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久しぶりにプレハブ化の設計図面を開く。白紙の紙を睨んでは、頭の中で渦を巻く空を掴んで手放す。
自分が使う魔法ですら手一杯なのに、人が使う義肢専門の魔法と言うのはハードルが高い。
「……何からやればいいと思う?」
横で掃除しているフローラに聞いてみる。掃除の手を止めず、こちらを見ることも無く、フローラは淡々と返す。
「魔法の使えない私に聞かないでください」
「使えないからこそ、ヒントがあるかもしれないじゃない」
フローラは水魔法すら使えない。本人の身体に魔力が殆どない。魔導書があろうと、本人のスペックが無ければ意味が無い。
「義肢を動かす用の魔法かぁ……」
「そうですね」
「……物を動かす魔法があったような気がする!」
「そうですね」
「それで動かせば……4つ全部はムズいか」
「そうですね」
「まぁ中身弄れるか、まずは試そう」
「そうですね」
本棚からプレハブを保存している本を取り出して索引を捲る。物を動かす魔法を探す。
「きっかけは産まれましたか?」
「あぁ!ありがとう」
「私は空返事をしただけですよ」
プレハブを置いて中身を開く。弄って行くうちに手が止まる。
「やっぱり負荷が大きいかなぁ……」
「あなたが今、使ってみては?」
机の引き出しの鍵を開けて、自分の魔導書を取り出す。空いているスペースに物を動かす魔法を入れて、事前に対象にする本を適当に4つ入れる。
「……よし」
魔導書を閉じる。表紙の紋様が小さく光る。反映が終わるまで、指で机を叩く。
光が消えたのを確認してから、机に並べた4つの本を同時に認識。
4つの本が別々に浮く。これだけでも結構難しい。ひとつを開こうとすると、別の1個が落ちてしまった。
「……人体ってすごいんだなぁ」
「人も産まれてすぐに動くわけではないですよ」
「知ってるよそれくらい」
言いたいことは分かる。これだって練習すれば、そのうちできるようになる。2年、3年?
いや、彼女のポテンシャル次第では、それはもっと短くなるだろう。僕とは違うんだし。
「これをしながら、他の魔法も使えるようにするのは大変そうだ」
「……シャッテン様は、彼女に何をさせたいのですか?」
「何を?」
「生きてお金を稼ぐのならば、顎と手脚が動けば十分かと思いますが」
……顎を入れてなかった。いやそこじゃない。言われてみればそうだ。なぜ僕は、彼女に日常生活以上を与えるつもりでいたんだろうか。
身体が動く。それひとつあれば、フローラのように働いて生きていく事はもちろん可能だ。
「では私は、次の部屋の掃除を」
「あぁ、よろしく……」
ひとつの仮説が浮かぶ。多分僕は、彼女が1人前に戦闘行為を行える事を想定していた。
魔法を使うというのは、この世界で華となる生き方とは、つまりはそういう物なのだと認識しているから。
そしてそれは、あの日僕が掴めなかった物だから。
フローラの事を下に見ているとか、そんなつもりは無い。だが、そう思われても仕方ない。
「……謝る内容じゃないか」
背もたれに体重を預けて天井を見る。そもそも彼女をどれだけの期間、うちに置いておくかすら決まってない。思えばだいぶ見切り発車だな。僕は彼女に何をしてあげたいんだろう。
魔力の気配に顔を戻す。転移魔法で部屋に彼女が来た。身体を倒さないようにバランスを取りながら、それでもやっぱりコロリと倒れる。こちらに向いた顔が、無表情で僕を見つめる。
「使いこなせてそうで良かったよ」
「…………」
立ち上がり、彼女を起こしてみる。ほとんど無い肩や腿でよろよろとバランスを取り、そしてまた倒れる。倒れ方が綺麗だ。そこはもう覚えたらしい。
「喉は乾いてる?」
彼女が首を下に下げるので水瓶を取る。水魔法はあくまで、乾かさない為のものでしか無い。水分補給はこうして別途する必要がある。
顎が無いから、ストローも使えない。そういえばストローはまだ出回ってないけれど、誰も作ってないんだろうか。いや、これも前世の記憶だ。でも彼女に顎を付けれれば、水分補給は楽になるかもしれない。
ストローを吸うような顔をして、顎の筋肉の動きを確認する。彼女に見つめられているのに気づいて辞める。
「…………あ」
彼女が音を発した。全身の筋肉がキュッとなる。
「あ……いあ……おう」
顎が無いから、ただの発声でしか無い。それでもそれがなんの言葉なのか、僕には分かった。それが最初の一言目だと、心のどこかで予想していた。いや、期待していた。
それでもこんなに嬉しい物なのだと、自分で自分に驚く。
「どういたしまして。君の為になってるといいけど」
足音が近付いてくる。フローラだ。ノックに返事をして、フローラがドアを開ける。
「シャッテン様。モスウッド様がお見えになられました」
立ち上がる。彼女はバランスを崩して倒れる。
「要件は聞いた?」
フローラが1拍置く。この1秒で、僕の頭を虫の知らせが突き抜ける。
「勇者様一行のご遺体が発見されたそうです」




