Blade:15
「着いた。……ここが最下層か」
新たにシェオルが加わりパーティー内戦力が大幅に増幅した俺たちは、遂にあのバカみたいに長かった階段を下り終えて最下層にあった神殿のような建物のところまでたどり着いた。
「まあ、お約束ではここに〈地竜〉がいるはずなんだけどな……」
「カイル、あれじゃないかしら?」
シェオルが前方に向けて指を差す。
示された遥か先にはトカゲのような細長い体に牙をむき出しにした怪物が天井に張り付きながらギロリと俺たちを見ていた。
間違いない、あれが依頼の〈地竜〉だろう。
「うわぁ、本当にここに居るとは……。これなんてご都合主義?」
「そんなこと言っている場合か!早く戦闘態勢に入れ、バカ者!」
バシンと頭をイリーナに引っ叩かれる。
うげっ、叩くな。痛いだろ!
「まったく、ツッコミはもっと優しくしろよな。……シェオル、頼むわ」
「分かったわ。くれぐれも油断しないようにね」
「りょーかい。じゃあ、いっちょひと暴れしますかね!」
差し出されたシェオルの手を紋章が浮かぶ左手で握りしめる。
するとシェオルの体は深淵の闇に包まれ、一振りの漆黒の大剣へとその姿を変えた。
「お、お前、それは!?」
その一部始終を見ていたイリーナがギョッとした表情を浮かべる。ついでにシオンとレスタの二人も目をまん丸に見開いて驚愕していた。
そういや、まだこいつらには説明してなかったな。
「ん?ああ、言ってなかったけ?シェオルは俺の契約精霊なんだよ」
「そんなことは聞いてない!なぜお前が精霊を使役出来る?しかも魔剣精霊なんて最上級クラスの精霊を!?」
やけに動揺し始めるイリーナ。おいおい、人には戦闘態勢に入れって言うくせに自分はどうなんだよ?
「そんなことよりちゃんと前を向け。来るぞ!」
「ふぇ?」
ガギンッ!
イリーナに放たれた火球を〈黒焔の裁剣〉で弾く。無理やり軌道を変えられた火球は俺たちの遥か後方まで飛んでいき、柱に衝突して爆ぜた。
やれやれ、目を離すと危なっかしくて仕方ないなこいつは。
「大丈夫か?しっかりしろよ、相手は一応竜種なんだからな」
どう見てもカメレオンに翼が生えたようにしか見えないけど。こんなのが竜種に含まれるなんて世も末だな。
「あ……ああ、すまない。助かった」
「……それで感謝しているつもりなのか?」
「はぁ、ちゃんと感謝しているが……?」
「本当に感謝してるってんなら胸を揉ませろ」
「なぁ!?」
イリーナの顔が真っ赤に染まる。ぐふふ、可愛いやつだ。そんな顔をされると本当にしたくなる。
「カイル様、胸が揉みたいんでしたら私のをどうぞ!ちょっと小さいですがきっとカイル様を満足させてみせます!」
会話を聞いていたシオンにグイグイと迫られる。軽口のつもりだったのだがこんなことになるとは……。なぜこの子はこんなにも俺に積極的なのだろうか?
まあでも本人から許可が出たしな、この機会を逃すのは惜しい。
「じゃあ、後で揉ませてもらおうかな?」
「は、はい!初めてなんで優しくお願いします……」
もじもじと顔を赤らめるシオン。萌えエエエエエエエ!!
「お前たちはこんな時になんて破廉恥なことを言ってるんだ!」
『その通りよ、カイル。あの竜より先にあなたを消炭にしてあげましょうか?』
その時、握っている〈黒焔の裁剣〉から火柱が上がった。うおおお、焦げる!
「すみません、シェオル様あああ!俺が悪かったですうううううう!!」
『ふーん、本当にそう思っているのかしらね?』
ゴバァッ!と火柱の火力が上がり火の粉が飛び散る。ぎゃああ!アチチチチチチッ!!
「はい!すみません、すみません!反省してます!」
『ふぅ、まあいいわ。特別許してあげる』
「あ、ありがとうございます、シェオル様!!」
握っている剣に向けてペコペコと頭を下げる俺。イリーナ達からの視線がとても痛い。
くそ、シェオルがいるからセクハラも出来やしない。今度シオンと二人っきりの時にもう一度頼んでみよう。
「また来ますよ、カイル殿!」
今回最高潮に影が薄いレスタが叫ぶ。あっ、そういえば居たんだよなお前。……って、おい。なんだあのバカデカイ火球は!さっきの五倍ぐらいあるぞ!!
「カイル様、ここは私が行きます!」
シオンが腰のホルダーに入れていた一丁の拳銃を取り出す。ん?なんかあの銃見たことがあるぞ?
不思議そうにその銃を凝視している俺にイリーナがまるで自分のことのように誇らしげに説明を始めた。
「あれは〈紫電咆哮銃〉と言ってな、あの有名な〈機巧式魔術武装〉の一つらしい。ウチの騎士団で〈機巧式魔術武装〉を持っているのはシオンだけだからな、その破壊力は折り紙付きだ」
なるほど、俺が作ったのだったのか。どおりで見たことあるはずだ。
だけど、シオンはあれをどうやって手に入れたんだ?それなりの値段をつけているつもりだし、王国の騎士とはいえすぐに手が出せるような代物じゃない。
「シオンはあれを父君から頂いたらしいぞ、なんでも騎士になった祝いだとか……。お前も知っているだろう?ダルキウス伯爵の名を、彼女は伯爵の大事な一人娘なのだよ」
ダルキウス伯爵?……ああ!二年前に来たあの人が良さそうなおっさんね!
俺が珍しくアインに頼みこんで作って貰った銃型の〈機巧式魔術武装〉を譲ってくれって言ってたおっさん。
娘にプレゼントするって言ってたから俺が『こんな銃よりも他の物がいいんじゃない?』って勧めても頑固として聞かなかったから結局渋々売ったけど……。まさか、その娘が騎士団員だったとは、以外と世界って狭いのかもな。
「〈紫電咆哮銃〉、シュート!!」
ドォン!!
引き金と同時に銃口から雷撃の槍が放たれる。
それはあの大きい火球をやすやすと弾け飛ばし、その勢いを落とすことなく〈地竜〉へと直撃した。
「や、やりました!やりましたよ、カイル様」
「…………いや、まだだ」
「えっ……?」
確かに命中はした。……だが、
「グオォオオオォォォオオオ!!」
〈地竜〉が怒りの咆哮をあげる。
〈紫電咆哮銃〉の破壊力を以てしても奴の牙を削ぐのが限界だった。
「そ、そんな。直撃したのに……」
ガックリと落ち込むシオン。
〈紫電咆哮銃〉に絶大の信頼を寄せていたのだろう、その一撃が〈地竜〉を倒すまでに至らなかったことに彼女の顔に驚愕と少しの悔しさが滲む。
「すみません、カイル様。倒すことは出来ませんでした……」
「いや、飛んでいる火球を撃ち抜いて竜にまで命中させるなんて凄いことだと俺は思うぞ?相手は竜なんだから一撃で倒すのは無理だよ。だからシオンはよくやった」
労いの意味を込めてシオンの頭を撫でてやる。てか竜を目の前にしてずいぶんと余裕だな、俺たち。
「えへへ、……カイル様ぁ」
気持ち良さそうに目を細めるシオン。猫みたいな仕草にちょっと和む。
さて、和んだことだしそろそろ真面目にぶっ倒しますかね?
「イリーナ、シオン、それにレスタも下がっていろ。あれは俺とシェオルだけで倒す」
「はぁっ?なにバカなことを言ってんだお前は。相手は竜だぞ、自分が何言っているのか分かっているのか!?」
「あれ、心配してくれるの?」
ニヤニヤと笑う。イリーナもやっとデレ始めてきたな。
「っ!そんなバカなことがあるか!さっさと行け、変態が!」
なんともストレートな罵声。
デレたと思ったらまたこれだ。ツンも程々にしておけよな、まったく。
「ハイハイ、そうさせていただきますよっと」
「カイル様!頑張ってください!」
シオンから声援が送られる。うむうむ、ホントにシオンは素直で可愛いな。誰かさんとは大違いだぜ。
「応よ、見てろよ。一瞬でぶっ飛ばしてやるからな」
「ハイ!」
さて、シオンの期待に応えるためにも頑張りますかね!




