Blade:19
賑わう街の中を姫様と共に歩く。
男の俺と女の姫様では歩く歩幅が全然違うのでそれに気をつけながら歩かなくてはいけない。ふう、護衛というのもなかなか大変だな。
「ごめんなさい、カイル様。私歩くのが遅くて……」
申し訳なさそうに目尻を下げる姫様。
ああ、やっぱり歩幅を合わせているのバレていたか。さすがに男と女という体格の差で分かっちゃうのだろう。俺もまだまだだな。
「大丈夫ですよ、姫様。こんなの俺にとっては苦でもなんでもないですから。姫様はそんなこと気にしないでいいんですよ?……それとも俺と一緒ではつまらないですか?」
フォローを入れつつ、話を逸らす。
これでつまらないなんて言われたら普通に泣けるな。
「そんなことあるわけないです!私はカイル様とこうして街を歩けるのがとても楽しいですよ」
必死に俺の言葉を否定する姫様。
それが社交辞令なのかどうかは分からないが取り敢えず今は素直にその言葉を受け取っておくとしよう。
「なら、そんなこと気にしないでもっと楽しみましょうよ、折角の町内探索が勿体無いですよ?」
「……カイル様は優しいのですね」
「ええ、美しい女性には特に」
「まあ。ふふっ……」
軽口と一緒にスマイルも忘れない。
これで少しは元気が出たかな?
「ところでカイル様、私を『姫』と呼ぶのはやめませんか?誰かに聞かれるとバレてしまうかもしれませんし……」
確かに街の中だから誰が会話を聞いているか分からないからな。
「では、なんとお呼びすれば宜しいでしょうか?」
「『フィア』と呼んでください。私も『カイル君』とお呼びしますので」
「わかりました。ではフィアさ「敬語もダメですよ、カイル君♩」……分かったよ、フィア」
渋々口調を普段通りに戻す。うーん、どうやら完全に会話の主導権を握られているな、こりゃ。
「はい、合格です。では行きましょうか、カイル君♩」
姫……フィアに腕を引っ張られ、俺は前へと進み出した。
*
大通りの露店を談笑しながらフィアと周る。
誰かと一緒に露店を周るというのが新鮮らしく、フィアの顔からは笑みが絶えない。よかった、どうやら楽しんで貰えているようだな。
「カイル君!次はあれをやってみませんか?」
「はいはい、分かったから引っ張るなって」
フィアに連れられたのはオモチャの拳銃を使って台の上に置かれた景品を倒す的当ての露店だった。前世でいう射的とよく似ている。
「おっ、カイルじゃねえか!聞いたぜ、竜を倒したんだろ?お前もただナンパしているだけじゃなかったんだな!」
知り合いの酒屋のおっちゃんが的当ての露店の店番をしていた。なんでこの人は昼間からこんなことしてるんだ。
「おっちゃん。酒屋はどうした、酒屋は」
「ふっ、男ってヤツはよ。たまにこういうのもやりたくなるのさ」
なんか『言ってやったぜ』みたいな凄いドヤ顔してるけど、全然わけわかんねぇし。てか、ヒゲ濃いなぁ。
「ところでどうだ?今なら一回200Gのところを100Gでやらせてやるぜ?」
「わぁ、ホントですか!?」
隣で物珍しいそうに露店を眺めていたフィアがおっちゃんの言葉に反応する。完全にやる気満々だな。
「うん?おっ。カイルお前、こりゃまたかなりの別嬪さん連れているじゃねえか!シェオルちゃんに言いつけるぞ」
「それだけは止めてくれ、また鞭の跡が増える!」
すでにこの数日だけで俺の背中の痣は五十を超えている。これ以上打たれたら本当に新たな性癖に目覚めてしまいそうだ。
「がはは、しゃあねえな。シェオルちゃんには黙っといてやるよ、感謝しろよ?」
「ああ、恩に着るよ」
本当に助かる。色んな意味で。
「あの……そろそろやってみたいのですが」
「おう、悪いな嬢ちゃん。どれでも好きなのを使っていいぜ?」
「はい!ありがとうございます!」
フィアはおっちゃんに金を渡して並べられた拳銃の中で純白の拳銃を手に取り、それに渡された三つのゴム弾の内一つをリボルバーに装填する。
「カイル君、見ていてくださいね!」
「ちゃんと見てるよ」
一度振り返って俺が見ているのを確認したあとフィアは景品が乗っている台に視線を戻す。なんか呼び方を変えてからさらに雰囲気が変わったな、なんかおしとやかだった彼女がかなり活発になったように感じる。もしかしたらこっちの方が彼女の『素』なのかもしれないな。
「うん、これに決めました!」
どうやら狙いを最上段の青いリボンにしたらしい。片目を瞑って必死にリボンに狙いを定めている。
「えいっ!」
一発目はリボンの遥か上を通過して下に落ちた。完全に失敗だな。
「つ、次は当てます!」
気を取り直してニ発目を撃つ。今度は命中はしたものの、当たった場所が悪かったのか落ちるまではいかなかった。
「そんなぁ……」
意気消沈するフィア。当たったのに落ちなかったのがショックだったらしい。
しょうがない、ちょっと手伝ってあげるとしますか。
「ほら、もっとよく狙いを定めて撃つんだよ」
後ろからフィアの手を取り、オモチャの拳銃を構えさせる。フィアの手に触れた時、小さく悲鳴を洩らしたが気にしないようにしよう。多分理由を聞いても俺が傷つくだけだ。
「しっかり狙いを定めて……今だ!」
「えいっ!」
俺の合図とともに引き金が引かれてゴム弾が銃口から飛び出す。
ゴム弾は吸い込まれるようにリボンに命中して下に落とした。
「あっ、やった。やりましたよ、カイル君!」
「ああ、やったな」
こんなに喜んでくれるとこちらも自然に笑顔になってくる。
おっちゃんは少し困ったように頭をかきながら景品のリボンをフィアに渡した。
「うーん、こうも簡単に取られるとはな……、これじゃあ商売あがったりだ」
「悪いなおっちゃん。貰ってくぜ」
「ああ、こういうゲームだ。持って行きな」
「ありがとうございます、おじさま」
ペコリと頭を下げるフィア。
「いや、いいってことよ。また遊びに来てくんな」
酒屋のおっちゃんに別れを告げてその場を後にする。なんだかんだでいい人なんだよな、まあおっちゃんに限らずここの街の人はみんなそうなんだが。
「ふふっ、可愛いですね、このリボン」
「付けてやろうか?」
「あっ、ではお願いします」
俺にリボンを渡して横を向くフィア。うお、今まで意識してなかったから気づかなかったけどフィアの胸かなり大きくないか?これはもしかしたらイリーナを超えたんじゃね?
「カイル君?」
「……あぁ、今着けるよ」
立派な果実に気を取られて一瞬反応が遅れた。そんな俺を訝しむようにフィアが見つめる。マズイマズイ、姫の胸をガン見してたなんてバレたら下手すりゃこの王国の国民を敵に回すことになる。
「ほら、出来たぞ」
リボンをフィアに着ける。途中で何度もフィアのおっぱいをチラ見してしまったのは男として仕方のないことだと思う。許せ国民のみんな。
「ありがとうございます、カイル君。どうですか、私に似合います?」
「ああ、とても似合っているよ」
青色のリボンはフィアの栗色の髪にこの上なくマッチしてその美しさを際立たせた。
「ふふっ♩では次の露店を見に行きましょう?」
フィアが俺の腕に自らの腕を絡ませる。柔らかいモノが腕に当たって自由にその姿を変化させる。ぐふふ、これはまさに天国のような心地よさだ。だが相手は姫様だ、ここでこんなことをしてるってバレたら本当にヤバイんじゃないか?一応報告はしとくか。
「胸当たってるんだけど……」
「ワザと当てているんです。さっきからチラチラ見てたの分かっているんですよ?カイル君も男の子なんですね♩」
まさかの本人公認だった。
まあ、本人がいいって言っているんだからここはたっぷりと堪能しますか。
「ふふっ、的当てを手伝ってくれたお礼ですよ?こんなことをするのはカイル君が初めてなんですからね」
少し顔を赤らめてそんなことを言うフィア。
やばいやばいよ。この純情っぽいセリフは破壊力が高いな。正直、くらっときた。
「ほ、ほら、次に行きましょう。時間が無いのですから今日はたくさん楽しまないと!」
急に恥ずかしくなったのか俺を急かすフィア。恥ずかしいなら始めからやらなきゃいいのにと思ったが俺にとっては役得なのでまあ黙っとくとしよう。
「じゃあ、次はあの店に行くか」
「はい!」
二人、腕を組んで寄り添いながら露店周りを再開する。どうやらこのお忍びデートはまだまだ続きそうだ。




