第六話 「はじめてのギルド(2)」
んで、私は、ゼファーにつれられて、彼のギルド「氷中の花が保有する施設にやってきた。
ここは町の中心部からやや離れたところで、しかし城壁に隣接するほど町の遠隔部でもない。静かなところで、でも利便性もきっちりとある、という優良物件だ。……私は不動産屋かっつの。
まあでも、そのような一等地に拠点を構える、ということは、実力もあって賑わってるギルドなんだろう。
建物だって悪くない。というか趣味がいい。古い煉瓦づくりで、その煉瓦の多くは落ち着いた色彩。年月を経ていることを伺わせる。それだけ古い建物で、しかも堅牢そうだ。
その煉瓦づくりの壁に、ツタ状の植物が這っているところもまたいい。ただでさえ古い感じのデザインなのに、そのような「自然と同居してる感」があるというのは、また独特の味わいを醸し出すものだ。……だから私は不動産屋かっつの。
「うーす」
適当きわまりない挨拶をしながら、ゼファーはそのギルドハウスに入っていく。私も入る。しかし、どんな挨拶をすればいいのかわからない。とりあえず、不作法だとは知りつつも、ただゼファーの後を追うだけにとどめる。
「ようゼファー!」
「おかえりなさい、ギルマス!」
そんな快活で、ひとのよさそうな声が響く。暖かい雰囲気だ。
ゼファーもそれに答える。
「はっはっは、相変わらず暇そうなシケた面白みのねえ顔してんなてめえら!」
するとギルド内のメンバー、
「殺すぞ」
「くたばれ顔だけイケメンクソ野郎」
「入ってきたなり何ですかこの人は。さっき手に入った高ランクどく……じゃなかった、ステキな植物をさしあげましょうか」
一気に剣呑な言葉でボロクソ言われるゼファー! ああ、リアルとぜんぜん変わってない!
「てめえら……ギルマスに向かっていい度胸じゃねえか、かかってきやがれ! 全員叩きのめしてくれるわ!」
そうやって軽口をまた叩くゼファー。BOO、BOO!とブーイングがあがる。まあ、ノリのいい連中であることはよくわかった。
そんで、
「……あれ? ゼファー、後ろのひと誰?」
「女の子だよ……ね」
怪訝そうな声、表情で私に注目が集まった。どうしようか。まあきちんと自己紹介はしとこう。
……と思ったら、私がいう前にゼファーが口を開いた。
「ああ、連れてきたんだ、俺のリアフレ」
「マジで? ゼファーのリアフレ?」
「嘘いってどうすんよ」
「お前信用ないからなぁ」
「はっはっは、斬るぞ」
たぶん、このひとたちをそのままにしておいたら、基本的にゼファーを中心にして、話がいつまでも先に進まないんだろうなぁ、って思った。たぶんそれがこのギルドの正解なんだろう。
しょうがない。やっぱり私から口を開こう。
それに、いつまでもフード被ったままで挨拶ってわけにもいくまいよ。ということで、フードを後ろにやる。髪がちょっとごちゃっとしたので、手で梳いて流す。
「ルルィと言います。ゼファーとは……まあ、リアルの知り合い。よろしくお願いします」
「「「………………」」」
なんか、みんなの時が止まった。私のほうに完全に視線が固定化される。
不思議なことしたかいな。
すると、声があがる。ぽつぽつと。
「うわっ……」
「なにこのひと……」
「こんな知り合いいたのかよ……」
え、なんか、知らず知らずの間に、ミスとか、失礼なことしたのかい私? 顔には出さないけど。こういう場合、突然うろたえるのは失策である。もしなんかあった場合、余計に混乱することになるのを、よく見てきたから知ってる。主にライヴとかで。
ていうかミスあるならはよ言えよゼファー……というところで、再び声があがった。一斉に。
「「「すっごい美人!!!!!」」」
……その反応は、私考えてなかったよ!!!
「おい、ゼファー」
「ちょっと、ギルマス」
何人かのひとが、ゼファーに話しかける。ていうか詰め寄る。つかみかかる勢いで。
「なんだ?」
「何だじゃねえ、このクソ野郎!」
「リア充、貴様どこでこんな上玉かどわかした!?」
「いや、ただ単に仕事仲間なだけなんだが。まあ……俺が仕事はじめた時からの、一番古い相棒なんだが」
そうなんだよね。私とゼファー……ミュージシャン・橋場瑠璃と、同じくミュージシャン・風上西乃助は、ほんとに古い付き合いで、「相棒」って言ってるのは、私とゼファー(西乃助)が、基本的に、バンドを組んだり、共同で曲を書いたりしてるからで。生業的に、一番近しい間柄なのだ。
「死ねっ!」
「くたばれっ!」
「こんなステキなひとと仕事してるって、世の中間違ってますっ!」
そんな相棒、ものっそいヘイトを食らうの巻。
で、その中のひとりが、ふと気づいたように言葉を発する。
「……そうか! これはアバターのキャラメイキングで作られたビジュアル……?」
すると、ゼファーは答える。
「いんや、こいつ、マント以外はリアルのまんま」
「死ねえええええええーーーーっ!!」
うーん。なんとしたものか。
私は、いわゆる「クール系の美人」というカテゴリに属する人間であるらしい。
まあ顔の作りは整ってるんじゃねえの、とは思うけど、そこまで騒がれるもんかいな、と常々思ってる。
身だしなみには気を使っているが、それは自分がだらしない格好が嫌い、という意識なもんなだけだし。派手でもないと思うよ。だいたいいつも、色素の薄い長い髪で、カーディガンとシャツで、ロングスカート、というもんだし。それ、今もだし(マントを抜かす)。
むしろ、こうやって生き生きとヘイトをくらって、大笑いしているゼファーのほうが、どんだけ魅力的に映るか、って思う。愛想のない面白味のない人間だしなぁ、と自覚してるからだ、私自身。加えて、自分の好きなようにしか生きれないし。女子力ってなんだろう。
しかし。
困った。完全に、これじゃ外様だ。場の混乱ってもんもあるけど、これじゃこのギルドに入っていけないんじゃないか? って思う。
すると、そこに、奥のほうにいた小柄な少女が、こちらに歩みよってきた。
「ゼファーの……相棒……ってことは……お姉ちゃん!? うん、間違いないよ、その顔っ!」
ん?
私のことをお姉ちゃん呼ばわりする小柄少女?
癖のある茶色の髪で、とても元気な様子が、目元からも、全身からもあふれている。
少女は、ファンタジーの町人のような、キュロットスカートとベストを中心にした服装をしている。全体的に、すごい小柄だ。はっきり言って、高校生というよりは中学生といってもいい。
でも。
この顔、この体型、そしてこの「お姉ちゃん」呼ばわりの元気なノリを知っているのだ。リアルで。
少女は、こちらに近寄ってきて、私の両手をとる。
「ひょっとして……」
「そう、いつも後ろのあの子だよっ! このゲームの中では、トルゼって呼んでね、お姉ちゃんっ!!」
後ろっていうのは、この子がいつも私の後ろで、ドラムを叩いているから。
トルゼ、こと、北山十子。私の、これまた仕事仲間である。つまり、ミュージシャン。ドラマー。ちなみに、お姉ちゃんと呼ばれているが、実際の姉妹ではない。ないのだが……。




