第七話 「はじめてのギルド(3)」
「いやっほーーーーーーう!!」
適当な物言い (byゼファー)と、ギルマスに向けられるヘイト (byほとんどのギルドメンバー)が支配していたギルドハウスの空間に、トルゼのものっそい勢いがいい喝采が響いた。
「やったあ! お姉ちゃんがこのゲームにきてくれたっ!」
「喜んでくれるのは嬉しいけどね」
私はそれに返す。
「ねえトルゼ、このひと、あなたのリアルのお姉さんなの?」
ギルドメンバーの女性が、トルゼに話しかける。
「違うよ。私が勝手にいつもお姉ちゃんって呼んでるだけなの」
「あ、実際に血縁じゃないのね」
「それでも、私のラブはすごいけどねっ!」
そう。
なぜか、私はこの年下……といっても、小柄なだけで、きっちり二十歳は越えているのだが、どうにもそうは見えない十子に、現実で、やけに懐かれているのだ。お姉ちゃん、お姉ちゃん、と、ほんとの妹のようなポジションを、自分でも楽しんでいるらしい。それ以上に、私のことを妙に気に入っているみたいなのだ。
もちろん、それを邪険にはしてない。一人っ子だった私は、こういうタイプの子にふれるのが珍しかったので、かわいく思う。でも、私、なんかしたかいな、この子が喜ぶようなこと……と考えると、いつも答えは出ない。
まあ、ともかく、適当だけどカリスマがある西乃助。そして、いつも元気な突貫少女・十子。リアルでのバンド (仕事)仲間がこれでとりあえず三人はそろった、ということだ。
「じゃお姉ちゃん、クエスト行こうよ!」
「というか、私はほとんどこのゲームの内容を知らんのだよね」
「じゃあクエストだよお姉ちゃん!」
「話聴いてる? いきなり初回からクエストとかって大丈夫かいな」
「お前、世界一周とかいっておきながら、よくもまあ」
呆れた口振りでゼファーがいう。
「ていうか、私はこのゲームがVRMMORPGどころか、およそすべてのRPG、というかゲームが初めてだっつの」
すると、トルゼがきょとんとした目でこちらを見つめる。小動物みたいだ。んで、口を開く。
「お姉ちゃん、レベリングって知ってる?」
「シールとかのラベリングとは違うよね」
「ポーションとか、エリクシルとかの意味知ってる?」
「香水じゃないの」
「ワルキューレとかオーディンっていったら?」
「北欧神話でしょ? いきなり何さ」
「クリスタルの武器防具ってどう思う?」
「鉄のほうが強いんじゃね」
そして、トルゼは先ほどのゼファーのように天を……というか天井を仰いだ。
「ダメだこのお姉ちゃん、和製RPGの何たるかをまったくわかってないよ!」
「なんで今の質問でそんなことがわかんのさ」
ところが、ギルドメンバーの様子を伺ってみると、トルゼと同じような反応を示している。何ともいいがたい微妙な表情をみんな浮かべている。
「うわ……ホントにゲームド素人なんだ……」
「今時珍しい……」
「よくそんな人をゲームに誘えたもんだ、さすがギルマス、コミュ力だけは高い」
「ゲーム素人美人……むしろ萌える……」
「あ、ルルィ、ちょっと待ってろ」
「お姉ちゃん、ちょっと待っててね」
最後のがイマイチ聞き取れんかったのだが、なんかその言葉がゼファーとトルゼにひっかかったようだ。発言者は、部屋の隅に連れられて、ゼファーとトルゼを中心にしたギルドメンバー数人にボコられていた。ギャーとかいう楽しそうな声が聞こえる。
なんかギラっとしている剣や斧を室内だというのに持っているゼファーとトルゼがこっちにくる。ファンタジーってゆかいだな。
「ふう、始末完了だ」
「なんだかよくわからないが、わかんないほうがいいんだろうね」
「そうそう」
「話がズレまくるよねこのギルド……まあ、トルゼの言いたいこともわかるよ。いきなり実地に放り込むことにより、ゲームの本質をズバっと体得、ってとこでしょう」
「さすがお姉ちゃん、相変わらず話が早い」
「とはいうものの、トルゼのそれは、基本的に廃人ゲーマー特有の物言いなんだよなぁ。トルゼ、今さっきのルルィの反応見たろ? この素人っぷりはただ事じゃねえ」
「まあねえ。だから、まあ、私も最初はお姉ちゃんをフィールドバトルに連れていって、そこからなんかクエスト、ってとこが妥当だと思うんだ」
「初回の次がクエストかい」
どっちにせよ、トルゼの基本スタンスは「現場にブチ込め」スタイルらしい。わかりやすいといえばわかりやすいが、スパルタでもある。
まあ……
「リアルタイムなRPGなんだし、それくらいしないと覚えないかな、いろんなことを」
「そうだよお姉ちゃん、それにお姉ちゃんだって、だいたい音楽や本をを人に勧めるときは、同じようなことしてるじゃない」
「それいわれたら何も返す言葉がないなぁ」
実際、そういうスパルタンなものの進め方、物言いをするからね、私。同じ穴のムジナか。
「第一、こいつ装備も揃えてないからな」
ゼファーがそれに付け足す。
「あ、まずそこからね。うんうん、じゃあ装備品整えよう!」
「んじゃ市場行くかぁ」
トルゼとゼファーが勝手に算段を決めて私を連れ出すのだった。
ギルドメンバーが、
「いてらー」
「イイ感じに揃えてやっといでー」
とのんきに声をかける。平和だなぁ、このギルド。
まあ、私からも一言言っとくべきだろうな。立ち止まり、振り返り、
「ちょっとこのギルドにご厄介になることになりそうだけど、ホント見ての通り、ド素人なので、よかったら教えてやってくれたら助かります」
すると、ギルドメンバーのひとたちが答えてくれる。
「心配しなくてもいいっすよ」
「そうそう、変に上級者ぶってる奴よりよっぽどマシマシ」
「それはそうと、二人、行っちゃうよ?」
おお、ほんとだ。少しは待てっつうの。
「――ありがとね」
私はみんなに声をかけて、不覚にも少し顔がゆるんだ。微笑んだように見えたらいいのだけど。
少し、みんなが息をのんだような感じを受けたが、MMOなネトゲではやっぱり不作法だったのかな。でもまあ、言いたいこと、言うべきことは、しっかと言っておくのが渡世の義理ってもんだろう。
で、再び、私はついていくのであった。
お話「はじめてのギルド」はここまでです。
次回、装備やアイテム関連のお話になります。




