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白髭を触りながら、校長のグヴィルは怪訝な目つきを隠す気も無い。
僕の横に立つのは、木製の義肢を手脚に付けた、頭に黒い布をすっぽり覆った、傍から見れば人の形をした何かでしかない。
「……顔を見せてくれ」
彼女が布を持ち上げる。それを見ても、校長は一応無表情を貫く。
「彼女は近衛兵の管轄下にあります。有事の際は私モスウッドが対処します」
彼女の更に横、モスウッドが礼をする。今日もスーツだ。
「……君は本当に、厄介の種だね」
「ははは」
校長の前の机には、これまた布の袋。まぁどうせ金だ。よくもまぁ、そんな大金がポンポン出てくるものだ。モスウッドのお金では無いだろうけど。
「この金は受け取れない」
「…………ほう」
「金の為に学校をやっていることは否定しないが、そんな意味の分からない金は受け取れない」
「では、入学は許可出来ないと?」
「…………」
校長は彼女を見つめる。彼女は何故かダブルピースをする。
「……入学は許可する。この金は受け取れない」
校長が手で押そうとした袋を、モスウッドが反対から押して止める。
「いいえ校長。入学を許可する以上、これは受け取って貰います」
「要らん。そんな物が無いと動かない程、私は落ちぶれていない」
「校長。これはお金です」
「知っておる。だから要らんのだ」
「誤解をされているようなので、私から言わせてもらいます。これは彼女を認めるという責任の証です。お金は責任なんです」
「…………」
——————
『学校に行かせる?』
『はい。魔王の疑いのある彼女を社会の下に置くことで、彼女についてより多くの人間が触れる機会を設けます』
まぁ、ずっとこの家の中だけで居た所で、彼女に進展がないのは事実だ。発話の難しい状態だし、何より発言に信憑性を持たせられない。
『一部では、彼女を魔王として処刑する事で、事態を収束させようとする意見もあります』
『は?』
思わず立ち上がってしまう。すぐに取り繕って座る。
『落ち着いてください。既に却下されています』
『……ただ、それが否定される理由が分からない。僕の心情はどうあれ、それはありでは?』
『そうでもありませんよ。魔王が居るという前提で動いていた社会ですから。冒険者も、街も、外交もそうです』
『勇者ってのは名ばかりなのか?』
『もちろん』
ムッとする。僕への配慮も無しに、モスウッドは続ける。
『それまでの冒険者は、魔王城に入ることさえ出来なかったのです。勇者リヒトが魔王を討伐したのか、魔王を見た彼が死んでしまっては、確認のしようがない』
『彼女も見たって……』
発言を真として受け取ってないんだった。口を閉じる。魔王城は今も調査が進められているらしい。城の解体、土地の利用を巡る外交。既に問題は沢山出てきた所だ。
——————
渋々というように、校長が袋を受け取った。校長も彼女の話を聞かされた以上、下手に下がると何をされるかは分からない。こういう情報の押し売りと、聞いたからには契約をさせる脅迫を、国がやっていいのか。
モスウッドは契約書まで出す。一連の流れを終え、モスウッドが退席する。
「全く」
「僕が主導では無いですよ」
「分かっておる。だがまぁ、魔導書における魔法学生徒の普及で、こちらも恩があるのは事実だ」
「なんか、すいません」
「フゥ。だったかな。健全な学校生活を送ってくれることを期待しているよ」
名前を呼ばれて、彼女、フゥはまたダブルピースをする。名前は自分を呼ぶ時にフゥと言ったからそう登録した。ダブルピースは知らない。どこで覚えたんだ。
「学科について、そっちで説明は」
「はい。選択は聞いていませんが」
この学校は、この国で必要な資格を取ることを目的とした訓練校だ。
主に剣士や魔法使い等の冒険者証。
薬学を始めとした各学問の研究者証。
土木や鍛治などの技術者証。
等がある。それ以外もあるが、この三種類の学科に入る人が多い。この3つは仕事をする上で必要になる事が多いからだ。
その一覧表の中を、校長が机に広げる。フゥはそれを見て指を指した。冒険者証の魔法学科だ。
「は?」
「そうか」
「フゥ。ここでいいのか?」
フゥはうんうんと頷く。
「ここは魔法で人と戦う場所だぞ?そんな……」
「この子がそこが良いと言うんだ。無理なら後で変更すれば良いではないか」
「そうですけど」
僕が何処か、そう考えてた事があったのは事実だけれど、だからと言ってそう誘導したつもりは一切ない。
もっと薬学とか、研究の方が安全では無いか?
……そういうのも、僕の押しつけになるか。それでも、理由位は聞いておきたい。紙とペンを取り出して机に出す。
「フゥ、文字の練習だ。何故冒険者証を取りたいんだ?」
フゥがペンをとる。ゆっくり、まだ汚い字で紙に書いた。
"まおうじょう"
魔王城に、行きたいという事か。いやでも、それなら他の手段も……
「まぁ、義肢の使い方を覚えるという意味でも、戦闘は意味があるであろう」
僕の考えを見越したのか、校長が言う。分かってはいる。ただ僕が心配なだけだ。
フゥが意気込むようにサムズアップをする。ダメだと言いたくない気持ちと不安がグルグルする。




