アカズのダンジョンと隠し部屋2
よろしくお願いいたします!
駈と蓮火は疲れ果てていた。
無用な鬼ごっこのせいで。
結局。
蓮火が疲れて動けなくなったところで追い駆けっこは終わり。
それからお互い冷静になって話し合ったところで、少し休んでから出発しようということになった。
蓮火はまだ、不服そうな顔をしているよう駈には見えたが。
(この娘、危険だよ……。僕の精神衛生上的に……)
肉体よりも心の方が疲れている駈。
それでも、お互いに休む位置は隣同士。
肩が触れるか触れないかの距離だった。
「はぁ……こんなに動き回ったの久しぶりだよ……」
蓮火の口調は不満気だが、その表情は生き生きとしているよう駈には見て取れた。
駈は蓮火に答える。
「僕もそうですよ……あ、いや。あの10年ダンジョンに潜った時も結構、動いたかなぁ」
遠い目をして、大変だったと駈は呟く。
たった数日前にあった出来事とは思えなかった。
そう言えば蓮火さんと初めて会ったのもあの時か、と駈は今更ながらに思い出す。
まさか会って二回目で一緒にダンジョンに潜るとは思わなかったが。
でも、僕の横を通りすぎようとした彼女を引き止めて良かった良くやった、駈は自らの判断を自画自賛した。
そしてふと、何となく駈の頭に思い浮かんだ感情が、言葉になって自然と彼の口を突いて出る。
「あの……あの時は、ほんとにありがとうございました!」
それは感謝だった。
ダンジョンでモンスターに追い込まれた時は、あっさりと死を受け入れた、いや、生を、自分についてを諦めた。
ただ、蓮火とここまで一緒にダンジョンに潜って、彼女と色々なことを喋って。
そして、蓮火と友達になって。
楽しかったんだと、駈は蓮火との時間を実感のある一言で振り返った。
だからあの時、共に楽しい時間を過ごすことになった蓮火に、命を救ってもらえて良かったと、ありがとうと駈は伝えたくなったのだ。
急に駈からお礼の言葉を告げられた蓮火は、キョトンと不思議そうな顔をしつつ。
嬉しさも滲ませるといった器用な調子で駈に如何を聞く。
「どうしたんだいっ?改まって」
「いや、なんか無性にお礼が言いたくなっちゃいましてねぇ」
何それ、変なのっ!
そう言って蓮火は可笑しそうに笑う。
でもさ……。
蓮火が言葉を紡ぐ。
とても大事なものを扱うように、そっとそれに触れるように。
「ボクも、だよっ!ボクも……ありがとう!」
その表情は狙ってするようなものじゃなく、何気ない笑顔だったと思うが。
駈が今まで見てきた蓮火の表情の中で一番。
直視することがためらわれるほどの輝くものだった。
駈はこの瞬間、空っぽだったはずの自分の中身が何かで少しだけ満たされたような。
そんな明確な心の動きを感じた。
「何で蓮火さんがお礼を言ってるんですかねぇ……」
「ふふっ。ボクも無性にお礼を言いたくなっただけなんだよっ!あの時、君を助けられて良かったよっ」
これ以上は無理だ。
駈はおもむろに立ち上がる。
蓮火の表情を見ないように、自らの表情を見られないようにもしながら。
「さ、蓮火さん。良い具合に休憩出来たと思うので、先に進みましょう!」
「あっ、待ってよっ!駈君っ!」
駈と蓮火は二人並んで、先へと続く一本道を進んでいくのだった。
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一になりました。
機械的で無機質な音声がどこかの部屋で鳴り響く。
それは誰に聞こえるわけではなかったのだが。
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