第六十九話 『とっくの昔に…』
静かな海が広がる砂浜の一角。現実の世界と何ら変わらないように見える精霊たちの案内にのみ訪れることが許される結界の中。
満月に照らされるその場所で操流人とリヴァイアサンの二人は互いに剣を交えていた。
操流人は精霊たちに形を与えた白と黒の剣だ。細身の西洋剣を思わせる刃を、流れるように操っている。
リヴァイアサンは両刃の大剣だ。付加魔術で強化された包女相手にもひけをとることのない豪腕でそれを振るう。
金属とは少し違う音が夜の景色に響く。
そんな中、
「……ぶっちゃけ私たちって暇じゃない、唯螺」
思わず看垂は頬に手を当ててぼやいた。実はこの結界内に入ってからというもの、戦っているのは操流人とリヴァイアサンだけであり、看垂たち二人はただそんな二人を眺めているだけだったからだ。
そんな相方の返事は、
「暇などないですね。操流人さまの成長を目の当たりにでき、胸がいっぱいで、私はそれどころではないのです」
「…あっそ」
よく見ると、確かに唯螺の目尻にはうっすらと輝くものがある。親バカと言うか身内バカと言うか。看垂は呆れた。
この均衡状態はかなり続いている。この空間に来てからほとんどずっとだ。その間、操流人はリヴァイアサンに付き合うように剣で戦っている。
精霊魔術師が剣で戦うなんてね。
看垂は苦笑した。唯螺だって、成長を喜ぶ暇がなかったら、同じことを思っているはずだ。
精霊魔術師が剣で戦うなんて、なんと間の抜けた事だろう、と。
精霊魔術の本来の真髄は、精霊と共に魔術を使い、相乗することにある。精霊特有のテーマ魔力にしろ、精霊魔術以外の空間、属性、召喚、付加にしろだ。
それなのに今回、操流人ときたら相手に合わせるように剣を使っている。
こんなもの、部が悪い以外のなにものでもない。
精霊魔術師が、根っからの物理攻撃者を相手にする場合はとくにそうだ。精霊魔術師は、魔術師、言わば戦う人間としての身体能力が低いからだ。
元来魔術師は屈強でなくてはならない。それは属性、空間、付加を見たらわかる。彼らは戦いの最中、己が身一つで戦うことを前提にしているからだ。
しかし召喚、そして自分たち精霊は違う。その自分のいる戦いの場に相方を呼び出せる。つまり一対多数、数による強化で戦うことが出来、それを目的とした戦い方があるからだ。
加えて精霊の生成だ。生成とは精霊に形を与えることである。
テーマ魔力をもつ精霊は、元々自然界に存在する魔気の集合体が一定のパターンで生き物のような動きを見せる存在だ。精霊や魔気集合体以外にも魔力疑似生命体などとも呼ばれている。
その呼び方はともかく、大事なのは魔力の集った体であるということだ。
すでに精霊石となっているのなら必要ないのだが、魔力の体ということはそもそも形がない。だから精霊魔術師が形を与えるのだ。
体を与えられた精霊は、こうしてようやく本物の生命体により近づく。そして魔術師と相乗しあいながら強くなるのだ。
その精霊魔術としての第一段階に入る一歩手前。基礎をする前の基本というよりも前提。
操流人は生成で戦っているのだ。精霊魔術師にとって、部が悪いというよりも、単純に馬鹿者のやることにしか見えないのだ。
あれじゃ坊っちゃんだけ無駄に魔力を使ってるだけじゃない。看垂は嘆息しながら見つめた。
相手はあの付加魔術の使い手でたる少女の剣を受けてきたのだ。その強さは明白だ。ということは、その剣を今受け止めている操流人もつまるところ自分にかける魔術を使っているということだ。
精霊の力をほとんど使わずに、自分の魔力だけで苦手な魔術のみを使う。
なんだってそんなことを。そう考えたとき、看垂はまた溜め息を吐いた。
そんなこと、わかりきっているからだ。
剣士には負けたくないのだ。
誇りとか得意分野とか、因縁とか宿命とか、優勢だとか部が悪いとかそんなことはいっさいかっさい関係なく。剣士という存在に、純粋に負けたくないのだ。
その戦う意思に名前をつけるなら、おそらく執念だろう。
操流人はリヴァイアサンと戦いを続けながら、その向こうに二人の男女を映しているに違いない。確信を持っていた。唯螺もそれをわかっているのだろう。それ故の極まり具合のはずだ。
だけど。
「だけど、負けたら意味がないんですからね」
ポツリと呟いた。唯螺の視線が渋そうに一瞬だけ向けられる。それこそ同じ意見だからだろう。
このままでは負ける、と。
実際に操流人は、こんなに不利な状態でよく戦っていると思う。しかし、それは相手も同じ条件だったのだ。
実のところ、剣戟が始まってからリヴァイアサンも妖力はともかく妖術の類いはいっさい使っていなかったのだった。それは看垂以上に操流人の方が理解しているはずだ。妖力を視覚で捉えることが出来るのだから。
さらにもう一つ、この空間が精霊結界内であるということも要因だ。
精霊結界。人間の世界によく似た別世界。魔界と人間の世界を繋ぐ通り道。そこは魔気に溢れているのだ。
精霊にとって魔気は主食であり、力の源だ。魔術師本人が魔気を吸収できずとも、精霊が魔気を力に変換してくれる。
少なくとも、ここでは精霊は常に回復しながら戦うことが出来るため、精霊魔術師にとっては最高の場所なのだ。ただし精霊魔術師側にも、同時に結界と精霊魔術を扱うのは難しいので一人で実行する者は早々いないのだが。
ともかく、不利な点があるという意味では互いに同じだった。
だからこそ、元々の膂力により、じわじわとその差が開いていくのだ。
「…ちっ」
『どうしたんだ。剣筋が乱れ始めているぞ、バテたか?』
「うるせぇ、余計なお世話だ」
剣での防御に失敗した。リヴァイアサンの力づくとも言える斬撃を反らしきれなかったのだ。頬をかすめた刃に鮮血が流れる。
これには唯螺も動きかけた。しかし操流人に睨まれてその場にとどまった。
「いちいち騒ぐなよ」
「…ならばしっかりしてください。私がいちいち動かなくてもいいように」
「あらら、一本とられましたね。そう言うことですよ、坊っちゃん」
「ちっ」
操流人は流れる頬の血を乱暴に拭いながら悪態をつく。リヴァイアサンはそれを面白そうに眺めていた。
ったく、どいつもこいつもまるで俺を子供扱いだな。操流人はそう感じた。
看垂はどこかつかめない感じを持っている。そのせいか、甘やかすとは違い、彼の前では誰でも子供扱いとなることが多い。唯螺はその堅真面目そうな性格からわかる。世話役という職業上と長年の情が、親類以上に子供扱いになるのだろうと。
そしてリヴァイアサンは。
彼女はおそらく、人間そのものを下に見ている。それは弱者に対する線引きなのだろう。ただし、その延長線上で彼女は強い人間にだけ興味を示すのだ。人間が愛玩動物を飼う理由と同じように。それこそが彼女から感じられる「子供扱い」の正体の一つかもしれない。
操流人の考えは間違いではなかった。ただし、少しだけ違う。リヴァイアサンは強い人間が好きなのではなく、弱すぎる人間が、強さも語らず、弱さを恥じることもない人間が、殺したくなるほど嫌いなのだ。
だからこそ操流人が感じる、リヴァイアサンの人間の強者に対して強く固執する考えは間違いではなかった。
しかし、強者までなってようやく子供扱い。
……むかつくな。操流人は、考えて、考えて、考え抜いて、その答えにたどり着いた。
看垂や唯螺のみせる態度は慣れている。いろいろとあり、認めざる得ないことも含めて。
しかしだ。敵である彼女にそんな扱いを受ける筋合いはない。むしろ今、真剣勝負をやっているはずだ、それなのにこれは。
これは子供扱いなんかじゃねぇ。ただ、俺のことをなめているんだけだ。これはむかついて当然だな。
たどり着いた答えと自分の感情に操流人の目元がひくりと動く。体の中で巡っている血液が熱くなる。
「むかつくな」
ぼそりと呟いた。
三人は聞こえなかったようだ。怪訝そうに操流人を見つめる。
「むかつくな」
これじゃ、真剣に向かってきたあいつらの方が、何倍もましじゃねぇか。言葉にせず、飲み込んだ。
『ほう…雰囲気が変わったな。疲れはとれたのか』
「うっせぇ。てめぇは付き合ってやってると思ってんだろ?この状況」
『これか?まぁ、精霊結界が舞台というのも早々ないしな、その通りと言っても過言ではないな』
「ちっ。やっぱりな」
不満そうに地面を擦る。いらいらを抑えるためにとった行動だ。看垂たちからすればやはり拙い行動ではあるが、それでもましだ。周りに当たらなくなったという点では。
何より、それが僅かな発散だとしても、それで冷静さを取り戻せるのならなんたる成長だろうかとさえ思っていた。
だから看垂は安心した。
あの行動を起こしたということは、少しは冷静さを取り戻したということだ。だとすれば、
「お前は絶対にぶっ倒すっ」
大丈夫ではなさそうだ。
「…………ねぇ、唯螺。あのバカ坊、今なんて言ったかしら?」
「私には、お前は絶対にぶっ倒す、と聞こえましたね」
「あらそう。奇遇ね。私にもそう聞こえたわ」
看垂は眉間にシワを寄せて歯を噛み締めた。苦渋に耐える顔つきだ。無理もない。操流人、彼が言った敵の撃退など、作戦のうちではないからだ。
あくまでも向こうの戦力を削ることと、時間を稼ぐこと。それが今の自分たちの目的だったはずだ。
今回、この場所に来たのは要請を受けて来ただけ。無理して戦闘を続ける必要もないし、その要望もない。それどころか利点もないので、引き際こそ大事だと逆に要求されたほどだ。
この結界内に入る直前、頭の中で伝わった鷲都包女の最後の言葉は、
──無理はしないでください。
だからここで無理をして、戦闘を続ける、または敵を撃退するなど意味がないのだ。
意味はない。
意味はない、はずだ。
ああ、だけど、
「あのバカ坊は、本当に勝手なんだから」
意思はあるのだ。戦い、勝ちたいという意思が。自分たちの大将たる彼がそう言うのだからそれは間違いない。倒すと、ぎらぎらに目を光らせているのが何よりの証拠だ。
しかし、
「どういう経緯でその考えに至ったのかわかりゃしないわ」
「そうでしょうね。私には操流人さまの考えも、そしてあなたの考えもわかりませんよ」
頭をくしゃくしゃにしている看垂の隣で、唯螺は視線を操流人からはずすことなく言う。
「しかし、信じることは出来ます」
当然、向こうで頑張ってくれているだろう他の者たちのこともですけどね、と付け加えて。
「そうね…それしかないわよね」
全てを諦めたかのように看垂は溜め息を、大きく大きく吐いた。そして息を大きく吸う。
「坊っちゃぁん!制限時間を五分だけあげますがら、ちゃっちゃとやっちゃってくださぁい!」
看垂の大声が静かな世界に響いた。
じろりと操流人が見てきた。ひらひらと手を振って返す。操流人はそれを一瞥するとリヴァイアサンに向き直った。
「お前」
『ん、なんだ』
「今から俺は本気を出す」
『ほほう、それはそれは楽しみだな。あの二人に手伝ってもらうのか?構わんぞ』
余裕をみせるリヴァイアサン。操流人はやれやれと言った態度だ。リヴァイアサンは剣を突き出して語る。
『それに私もそろそろ向こうに戻らなくてはならないと思い出していたところだ。駄目だな、魔術師たちにはあの方の面影を見てしまうせいか、どうも甘くなってしまう』
すると、温度が下がる感覚とざらつく感覚が同時に三人の肌を支配した。リヴァイアサンの制御を越えた妖力が妖気となり、戦う意思と混じって届いたのだ。
『ここからは私も本気になろう』
「…………く、くはは、くははは」
そんなリヴァイアサンに操流人は笑った。可笑しそうに。
「今、あの二人に手伝ってもらえっつったか?」
『言ったな』
「ばぁか」
操流人は黒の剣の形を崩しながら言った。形を無くした剣は夜に混じる霧のように操り流れ人を包んでいく。
「あの二人はな、戦力じゃねぇよ」
『…?』
「結界をつくる鍵と…俺を抑えるためな枷だよ」
全身を被いつくすような黒色の方の精霊は、やがて同調するように操流人の中に消えていった。まるでもう一人の彼が、彼に重なるように。
「お前だって見えてんだろ?今の俺の状態がよ」
『……なるほど…精霊化か…人間のその身で魔力体になるとは…死ぬぞ。まぁ、殺す気でいくがな』
「とっくの昔に死にかけてんだよ」
『…なるほどな、馬鹿なのだな』
「うっせぇよ。これが、俺の、本気だっ」
操流人は、黒く染まった。黒の塊が人の形を成して剣をもっているようだ。これは精霊同化と呼ばれる精霊魔術。
精霊同化。リヴァイアサンの言う通りこれは人間が魔力体そのものになる、精霊魔術師のとっておきだ。魔力が大元であるその体は、魔力を始めとしたあらゆる源力を五感で捉えることが出来る。そして物理的な境界を越えた戦いを可能にした。
ただし危険性も高い。
意識を飲み込まれ、ただの魔力と化することがあるのだ。そうなるとただの荒れ狂う力の塊となり、手に終えなくなる上にその力が消えると同時に本人も消失してしまう。
それでも見返りは大きい。
「吠え面をかきやがれ」
黒い塊となった操流人は、白い輝きの鶴来を持って動いた。もはや人間の速度ではなかった。看垂たちも目で追えない。しかしリヴァイアサンは反応した。
『いいぞ。さっきよりもかなりいい』
互いに刃を交えた。するとぶつかったところを中心に、魔力と妖力が相殺され、それが衝撃となって辺りに放たれた。
「…くぅ、流石にこの衝撃は私たちでもわかるわね」
「それだけの力がぶつかっているのでしょう…迂闊に近づけば足手まといになるだけですね」
「まぁね…私が近づくときは終わるときよ」
目の前で繰り広げ始めた剣戟に、二人はそれぞれの想いをもって目を離せないでいた。
操流人が速度を活かした連続攻撃をすれば、リヴァイアサンはそれを受け止めきってから全力の一撃を放つ。操流人がふわりと消えるようにかわし、また連続して剣戟を繰り出す。リヴァイアサンはそれを防ぎ、一閃を放つ。
同じことの繰り返しのような戦い。気がつけば踊っているようにも見えた。
一分、二分。だんだんと時間が過ぎていく。看垂が、そろそろか、と焦り始めたとき、変化は訪れた。
『…くっ』
リヴァイアサンが操流人の刃を避けきれなくなってきたのだ。それどころか、あからさまに疲労を見せている。
「どうした?もうふらふらか」
『ふふ、気にするな。久方ぶりの本気に盛り上がっているだけだ』
リヴァイアサンは言うが、やはり疲れているようだ。今の操流人にはしっかりと彼女の妖力が見えている。体から溢れる黄色い力は、変わらずに彼女から出ている。なのに、なぜだ。
「……てめぇ、まさか」
操流人は一つの結論に至った。
「本気を…抑えてんのか」
リヴァイアサンはニッと笑った。
『ふふ、ちと剣士としては難儀な体でな。本気のままに妖力を出しては剣での勝負が出来ん…それだけさ』
「ざけんなよ?それで本気だ、だと?バカにすんのも大概にしとけよ」
『馬鹿になどしておらんよ。私は剣士として戦いたいのだ…』
憧れたあの方のように。そう遠くを見つめるように呟いた。
「……だせよ、本気」
『だから』
「だせっつってんだよ」
リヴァイアサンを遮るように吠えた。
「こっちだってな、時間がねぇんだよ。だからとっとと出しやがれ」
『何度言えば…』
「お前の本気を受け止めきれねぇ奴が、お前が戦いたかった相手なのかよ」
『…………なるほど。違うな』
リヴァイアサンは首を振った。そして楽しそうに笑った。
『そうだな。私の本気を受け止められない相手なら、相手がそれまでだったということだな』
「そういうこった」
リヴァイアサンは剣を構えた。操流人も応えるように白い刃を向けた。
『いくぞ、これが正真正銘、私の本気だっっ』
すると、とんでもない量の妖気が飛び出した。ざらつく感覚が、ちくちくと痛みを伝える。それだけで彼女の妖力のすごさが伝わるが、それだけでは無かった。
「これって」
「体が…」
その衝撃を受けた看垂たちに変化をもたらせたのだ。だんだんと動きが鈍くなってきている。
『私の支配しきれなかった力の欠片は、弱い者全てを鉱物に変えていくのだ。…お前は流石が精霊体といったところか?』
「…みてぇだな」
操流人は肢体を確かめながら呟いた。これがリヴァイアサンの本気か、そう思いながら。
確かに、妖気に触れてしまった相手を鉱物に変えてしまう彼女の本気は、剣士としての彼女の性分には合わないだろう。
だが、それなら今日は彼女にとって幸運だったろう。
「お前にとって今日はずいぶんと不運だな」
本気を出しすぎた彼女と剣士として戦い続けられる相手に出会えたのだから。
「黄色い化物としてじゃなく、ただ剣を振る黄色い力の使い手として負けるんだからな」
操流人はふてぶてしく言う。彼自身も、精霊同化の侵食とリヴァイアサンの石化を促す妖気、その両方を受けて限界は近い。それでも悪態は崩さない。
「いくぞ、これで最後だ」
『ああ、来い。こちらもそのつもりだ』
リヴァイアサンは笑みを携えて操流人の剣を受けた。互いの全力がぶつかる。看垂たちは、あれ、自分たちの方が先に死にそうなんだけど、と冷や汗をかきながら結末を見た。
静かな世界に響くのは海から聞こえる波の音だ。押しては返すその音に、耳を傾けるのは二人。看垂と唯螺だ。
「しっかし良かったわねぇ、あの鉱物化、解けて」
「そうですね。相手が気絶した段階で解ける代物だったのは幸いでした」
あの剣士たちの結末を見届けた二人は、ぼんやりと日向ぼっこをするように砂浜に腰をかけていた。立ち上がれなかったのだ。唯螺は二人の力に負けないように結界を維持することに、看垂は最後、暴走しかけた操流人の意識を引き留めることに全力を尽くして。それに強すぎる妖気に当てられたうえに鉱物化まで体験したことも原因になるだろう。
「相手が始めから本気を出していたらわかりませんでしたが、それにしても操流人様はご立派でした。最後まで戦い続けられて…」
「そうねぇ…けどさ、その言い方、なぁんか故人っぽいからやめた方がいいわよ」
呆れたように、目尻を押さえる唯螺に向かって看垂は言った。
あの二人の戦い。結末には、勝者も敗者もいなかった。全力をぶつけ合った二人は同時に倒れたのだ。
看垂たちも駆けつけることが出来ず、放置状態だ。
しかし、それでもいいか、と思っていた。どちらにせよ、もうこの結界を維持している唯螺も限界だ。直に結界から出されることになるだろう。ならばせめて、一人で戦い続けた少年の休息を守りたいと思ったのだ。
「まぁ、向こうの子たちには悪いけど、少しだけ休みましょうか」
看垂の言葉に唯螺は頷いた。




