第二十三話「中国サーバ秘密管理区域【失われた大陸】(2)」
「結局ねえ、君が……ゲーム二日目でホントに打ち倒せるもんかいな……まあいいや、ここに来たってことは、打ち倒したことなんだから、仕方がない」
「あのフレイムドラゴンのこと?」
私はツヴァイから、今の状況を聞いている。
「あのフレイムドラゴンが、ここ――【失われた大陸】の守護者、というかフタ的存在だったんだよね」
「フタて」
その即物的な物言いにツッコまざるを得ない私であった。。
「フタと言っても重要よ」中華ドレスに身を包んだマジメそうな女性――湖姫が補足するようにして説明する。「私達としても、この空間に、そうやすやすと人……他のゲームプレイヤーが来られても困るの」
「ですわな。なんてぇの、ここ……隠れ家みたいだもんね」
「話が早い」
大柄で厳つい顔つきをした男性。まるでアメリカインディアンのような羽飾りを頭に挿している。そう思ってみたら、全体のルックスもアメリカインディアンっぽい。この男性、名をアジェンダという。彼は、必要以上のことを言わない。
そんな三人組プログラマが、私に対して……怒ってる、という感じではなく、淡々と説明するといった様子で語りかけてくる。主に話すのは、白い服のツヴァイという男性だ。
「結局、ゲームのバグみたいなもんだよ、君のは。あそこにプログラムとして、異常レベルのレイドモンスターをおいておけば、こっちの世界とのリンクが目立たないだろう、って寸法」
「それでフタ、ってわけだ」
「うんそう」
「でもさ、あの隠しダンジョン、結構知れ渡ってるみたいだったよ」
ゼファーが簡単に隠しダンジョンのキーを開けるくらいだからなぁ。
「……あー……誰かリークでもあったかなー。まいった。もっと複雑にしとかないとまずいな……でもまあ、普通はこっちにこれないことには変わりないでしょう?」
「だと思うよ。私がムチャしたからね」
「ふつうのやり口だとこっちとのリンクが開放されないんだけどね。あそこの舞台装置が全壊しないくらいでないと……」
「あ、全部壊しちゃった」
「……」
「……」
「……」
プログラマ三羽烏、黙る。
「えーと、ごめん。でも、壊れてこっちの世界……サーバ? との関係がバグるようなシステムだったら、最初から脆弱じゃない? って突っ込ませてもいただきたい」
「いやまあ、正論だ」アジェンダが深い納得でもって答える。「今フレイムドラゴンのダメージもろもろを検証してみたんだが、ルルィ、君のような低レベルが、あのようなトリッキーなダメージの与え方、よくやったもんだ。それで、【フタ】たるフレイムドラゴンが……暴走したんだな」
「暴走もするでしょう。眼にナイフ突き立てられて、乱高下させられて」
湖姫が呆れたように言う。
「しかし、その程度で暴走するような簡単なエネミーに仕立ててしまったのは俺らともいえる。反省点だな」
「まあそれは追々反省会することとして、当座はあの場所の更なる封印……いっそ、あのリンク地点に、別のサーバをくっつけてしまうって手もあるけど」
ツヴァイという青年、結構優男のくせして、外道味が強い。
「なんか悪いような気がしてきたなぁ」
私は言う。すると、
「いや、君が気に病むことではない。これもまた、プログラマとしての仕事……むしろ、君をいらぬトラブルに巻き込んだことを、こちらは申し訳なく思うよ。すまない」
「あー、いやまあ、私がいうことではないけど、お互い様って感じかなぁ?」
「じゃあこの件はそれで」
「そこで……」私は、身を乗り出して尋ねる。「私、これからどうしたらいいんだろう」
「君のギルドのリーダーからは、帰ってこい、って言われただろう?」
「そうなんだけど、サーバ越境して帰る、って、結構大変なんじゃないの?」
乏しいゲーム知識の私でも、それくらいはわかる。
「うん、すごく大変だ」
「やっぱり」
「貴女、案外気落ちしないんですね」
湖姫が尋ねてきた。意外そうに。私はそれに対して、やっぱり次のように答えるのだった。
「私の最終目標は、世界一周だからね」
「このDDBオンラインの?」
「そう、DDBオンラインの」
「……」
「……」
「……」
そして、三度、プログラマ三人、黙る。して、
「ありえない!」
「いやいや貴女それは無理でしょう!」
「よくそのようなことを考え付くもんだ」
ああ、このフレージング、また返ってきたぜ! しっかり、プログラマでもこういうかね。
「いやむしろ、プログラマだからこそこういうのかな……?」
「君の考えてるとおりだと思うよ。我々プログラマは……このゲームの基礎作りをしたプログラマだからこそ、この世界の広がりがどんなだ、っていうのがわかる。それこそ、途方もない……! 僕らですら、現在統括している区域は、ゲーム全体の数割ってところだ。DDBオンラインのプログラマ総出でかかっても、この世界の全部をわかる、っていうのは無理じゃないかな?」
「それでええんかDDBオンライン」
「ある意味、カオスを作り出すのと似ている部分があったからね……自然発生的とはいえ。例えば、そうだね、ネット巨大掲示板があるだろう?」
「あんま見てないけど、知ってることは知ってる。常識として」
「いろんなスレッドがあるわけだ。スレッドもパートなんぼ、って具合に増えていくわけだ。はたまた、スレッドに対して「アンチ」スレッドがつき、掲示板の板が増えていき……断言してもいいけど、巨大掲示板を使っている人間で、その総体を全部くまなく知っている人間なんて、管理人ですらいやしない」
「まるでこの世の写し絵みたいだね」
「そうだね……この世の写し絵。それを、ある程度までは、DDBオンラインは望んでいたのかもしれない」
「うーん、やっぱり世界一周って、普通のひとは考えないんだね、そうなると」
「です」
「でも、だったらやっぱりやってみたいよね」
くっくっく、と肩をふるわせて笑うツヴァイ。他の二人も、そこまでではないものの、同じようなアトモスフィアを漂わせている。
「君は面白い人間だなぁ」
「こういうゲームを作ろうとするクレイジーたちにそういわれるとは思っていなかった」
「おっとそういう返しか。くくっ。まあいいさ。さて、まあ、このサーバから、とりあえずは日本サーバまで戻るくらいの冒険は出来ないと、世界一周なんて出来ないよ?」
「それもそうだ」
しかし……とりあえずは情報収集である。




