第二十話 「はじめてのダンジョン、【四聖洞窟遺跡攻略】(5)」
みるみる間にHPが削られていく。炎の勢い、すさまじく。我々の劣勢、これもすさまじく。全員が炎に耐えようとしている。体を屈め、トッププレイヤーの装備や魔法で、「防火」要素でなんとか耐えきろうとする。だがそれでも、この歴戦のプレイヤーたちのパーティでも、HPの減少がとどまらない!
炎は、ブレス(息)であるから、無限に続くものではない。だから、いったんフレイムブレスは終息した。……永遠に思うような時間だったけれど、実際は30秒にも満たないと思う。けれど……その被害、甚大。私たちの体勢は総崩れだった。
それを見て、満足そうに悠々と上空を旋回するように見えるフレイムドラゴン。侮られている……。しかし我々のプライドより、今は仲間の状況だ。
「お前らだいじょうぶか!?」
大声でゼファーが皆に声をかける。聞こえてくるのは、「生きてる……」(ジュン)とか、「なんとかね……」(メフィリア)といった、弱々しい声。
さあ、逃げる、といっても、退路をあっちは塞いでいる、といっても過言ではない状況だ。あちらの機動力は相当のもので、私たちが降りてきた階段を崩すのにためらいはないだろうし、私たちが次のアクションをするのを待ってるようにも思える。「退避」を行ったら、また今度は……確実に殺す、だろう。
ゼファー……西乃助、気持ちわかるよ。どうしたらいいか、必死で考えてるね。ピンチだもんね。
おそらくゼファーが考えているのは、次の二点に絞ってのことだと思う。
・半数をあのフレイムドラゴンに回して防戦・攪乱させる。
・その間にこのダンジョンからの離脱を、アイテムなり魔法なりで行う。
この二点を同時に進行していかねばならない。相手を完全に屠ることは、どうやらゼファーは最初からあきらめているようらしい。彼が言った「レイド」という言葉は聞き覚えがあった。大規模戦闘……少なくとも、このパーティのメンツの人数でするもんじゃない。そういう、軍事用語で言えば「戦術級」「戦略級」の相手だ。
まず相手を攪乱し、こちらから注意をそらせる。「対峙」の状況を崩すのだ。かつ、「脱出チーム」を守る。そのメンバーは、おそらくゼファー、トルゼ、ジュン。攻撃・前衛チームだ。
もう一方、脱出チームだが、これはメフィリアが基本盾となってこのチームを守る。その間、MK2がアイテムや魔法の準備をする。私はそのサポートをする。
「……って、こんな割り振りだと思ったんだけど、どうかな?」
「……おまえには呆れるよ、さすが俺の相棒」
ゼファーに簡単に以上のことを告げたら、そう言われてしまった。まあ、こういう仲なんだよね、私たちは。
「お前ら! 以上のような作戦だ!割り振りもそのように……じゃあ、展開っ!」
そしてゼファー、トルゼ、ジュンが、無謀にも近いような勇猛さでもって、相手に切りかかっていく。大きく跳躍して、ドラゴンを引きつける。ダメージを与えられるもんなら与える。
「MK2、どれだけ脱出方法あるの!?」
私はこの場で一番、アイテムや魔法に通じているギークたるMK2に意見を求める。
「全員装備型の【脱出オーブ】は、みんなが装備してるわけじゃないし……」
「じゃそれ却下。魔法は?」
「僕ちんが展開するのに、ちょっと時間稼いでくれたらOK。ただ、みんなを一度こっちに呼び込まないといけない」
「第一の手段としてまず採用。次、脱出オーブはMK2とメフィリア、急いで装備して」
「私とMK2が? 今? でもこれじゃ全員は……」
「【全員死ぬこと】が【全滅】の定義でしょ? 私もシロウトだけど、このゲームで全滅したら、それなりのペナルティあるのは知ってる……でも2人でも生き残ればそうじゃない。第一、【氷中の花】のメンツもあるでしょ……こんな低レベルダンジョンで全滅っていうのも……!」
「あー、痛いとこつくね、ルルィたん」
MK2にしては、渋みのある顔をした。メフィリアは思案したあと、「それが妥当かしらね……」とつぶやいた。
「MK2、ほかに、さらに、なんかできることあるかな?私に。あ、脱出魔法展開の手は止めないでね」
「こきつかうなぁ」
苦笑しながら答えるMK2。「僕ちんの魔法、以外にだったら……ルルィたん、花屋というアイテム職だったら、分割、はできる?」
「分割? 複数の要素によるアイテムがあったとして、それを一個一個のアイテムにバラしていけばいい、ってこと?」
「あーんもう、危機におけるゼファーもルルィたんも、頼りがいありすぎ!」
頭をぷるぷる振っているMK2だった。「そう、その通り!じゃあやってくれる?」
「やりかたは、はじめてだけど……もう自分流にやっちゃうよ、このオーブを解体すればいいんだね?」
「よろしこ!」
「はぁ……貴女の緊急時の行動力ってすごいわ」
半分呆れているかのようなメフィリアだったが、私たちが店を広げているときも、しっかりと相手からくる遠隔攻撃を守ってくれるのだった。両の盾でもって。
「……よっしっ! 魔法陣展開できたっ!テレポートいけるよ!」
「こっちもひとつだけバラせた!使用アイテムで脱出できるはずっ!」
「ほ、ほんとにバラしちゃったんだルルィ……」
メフィリアが驚く。
「なんか適当にやったらできたんだよ……じゃあ、メフィリア、みんな集めて!」
「……了解っ、みんなっ! こっちへっ!」
メフィリアは手を振って、こちらに皆を誘導しようとする。だが……
「エレファント・デスっ!」
「アイス剣「四翼連理」っ! キリがねえっ!」
どうやら、相手を「とりあえずあっちに吹っ飛ばす」だけの有効打を、前衛パーティは与えられていない。それでも、まだ誰一人死なず、こうやって相手どれているのだから、奇跡的なのだろう。
「……俺が行くよ、ギルマスっ!」
「バッ、ジュン……!」
「真節・【蛇槍】……ッ!!!」
その瞬間、ジュンの体が蒼く光り、炎をまき散らしているドラゴンの口を、おもいっきり貫いた!
「グゴオオオオオオオオ!!!」
アギトを砕かれた竜は、苦しい声を上げながら、その「蒼い敵」を振り落とそうとする。そして……
「ぐあっ!」
ジュンは、明滅するパネルを一個砕く形で、打ちつけられた。HPは……あのタンクたるジュンですら、瀕死っ!!?
私は、思わず……衝動的に、駆けだしていた。




