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頭を完全に覆う黒い布。黒を基調とした学生用制服。そこから見える木製の義肢。教本などの冊子を入れている、背負うタイプの革の鞄。
いや、自分でも薄々感じていた。でもどこかで愛着が勝って見えてなかったかもしれない。
今こうして校内を歩く彼女を見る学生の目が、それを物語っている。
「なにあれ」
「どこかの宗派?」
「怖」
「前見えてるの?」
すれ違う人は立ち止まるし、遠目で見てる人は指を指す。それに対してフゥはと言えば、ただ目的地に真っ直ぐ歩いている。
「先生!久しぶり!」
呼ばれて横を見る。女生徒のイグリアが寄ってくる。
「何なんですか?あの子」
「やっぱ、やばいよな」
「やばい。本当に学校の生徒なんですか?」
「あぁ、それは間違いない」
当然ながら、イグリアはフゥが俺と関係があるとは知らない。面白いので、何より素の状態の意見が聞きたいのでまだ言わない。
「どんな人だと思う?」
「えー?人なの?魔族とか……」
そこまで言ってイグリアは止める。魔族は差別用語だ。魔物っぽい人という、架空の存在を侮辱語として、割と古くから使われてる。ムムなんかが言われているのはもちろん、若者の間ではかなり軽く使われている。
イグリアが途中で止まったのに驚きだ。彼女なら普通に言い切ると思っていた。
「どうした?」
「……ううん。なんでもない」
こうなると、今は下手にフゥが僕と関係があると言わない方がいい気もするが、ここで言わないとそれはそれでめんどくさい。
「あの子は、僕の家から通ってるんだ」
「え?」
「引き取った子なんだよ。で、こうして通わせてる。もし機会があれば、喋りかけてやってくれ」
「…………あの頭は、やめた方がいいかも」
「僕も言ったんだけどね」
とはいえ、仮面や前面だけのベールなどで済むレベルでは無い。髪の毛も無ければ、首まで見えてる部分に皮膚は無い。
「……へぇ、先生の」
そう小さく呟いて、イグリアはまた顔をあげる。
「じゃあね先生」
手を振って見送る。あーいう年頃の女の子は難しい。嫁ぎ先がまだ決まってない自由なうちくらい、同い年の男の子と仲良くすればいいのにと思う。
働く前に校長が、しつこく小児性愛が無いか聞いてきたのも、今なら納得できる。
とはいえここは、あくまでも訓練校。同じ年代の人を集めている訳では無い。各々が必要な時に来て、目的を果たしてら出ていく場所だ。
教室に入り、教卓の前に行く。並んだ席にバラバラに座っている生徒は、性別や年代も微妙に違う。半分近くは初めて見る子だ。それでも全員がこの学校の制服を着ている。数は12人。もちろん、フゥも含めて。
「はい、じゃあ今日のこの教室の授業は、現在の冒険者ギルドの方針から……」
「シャッテン先生!」
高らかと声をあげるのは、ギルバート家のヴェイルだ。代々魔法使いの家系で、ヴェイルはギルバート家の歴史の中でも上位の才能を誇る。らしい。
「どうした?」
「初心者さんが多いみたいなんで、もっと初心者さん向けの授業に変えてもいいのでは?」
他の生徒はキョロキョロしたり、面倒くさそうに下を見たり。
「私は別に、先生のお好きなようにしてください」
教本を読みながら、ロズベールは次のページをめくる。
「僕も別に大丈夫ですよー。何やるんですか?」
ミロンドが姿勢を正しながら言う。反対意見が出てこないし、実際にヴェイルの意見には、僕も賛成だ。
「じゃあ魔法学科だし、改変魔法の説明でもしようか。お前ら、新入生が分からない所あれば教えてやってくれよ」
ハードケースから自分の魔導書を取り出し、教卓の上に出す。それを見て生徒たちも魔導書を出した。
「今日は具体的な使い方について。歴史はまた今度」
ページを開く。1度全ての魔法を外して、みんなに見えるように出す。ページには僕の名前と、その下に体の状態等が書かれている。
「これが登録直後の状態だ。もちろん魔法は何も登録していない。ヒエラルキーと呼ぶこのページに魔法を登録していく。ヒエラルキーに正しく登録した魔法は、魔導書の持ち主と紐つけられて、いつでも使えるようになる」
小さな札を生徒に配っていく。そこには文字と数字が並んでいる。
「これがプレハブ化された魔法のコード。プレハブっていうのは、魔導書に入れる事ですぐに魔法を使えるようにするためのテンプレートになる」
魔導書に札をかざす。自分の名前の下に、その文字列が浮かび上がる。
そのまま手のひらを出す。指先に神経を集中させ、小さな火を出す。ヴェイルが茶化すように感嘆の声をあげる。
「こうやって魔導書に入れることで、魔法が使えるようにる。じゃあやってみようか。既に出来てる人は、初めてやる人に教えてやってくれ」
生徒が席を立って移動して、生徒に教えていく。これを見ていると、自分が要らなくなるのも近いだろうなと感じる。
フゥを見る。腕を動かすことにまだ不慣れな彼女の横に来たのはヴェイルだ。
「上手くいかない?どれどれ……お、既に3つ入ってんじゃん」
それに数人が小さく反応する。そもそもの見た目が見た目なだけに、僕もハラハラだ。
「義肢だもんな。本の方は持っといてやるよ。ゆっくり狙って……」
ヴェイルの支援のおかげか、フゥはプレハブを入れることに成功する。義肢の手のひらから小さく火を出す事が出来た。それにヴェイルも喜ぶ。微笑ましい景色は、ヴェイルの一言で緊張が走る。
「その頭の布何?中、見してよ」
僕が1歩踏み出すのと、ヴェイルが手を伸ばすのは同時だった。僕の次の1歩の時、ヴェイルとフゥの間には大きな距離があった。2人の間には、壁と、窓がある。
「……は?」
窓越しにヴェイルが言う。フゥが転移魔法を使った。それは僕もわかる。でもフゥの場所は移動して居ない。ヴェイルの方を動かした。




