幕間:とある少年の独白
空っぽだ。
自分がいったい誰なのか、何者なのか、何なのか全く分からない。
自分の中に何もない、そんな感覚。
どうして僕は普通じゃないんだろう。
何で他の人と違うんだろう、なぜそんなことを思ってしまうんだろう。
物心ついた時から続く、答えの出ないその疑問。
あの日も僕は、まだ幼かったぼくはおじさんに話を聞いてもらっていたと思う。
ぼくの親、正確には育ての親に紹介してもらった人。
心理カウンセラーという仕事をしている人。
「んー、そうだねぇ」
何度も何度も、その人に会ってから、そして会うたびに何度も同じことを聞いていたような気がする。
でも、嫌な顔一つせずいつも違う視点から話をしてくれるおじさんを、幼いながらも尊敬していた覚えがある。
「じゃあ今日は普通とは何かということについて考えてみようか」
一拍置いておじさんが続けて聞いてくる。
「君にとって普通とは何かな?――」
「おとーさんとおかーさんがいて、いっしょにくらしていること」
そのように答えていたと思う。
「なるほどねぇ。でも、君にはいるじゃないか。お父さんとお母さんが」
ぼくに実の子供と変わらないほどの愛情を注いでくれた人たち。
血は繋がっていなくても、彼らがぼくの親だと今では断言できる。
でもその頃のぼくは納得が出来なかった。
確かに良くしてくれる、愛情を注いでくれる、でも違うんだとぼくの中の何かがざわめいていた。
「うん……。でも……わからない」
「そうだねぇ。難しいよねぇ。だから良いんだよ」
「いいって?」
「少し難しい話かもしれないけれどさ」
と、前置きを置いて。
「僕は君じゃない。だから、外から見た客観的な話しか出来ない。そして、客観的な話が必ずしも正しい話、答えだとは限らない。あくまで自分自身が納得できるものを見つけていくしかないんだ。悩むのは当然だよ」
言葉を切ると、
「普通なんて人によってそれぞれ違うだろうしさ」
そんなようなことを言っていたと思う。
「……うーん、わからないよ。でも、なやむのがふつう、っていうこと?」
「その通りさ」
そして最後には、必ず頭を撫でられて話が終わるのだった。
あれは6歳の誕生日だっただろうか。
お父さんに話があると言われ、部屋に行った。
そこには、お父さんだけじゃなくお母さんと――がいた覚えがある。
ぼくは緊張していた。
何か悪いことをしてしまったのだろうかと。
「――。君の本当の両親の話だよ。話すには……早いと思った。ただ、早く話した方が良いというのも本当なんだよ」
申し訳なさそうに告げると、手紙を渡してきたんだ。
「君には酷な話だ。とても辛く険しい道になると思う。それでもそこを目指すというのなら、僕達は君を応援するよ。もしかしたら、君にはまだ難しい話かもしれないけれど」
「わたしもおうえんする」
まさにその日こそ、ぼくが冒険者になることを決めた日だったんだ。
でも。
それでも、やっぱりぼくは普通じゃなくて。
魔法の適性もほとんどなく、七歳の時にもらった特性も役に立たないものだった。
普通じゃない。
いや、普通であってほしいところが普通じゃなくて、普通じゃなくていいところが、普通どころかそれ以下だったんだ。
空っぽだ、何もない。
ぼくはどうして、普通じゃないんだ。
ぼくはいったいナニモノだ。
その悩みの答えは、未だに出ていない。




