Blade:16
シオンたちが下がったのを確認した俺は〈黒焔の裁剣〉を握り直して〈地竜〉に向かって一人駆け出した。
「グガアアアァアァァァァァアアア!!」
地を這うように体制を低くし、疾走する俺を敵と認識した〈地竜〉が次々と火炎を発射する。
がむしゃらに撃ち出されるそれを避けながらスピードを落とすことなくひたすら足を動かす。
『カイル、右に跳んで!』
「 あいよ!」
シェオルからの指示を得て右に跳ぶ。
その直後、俺が走っていたルートに灼熱の熱線が通過した。熱線は地面を砕いて一直線にその跡を残す。まるでレーザーのようだ。
少し避けるタイミングが遅かったら真っ黒焦げになっているところだっただろう。
『気をつけなさい。いくら強化してるとはいえあなたは人間なのだから当たると大怪我じゃ済まないわよ』
「ああ、分かってるよ。シオンたちが見てるんだ、無様な姿は晒せないしな」
折角カッコつけて出てきたというのに即黒焦げとかダサいにも程がある。
「うおおおおおおお!」
次々と飛来する火球を切り裂いて進む。
連発される火球はどれもそこまで大きさはなく威力もショボいので余裕で捌ける。
まったく、奴は俺を嘗めてないか?
さっきみたいなデカイの撃ってこないなら俺を倒そうなんてまず無理だぜ?……まあ、デカイの撃ってきても無理だけどな。
ハッハー、このカイル様の前に跪くがいい。でも跪くってこいつ膝あるのか?……まあ、どうでもいいか。
「天井に張り付くとか、竜というよりもカメレオンだな」
でもその割に体の表面はゴツゴツしてるし、火も吹くし……ってどんなカメレオンだよ。ったく。
「ーーーでも、そろそろいいんじゃないか、シェオルさん?」
『ええ、ここからならあの子たちを巻き込むことは無いわね。私もあんな醜悪なものを見ていたくはないし』
「あ、そうすか」
醜悪って……なんか酷い言い草だな、可哀想に。
うん。とりあえず、さっさと倒しちゃおう、あいつのためにも。"アレ"の許可も得たことだし、久し振りに一丁派手に決めてやりますかね。
手にしている〈黒焔の裁剣〉を頭上高く掲げる。必要なのは集中力。今回はイリーナたちが居るから下手に放つと危ないからな、よく気をつけないと。
「ーー第一魔術拘束解放ーー」
ポツリと呟く。
その瞬間、俺を中心に大きな魔法陣が形成され、この薄暗い中で焔のように揺らめきながら黒い光を放つ。
魔法陣の中は俺の魔力で満ち溢れ、〈地竜〉の火炎も即座に吸収、魔力として分解される。
もうお前がどんなに抗ってもこれから逃れられる方法はねえよ。
「バイビー、カメレオン野郎。ーーー〈全てを焦がす漆焔の閃光〉!!!」
黒剣を振り下ろす。魔法陣の中の漆黒の魔力が剣を包み、膨張させて、そして解き放たれる闇の奔流。
黒き極光は一瞬にして〈地竜〉の巨体を呑み込み、その命を根こそぎ絡め取る。
断末魔すらあげられないほどの苦痛。
闇に蹂躙された〈地竜〉はシオンが折った一つの牙だけを残してこの世界からその存在を消した。
「ーーーとまあ、いっちょ上がりぃ」
『ええ、そうね。完全に消滅したわ』
その言葉を皮切りに手にしていた〈黒剣の裁剣〉が闇に包まれ、見慣れた黒い少女へと姿を変えた。
腕の中でシェオルを受け止めて優しく地に降ろす。
「ふふっ、こういう時は随分と丁寧なのね」
「まあな。なんたって女の子の体だからな、丁寧に扱わないと」
やけに上機嫌なシェオル。階段で会った時のような不機嫌さは微塵も感じられない。なんか良い事でもあったのか?
……まあ、彼女がご機嫌ならそれでいいか。俺への被害も減るし。
ふー、それにしても働いた働いた。
これで国王様から受けた依頼も達成したことだし、イリーナが俺のメイドになるのも時間の問題だな。ぐふふ。
さーて、騎士団の連中を連れてさっさと王国まで帰るとしますかね。




