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「フゥ!!2階だったら危なかったぞ!!」
フゥは両手をあげて固まる。窓を開けて、軽々とヴェイルが室内に戻ってくる。
「2階じゃないからやったんでしょう?いやぁ驚いた」
「……たしかに。じゃあ大丈夫か」
ヴェイルは笑いながらフゥの前に立つ。
「ごめんよ。ちょっとからかってみたかったんだ。プレハブが既にあるなら、そういう時どう対処するのかって」
「それは自分の株を落としてやる事では無いだろう」
「もちろん、抵抗しないのなら見ちゃうつもりだったけど」
「…………授業に戻る」
みんなが静かになる中、ヴェイルだけは口を開く。相手はもちろんフゥだ。
「ちょっと見ちゃったけれど、確か初級水魔法と、転移魔法と、あとは多分だけど、物体操作の魔法かな?使ったのは転移魔法だよね?物体操作は義肢?もしかしてそれ、全部並列させてる?」
「ヴェイル」
「はーい」
その後は特に滞り無く授業が進む。プレハブからの外し方、整理の仕方を教えて、授業終了のチャイムが鳴った。それと同時にゾロゾロと立ち上がっては教室を出ていく。
「はーいお疲れ」
声を掛けられては半自動的にそう返す。ふと顔をあげると、フゥが居なくなっている。いや、そりゃあ自由にさせているんだから当然なのだが、それでも何か、一抹の不安が過ぎる。
「先生!!」
慌てて教室に入ってきたのはイグリアだ。息を整える間もなく言う。
「さっきの子……旧校舎で、男子と勝負するって」
「なんでだよ」
「知らないよ」
イグリアに案内されて現場に行く。旧校舎は、もとより戦闘行為の演習の為に開放されている場所だ。それ自体は違反じゃない。
旧校舎の中庭でオーディエンスが集まっている。ヒソヒソ聞こえる生徒の会話に耳を澄ませる。
「何?あの子?」
「ヴェイルの前のお気に入りは?」
「学校辞めたんじゃなかった?」
「あれ、前見えてるの?」
やっと見える位置に出る。生徒達が独自に作った場内で、フゥとヴェイルが立っている。
「おい!!」
声を張り上げると、観客は一斉に静かになった。こちらを向いたヴェイルが手を振ってくる。
「フゥちゃん、先生来たよー」
フゥがそれにつられてピースをする。なんだろう、この妙に心を抉られる感覚は。
「どうしてフゥと決闘なんかするんだ」
「どう考えても、この子は強いじゃないですか。俺には分かる。待ってたんすよ。こういう凄いやつ」
近寄ろうとする僕を、数名の体格の良い生徒が止めに入る。非常に情けないことに、僕はこの生徒に勝てない自信がある。
「大丈夫ですよ。そんな大事にはしませんから。多分」
開始のゴングが鳴らされる。構えるヴェイルに対して、フゥは棒立ちだ。風で頭の布の端が小さく揺れる。
……10秒。お互い全く動かなかったが、ヴェイルが周りに肩をすくめるポーズで舌を出す。
「仕掛ける気は無いみたい」
そのまま右手をフゥに向ける。掌から火花が上がり、火球を作り出す。それはどんどんと大きくなり、その光は日光をも遮り始める。
「なら、デカいの一撃行くぜ!対処しろよ!!フゥちゃん!!」
近くに居る生徒に怒鳴る。
「おい!本気であれぶつけるのか!?」
「まぁ、普段やってますし」
「え?まじ?」
「治癒魔法で治せばいいんで」
「はぁーー」
ヴェイルの火球が真っ直ぐ飛び出す。加速した火球は炎を撒き散らしながら、フゥに真っ直ぐ向かう。
フゥの目の前まであと半分の所で、火球が消えた。動揺する余裕は0.1秒も無い。光はまだここにある。ヴェイルの後ろだ。火球はヴェイルの背中に向かって突き進む。
「な」
衝突。爆炎。飛び散る炎の粒を、生徒達は必死に避ける。
「先生!!」
イグリアの怒号を、どこか上の空で聞いている。場内に立つフゥの頭上に飛んでくる炎の粒は、全て手回しフィルムのようにカクカクと位置を変えて、フゥに当たらない位置に移動して落ちていく。
「最高だぜ!!フゥちゃん!!」
落ち着きを見せない爆炎から、ヴェイルの声がする。感極まった叫び声が、爆炎から歩いて出てくる。ほとんど無傷のヴェイルが、楽しそうに笑っている。
「フゥちゃん。魔力が見えてるな?」
周りからのざわめき。でも実際、そうとしか思えない。
「転移魔法で飛んでくる火球を転移するなんて、パンピーが出来る芸当じゃない。しかも、あの一瞬で俺の背中にコントロールを合わせてきた」
最初の転移から、異変はあった。視線の中だけの範囲設定だったフゥは、最初から部屋の外の、見えていないキッチンまで飛んだ。明らかに座標の指定の仕方が違う。
僕の与えたのは、普通の転移魔法だ。もちろん、今までの行為は全て理論上可能ではある。だがそれは、ムムレベルの魔力容量と処理速度が無いと無理だ。
「……ねぇ、逃げた方がいいんじゃない?」
「やば、なにこれ」
生徒達が少しずつ減っていく。ヴェイルは笑顔のまま構え直す。
「楽しいなぁ!フゥちゃん!!」
フゥは分かっているのかどうか。何故かサムズアップをする。




