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それまでの魔法というのは、才能や家系的な側面が強く、良い魔法を覚えられる環境下で、本人のスペックが高い。このふたつが絶対条件だった。
僕が作った魔法体系は、魔法を構築済みのプレハブとして再設計し、それを自身の身体と同期した魔導書に入れる事で、魔法の取得性を上げるという物だ。
保存した魔法をヒエラルキーに入れる事で面倒な手順を省略しようとする発案は、当時でも同級生には絶賛だった。
協力してくれる仲間を集めて、初めて魔法学として発表した時、当然の如く無音だった。
その中で、自身の持つ魔法の再設計をしてくれると言う魔法使いが現れた。彼の協力と広告の効果で、僕の発表は一気に広まった。
僕はこのシステムを『改変魔法』と名付けている。ただ使いやすくするだけでは無く、その魔法の設計を自身で触れて、自分の使いやすいように変えていく事を目的としているからだ。
天才だと持て囃されたが、心の底から喜べたかと言われると懐疑的だ。これは僕の前世の記憶で、そういう言葉と機能に触れていたのを覚えていたからでしかない。
事実、それ以降僕はひとつも学会に発表はしていない。次の発想まで前世の記憶に頼ってしまうと、僕はこの僕で居る意味が分からなくなる気がしたからだ。
僕は前世の記憶を、自分だと思っていない。ひょっとしたら、これは前世なんかじゃなく、ただの僕の頭が作った精巧な妄想かもしれない。
それにもうひとつ。僕は決して、世のため人のために研究をした訳でもない。
「シャッテン様。エンバー様がお見えになられました」
「うん。今行く」
乳母車を引いたフローラと談話室に向かう。昨日モスウッドと話した部屋に、痩せたメガネが立っている。
「ルナミス!」
「エンバー!久しぶり」
エンバーと抱き合う。相変わらずガリガリで、こいつはこのまま死ぬまで太らないのでは無いかと思う。
「全く名前を聞かなくなったから、死んだかと思ったぞ」
「まさか。ちゃんと学校で教鞭してるよ」
「ルナミスが?何を教えるんだよ」
「魔法学の基礎くらい、僕でも教えれる」
エンバーが乳母車に目を落とす。笑顔は一瞬で消えた。
「……その子が」
「あぁ」
エンバーは中腰になり、彼女と目線を合わせる。彼女はじっとエンバーを見つめる。
「お嬢さん、ちょっと触らせてもらうよ」
彼女は首を下にずらす。エンバーが四肢の断面の包帯を解き、縫合されているその肉に触れる
「流石は医療教会様だ。治療は完璧」
「どう?作れる?」
「作る分にはな。義肢は既に闇市から入手した設計図もある。問題は材料と動力か」
「お金は出すよ。その調子だと、今も食べてないんでしょ?」
エンバーが採寸の道具を取り出す。
「遠い国では、暴食、惰眠、性の乱れが最も愚行だと言われている。俺は特権階級の豚のようにはならない」
「はいはい」
フローラが茶を持ってくる。僕は椅子に座りそれをちびりと飲む。エンバーは受け取ったカップを一気に飲み干して採寸に戻る。
「やれやれ、魔法学さんは腕を生やす魔法は作れない物なのかね?」
「あるよ」
エンバーが手を止めて僕を見る。その目の丸さは、横にいる彼女と同じ位見開いている。
「あ、秘匿なんだった」
無いわけが無い。と言うのは、魔法体系を勉強してる僕だから言えるだけか。
「原則として、患者には見られていない間に行うからね。色んな理由を付けてあるとは言わないけれど、経験がある人はもう勘づいてる」
「……そうじゃない」
何故、それで治さないのか。だろう、
「僕だって、それなりの治癒魔法を彼女に使用してみたさ。モスウッドが言ってたよ。それで"完治した"って」
治さない為の理由があるのかもしれない。魔王の容疑をかけられてるんだ、無理もない。だが僕が使う治癒魔法でも、皮膚の回復くらいなら出来るはずだが、そこはまだ分かっていない。
僕の改変魔法の発表を、最後まで肯定しなかったのも医療教会だ。だからと言って敵だと思ってはいない。
それなのに、治癒魔法をプレハブにしたのも医療教会だ。それまでそれを生業にしていた魔法使いは軒並み廃業になった。悪いのは僕らしい。酷い話だ。
「義肢と同じだと思うよ。人道、倫理、義肢の方が強くなって、禁止されたもんね」
「再生治療前提の怪我を想定されては困る、という訳だ」
「おそらく」
小さなため息を吐いて、エンバーは立ち上がる。
「それならば義肢は、サラの木を使うことにしよう」
「……あれは耐久性が弱すぎるんじゃない?」
「魔導性は高い。お前が動力を作れ」
「僕は体系を提示しただけで、設計まで全部やった訳じゃないよ」
「なら、それも委託すればいい」
「……まぁ、でもそれならもっといい素材はあるでしょ」
「お前が今言っただろ。手脚を失う事を選択肢に入れる事が出来てはダメだ。俺が作る物は、最低限歩いて物が掴める物にする。お天道様の下を、人の行き交う街を、気にせず歩くならばそれが一番だ。より凄いことをしたいなど、それは義肢という利便性を世に広めかねない」
「…………まぁ」
「それが嫌なら、他を当たりな。別に俺である必要は無い」
「……いや、お願いするよ」
「友人だからか?」
「もちろん。でも信用って言ってくれる?」
僕の握手に、エンバーが返してくれる。
「お友達価格で水増ししとくよ」
「モスウッドにいくら貰ったんだよ」
「エンバー位なら、一生豚になれるくらい」
「最高だな」




