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村の占い師が魔王の話をしだした頃、伝令の騎士が来た。魔王と呼ばれる存在による、魔物の凶暴化が起きていると伝えに来たらしい。
『魔王って、なんだと思う?』
『魔物を統べる長でしょ』
魔王という存在自体は、前世の記憶にもある。何となくそんなものと言うのは理解してたけど、じゃあ何かと言われると難しい。
『固有名詞というより、屋号みたいなものじゃない?』
その頃の僕らは、村周辺の森や洞窟の探検を網羅し、何をしようかとただ空を見つめていた。魔物は見た事は無かったし、剣も持った事は無い。
『じゃあさ、魔物探そうぜ』
そう言い出したのは僕だった。リヒトはニヤリと笑って立ち上がる。ピアスが揺れて、中の水が跳ねる。
『村を守らないと行けないしな』
当然のように魔物は見当たらない。それでも僕らは暇になった時に、必ずこうして魔物を探した。
そうして村の外を歩き回っては、村に帰る頃には疲れ果てて眠る。
鐘の音で叩き起された。いいや、天井が落ちてきたのだ。崩れた木材が僕を叩いた。村は阿鼻叫喚に包まれていて、バラバラに逃げ惑ってる。それまで何も気付かなかった自分が怖い。
『……母さん?』
瓦礫になっている僕の家を見る。どれだけ見たって変わらない。
『ルナミス!!』
リヒトが呼んだ。聞こえているのに反応せず、僕は瓦礫を退かし出す。
『ルナミス、魔物だ。逃げよう』
『……魔物?』
リヒトの後ろ、少し遠くの建物を破壊している影が見えた。細長い胴に細長い脚、頭のような物は無く、胴の前から伸びている更に細い触手のような物が、うねりながら何かを探すように動く。
不意にその触手で、建物の柱を破壊し始め、再びうねりだす。
『立てる?』
『……』
ゆっくり立ち上がる。怪我は無い。僕の手を引いて走り出すリヒトに引っ張られる。
『待っ……』
『あっちの川でみんな避難してる!!急ごう!!』
後ろを振り返る。逃げているおばさんが一人転げる。リヒトの足は止まらない。僕は、振りほどいて助けに行く事もしなかった。
魔物の触手に貫かれて食べられるそれを、ただ前に引っ張られながら、目に焼きつけるしか無かった。
川辺の窪んだ場所で、避難してきた人で夜を明かした。僕の家族は居なくて、リヒトの家族と寄り添って朝を待った。何故か心臓がバクバク言ってて、一睡も眠れなかった。
それ以降村は放棄し、別の場所でまた畑を耕した。建物を建てて、新しい村中走り回って、身体は大きくなっていく。
壊滅した村に魔物討伐で冒険者のパーティが来たのは、それから半年後の事だった。
僕とリヒトはその話を聞きつけて、早速村だった場所に向かった。
冒険者は3人。顔を合わせるとすぐに意気投合した。僕たちが冒険者に興味津々だったのもあるだろうけど。
廃村で語り尽くす程話して、その夜に冒険者に連れて行ってもらった。洞窟の入口付近に居た魔物は、あの時より大きくなっている。
剣士が2人、魔法使いが1人。魔法使いは防壁を作る魔法を使っていた。
僕もリヒトも、最初は黙って見ていた。懐に隠した小刀を、服の上から握りしめる。
『……行こう』
リヒトがそう言った。そうしてふたりで、冒険者達の中に入っていった。こちらを向いた魔物を捉えた所で、僕の意識は途切れた。目が覚めると介抱されていて、ぼんやりする視界の中、剣士の冒険者に讃えられるリヒトを見た。
そこからの差の開きようは、本当に毎日が地獄だった。同じ家で生活していた。同じように畑仕事もした。同じように訓練もした。それなのにリヒトは、どんどんと力を上げて行った。
リヒトの励ましすら、僕にとっては苦痛だった。何時しかそれも無くなって、会話も減ってしまった。
いつものようにリヒトとリヒトの母と食事を取っている時、リヒトの母が言う。
『そういえばリヒト、冒険者の証を取ったんだっけ?』
固まるリヒト、僕をゆっくりと見る。リヒトの母も空気に気付いた。
『どうして黙ってたんだよ。というか、一緒に取りに行くって約束だろ!?』
リヒトは顔を背けた。そして小さく、ボソリと呟いた。
『…………僕は、もう十分待ったよ』
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ベッドで寝ている。記憶を辿れば、ちゃんとベッドに潜った記憶はある。その時確か、彼女を抱えたままだった。
彼女は横で仰向けになり寝転がっている。そっと顔を上げると、眼がこちらを向いた。
そういえば、瞼を閉じれないのに寝れるんだろうか。ふとそんなことを考える。
目を開けたまま寝るという感覚が、僕には分からない。
「……ごめん、起こした?」
「…………」
そもそも彼女は、眠りにつく事が出来るんだろうか。もう一度ベッドに横になる。
彼女は勇者の味方じゃない。魔王を見たと言っていたのも、嘘をついたと思う事だって出来る。
もしも彼女が魔王なら、リヒトを殺した事になる。
自分の中でも、どういう感情か分からない物が蠢いている。リヒトが死んだ事そのものが悲しいとは、どうしても思えない。そんな自分の心の中の方が、よっぽど魔物に近いかもしれない。




