表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/27

第二十二話「中国サーバ秘密管理区域【失われた大陸】(1)」

ここから第三章です。そして、ルルィの旅――「世界一周」の本当の意味でのはじまりです。

 ……数学者の視点……

 ……象亀の世界……

 ……もしくは光に包まれて……?

 


 頭がぼんやりして、そんな文言が脳内を去来する。

 どーにもふわふわするな。私は光に包まれて、眼前の光景がさっぱわかんない。

 最後に見た景色は、ゴンゴンゴンとフレイムドラゴンに自壊されて砕けていくフィールドだった。それだけ。  

 さすがにVRギアということで、過度の痛みというのはないけど、でもなんか、酒に酔ったような酩酊感はある。ほわあっとした感じ。それでこのような、光に満たされている感覚になっとるのだろうか……

 なんとなくいい気持ちである。……って、それ単に寝落ちしてるだけって話じゃあるまいな。私は意識をしっかり保とうとする。

 そんなこんなをしてると、やがてノイズが視界にまじった。ジジッ……ヴィヴィッ……と、独特のノイズ音をして、視界がゆがむ。と同時に、視界が晴れてもくる。これまでが光という、クリーム色にも似た白い世界だったのに対し、きちんとヴィヴィッドな色を持った、正常な世界へ……



 で、気づいたときには、ベッドの上で寝ていた。

 ただし、ここは「氷中の花」のギルドハウスの私の部屋ではないことは、すぐに見て取れた。なんといっても、すぐ側で、パチパチと火花をたてている囲炉裏があって、そこを数人が囲んでいたからだ。


「うーん……」

 私は状況がいまいち飲み込めず、頭に手をかざして、むくりと起きあがる。

「あ、起きた」

 囲炉裏で魚やキリタンポを焼きながら、何か(賭けてもいいが、ゲーム内アルコール度数がないはずがあるまい)を飲んでいるうちの一人が、私のほうに向かってきた。


「大丈夫? 気分悪くない?」

「おいしそうな匂いが漂ってくるよ」

「お、五感と三大欲求は正常だね」

「誰がエロス魔神やねん」

「ついでに頭のキレもなかなかだ。では、この地へようこそ……と言っていいのかな? イレギュラーゲーマーさん」

「……まずは、私が置かれている状況を……」


 私と会話をしているひとは、白い服に身を包んだ、髪を刈り上げている男性だった。ヒゲをちょっとだけ今風に伸ばしている。白い服はところどころ汚れていて、腰にナイフを2本下げている。ただ、不潔感というのは、不思議なほどなかった。


「んー、君が置かれている状況、というよりはまず、君のパーティと連絡を取ったほうがいいんじゃないかな?」

「あ、そうか。ゼファーたちか……そうだよ、これゲームなんだから……」


 私もちょっと動転していたようだ。というわけで、連絡をとってみようと、コマンドからギルドチャットを展開して、連絡をとって見ようとする……

 が。

「……んー? あれー? 相手とつながらない……」


 この状況だったら、常時チャットはつながっているはずなのに、どうにもゼファーからの反応が薄い。というより、こない。ぜんぜん。


「ツヴァイ、ひょっとして、サーバ移転したから……」

 囲炉裏で呑んでいる人のうち、青い、中華っぽい上品な服を着た女性が、私の側の男性に向けていう。


「……あー、そうか。言われてみれば今更か」

「……サーバ? ここって、日本のサーバじゃないの?」

 白い服の今風ヒゲ男性は、首を振っていう。

「違うよ、ここは中華サーバ。えと、君は日本人なのかな?」

「うん。じゃあ、貴方たちは中国人?」

「全員じゃない。僕らDDBオンラインプログラマチームはいろんな国籍のひとがいるからね。この場でくっちゃべっているのも、日本人と、中国人と、アメリカ人だよ」

「……」

 さらにもう一人、中華ルックの女性の隣で魚をワイルドに食べている、大柄で、長い髪に、アメリカインディアンっぽい羽飾りをつけた厳つい顔の男性が、ゆっくり首を振って、うなずいた。


「……え?」

「とはいっても、君はほんとイレギュラーなんだよなぁ……僕らの隠れ家に、どうやって来たっていうのか。はじめはクラッカーがカチコミしにきたのかと思ったけど」

「ちょ、ちょっと待って。あなたたちって……」

「……あれ? 説明してなかったっけ?」

 白い服の男性……ツヴァイと呼ばれたひとは、不思議そうに首をかしげる。

「……ツヴァイ、おまえの悪い癖だ。事実の前後関係をすっとばす」

 大柄で厳つい男性が、静かに指摘する。威厳があるな……。

「ああ、こりゃ失礼。確かに僕の悪い癖だ。それじゃ、君のほうから質問してくれないかな? そのほうがわかりやすかろうと思う」


「うん……というか……ああ、じゃあ、まずは第一の質問……の前に、私はルルィっていって、日本のゲーマーです」

「うん、知ってる」

「こら、ツヴァイ、話が煩雑になる」

 青い中華服の女性がつっこむ。「ああ失礼、あなた、続けてください」

「まずカチコミって線はないよ……だって私、ゲーム初心者だもん」

 そこの点ははじめっから除外しておきたい。私はきちんと説明する。

「ほんと?」

 そう尋ねてくる女性の声は、どこか生真面目だ。ユーモアがないわけではないが。


「だって、私、プレイ2日目だもん」

「……!」

「……!」

「……!」

 その場にいる三人が三人とも、驚愕の視線で私を見つめる。照れるぜ。


「君、超豪運のようだね、プレイ2日目でこういうとこに迷いこんでくるなんて」

「この職やってて結構たつけど、そんな初心者でこの【失われた大陸】への道をつかむなんて……」

「……いや、初心者だからこそのビギナーズラック、というのもありうる。それにしたって豪運なのは間違いないが」


 三人が三人とも、一様に「あり得ない」という反応を示す。しかし「あり得ない」のは私のほうもで……

「……というか、貴方たちがDDBオンラインの中核メンバーって、ほんと?」

「ほんとほんと」

 ツヴァイが軽くいう。そのあまりの軽さと、状況のアレさに、私は妙に染みいるように信じ込んでしまったのであった。


 実際、彼らが当代いちのVRゲームのプログラマである、ということは、彼らが私のゲームアバターの設定にちょちょいと手を加えて、ゼファーたち「氷中の花」と連絡がとれた、ということで、すぐに知ることができた。



「ちょ、ルルィ、無事なのか?」

「一応ね……親切なひとに助けられて、今中華サーバにいます」

「ちゅ、中華サーバ!? ずいぶん飛んだなぁ……」

 チャットの向こうからは、あきれたゼファーの声が聞こえてくる。そして、ひとしきり嘆息したあと、ゼファーはいう。


「ぶえええええんお姉ちゃああん」

 トルゼが涙ながらにコンタクトをとってくる。

「あー泣かない、泣かない。私は平気だから」

「ぶえええええんルルィさああああああああん」

「お前誰だ!」

 いきなり飛び込んできた青年の泣き声に私はびっくりした。

「ぶえ、俺です、ジュンです」

「え、ジュン!?」

 さらにびっくりした。君ってこんなキャラだったっけ……?


「あー……こいつは一皮むけばこんな奴だぞ。タンクのくせして、一度ツボに入ったら弱いっていうか」

「そうなんだ」

「それよりも」

「ん?」

「おまえ、無茶しすぎ。バカ野郎」

 ゼファーが、それなりに真剣な声色で、叱る。

「ごめん」

 私は素直に謝る。確かに、超絶ヤバい行動を踏んでたのを、今更に思い出す。そういわれても、しょうがない。


「簡単に撤退したってよかったんだぞ、あの場合」

「なんかねー、衝動的に体が動いちゃって」

「そこだよ、ジュンなんか、あのあと即座にお前助けようとして、泣きながら最高級エリクサー使おうとしてさ。またあのダンジョン深くに行くつもりだったんだろうが」

「当たり前じゃんか、ギルマス。恩を返さねば」

「今までのジュンのイメージが結構刷新されていくよ」

 逆にびっくりである。


「まあそんなわけで、俺らはお前以外、無事であります」

「うーん、悪かったってば」

「反省が足りん。……いいか、【氷中の花】の基本精神、忘れたか?」

「【たのしくゲームプレイ】……」

 ああ、そうか。

 私は、今更ながら、この言葉の意味を思う。


「お前のは……なぁ……まあ燃える展開と呼べなくはないが、それでも自己犠牲ってのはどうよ」

「そういうつもりもないんだけど」

「でもまあ、【軽ーくひと狩り】っていうので済ましとくべきだったかな、俺も」

「いやそっちこそ、今更ぐちぐちいってもしょうがないでしょ」

「まあなぁ。結局「たられば」話だし」

「じゃ、この話はこれまで、かな」

「俺とお前の間ではな。お前のこと……今の二人も、そいからメフィリアもMK2も、そしてほかのギルメンみんなが心配してるっつの」

「うーん、それはそれは……」

 ありがたい話だよね。


「というわけで、お前にクエストを授けます」

「はい」

「無事に日本サーバまで戻ってこい」

「……かっこいいこと言うね」

「……まあ、俺たちが遠征組むって話もあるんだがな。とくにジュンなんか【行くぞ行くぞ!】って言ってるんだが、ギルドとしては、お前救出にリソース全部をさくわけにはいかんし」

「大丈夫、まあ、なんとかやってみるよ」


「まあお前ならなんとかなるだろ。リアル俺らんなかで図抜けて、【なんとかなりそうな奴】の筆頭ではあるし」

「すごい意味合いだねそれ」

「それも含めてのゲームプレイかな、と思う。【ゲームも人】、というわけだ。……お前を助けてくれたひとたち、このゲームのプログラマなんだろ? やっぱ【ゲームも人】、なんだよ」 

「そっか……そうだね」



 そんなこんなで、チャットが閉じる。

「いい仲間じゃないか」

「見てたんかい、あんさん達」

 私は背後で穏やかな笑みを浮かべるプログラマ三羽カラスを見る。ツヴァイは言う。

「こうやって健全に楽しんでもらえる、っていうのが、僕らの仕事ゲームプログラマの意味であり、報酬なわけさ」

「なるほど」

「さて、それでは懸案の、今の君――ルルィが置かれている状況を説明しよう」

 その顔つきは、静かでありながら、決して威圧感を与えるものではなかった。……それなりに神妙なんだけど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ