Blade:10
「依頼書を提出しようとしたのだが、パーティー名を決めてなかった。どうする?」
カウンターから踵を返して戻ってきたイリーナが依頼書を広げる。
なるほど、確かにパーティー名のところだけ空欄になっているな。
「私の独断で決めても良かったのだが、あとあと文句を言われても困るからな。ここにいる全員からの異論が出ないようにみんなで決めようと思う」
律儀だな。そんなの適当に決めておいていいのに。
まあ、それがこいつの美点でもあるんだけどな。ふっ、可愛いやつだ。
「貴様から何やら不快な視線を感じるのだが……」
「気のせいだ」
「……まあいい。ではパーティー名を決める上でなにか良い案がある者はいるか?」
一気に黙り始める俺たち。そんないきなり決めろというのも無茶な話だよな。
「あ……はい」
その沈黙を破ったのはシオンだった。控えめに手をあげる姿がどこかアインと似ている。
「むっ。シオン、なんか良い案があるのか?」
「私は今回のリーダーであるカイル様に決めて欲しいと思います」
うん?俺にか?
俺に決めてほしいという案を耳にしてイリーナが過剰に反応する。
「ちょっと待つんだシオン!この男に決めさせたらロクなことにならないぞ!!レスタ、お前からもなんか言ってやれ!」
「私もカイル殿が決めるという案に異存はありません」
「お前もか、レスタ!!」
まさかのレスタにも裏切られたイリーナ。
てかレスタお前、イリーナを弄って楽しんでいるだろ。
フッ、いいだろう。ならばこの流れ、断ち切るわけにはいかんな!!
「じゃあ、『ロリコンバスターズ』で」
「早速頭の悪いパーティー名が出てきた!だからこの男に決めさせるのは嫌だったんだ!」
一人嘆くイリーナ。
こいつも俺を相手にしてよく頑張るね。その不屈の闘志だけは褒めてやろう。だが、俺には遠く及ばないぞ?
「私はカイル様がその名前にしたいなら別に構いません!」
「シオン、お前どうしたんだ!?いい加減目を覚ませ!!」
イリーナがガクガクとシオンの肩を揺らす。しかし当のシオンはさっきから俺の顔を見ては俺と目が合いそうになると慌てて逸らすという不思議行動真っ最中なのでイリーナのことはガン無視である。哀れイリーナ。
「私もそれでいいですよ。別に案があるわけではないですし」
「レスタまで……。なんでお前らは今日に限ってこんなにもこいつに積極的なんだ!」
「おーい、書いたから出してくるわー」
騎士団の連中がじゃれている間に依頼書のパーティー名の欄に『ロリコンバスターズ』と書く俺。結成数秒にしてパーティー『ロリコンバスターズ』は若干一名を除き見事な連携をとっていた。
「ちょっと待て!本当にそれで出す気か!?やめろ、やめてくれ!」
「やーだよん♩」
カウンターに向けてダッシュする。まるで体が風になったかのように軽く、スームズに人混みを掻き分け、カウンターのお姉さんにその紙を提出した。
こうして『ロリコンバスターズ』は一名の反対もあったが、無事に正式にパーティー名として登録されたのだった。めでたしめでたし。
*
パーティー結成後、俺たち『ロリコンバスターズ』は当初の目的である〈地竜〉を討伐すべくセウスバルト王国の近くの森の中を進んでいた。
「うぅ……。こんな酷い名前のパーティーになるとは。ガルド様になんて言い訳すれば……」
「いつまで言ってんだ。細かいことばかり気にしてるとハゲるぞ?」
「誰のせいでこんなふざけたパーティー名になったと思っている!?」
「勿論、俺のおかげだ!」
「死ね!!」
むう、ご機嫌斜めだな。
仕方ない、イリーナはほっといてシオンを構ってやるか。
「シオン」
「はい!なんですか、カイル様?」
「森の中は道が悪かったりして疲れるだろう?疲れたら遠慮なく俺に言うんだよ。俺が負ぶってあげるから」
「ふぇっ!?そ、そんな……。でもそうしたらカイル様が……」
「俺は大丈夫だからさ、ホントに遠慮しないで言うんだよ?」
ホントに仕草の一つ一つがアインと重なる。実は姉妹だったとかいうオチじゃないだろうな?
「カイル様は何故こんなにも私に優しくしてくださるのですか?」
期待を籠めた瞳で俺を見つめるシオン。
「シオンが俺の妹に似ているんだよ。まあ本当の妹ではないんだけどね」
それにアインには実の兄貴がいるしな。最近は忙しくてずっと会ってないけど。
「妹……ですか」
その瞬間シオンの目付きが変わった。パッと見ただけでは分からないだろうけど、何故かその雰囲気からはどこか怒気のようなものを感じる。どうしたんだ、いきなり?
「……その子は可愛いんですか?」
「ああ、可愛いよ」
そりゃもう天使のようにね!アインは俺の心のオアシスだからな。
「じゃ、じゃあ私とその子、どっちが可愛いですか!?」
顔を真っ赤にしてシオンが叫ぶ。
ふむ、難しいな。どっちが可愛いと聞かれたらどっちも可愛い。そこに優劣はつけることは出来ない。
しかし、そんな答えでシオンが納得するわけもないし、仕方ない。ちょっとズルいが奥の手だ。
腕を伸ばしシオンの小さい体を抱きしめる。
「か、カイル様!?」
「今、こうやって慌てている君のほうが可愛いかな?」
「カイル様ったら、もう……」
不満が残っているが今回はこれで納得してくれたらしい。よかったよかった。
「……またあいつは人の部下にちょっかい出して」
「団長も羨ましいならもっと素直になったらどうです?」
「ふんっ!何を馬鹿なことを言ってるんだ。私があんな男に抱きしめられて嬉しいわけがないだろ!!」
プンプンと見るからに不愉快だ、といった感じで俺の横を過ぎ去り前へ進むイリーナ。後ろでレスタになにか言われたのか?
「はぁ……。やれやれ、これは先が長そうですね」
レスタが疲れたようにため息をつきながら俺の横まで追いつく。確かにまだ〈地竜〉っぽい奴とは遭遇していない。
「ああ、〈地竜〉らしき気配はしないしな」
俺がレスタの意見に同意するとなぜか微妙な顔をされた。
なんだよ、その目は。なんか違うこと言ったか俺は?
「そういうわけではないんですが……」
「ん?じゃあどういうことだよ?」
レスタは一瞬俺の顔を見ながら考えこんだあと、
「……まあそれは本人同士の問題ですし、私が口を出すのも野暮ってものでしょう」
と、言って詳しくは教えてくれなかった。なんだったんだ一体?
「カイル様って鈍感なのかも……」
その頃、俺の腕の中ではシオンがなにやらポツリと呟いていたが、俺がそれに気づくことはなかった。




