第二十四話「中国サーバ秘密管理区域【失われた大陸】(3)」
「まず中華サーバということだけど、ここってどんなとこ?」
「戦乱が起こっています」
ツヴァイはあっさりとそう言い切ってくだすった。
「三国志かい」
「なんというか……中華サーバって、プレイ人口が日本より少ないのに、もともとのフィールド面積やら、地形やらがやたら豊富だから、世界中の強面ゲーマーが集まって、自らの荒ぶれる魂を解放してるんだね。また、フィールドが豊富ってことは、そこに拡張できるダンジョンも豊富ってことだから、世界中のDDBオンライン二次創作デベロッパーたちが好き勝手してくれちゃって……」
「つまり、強プレイヤーも多ければ、難易度高いダンジョンも豊富」
「そういうことだね、どう、恐い?」
「ここを制覇すれば、世界の何分の一かは制覇できるという寸法か……」
「すごいね、君、そのポジ思考」
「私も、ここまでのタフネスな人を見たことがありません」
「呆れるな……」
しかし、ツヴァイは言うのであった。
「でも君、そのレベルでこの中華サーバを制覇するのは難しいよ」
「やっぱり私って超レベル低い?」
「いや……まるっきりの初心者の割には、今君の数値は格段に跳ね上がってる。見てご覧、ステータス画面」
そういえば、ギルドチャットで見落としてたけど、ステータス画面を見てなかったな、私……って、なんじゃこりゃ!
ちょっと前の貧弱ステータス、初心者ステータスでは、考えられないほど数値が上がってるではないか!
これはいったい……。
「フレイムドラゴンを屠ったからだな」
アジェンダが静かに言う。
「なーるほど。あんな強いドラゴンを屠ったから……」
「より正確に言えば、あのドラゴンはレイド級、即ち、集団戦闘に値するドラゴンだっていうことだ。それを一人で倒した、ということは、その攻略メリットを全部君が貰い受けることになる、っていうことだね」
ツヴァイが説明してくれる。なるほど……。
「まあ簡単にいえば、今の君のステータスは、中級者レベルといっても、まあ不足はない」
「ゲーム二日目で……こんな簡単でいいのかなぁ」
「とはいっても、事態は簡単じゃないんだけどね」
それもそうだ。
「はっきり言って、君がガチでこの戦乱吹き荒れる中華サーバで生き残っていこう、とすると、まあ効率は悪いね」
「それはわかるよ」
「そういう荒行をして鍛えていく、って手もあるんだろうけど、それよりもっとスマートな手段を選びたいだろう?」
「泥臭いのも嫌いじゃないけどね。でも徒手空拳たる今では、そんなことも言ってられないか」
「話が早いのはいいことだ。さて、この場所について、説明しようか。ここは、プログラマたちの隠れ家……君がさっきいったとおりだね」
「隠れてるの?」
「俺らプログラマは、日々いろんなデバッグをオンラインの実地で行っている。実際にゲーム内に入って、な。何しろデータ量の多いゲームだ。即時デバッグを繰り返していかないと、すぐに崩れてしまいかねない」
アジェンダが厳しい目つきでいった。日々お世話になっております……。が、彼はその仕事をそれなりに楽しんでいるらしく、
「まあそうは言っても、仕事をしながらこうやって気心しれた仲間とチャットすることも、公私混同とはいえ、デバッグしながらのゲームプレイの楽しみでもある」
「そうなの?」
ゲーム業界にはうといからな私……
「数値調整をして、実際にバグを潰して、で、ときたまピーキーな設定にしてみて、実際に自分たちでバトルして倒してみたりして……で、そういった一連の成果を、こういう誰も立入らない静かなところで呑みながら語りあう、っていうのは、裏方独自のたのしみ、ですね」
湖姫が言う。しみじみと。
うーん、私も、そういうデリケートな場所に割り込んできてしまって、悪いやら何やら。私にだって、覚えはある。ミュージシャンにおける、スタジオでのセッションがそれだ。気心知れたバンド仲間と、ガチのレコーディングじゃなく、好き勝手にジャムる楽しさ。それは、音楽を自由に操る楽しみでもあれば、コミュニケーションの楽しみでもある。そんなユルい空間。
とすると……
「なるべく早く出て行ったほうがいいよね」
「あ、いや、そんな神妙な顔つきされても……」
途端にツヴァイが申しわけなさそうな顔をする。
「そうですよ、貴女、面白いし」
湖姫が引き止めるような声で言う。
「俺達からゲームの攻略方法を聞きだそうって腐れた魂胆ならともかく、あんたはそんなの一切見せなかったからな……被害者なのにわめきたてない。大人の会話が通じるってやつだ。そういうの相手に邪険にはしないさ」
なんか妙に歓待されているらしい私。
「まあ早い話、見世物として面白い、って側面はある」
「こらツヴァイ」
「ツヴァイ、いい加減にしろ」
たしなめられる青年。でもまあ、こういう肩肘張らないのがいい。
「まあ楽しませるようにはするよ。……とりあえず、私はまず、中華サーバ制覇よりも、日本サーバに帰還することを選ぶよ。……そこで、サーバの帰還方法って、どうしたらいいんだろう。ただ歩いてどこかに到達するだけじゃダメだよね?」
「そうだね。そこで、僕達のクエストを受けてみない?」
「クエスト?」
「サーバ間に【橋】を新たにかける、というクエストさ」
「【橋】……日本サーバと中華サーバの間に、橋をかける、と。なるほど、そしたら行き来が可能になるってわけだね、意味的には」
「まあ橋というのは比喩で、厳密にはサーバ間のリンクがうんたらかんたら、ほにゃららほげほげだけど、それよりは簡単に、サーバ間を一時的に行き来できるツール……【橋】っていったほうが早いでしょ?」
素人にはそっちのほうがありがたいなぁ。
あれ? でも……
「それじゃあ、この場所がまたオープンになっちゃわない?」
「そこは工夫するさ。結局君がフレイムドラゴンで【四聖洞窟遺跡】のとこのリンクをぶっ潰してくれたから、今のところこっちから向こう――日本サーバだね。そこへ行けるリンクは崩壊してるようなもんなんだ」
「つまり、始末はきちんとつけなさい、と?」
「大ざっぱにいえば、です」
湖姫がいう。淡々と。まあ私にも落ち度がないわけでもない……。
ツヴァイがそれを引き継ぐ。
「まあ、一応それで話がつく、と考えればいいんじゃないかな? こっちも橋を作るのを任せられるし、君も帰ることができる。WIN-WINの関係さ。どっちみち、【四聖洞窟遺跡】とこっちのリンクは、ここまで知れた以上、切らなきゃいけないし」
「やっぱりそこまでして隠れたいんだ」
「そりゃあね……ん? ひょっとしてこの気持ちがわかるクチ?」
「一応はね」
「どうりで。さっきから、騒ぎ立てる感じがぜんぜんないんだもんな。ふつう、DDBオンラインの「なかのひと」と会ったら、結構騒いで聞き出すってもんだけど」
「礼儀知らずだね、その手の類は。……なかなか、仕事しながら隠れ家みたいなとこって持てないからねー……大事にしたくなる気持ちはわかるよ」
「ひょっとして、君って、わりとクリエイター系のひと? リアルでは」
「詳しくはいわないけど、そういうことになるんだと思う。下請けが主だけどね」
「お互い大変ですな」
「いやまったく」
ゲームの中でしみじみしてしまったぜ……
さて、
「ところで、クエストというても、橋をかける……どこに? まあ、その「どこか」を探すのが第一クエスト、実際に橋を造って掛ける、ってのが第二クエスト、って感じでいいのかな?」
「すばらしい」
アジェンダが厳かに賞賛した。「きわめて話が早い。ツヴァイ、おまえも爪の垢を煎じて飲め」
「こんな美人さんのだったらいくらでも」
「ツヴァイ、今のはセクハラですよ」
「マジ?」
「というか下劣です」
フルボッコやなこのリーダーのひと……。
それでも、一応リーダーはツヴァイなのであって、
「切れ目を探すこと、だね」
「切れ目?」
「おいおい、この家すぐ出て、【橋】が掛けられると思ってたのかい?」
「いやそこまでは楽観視してないよ」
「よしよし。まあ切れ目っていうのは、簡単にいえば、このフィールド内で、外部との接触が弱まっているとこを探せばいいんだ」
「ふうん」
「……このフィールド【失われた大陸】は、ほとんどモンスターはいないし、そればかりか、プレイヤーもいない……はず。まあ他のプログラマーやデベロッパーやテスター、デバッガーのひとたちがたむろってる可能性もあるけど、最近は見ないから、基本僕らとルルィ、君だけの空間だ、っていえる」
「はー、ほんとに隠れ家だ」
「君も聞いてると思うけど、このフィールドは、打ち捨てられて放置されたフィールドだから」
「うん、それは知ってる。……要するにツヴァイたちは、そういうとこを、これ幸いと不法占拠してるんでしょ?」
「人聞きが悪いね」
くっくっく、と笑ってツヴァイは答える。
「とはいえ、それなりに一応フィールドは広いので……アジェンダ、君が道案内してくれるかい?」
「俺でよければ、だが」
「いいの? お仕事は?」
「ここでこうやってくっちゃべっている以上、今仕事していると思いますか?」
湖姫の冷静な意見に納得する。
「とりあえずはこの小屋をキャンプ地として、のんびり探索してくれたまえ」
ツヴァイがいう。
「死んだらここに戻るってことだね」
私は「死に戻り/キャンプ地」のシステムを思い出す。
「このフィールドで死ぬなんてことはまずないけど……」
「ツヴァイ、相手がルルィだということを忘れるな」
「それもそうだね……」
神妙な顔つきをするプログラマたち。私はデストロイヤーか。
「まあとにかく……そろそろ時間も時間だし、寝落ちするけど、その前に周囲の状況を知っておきたいので、ちょっと案内よろしく」
私は立ち上がって、アジェンダを伴って、小屋をでていく。
するとそこには、非常に牧歌的な風景が広がっていた。春の光に包まれて……ほんとに、光に包まれた桃源郷のような、空間だった。
ああ、確かにここにはモンスターとかいそうにない。風もなく、少しだけ暖かい。地面は土で覆われ、時々草が芽吹く。
そんな、平和なフィールド、それが【失われた大陸】のようだった。
色々と、日本サーバ帰還の用語が出てきてますが、詳細は次回以降の更新で説明いたします。




