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その箱を開けた世界で  作者: ナガズボン
第1章 鳳凰院 蓮火(仮題)
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幕間:とある少年の独白

 空っぽだ。

 自分がいったい誰なのか、何者なのか、何なのか全く分からない。

 自分の中に何もない、そんな感覚。 

 どうして僕は普通じゃないんだろう。

 何で他の人と違うんだろう、なぜそんなことを思ってしまうんだろう。

 物心ついた時から続く、答えの出ないその疑問。

 

 あの日も僕は、まだ幼かったぼくはおじさんに話を聞いてもらっていたと思う。

 ぼくの親、正確には育ての親に紹介してもらった人。

 心理カウンセラーという仕事をしている人。


「んー、そうだねぇ」


 何度も何度も、その人に会ってから、そして会うたびに何度も同じことを聞いていたような気がする。

 でも、嫌な顔一つせずいつも違う視点から話をしてくれるおじさんを、幼いながらも尊敬していた覚えがある。


「じゃあ今日は普通とは何かということについて考えてみようか」


 一拍置いておじさんが続けて聞いてくる。


「君にとって普通とは何かな?――」


「おとーさんとおかーさんがいて、いっしょにくらしていること」


 そのように答えていたと思う。


「なるほどねぇ。でも、君にはいるじゃないか。お父さんとお母さんが」


 ぼくに実の子供と変わらないほどの愛情を注いでくれた人たち。

 血は繋がっていなくても、彼らがぼくの親だと今では断言できる。


 でもその頃のぼくは納得が出来なかった。

 確かに良くしてくれる、愛情を注いでくれる、でも違うんだとぼくの中の何かがざわめいていた。


「うん……。でも……わからない」


「そうだねぇ。難しいよねぇ。だから良いんだよ」


「いいって?」


「少し難しい話かもしれないけれどさ」


 と、前置きを置いて。


「僕は君じゃない。だから、外から見た客観的な話しか出来ない。そして、客観的な話が必ずしも正しい話、答えだとは限らない。あくまで自分自身が納得できるものを見つけていくしかないんだ。悩むのは当然だよ」


 言葉を切ると、


「普通なんて人によってそれぞれ違うだろうしさ」


 そんなようなことを言っていたと思う。


「……うーん、わからないよ。でも、なやむのがふつう、っていうこと?」


「その通りさ」


 そして最後には、必ず頭を撫でられて話が終わるのだった。



 あれは6歳の誕生日だっただろうか。

 お父さんに話があると言われ、部屋に行った。


 そこには、お父さんだけじゃなくお母さんと――がいた覚えがある。

 ぼくは緊張していた。

 何か悪いことをしてしまったのだろうかと。


「――。君の本当の両親の話だよ。話すには……早いと思った。ただ、早く話した方が良いというのも本当なんだよ」


 申し訳なさそうに告げると、手紙を渡してきたんだ。


「君には酷な話だ。とても辛く険しい道になると思う。それでもそこを目指すというのなら、僕達は君を応援するよ。もしかしたら、君にはまだ難しい話かもしれないけれど」


「わたしもおうえんする」


 まさにその日こそ、ぼくが冒険者になることを決めた日だったんだ。


 でも。


 それでも、やっぱりぼくは普通じゃなくて。


 魔法の適性もほとんどなく、七歳の時にもらった特性も役に立たないものだった。


 普通じゃない。

 いや、普通であってほしいところが普通じゃなくて、普通じゃなくていいところが、普通どころかそれ以下だったんだ。


 

 空っぽだ、何もない。

 ぼくはどうして、普通じゃないんだ。


 ぼくはいったいナニモノだ。


 その悩みの答えは、未だに出ていない。

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