第十九話 「はじめてのダンジョン、【四聖洞窟遺跡攻略】(4)」
「よっこいしょ」
それまで隊列の一番後ろでのんきに哨戒していたゼファーが、はじめて隊列の先頭に立って、洞窟の壁をごそごそしている。
ズズウウウウウウウム……と低い地響きでもって、その場が揺れる。そして、岩肌の面がスライドしていって、その場に大きな、石畳の階段がでてきた……奈落への階段……。
「よくこんなもん見つけるもんだね」
ゼファーが探っていたのは、何の変哲もない岩の陰であった。そこに、このような隠しスイッチがあるとは。
「前このあたりにキャンプ張ったときにな。そしたらアラームがめっちゃ反応示して」
「アラーム?」
「アイテムやエネミー(敵)反応用のアイテムだ。いずれお前も必須のものになってくぜ」
「それは大事だ」
さて……ここからは、さらなる地下への道筋であった。とはいっても、今までのように、土の洞窟を探っていく、というのではない。一気に、暗い暗いお城の中といった塩梅だ……まさに「遺跡」といったほうがいいかもしれない。四聖洞窟「遺跡」……むべなるかな、と思う。
その外壁は、こんな洞窟内だというのに、石煉瓦で積まれていて--まるで、洞窟の中に遺跡を作った、というよりは、遺跡を隠すようにして土の洞窟を作った、といったほうがまだいいような感じがする。……そこまでして、何を隠す?
「お姉ちゃん、笑ってるね」
にこっとした表情でトルゼがいう。
「そうかいな?」
「そうだよ。……冒険にドキドキしちゃったりする?」
「まあ日頃の私たちの生活っていうのは、アンチダイナミックスの日常だからなぁ」
バンドとか音楽生活っていうのも、なかなかに地味だよ?
「あ、ひょっとして、ルルィ明日……ってもう明日か。リアル日付は。お仕事? 寝落ちする?」
メフィリアがそう聞いてきた。この感覚、たぶんリアル相手は社会人だな。
「大丈夫だよ姐さん。私は基本的にゼファーとトルゼと合わせて大丈夫だから。ていうか、あいつらは私に合わせろ」
あっはっは、と快活な笑い声のヒーラーさん。
「姐さんいうな、というのはともかく、ほんとに仕事仲間なんのね」
「まあねー」
「結構大変でしょう、リアルゼファーとリアルトルゼとつきあうのって」
「わかりますか姐さんっ!」
だーから姐さんは……っていおうとしたメフィリアを制して、ゼファーとトルゼがおもいっきし振り返ってこっち向いていった。
「リアルルルィの制御のほうが大変だっつの!」
吠えるゲーム内ギルマス。
「そうだよ、お姉ちゃん、ガイ●チなんだから!」
吠えるゲームでもリアルでも変わらん少女。ていうか……
ぐりぐり。私はトルゼの頭にぐりぐりする。
「私のどこが気狂いピエロだっつう話よ」
「あ、地味に痛い、地味に痛い、お姉ちゃん、リアルと同じで地味に力ある!」
「どうマッドネスだったりするんだろう、結構常識人に見えるけど、ルルィさん」
ジュンが疑問を呈してくる。
「んーあー」
ゼファーが言葉を濁す。まあリアルの職業をあんま明かすわけにはいかんからな……。だが、ふと、後ろをふりかえって、「あ!」と思い当たるところがあったようで、青年、語る。
「そうそう、俺らの仕事のジャンル的に言えば、MK2、おまえがリアルルルィの本質に一番近いわ」
「……いきなり振られても困るんだけど、ルルィたん、僕ちんのこれはある程度ペルソナだからね? そんな人間が実際にいるとなると、興味はあるというか、逆に不思議になってくるんだけど」
私も同感だ。この知性と痴性の同居人と、私がどう違う。違うところばっかりだろうが。
「簡単に言えば、俺らのジャンルにおける、超オタク・マニア気質。それさえやってりゃいい、みたいな廃人さん」
「なるほどねー」
案外メフィリア姐さんが納得してしまった。なんでやねん。
「なんでそんな簡単に納得されるんだろう」
「んー、貴女って、すごい美人さんなんだけど、どこか女っぽくないというか、そんなとこ。そんな女のカン」
「女のカンで私の女っぽくなさを切られたぜ……」
うごごご……これは何を示すのか……
で、そんなことをダラダラしゃべっていたら、遺跡の最深部にたどり着いた。
そこは、碁盤状に配置された、正方形の無数のマジックパネルが明滅する、不思議な空間だった。暗闇の虚空の中に、パネル平面ただひとつ。やってきた階段のほかには、なにもなし。その外側は、まさに深淵。落ちたら二度と戻ってこれない奈落。
パネルの大きさは人ひとりぶんが立てるくらいあって、もうたいまつも灯りの魔法もいらないくらい、この明滅が明るくて。
……とても静か。こおおおお……と、虚空がたてる独特の残響音だけがする。本当に、洞窟の内部だ。ちょっと寒いような気もする。
「ここはどういうことなの、ゼファー」
「今までは【四聖洞窟遺跡】だったが、ここからはフィールド名は【失われた大陸】だ」
「【失われた大陸】?」
「このゲーム世界、アーヴリィ世界は、かなり複雑でカオティックな構造をしてるってことはいったな」
「それはもう」
「で、今はもう行き来してない世界ってのもあんだよ、結構。ここの明滅は、その世界にフタをした魔法的仕組みの跡……という設定」
「実際は?」
「もう使わなくなって放置されたゲームフィールドにフタをしたって具合」
せちがらいなー。でも……
「ここから先にいけるとしたら、その【放置された世界】、すなわち【忘れられた大陸】にいける、ってことだね」
「一応、な。いけないわけでもない。でも、行く価値はない。サーバも移転するし……」
そこまで話したら、ふと、今までと違う声が聞こえてくる。何かが燃えるような、何かが飛んでくるような。そして何かの叫び声のような……!
不吉な予感がする。不穏な空気が流れる。この場にこれ以上いていいものか、ということすら考える。
――すると、一瞬の間に、無限の奈落の底から、一匹の巨大な、赤い赤いドラゴンが飛来し、我々の前に登場した!
「はぁっ!?」
「な、何よこれ!」
「イミフいミふ」
突現の敵襲、というより、感じ的にはある意味大型車がつっこんできた、というのに似ている。
パーティ、混乱する。そりゃそうだ……しかし一人ゼファーは冷静に、
「……レイド級……装備足りねえ……安全性……よし、逃げるぞっ!」
パン、と手をたたいて、勢いよく振り返り、眼孔一閃、その場をシメる。こういう予知せぬ状況のとき、こいつは本当に強い。きっと何事にも動じない「自分」を持っているのだろう。
「そ、そうか、相手する必要ないな」
まずジュンが目を覚ました。そう、それでいい。
「脱出アイテム、誰が持ってる? 魔法でも!」
メフィリアが叫ぶ。
「僕ちんがいく、魔法とアイテム両がけっ」
MK2、実際の行動をとろうとする。
だが――
フレイムドラゴンは、なぜかこの初手から……渾身の一撃をくりだしてきた! 体を振り絞って、その巨躯以上の質量を誇る、炎のブレスを吐いてきた!
「――――――!!!!」
その場の全員が驚愕し、その炎のブレスを避けきれなかった。火炎が……私たちを包む……ッ!!!
このフレイムドラゴン登場が、序盤物語の転機です。




