第五話 「はじめてのギルド(1)」
「とりあえず俺についてこいや」
そう言ってゼファーはてくてくと歩き出す。まあ何しろ私は素人で、この世界のなんたるかを知らない……というか、ゲーム、RPGのなんたるか、さえ知らない。
一応、本を読むのは好きなので、ファンタジー世界の基本というものは知っている。勇者、魔王、ドラゴン、ソード&マジック。そんなところか。
「どこ行くの?」
「俺のギルドだ」
ギルド?
ああ、まあ中世ヨーロッパのアレね……というのはさすがに冗談で、ファンタジーものにおいてギルドというのが、どういうものかは知っている。いわば相互互助的なグループ、といったところ。それをゲームに引き移したものか。
それをゼファーに伝える。
「……という解釈でいいのかいな」
「さすがにギルドからの説明は脳にコタえるぜ。そう、そんな感じだ。もっとも、中世云々はもう語源の領域だな。単純に、グループ、とほぼ同意義だ。違いは、そのグループが、ゲームシステムにも関わってくるということで」
「というと?」
「一度ギルドのメンバーになったら、そいつは脱退するまで、ギルドの構成員としてシステムに登録される。ギルド専用のチャット機能が解放されたり……まあ相互コミュニケーションのヘルプ機能がつけられたりするわけだ。で、このゲームは、広大。ダンジョンも、フィールドも、モンスターも、アイテムも、無尽蔵。さて、ここから導き出される結論は何かね? ルルィくん?」
「私はそこまでワトソン役じゃないっつの。要するに……相互互助の必要性、もっといえば【情報の共有】が大事だ、ってことでしょ?」
「ほれぼれするような回答だ。そう、基本的にマニュアルは、メニュー画面から開くことができるが、それまでだ。俺らの職業……ミュージシャンでも同じだ。ドレミを本で覚えることはできる。コードを簡単に覚えることも。だが、曲を作ったり、何時間もライヴを熱狂させたり、楽器の細かい音色の違いをわかったり、は、マニュアルだけじゃできねえ。生きた知識、ナマの情報。それも、みんなと切磋琢磨しながら得る情報ってのが、大事なんだ」
やっぱりこいつの比喩ってのは独特だな……でも、今回もなんとなくわかるような気がするから不思議だ。
「ギルドに入ることは、半ばゲーム攻略において必須なわけだ」
「……とも言い切れないのが、ゲームのおもしろいところでな」
「ありゃ?」
ゼファーは髪を掻き揚げ、苦笑しながら言う。
「ソロプレイ、ってのがある。ギルドとは無関係に、流浪人みたいに一人でプレイするんだ。そいつは確かに、俺たちギルドプレイヤーとは情報、連携の面で不足することが多いと思う。だが……」
「しがらみがなく、自由」
「そうだ。……そこまで分かるんだったら、あとはギルドのメリットとソロのメリット、そしてそれぞれのデメリットは分かるな?」
「さすがにねえ。ギルドもギルドで、一度入ったらシガラミがあるって話でしょう。長く続くバンドと同じだよね。で、私をゼファーのギルドにつれていくのは、私を勧誘するため?」
「……まあ、包み隠さずいえば、最終的にはそうなんだが」
「私は、一人で世界を旅するのが目的なんだけど?」
「急くなよ。まずはゲームシステムを覚えるまで、ギルドに身を寄せてみてはどうか、って話だよ。おまえもそこまで狭量なわけじゃあるまい? 冷静に考えて、初心者のうちはギルドに身を寄せておいたほうが、情報量は多いし、レベル上げや装備取得の面でもメリットは多い。ていうかメリット以外のものが見あたらねえ」
私はゼファーの言うことを、歩きながらよく考えてみる。
確かに、こいつの言うとおりなのだ。メリット以外のなにもありはしない。それに、こいつの言いぶりでは、私がある程度レベルとかをあげて、一人立ちできるようになっったら、ギルドから抜けることも視野に入れて、それを善しとしてる面もあるだろう。
だが……私はひとつ気になる。
「それじゃ、ゼファーにメリットがないじゃん」
「ん?」
ゼファーは、心底不思議そうに、すっとぼけた顔をする。
「だって、私のようなワガママで、それでゲームド素人の新規DDBオンラインのプレイヤーが、ギルドに入って、ギルド側はなにもメリットないじゃない。とくに勧誘したゼファーには、なにも。足引っ張るだけ……」
「ぶわっはっはっははっっはっはっは!!!」
ものっすごい大笑いをされた。そして、私のフード付きの頭を、乱暴にごしごし犬みたいに撫でられた。さすがに身長差があるからなぁ……じゃなくて、
「なにすんのさ。ていうか、その大笑いなに!?」
「水くせーーーーーーー!! って話だよ、バカ。おまえ、そんなキャラじゃねえだろう。もっとリアフレ頼ってもいんじゃね?」
「リアフレ?」
「ああ、ゲーム用語。リアルフレンド。リアル知り合い。……まあ、俺としては嬉しいんだよ、おまえがこのゲームやってくれた、ていうことが。俺らがハマってるゲームに、参入してくれた、ってことでもあるし、おまえの夢が叶う、ってこともな」
「ゼファー……」
照れくさそうに早口で言うこの男。まあ私としても照れくさいんだが、でも……嬉しい。
「それにまあ、トルゼ……ああ、十子のことだ。あいつも、おまえがこのゲームやるの心待ちにしてたからな」
「そうなの?」
「ゲーマーのサガってやつだな。でもまあ、気に病む必要はねえぜ。あいつとしては、おまえがゲームやらない人間だ、っていうので、取っかかりがなかっただけなんじゃねえの?」
「そっか……」
「ということで、まあ無理強いはせんが、覗いてみるだけ覗いてみたらどうだ? 俺らのギルド「氷中の花」を。
「……うん、そうさせてもらうよ」
これで、にべもなく話も聞かず断るようだったら、そいつは一生ニンゲンの友達なんて持たないほうがいいと思う。




