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ロズベールの傷は初めから無かったように塞がっている。洋服が土で汚れたので、庭で着替えて洗濯をしながら、俺を静かに睨んでいる。


「……今回の報告は見送りますが、また同じように暴れたら、次は報告しますからね」


「助かるよー」


「……この後、ノクターン様がフゥ様を連れてこちらに来ます」


「……ほう」


やったなルナミス。お望みの娘が来るぞ。お前が起きないならどうしようか。


「ユリアン様やムムの反応から、これはあくまで私の推測に過ぎませんが」


「あぁ、俺はルナミスとは別の人格、と言っていいな」


ロズベールの横で洗った服を干すフローラの手が一瞬止まるが、直ぐに動く。


「ルナミスはな、ずっと幼なじみである勇者リヒトを見返す為にここまで来たんだ」


リヒトのピアスを机に置く。短冊の中の液体は高純度の魔力の塊だ。見えない人から見ればただの綺麗な液体だが。


「自分だけ置いてきぼりにされた気がして、ざまぁみろって言いたくて、改変魔法を作った。認められて裕福な暮らしの中も、頭の中はリヒトでいっぱいだったよ」


恥ずかしさが湧いてくる。ルナミスの感情だ。どうせお前は、これを墓まで持っていくつもりだろう。俺が代わりに吐露する。


「…………ダサいですね」


フローラが言った。思わず吹き出す。


「だろ?」


「えぇ。情けなくて惨めです」


「そんな……まぁ……」


ロズベールも口篭る。そこは否定してやれよ。それなのに、何故だか心は軽くなる。こいつは、ルナミスは変態か?


「ムムとの関係も?」


「それは知らん。また別だろう」


「シャッテン様なら、寂しさを埋めてたと吐露しそうですけど」


「そんな弱かったっけ?こいつ」


「えぇ。言い出さないだけで」


一番の観客のつもりだったが、俺よりもルナミスを見てる奴ってのはちゃんと居るんだな。俺もルナミスを外から見れたら良かったのに。


外で強い魔力を感じる。フゥとノクターンだ。立ち上がると門が開く音がして、フローラとロズベールが手を止める。


先に行く2人について行こうとした時、心臓が強く脈打つ。


——————


『退けよ』


広がる草原。先は蜃気楼でよく見えないが、空は青く高い。目の前にポツンと立っている無骨なプレハブ小屋。ドアが開いていて、暗い室内に日光が入り込んでいる。その薄暗い部屋の真ん中に、ルナミスが立っている。


『お前の心淵は随分と伽藍堂だな』


『なんで変わってくれなかった』


『あの場で変わったら即死だ』


『それでも、僕からムムに言わなきゃダメだった』


『あれ如きで二度と会えないようならそれまでだ』


ま、1丁前に恋愛してルナミスに、ちょっとした仕返しはあったけど。


『立ち上がる気になったのか?』


『……ずっと否定されたかった。後ろ向きで馬鹿な考えだって、誰かに言って欲しかった。沢山泣いてすっきりしたよ』


『最高だ。それでこそ俺にとっての主人公だ』


プレハブ小屋に入る。身構えるルナミスの背中を蹴飛ばして、小屋の外に放り出す。よろけながら体勢を直して、ルナミスは俺を見る。


『……もう出てくんな』


『当然だ。お前が主人公なんだから』


『……そうかい』


安いパイプ椅子を開いて座る。歩き出すルナミスの背中に、心の底から激励する。


『頑張れよ』


この先も挫けること無く。


 ——————


瞼を開く。軽くて、存在感の薄いこれが無い事を想像しようと意識するほど、瞼に力が入ってしまう。心の中のこいつも同じだ。


「シャッテン様?」


フローラが横にいる。彼女を雇ったせいで、ムムを傷付けてた。どうして気付かなかったのか分からない。僕の思考の何割が、彼の意識なのか分からない。


身体の重さに目が眩む。顔を抑えた手に血がこびり付く。鼻血だ。あいつ、どれだけ改変魔法を入れたんだ。重すぎる。

フローラから布を受け取って血を拭く。


「ありがとう、フローラ。僕を否定してくれて」


「……気持ち悪い発言ですよ。それに、私は間違ってるとは一言も言ってません」


「間違って無いの?」


「知りませんよ。私が決める事では無いので」


「……確かに」


足音が家の影から出てくる。ノクターンの手を、義肢で握ったフゥは、いつも通りの布で頭を覆っている。


「……フゥ」


「ういあふ!!」


駆け出したフゥが、僕に抱きついた。もう涙は枯れていた。だからただただ嬉しくて、暖かい。


「……おかえり」


「い!!」


ノクターンが僕の前に立ち一礼。僕も返す。


「フゥ様の件、それと、今後の対応について、少しお話があります」


「はい。部屋を用意します」


洗濯をフローラに任せ、ロズベールと4人で談話室に入る。ロズベールがお茶を持ってくる。


「先にフゥ様の件についてお話します」


横に座るフゥが僕の服を掴む。


「フゥ様は人間ではありません」


「妖精さんみたいな?」


……しまった。多分間違えた。


「そうかもしれません」


どっちだ。

 

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