第四話 「はじめての町、はじめてのVRMMORPG」
季節は春めいている。現実のそれと同期してるのかな? そこでゼファーに聞いてみたら、
「いや、そうではない」
といわれた。ん?
「要するにだな、この世界は、常夏のところもあれば、常「冬」のところもある。じゃあ常「春」もあれば、現実と同じように四季があるとこもある。そんななんでもアリのファンタジー世界なんだよ」
ふうん。まあ、そのほうが、世界にバリエーションがあっていいのかな。なにしろ、規模だけはデカいゲームなんだし。
両足で、草の柔らかな感触を味わう。さくさくと。丘陵は一面、草萌ゆる。ところどころに、小さな春の花が咲いている。平和だなぁ。
それにしても、こんなフードつきのマント(死神ルック)をしてるとはいえ、あまり暑くない。むしろ結構快適だといえる。こんな春めいているのに。
「あんまり暑さとかって反映されないのかな」
「まぁ溶岩地帯のダンジョンとかだったら話は別だが、基本ゲームだしなぁ。都合のいいお約束ってやつだ」
「ご都合主義だね」
「快適なご都合主義を否定していては、人生暗いぜ」
それもそうか。
んでもって、私たちは丘をくだったところにある、城壁のついたファンタジックな町にたどり着いた。
城壁……うーん、ほんとヨーロッパの古都みたいな町ですな。
入り口には衛兵が立っている。頑丈そうな鎧に身を包み、槍を持つ。顔つきはいかつい。ゼファーはそのひとに軽く手を挙げ、町の中に入っていく。
「今のもプレイヤーのひと?」
「うんにゃ。NPC。モブキャラだよ。ゲーム内キャラで、リアルプレイヤーじゃない」
「手を挙げる必要あるの?」
「まあそこはロールプレイって奴だ。あんまり【これはゲームだ】って決めつけてクールぶったプレイするより、この世界に浸りきったほうが感情移入できるぜ」
「本を読むとき、【こんなん現実じゃありえねー】とかっていちいち突っ込み入れるのが野暮なように?」
「わかってるじゃねえか、それでいんだよ」
城壁は頑丈そうなレンガの壁。私が殴っても、私の手が折れるだけっぽい感じ。
で、衛兵さんが立っているのは、そのレンガがアーチ状になってる門。うーん、作り込みが細かい。私が趣味で読む旅行記の写真を徹底的にリアルに再現したようだ。まあ当然であって、こういったゲームのリアリティは「いかに現実を再現するか」だから、作り込み大事だよね。それくらいはわかる。
うーん、なんだか楽しくなってきた。
町の中は、非常ににぎわっている。
というか、雑多といっていい。
着流しのお侍さんみたいな服装をしてる男のひともいれば、エルフの商人じみたひとが荷物を運んでいたりもする。背の低いドワーフなひとが斧をかついで闊歩していたりすれば、まるで騎士のような甲冑に身を包んだひとたちが、グループを組んでいたりする。
年齢も、性別も、ごっちゃごちゃ。すごい幼いっぽい見かけの子供もいれば、後ろから蹴り倒せば即ぎっくり腰になりそうな爺様もいる。でもまあ、だいたいは若者が多いかな。
なんだか、リアルの町みたいだ……ていうか、リアルの町よりも、活気があるように見える。
「にぎわってるね」
「まあなぁ。一応、ここいらのサーバのメイン都市であるし」
「サーバ?」
「うーむ、そこから説明か。要するにだな、このゲームのプレイ人口はすげー多いわけだ。ひとつのサーバだけではまかないきれない。そこで、ログインしたひとは、全国の空いてるサーバに振り分けられる。んでな、ひとつのサーバは、ゲーム内のある区画と対応してる。たとえば、俺たちがやってきたサーバは、日本の関東サーバのわりに新しいとこだ」
「それじゃ、ここは関東にあたるところ?」
「大ざっぱにいえば、な。ゲーム内の大陸の、極東の一都市ってとこだ。もちろん、ゲーム内の地理と、現実の地理は違うが、たとえばアメリカのN.Y.サーバでログインしたら、やっぱりゲーム世界のアメリカに対応したとこにいくわけだ」
「じゃあ、アメリカっぽいとこに行こうと思ったら、サーバを移転するわけ?」
「ざっくり言えばそうだ……つか、おまえ、世界の果てまで、って比喩でなくてか? あっちのほうにまで行くつもりか?」
「ていうか、この世界を本当に、果ての果ての果てまで、ほんとうに、全部回ってみようと思ってるんだけど」
そこで、ゼファーは天を仰いだ。
沈黙。
なんかものすごい検討違いのこといったのかしら、私。でも私がやりたいことは、全世界の踏破だし。現実ではなし得ない、そのことをやりたくてこのゲームはじめたわけだし。
「なんか変かいな」
「お前……このゲームって、ものすげー広いんだぞ。現実とそんなに変わらねえんだぞ」
「だから行ってみよう、って思うんじゃない」
「いや、それはこの辺り一帯を散策してから言うセリフだな。様々なクエストは、ここの辺りだけでもいっぱいある。俺はてっきり、日本サーバの範囲をふらふら回る、って具合のもんだと思ってた」
「それは私にとって、ワンステップにすぎないよ。私は、世界の果てまで行きたいんだ」
「…………」
再びゼファーは、天を仰ぐ。
そんなにおかしいこと言ってるかいな私。
「あのな、ルルィ」
「なんでしょう」
「実は、このゲームは、始まって以来、世界一周、全世界踏破、っていうのは、【誰もしたことがねぇ】」
「誰も?」
「そう、このゲームのプレイ人口は、90年代の単なるMMOゲー時代から勘定して、もはや数えるのがバカらしくなるくらいの人数なんだが、そのうちの【誰も】、世界制覇はしてないんだ」
「なんで?」
「広すぎる、からだ。超シンプルだろ」
「でも、シンプルだからといって、達成難易度は低い、というわけではない?」
「ザッツ・ライト。そのもともとの広大さと、次から次へと有志によって拡張される新しいダンジョン、新しい町、そう、新しい区画。このゲームのウリだな。それは日進月歩で次から次へとどんどん拡張されていく。その事実ひとつとっても、この世界全踏破なんて無理なんだよ」
「なるほどねぇ。でもやるけど」
「話聞いてるのかお前」
「もちろん。その【踏破できない理由】は、私にとって【挑戦する理由】になるんだけど」
そこで、ゼファーは天を三度仰ぐ……と思ったら、肩をすくめて、くっくっく、と笑った。
「まあ、お前らしい、っていえばそうか」
「呆れてる?」
「そりゃなぁ。でもまあ、そんなバカがいてこその、このゲームの深み、といえばそうかもしれん」
「バカで悪うござんした」
「まったくだ。とりあえず、まずはこのゲームのルール、というか基本事項を把握しろや。話はそこからだ。んじゃ、装備とか整えるぞ」
その言葉は、言葉だけ見たら皮肉っぽいが、でも、言い方はすごく暖かかった。
こいつはそういう性格なのだ。
ゼファーは歩きだした。まあ確かに私は初心者だ。何事も基本は大事だ。それを押さえることにする。これもまた夢の第一歩だね。




