコーの反射からして建物があるみたいだな」
「建物…そういえばフェイナの報告書を前見た時、ドルファニス地下王国っていう国があるって言ってたけれど…ここは明らかにドルファニスと別の地域よね?なら何なのかしら、その建物は…」
「憶測でいいならだが…ダンジョンかもしれないな」
「ダンジョンねぇ…もしダンジョンなら、中を改築して国の一部にしちゃおうかしら」
「あ、それいいですね?資源も潤いますし、国に人を集めやすいですし」
「確かにそうね?ダンジョンならそのまま利用でダンジョン以外ならぶっ壊して埋めればいいわ」
「ぶっ壊すって…何かに利用出来るならその線もちゃんと検討してくれよ?」
「使えるなら検討するわよ…っあら?」
信仁とシンシアの二人と話しながら掘り進めていたアエリアは魔力越しに伝わる感触が変わった事に声を漏らし、今まで掘っていた土と違う色の何かを見る為にしゃがみ込む。
「アエリアさん、何かありましたか?」
「なんかここから土じゃないみたいなのよね…」
「アエリア朗報だ。ここが空洞の真上だ」
信仁の言葉でようやく空洞に辿り着いた事がわかったアエリアとシンシアはふぅっと短く息を吐き、アエリアが作った階段に腰を掛けながら魔力ポーションを少しずつ飲んでいく。
「んっ…ふぅ。さて…この下をぶち抜いたら何があるのかしらね?」
「ふぅ…アエリアさん?もし、下がダンジョンなら特に問題はありませんが、ドルファニスの様に地下に住んでいる人達がいたら大惨事ですよ?」
「確かにねぇ…私のマップで見ても何もわからないのよねぇ。その空間にいないと人がいるかどうかすらわからないわ」
「…エコーも乱反射してるから正確な情報はわかんないな…」
「んー…どうしようかしらねぇ…」
空洞の天井を壊そうにも下の状況がわからなければ手出しが出来ないと思ったアエリアは、空になったポーションの瓶を片手でくるくる回しながら一つの考えを思いつく。
「そうだ…私が下をぶち抜いて、状況を確認したら時間を巻き戻して何もなかった事にするのはどうかしら?」
アエリアの考えを聞いた信仁とシンシアは目を見開きながら驚き、すぐに呆れたような表情を浮かべる。
「おまっ…相変わらず乱暴だな…」
「そんな無茶が出来るのはアエリアさんだけですよ…」
「そんなに褒めても何も出ないわよ?…ちょっと試してみようかしら」
アエリアはインベントリから白黒の手袋と白黒のブーツを取り出し、ゆっくりと感触を確かめながらその身に纏う。
「ほんとアエリアは白黒なんだな…」
「まぁ、私のイメージカラーよ。聖職者なのに乱暴者、白と黒って感じでいいじゃない」
「私じゃ絶対に似合わないのに、アエリアさんは本当に似合ってますよね…」
「今から見た目だけじゃないって事を見せてあげるわよ。…時間戻しちゃうから忘れちゃうと思うけれどね」
シンシアにそう告げたアエリアは深呼吸する様に自分の身体に入った空気を吐き、ゆっくりと吸いながら魔力を高めていきながら魔力を脚に集中させ、脚の周りが歪んで見える程の濃密な魔力を纏った事を確認してその場で軽くジャンプする。
「よし、身体の調子もいいわね」
「ま、まさか、アエリアさん…」
「お、お前…踏み抜くのか…?」
「そうよ?病み上がりの身体には丁度いいいリハビリだもの。…せー…のっ!!!」
アエリアは勢いよく跳ねて決して広くない穴の天井に両手をつき、自分の身体を弾き飛ばすように腕を伸ばしながら身体を回転させて狭い洞窟内で最大威力の踵落としを披露する。
明らかに過剰な威力で繰り出された踵落としは一瞬で空洞の天井を貫き、巨大な瓦礫を隕石の様に降らしながら空洞の中身を晒していく。
「なっ!?何よここ!?」
天井から瓦礫と一緒に落ちながらアエリアが視界に納めた光景…それは魔獣達が暮らす大都市だった。
空と飛ぶ魔獣、街で人と同じ様に物を売買している魔獣に驚いたアエリアだったがだんだんと近づいてくる都市を見て冷静になり、左眼の権能で天井を踏み抜く前まで時間に戻して大きな溜め息を吐く。
「はぁぁぁ~~~…何なのよあれ…」
「う、うん?準備運動したと思ったらいきなり溜め息吐いてどうしたんだよ?」
「今時間を巻き戻したんだけれど…下、魔獣の国だったわ…」
「へぇ~…魔獣の国かぁ…って魔獣の国!?」
「あ、アエリアさん…本当に魔獣の国だったんですか…?」
「ええ…落下してる最中に空を飛んでる魔獣と目が合ったし、人と同じ様に服を着て普通に暮らしていたわ…」
「ま、マジか…どうすんだよ?」
アエリアは信仁の問いに口端を吊り上げ、楽しそうな表情を作りながら当然の様に告げる。
「どうするもこうするも、私達は『全種族が手を取り合う国』を作るのよ?そんなの手を組むしかないじゃない!」
「そ、そうか…確かに野良の魔獣みたいに知性がないんじゃ話にならないが、知性があるなら別か…」
「そうですね…知性があるなら共存の道もありますね…」
「そうよ!魔王が興す国の最初の国民…知性のある魔獣達…ピッタリの人選じゃない!」
「これが平和の魔王か…俺じゃ考えもしないぜ…」
「でもシンジ?それが実現したらとっても素敵よ?」
「ええ、シンシアの言う通りよ!幸いぶち抜いたおかげで転移出来るようになったし、一旦屋敷に帰って作戦会議をするわよ!」
そう言いながらアエリアはシンシアと一緒に掘り進めた穴を埋めながら地上を目指し、目標を定める。
「私達の国の初国民を手に入れるわよー!!!」
楽しさを身体で表すように階段を飛ばしていくアエリアの後ろ姿を信仁とシンシアは、自分達の間に出来た子供を見ている様な感じがしてクスリと笑う…。




