表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/25

Blade:22




「あたた、脳天痛てぇ……」


痛む頭をさすりながら街を歩く。

あのあと命からがらシェオルから逃げ切った俺はギルドへと向かっていた。別にナンパしても良かったがこれ以上シェオルを怒らせると本当に殺されかねないので今日は自重しておくことにしよう。

触らぬ神に祟りなしだ。


「さて、どうしたもんか……」


チラリと右手に抱えているフライパンを見る。急いで逃げてきたのでこれといった武器を持っていくことが出来ず、先ほど頭を叩かれたフライパンを何故か持ってきてしまった。硬度はさっき叩かれたので確認済みだがこれでギルドの依頼を受けるとなると少し心細い。


「……まあ、いっか」


武器を取りに帰るのも怖いので今日はこれで頑張ってみようと思う。チャレンジする精神こそが新たな伝説を作るんだ!




ということで……、




「オーク十体一丁!!」


バンッとギルドの受付に依頼書を叩きつけるように提出する。受付のお姉さんはフライパンを持っている俺を訝しげに見たが、それに対して何も突っ込むことなく受注の判を押した。


「えっと、場所はセウスバルトの森になります。気をつけて行ってきて下さい」


「どうもー」


ギルドのお姉さんにウインクを投げて受付から背を向けて森を目指す。

何も恐れることはない。

何も悲しむことはない。

俺には相棒(フライパン)がついている。

だから俺は行く、どんな困難が立ちはだかっていようとも!


こうしてフライパンハンター・カイルの伝説は始まりを告げたのだった。













「無駄無駄無駄無駄!!」


「ぶもーー!」


オークの上に跨がり、フライパンで滅多打ちする。オークはくぐもった悲鳴を上げて抵抗しようとするがそれさえもフライパンで叩き伏せる。

フライパンといえども立派な鈍器なので本気で殴られたら痛いではすまない。何十回か殴り続けると、やがてオークの鳴き声は止み、その息の根は止まった。


「ふはは、これがフライパンの力だ!!」


ギルドから支給された採取用のナイフでオークの耳を剥ぎ取りながら高らかに叫ぶ。ギルドのシステムでモンスターの討伐依頼を受けた時は討伐の証としてギルドから指定された部位を剥ぎ取ることになっており、その部位の数でギルドは依頼の達成を判断する。今回は耳が指定部位なのでオークの両耳を剥ぎ取って袋の中に放り込む。

これで七匹目、あと三匹のオークを倒せば晴れて依頼達成だ。しかしここまでの闘いでフライパンは見事に変形して調理器具としての原型を留めていない。帰りに新しいのを買っていかないとダメだな、これ。


「我が分身フライパンよ、せめてこの闘いが終わるまでもってくれ」


手元のフライパンに囁きかけて次のオークを探しに歩き出す。ダークウルフとは違ってオークは群れで行動はしないのでいちいち探すのが面倒臭いが仕方がない。我慢しよう。

それにしても今日の森はやけに静かだ。普段ならもっと鳥獣系のモンスターがうるさいのだがその鳴き声も全く聞こえない。




「きゃああああああ!!」




……と、思ったら甲高い悲鳴が聞こえてきた。

俺の中に内臓されている美少女センサーが悲鳴の主を美幼女だと判断する。

何が起こっているのか分からないがなんだかヤバそうな気がする。

早々と声の主である幼女の元へ駆けつけなくては!!

俺は声がした方向へと走り出した。








◇◆◇◆








銀髪赤眼の少女リリアは命の危機に瀕していた。

セウスバルトの隣国であるファルスシアまで彼女を運んでいた馬車はその道中にオーク三体の襲撃を受けたのだ。

一応二人の護衛をつけていた馬車だったが、その護衛はあっさりとオークに殺され、次に馬車の持ち主である男も棍棒で撲殺された。

そしてオークたちの標的は囚われていたリリアに向けられた。


「いや……、来ないで」


涙を浮かべてオークから距離をとるために体を動かそうとするが、囚われの身である彼女の両腕は枷でその動きを封じられており、その場で足を床に擦らせるだけで一向にオークから距離を置くことは出来なかった。


ジリジリと迫り来るオークたちに幼いながらも本能で自らの死を予知する。三体の中の一体、体が一番大きいオークが棍棒を大きく振り上げる。人間よりも腕力が強いオークに殴られたらその先に待っているのは死。両腕を塞がれているリリアにはそれを避ける術は無い。

理不尽な暴力を目の前にして幼いリリアに残ったのは憤りでも恐怖でも無く、ただ生に対する諦めだった。


(死んじゃうのかな……)


少女の瞳から希望が消える。それと同時に命を奪い取る暴力が少女へと振り下ろされ……、


「ヒィィィハアアアァァァ!!美幼女発見だぜえええ!!」


ゴシャア!!という馬車を突き破る轟音と共に一人の男が飛び蹴りでオークを馬車の外へと吹き飛ばす。

突如飛び込んできた銀髪碧眼の男は獰猛な笑みを浮かべながら空中で態勢を立て直し綺麗に着地した。その手には何故かひしゃげたフライパンが握られている。


「おお、丁度良いところにピッタリオークが三体いるじゃないか。探す手間が省けたぜ」


突然の襲撃に残りの二体が後退する。本能で男の異常性を感じ取ったのだろう、男の挙動に気を配りながら態勢を整える。

反対に男はオークから視線を外して目を丸くして自分を見ているリリアに近づく。迫っていた理不尽な死を覆した男はリリアに優しく語りかけた。


「お嬢ちゃん、あとでお茶でも一緒にいかがかな?」


「え……、あ……?」


場違いな問いかけにリリアの混乱はより一層その色を濃くする。そんなリリアの心境を知ってか知らずか銀髪の男はフライパンを持っていない左手でリリアの頭を優しく撫でた。


「大丈夫だ。俺があの悪いモンスターたちをやっつけるから、それが終わったら街でお茶にしよう」


男が二カッと笑う。その裏表のない子供のような微笑にリリアはどこか安心感を覚えた。

不思議な人間だ。やっていることも言っていることも滅茶苦茶で支離滅裂なのにどこか信頼出来る。

ーーーそれに知らないとはいえ『こんな自分』に優しく接してくれた人は初めてだった。


「つー訳だブタ野郎共。外の死んでた男たちに関してはどうでもいいがこのお嬢ちゃんに手をあげようとしたのは紳士として見過ごせねえ。このカイルが天誅を下してやるぜ!」


カイルと名乗った男がフライパンを片手に宣言する。その強い気迫と鋭い眼光に気圧されオークたちは後ろへと後ずさった。


「じゃあ、ちょっくらぶっ飛ばしてくる」


「あ……待って!」


「んあ?」


オークたちを始末すべくフライパンを構えたカイルをリリアが呼び止めた。どこか躊躇いを含んだ表情でカイルに何かを伝えようとしている。


「えっと……、が、頑張って」


それは小さな声だった。でもその言葉はしっかりとカイルの耳に届き、彼のやる気と益荒男ゲージを上昇させる。


「ハハッ、そんな風に応援されたらもう頑張っちゃうしかないな」


ヘラヘラと笑う銀髪の少年からは緊張感というものを全く感じない。

カイルはひとしきり笑ったあと、オークたちに向き直し剣の切っ先を突きつけるようにフライパンを前に出した。


「ラッキーだなオーク共。お前たちの死因は撲殺から刺殺に変更だ。精々抵抗するといいよ、……出来るならな」


変換(チェンジ)』、と呟く。

それを合図にフライパンだった鉄の塊はその形を失い、まるで生き物のように蠢き変形していく。生き物のように自在に形を変えていた金属は棒状に伸びてその先端で三つに分かれた。

その形状は食器のフォークを連想させる。勿論、食事用の物とは違って武器として使いやすいように色々と加工はされているようだが……。


「ふむ、こんなもんでいいか。物質変換はめっちゃ魔力使うからあまりやりたくないんだけど、今日は大サービスだ」


フライパンから生成された槍の調子を確かめながらカイルがオークを見据える。両者の距離は三メートルという短く、どちらかが一歩でも踏み出せばそれだけで攻撃範囲へと届く。


「グオオオオオ!!」


先手を取ったのはオークだった。一歩前進してカイルを撲殺すべく棍棒を振りかぶる。

しかし、それが届くより前に槍がオークの胸部へと突き刺さった。


「ピギィィィィィイイイイ!!」


オークの絶叫が木霊する。苦痛に歪んだオークのブタ顔からはダラダラと涎が垂れ、さらに醜悪なものとなり見るものに嫌悪感を与える。


「一匹目、完了」


ドサリと崩れ落ちるオーク。仲間の死に怒りを感じたもう片方がすかさずカイルに襲いかかるが、カイルは鉄の槍をオークの足元目掛けて思いっきり薙ぎ払いオークのバランスを崩す。

予想外の足元への攻撃にオークは受け身すら取れない状態で馬車の床に転がった。


「ブギャッ」


背中を強打して短く悲鳴をあげたオークにすかさずカイルが距離を詰める。そして倒れ込んでいるオークを見下ろし、ニタァと口元を歪めて嗤った。


「さよなライオン☆」


体重を乗せたカイルの右足がオークの首に落ちる。

べキィッ、と骨を砕く音と同時に首は変な方向へと曲がり、オークは悲鳴すら出せずに昇天した。

その死に様を見届けた後、始めに蹴り飛ばしたオークに止めを刺すべく馬車から降りる。

頭を強打したのか、未だに地面で伸びていたオークの腹に槍を深く突き刺し、オークはそのまま目を覚ますことなく永眠した。


「まあ、一丁あがりだな」


こうしてたった数十秒の間に戦いは終結したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ