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その箱を開けた世界で  作者: ナガズボン
第1章 鳳凰院 蓮火(仮題)
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幕間 教師と生徒

よろしくお願いいたします!

「馴れ合い過ぎだ」


「いいじゃーん、減るもんじゃあるまいしぃ」


「バレるリスクは増えるだろうが」


 そんな会話をしているのは。

 先程まで駈たちと一緒にダンジョン実習に参加していた動物好きと金髪ロングだった。

 二人とも実習用のダンジョンにいる時より口数が多い。


「忘れるな。ーーー様の命令を受けて我々は動いているのだ」


「わかってるってー」


 本当に理解しているのかと、動物好きは頭が痛くなる。

 なぜ自分がこんな小娘と組まなければならないのか。

 そこだけは、上の命令と言えども納得できなかった。


「やあ」


 突如響いたその声はまるで、道端で偶然にも知り合いに出会ったかのような、そんな気軽さを持っていた。


 いきなり聞こえてきたその声に、二人は警戒心を強める。

 それまで全く、気配に気付かなかったからだ。


「何者だ!?」


 自分らしくないと思いながらも声を荒げる動物好き。


「何者、か。お前らの先生だと言えば分かるか?」


 動物好きの誰何にそのように返答をすると。

 薄暗闇の向こうからこちら側に歩いてきて、姿を現したのは輝花だった。


 目を合わせる動物好きと金髪ロング。

 二人の判断は、無慈悲で残酷なまでに早かった。

 その無残な判断を行動で現そうとしたその時。


「やめとけやめとけ」


 濃密な死の気配を感じ、二人は本能的に動きを止める。

 二人の誤算はただ一つ。

 輝花が相手であったことだけだ。


 しかし、そんな気配を出したはずの当の本人は、相も変わらず気楽な口調で続けた。


「お前らの邪魔をする気はないよ。私もまだ死にたくないんでな」


 そう言ってニカッと笑う輝花。


 どの口がほざくのか、動物好きは心中で罵倒する。

 簡単に死ぬようなタマだとは、とてもではないが思えなかった。

 それこそ自分の主と対峙した時でさえ、この女は飄々と逃げ切ってしまうのではないか。

 そう思わせるだけの凄みが輝花から感じられた。


 輝花は、教え子に問題を出す教師のような口調で二人に告げる。


「むしろ手助けをしているじゃないか?」


 訝しげな表情を見せる動物好きと金髪ロングに対して、解けない生徒にヒントを出すかのように付け加える。


「ほら、今日の実習でもそうだろう」


 輝花のその言葉を聞いて、まさか、と。

 二人は気付く。

 それは班。

 ダンジョン実習の班である。


 主から命じられたのは、とある人物の監視。

 それには、なるべく一緒にいる時間があった方が都合がいい。

 金髪ロングと二人して彼と同じ班になった時は、ただ運が良いと思っていただけであったが、どうやらそれは違うようだった。


「……何が目的だ」


 気付けば動物好きは、無意識のうちに疑問を口へ乗せていた。

 なぜ姿を表したかという思いもあったが、それ以上に不気味さを感じていた。

 この女を消すことはどうやら自分たちには無理である。

 ならばこそ少しでも情報を手に入れたかった。


「そうだな…強いて言うなら」


 少しの間を置いて輝花は、その答えを言葉にする。


「あいつのことを少しでも知るためだな」


 そう言った時の輝花の表情を動物好きは一生忘れることができないだろう。

 

 あれほどの凄みを自分に感じさせた人間が、まるで恋する少女のようにあどけなく、そして美しい笑みを浮かべたためだ。


 それは、この世界を生きてきた者でさえ、蜂や蝶を魅了する花の蜜のように引き込んでしまうのではないか。

 動物好きが自分の監視対象に男として嫉妬を覚えてしまうほどのものだった。


「とまあ、その話は置いといて」


 殊更に軽い口調で輝花は言う。


「お前らに顔を見せたのは。一応私は気付いているっていうのを知らせることと、敵意はまだないというのを伝えるためだな」


「まだ……か。出来れば敵対はしたくないものだな」


 動物好きの口調には、真実そう思っていることが分かるだけの重みがあった。


「今日になって顔を見せたのはなぜだ?」


 想像はつくも、質問する動物好き。


「お前も気付いているとおり、今日の実習で何かがあったからだな」


 どこまで見通しているのか、全くもって底が知れない女だ。

 動物好きは改めて、敵対をしたくない、いや、すべきでないとつくづく感じた。


「さて、そろそろ私は帰る。お前たちも気を付けて帰るんだぞ」


 輝花はそう言ってニカッと笑い後ろを向くと、一度も二人の方を振り返ることなく去っていくのだった。


「ほえー、かっこいいー」


 誉め言葉を口にしてガム風船を膨らませた金髪ロングには相変わらず緊張感がなく。

 

 家に帰って虎太郎をモフモフして癒されたい。

 自らの愛犬を思い浮かべながら、動物好きは頭を抱えるのだった。

 

お読みいただきありがとうございました!

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