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丘の上の屋敷も、実際には初めて見るのに感動は薄い。ドアを開けると、フローラともう一人が立っている。
「おかえりなさいませ。シャッテン様」
「……ロズベール?」
危ない、何とか思い出した。確か学校の生徒だ。影が薄かったから半分忘れてた。
「本日よりシャッテン様の監視役兼お世話係として務めさせていただきます。私の事はご自由にお使いください」
「なるほどな。フゥ以前からモスウッドの下だったか」
魔物の出現でモスウッドがすぐに出てこれたのも、ルナミスがムムと会った帰りに付けてたのもこいつか。成績は可もなく不可もなくだったが、モスウッドの下ならば、実力は相応にあるのだろう。
上着を脱いでフローラに手渡す。廊下を歩き回り部屋の間取りを再確認する。ロズベールが後ろから付いてくる。
「どうかされましたか?」
「…………いや、別に」
不明な魔力残穢は無い。ほとんどがフゥの物で、ムムの転移魔法の跡があるが、これは恐らくこの前の物だろう。
「ロズベール、仕事だ」
「はい」
「この書斎にある改変魔法のプレハブ本を全て持ってきてくれ」
「……承知致しました」
ロズベールが書斎に入る。俺は自分の部屋に戻り、新しいスーツに着替える。ロズベールが持ってくる本を片っ端から開き、使えそうな魔法のページに栞を挟んでいく。
全く、俺の記憶を自身で翻訳し、その上でその記憶からこんな物を創り出すとは、ルナミスも大概凄まじい才能だ。観ていた当時は興奮で思わず拍手してしまった。してないけど。
自分でこれを作るより、こうやって予想外にやってくれる感動があるから、観客席に居るのは最高だった。
「こちらで全てになります」
机の横に積まれた本の塔を見やる。
「あぁ、助かるよ。明日の朝、元の位置に片付けを頼む」
「……承知致しました」
何故か罪悪感が湧いてくる。多分ルナミスの感情だ。自分で片付けろと、胸の奥で言っている気がする。
でもまだ出てくる気配は無い。気にせず本を開いて栞を挟んでいく。
一通り見終える頃には、夜もすっかり耽ていた。それひとつでチートみたいな魔法は無いが、組み合わせ次第で面白くなる物は沢山あった。
もちろん戦闘で使う気は全く無い。だがせっかくなら試してみたいのはしょうがない。
今の俺はルナミスよりも魔力容量は多い。バトンタッチする時に負荷になるが、それまでは自由にさせて貰おう。魔導書は下着だ。別に人に見られるものでは無い。
面白い組み合わせを魔導書に入れている時、ふと顔を上げると窓の外が明るくなっていた。前世でも徹夜したのは若い時だけだ。
「おはようございます。シャッテン様」
フローラとロズベールが部屋に入ってくる。魔導書を閉じて引き出しにしまう。
「あぁ、おはよう」
ロズベールに片付けを任せ、フローラとキッチンに向かう。作ってもらった朝食を食べる。
美味い。思ってた以上だ。久しぶりに本物の「味」を感じる。すぐに平らげ、皿を渡す。
「ご馳走様。美味しかったよ」
「??はい。ありがとうございます」
不思議そうな顔をするフローラに、ご馳走様という言葉が無い事を思い出す。あぁ、しまった。
「あぁ、えっと。美味しく食べましたよっていう意思表示というか」
「えぇ、いつもの造語だと理解しています」
そうだったか。こういう細かい所はあまり覚えてないが、ルナミスは随分俺の記憶に引っ張られてるんだな。
食事を終えて部屋に戻る。片付けをしているロズベールの横で上着を漁る。服に執着が無いのか、殆ど無い。着せ替えを楽しむ記憶までは共有されてないのか。
「お出かけですか?」
ロズベールが聞いてくる。探りを入れているのだろう。
「1度故郷に顔を出しに。付いてきてくれないか?」
監視役だと言うなら、当然付いてくるだろう。ロズベールは迷いなく頷く。
「はい。承知致しました」
「……片付け、終わらせようか」
自分で言って、自分で首を傾げる。片付けをするのか?俺が?ロズベールに頼めばいいはずだ。さっきもそう言ったはずだ。
確かに自分の意思ではある。本を持ち上げ、書斎に運ぶ。本を戻して行く。ため息が出るが、手を止める気はない。
なぜだか自分の中で、満たされる安堵の感情が湧き出てくる。
本を全て片付ける。綺麗になった満足感と、俺がやる必要は無かっただろうと言う感情が同時に湧くが、まぁいいか。
「私は何時でも大丈夫です」
「うん。じゃあ行こうか」
転移魔法を使うのは辞めよう。最低限の荷物を持って、フローラに事情を話して家を出る。記憶の通りに行くなら、ここから馬車で半日程の田舎だ。
「馬車の手配はこちらで行います」
「え?いいの?ありがと」
お金が浮いた。ラッキーだ。ロズベールがサラサラと小さな紙に何か書き起こし、それを転移魔法で飛ばす。連絡用にプリセットされているのだろう。メールの代替か。便利なものだ。
「街の馬車待ち場にて手配しました。行きましょう」
「さすが」
「荷物を」
「いいよ別に」
これは流石に俺の感情だ。女に持たせるのは気が引ける。




