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『なぁ、聞いてんのか!?』
プレハブ小屋に座る彼が欠伸をする。
『断る』
『僕だってお前なんかに頼みたくは無いさ。でもムムはお前が変なこと言ったし。他に頼れそうな人なんて居ないし、魔力も視えるんだろ!?』
『断る。俺はお前という物語が見たいだけで、本来ならば介入する気は全くない。あれは例外中の例外だ。二度と話し掛けるな』
こいつは一体なんなんだよ。勝手に人の頭に住み着いて、前世?の記憶を僕と共有して、自分はただ観客で居たいとか言いやがって。
『僕が死んだら、元も子も無いだろ』
『お前がお前の選択肢で死ぬなら、それも物語だ』
「…………クソ」
考え事をしていると頭が重く感じる。違うな、まだ魔導書の整理をしていない。あいつが無作為に放り込んだ使わない魔法を外さないと、動かしただけで脳が破裂するかもしれない。
自分の部屋に戻り、引き出しの鍵を開ける。中に詰まっている魔法のプレハブを消そうとして、その中身を見る。
「…………意外とちゃんとしてるな」
各魔法のプレハブはかなり整理されており、軽量化の為の処理も隙がない。戦闘系だけじゃなく、便利系魔法もちゃんと入ってる。
初めて触ったんだよな?あいつ。これ程ちゃんとしてるなら、使うだけなら行けるかもしれない。
「シャッテン様」
「ちょっと待って」
1つ、目に止まったプレハブがあった。物を圧縮して、魔法で取り出せるようにしてある。そういう使い方もあるのかと関心しつつ、それを取り出してみた。
「……箒?」
「箒ですね」
箒の穂からは風魔法を撃てるよう設計されている。攻撃とかでは無く、ただ風を撃つだけだ。なんでだ?
「掃除用ですか?」
まぁたしかに、穂から風が出たら埃を集めるのには大分便利だな。あいつが?フローラとロズベールに色々任せることに躊躇のないあいつが?それに、掃除用の風にしては風力が高すぎる。
インスペクターを凝視していると、ふと思い出した。いや、またあいつの記憶が流れ込んできた。
窓を開ける。箒の束を跨ぐようにする。何だこのポーズは。
「あの……シャッテン様?」
「……飛べ」
箒を握り込む。首が後ろに引っ張られる。足が地面に付いていない。飛んだ。いや、吹っ飛んだ。前に。
高威力の風は一瞬で、その後は緩やかになった。風を感じる。姿勢を崩すと落ちそうになる。股が痛い。後ろが向けない。あの威力の風を受けた僕の部屋はどうなった?というか、なんで箒で空を飛ぶんだよ。意味がわからない。
「……気持ちぃ〜」
でも確かに僕は今、空を飛んでいた。人が見上げて、僕を指さしている。探せる……けど、そもそも転移魔法で消えたフゥが、普通に歩いてるとは思えない。フゥが行く所……何処だろう。
「魔王城か?」
方角は分かる。でもあまりにも遠い。個人の転移魔法だけでは絶対辿り着けないから、きっと道すがらのどこかには居る。本当に魔王城に行ってるなら。
「先生!!?」
見知った声がした。下を見る。高度も少し落ちていたので、それがイグリアだと直ぐにわかった。どう降りるんだこれ。
とりあえず箒の前を下向きにしてみると、下に下がる。待って、ぶつかる。
ふっと手を離す。地面に落下して転がる。痛い。思ったより。昔骨折した時の痛みによく似ている。仰向けに倒れ込んだ僕をイグリアが覗き込む。
「先生!?待ってて!!」
イグリアが治癒魔法をかけてくれる。イグリアは泣きそうになっていた。
「先生、行っちゃ嫌……」
「違うよ。大丈夫」
起き上がる。イグリアが僕の服の裾を掴む。
「学校は?」
「……休んだ」
「そう」
立ち上がって箒を拾う僕に、イグリアが泣き付く。
「ダメ!!」
「そんな事……より、フゥが家出しちゃったんだ!」
「へ?」
「多分、こっちの方に行ったと思うから、これで追い掛けてたんだ」
「私も行く!」
「気持ちは嬉しいけど」
2人乗りは行けるのか?いや、僕は初めての使用なのに、人を乗せて飛ばすなんてそんな事出来るだろうか。
「分かった」
箒に跨る。後ろのスペースを指さす。
「ここ、跨いで」
何も言わず、イグリアは言われた通りにする。僕の腹に手を回す。首に力を込めて、前に吹っ飛ぶ。
高く飛ぶのは危ないから、地面ギリギリを意識して飛ぶ。速度も少し落としつつ、建物が目の前に来ると箒を上げる。
ここまで僕は、ほとんど魔力を使っていない。指示を出す為に少量消費しているだけで、このレベルの魔法が使えるなら、これはもっと色んなもので試す価値がある。
でもそれは、僕のじゃない。ボクの中の影の発明だ。
まただ、前世の記憶。同じように誰かを後ろに乗せて、何かを脚で回している。それが倒れないように力を入れながら、まっすぐ道を進んでいる。
転移魔法の魔力の残穢が見えた。残穢が大きいから長距離を飛んでいる。多分フゥだ。僕の目、少し性能が良くなった気がする。




