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さて。最高に笑ったが、俺が欲しいのはこれじゃない。ルナミスの絶望は面白いが、俺はルナミスという主人公の物語が見たいのであって、自分がこの世界を生きたいわけでは無い。


とはいえこいつが、安い多幸感で起き上がる質ではないことくらい分かっている。ルナミスに必要なのは、それを自分が選び取るという覚悟だ。


「ご馳走様」


カップを置く。ユリアンが首を傾げる。またやらかした。こればかりは癖だな。


「美味しかった」


「そう?良かった。もう行く?」


「うん。やりたいことがあるんだ」


俺と飲む速度を合わせていたロズベールも立ち上がる。カップを下げようとして、さりげなくユリアンに止められている。


「リヒトに、挨拶していいかな」


「ただの骨よ?」


「大事に置いてある癖に」


リヒトの骨壷に手を置く。冷たいが埃はひとつも付いていない。微かに魔力を感じる。

バチりと静電気のような物が手に走って、思わず手を退ける。


「……どうしたの?」


「……いいえ、何か感じた気がしたので」


身支度をして玄関を開ける。ユリアンが外まで出てくる。


「次来るまでに、椅子をもうひとつ用意しないとね」


「その時はルナミスに行かせますよ。叩き起すんで」


ユリアンは笑うが、ロズベールは首を傾げる。庭を出て見えなくなるまで、ユリアンは俺たちを見送る。


「……今のも造語ですか?」


「そんなとこ」


「方言は難しいですね」


「僕、そんなに訛ってる?」


「時折」


「そう……」


馬車に乗る。まだ日は高い。次は何をしようか。幾つか選択肢が浮かぶ。


「……シャッテン様」


「なに?」


「ご自宅にムムの侵入を確認したと、フローラ様経由で連絡がありました」


ロズベールは紙を持っている。メールのあれだ。そうか、次はそれにしよう。

揺れる馬車に合わせて体を揺らす。何が起きるだろうか。延々と想像が膨らむ。そのどれでも無い面白い展開を、ムムは応えてくれるだろうか。


「ムムは今どうしてるの?」


「フローラ様と接触後、また姿を消しました」


「……フローラは無事?」


「はい」


馬車が街に戻ってきたのは夕方頃。直ぐに降りて家に戻る。どこか壊されてる等も無く、いつも通りの門を潜る。玄関の前にムムが立っている。


「ルナミ…………」


パッと明るかった顔が、一気に曇る。睨み付ける用に俺を見る。


「誰だよお前」


「分かるか」


「魔力が別物だ。ルナミスをどうした」


「ルナミス・シャッテンだよ。俺も」


ロズベールを1歩下がらせる。防御魔法で鎌鼬を弾く。軌道が逸れた鎌鼬が、ロズベールの腕を切り落とす。


「てか、誰そいつ。あんたの知り合い?」


「ロズベールだ。ルナミスの生徒だよ」


「なんでここに居る訳?関係ないじゃん」


「関係ないのはお前もだろう?」


腕を拾い、蹲って唇を噛み、叫ばないようにしているロズベールの傷口に手をかざす、切断面の血が接合されていく。


「……再生魔法」


ルナミスが受けてたから感覚は掴んでたが、別に大して難しくも無いな。時間を掛ければ無い腕を生やすことも出来そうだ。


本当は放置しても良かったが、流石に興味が勝ってしまった。いかんいかん。こういうのは控えないと。


ムムが歯を向く。連続で飛んでくる鎌鼬は、全て魔力で筒抜けに見えている。前方にばらまいた結晶板が、それらを受け止めて砕け散る。


「ロズベール、離れないでね」


「…………はい」


「その身体で変なことするなよ!!」


「大魔法使い様が嫉妬か?」


身体を揺らす。わざとらしく、ポケットからリヒトのピアスを地面に落とす。鎌鼬が止まった。


「……何それ」


「お前のじゃないよ」


嘘は言ってない。顔を上げて、自分の耳に付いているピアスを指さす。ルナミスが彼女に笑いかけていた時そのままに。


「どう?似合ってる?」


「……ッ!!全っ然、似合ってない!!」


ルナミスは、リヒトのピアスをムムに見せたことはない。当然ルナミスの物はユリアンの所にあったし、ピアスそのものを話題にも出していなかった。

口を手で覆う。心の奥底の絶望と、口角が上がるのを抑えるのに必死なのだ。


「……なんで、泣いてるの?」


ムムが理解できない顔をする。涙が流れてるのは俺も分かるが、これはルナミスの感情だ。俺はとにかく笑いが止まらない。

舌を出してわざとらしく、悲しそうを演じるのに、俺の嬉々とした感情が混ざった、震えた声で言う。


「きーずーつーいーたー」


「…………そもそも、使用人だって、あたしはずっと反対だったのに」


「は?俺に言うなよ。そこで手を出さないから、ルナミスは純粋だな」


「リヒト君のこと聞いて心配してたら、今度はフゥちゃんの事ばっかり」


「イクメンだな。将来有望だ」


「最近は、あんまり構ってくれなくなって……寂しいのに」


「全部、お前が犯罪者だからじゃん」


「…………なんで」


そりゃあ隠してるつもりだったもんな。大丈夫。ルナミスも知ってる。


「というか、お前にとっての主人公は誰だよ」


魔法を構えようとしたムムが、少し手を下ろす。


「……主人公?」


「自分が主人公だと言うなら、犯罪者だろうがルナミスを引き入れればいい。ルナミスが主人公だと言うなら、こいつの選択を楽しめばいい。中途半端に引いて、不満を垂れるな気色悪い」


「……それ、ルナミスの身体使ってるあんたが言うの?」


「俺か?俺にとっての主人公はルナミスだ。これはこいつが、這い上がるまでの導入だよ」


何も言ってこないムムに、手で払う仕草をする。


「とりあえず失せろ。お前はルナミスの時にまた来い。その方が楽しくなる」


「…………お前はあたしが殺す」


「あぁ、楽しみにしてるよ」


転移魔法でムムが消える。呼吸が落ち着いたロズベールの、血で滲んだ唇を拭いてやる。


「君の怪我は唇だけ、腕は掠った程度。いいね?」

 

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