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大講堂の真ん中に、乳母車が置かれている。義肢を外されたフゥが、そこで横になっている。モスウッドが頭の布を外し、その顔を観衆に曝け出す。


ヒソヒソ話はすぐに止み、魔王裁判を取り仕切るジジイが咳払いを2回する。


「さて……ではまずは、事の経緯について、改めて説明して貰おうか」


「はい」


モスウッドが小さな壇上に上がる。


「勇者リヒト一行が、人類史上初の魔王城への侵攻を開始してから5日後、周辺の魔物の勢いの低下を確認した兵士が魔王城に乗り込みました。城内は伽藍堂であり、最上階の空席の玉座の前に、被告は居ました」


観衆の頭が鬱陶しい程動く中、横のノクターンは微動だにせず話を聞いている。


「医療教会の最高位の魔法でも、これ以上の治癒は不可能であり、我々はこれを"完治"と扱い、重要参考人として保護する事を決定。勇者リヒトの同郷であり、研究者として名の知れたルナミス・シャッテン氏を保護者とし、経過観察を行いました」


近くに座ってる人が僕を見る。遠くの方でも、数人が僕の方を見ている。まぁ、これまでのあらすじみたいなもんか。


「我々は、被告を学校に通わせる事で、被告の素性を調査する事にしました」


モスウッドが調査報告書を出す。裁判長のジジイの手元に移る。


「結論から申し上げると、被告が魔王であるという根拠は、現時点ではありません」


モスウッドははっきりそう言い切った。ノクターンがチラリと僕に顔を向けて、また前を向く。手を挙げた人が立ち上がる。


「冒険者ギルド管轄、醒浄会のアリル・ローブスです。モスウッド氏の調査報告書を拝見し、幾つか質問したい」


「どうぞ」


「ルナミス・シャッテン氏を保護者にあてた理由が不透明だ。それに、それなら彼はあそこでは無くここに立つべき人物では?」


遠くから指をさされる。みんなが一斉にこちらを向く。モスウッドだけはこちらを見ず、アリルに返答する。


「第一に、被告についてはこちらも未知の存在です。仮に魔王であった場合、最悪な事態を引き起こした時に、教会の内部が崩壊することは避けないといけません」


まぁ、押し付けだろうなとは思ってた。


「彼の教師という立場も、利用させて貰いました」


「それはつまり、正体不明の化け物を、まだ未来のある若者野の中に放り込んだと?」


「能力値として十分と判断しました。現に今回の騒動の中心人物は、被告ではなくギルバート家のご子息です」


またざわめき。その中に確かに、「魔族」という言葉が聞こえた。


「で?まだ分かりません。でどうするつもりだ?このまま同じ轍を踏みに行くのか?」


「被告は1度、教会で預かり、再度調査をします。その後ルナミス・シャッテン氏に再度保護者として協力して貰います」


「何故再度彼なのだ?彼は改変魔法の発明者だぞ?」


「彼は、大魔法使いムムと、親密な関係にあります」


過去1番のざわめきで、また僕に視線が集中する。ちょっと待ってくれ。関係ないだろ。


「シャッテン氏の追跡調査にて、ムムとの接触は確認済です。先程の治療にて、シャッテン氏の陰部にムムの魔力残穢の付着が見つかりました」


なんてものを調べてるんだ。生殺しすぎる。耳が赤くなる。思わず大きな声を出してしまう。


「それになんの関係があるんだよ!!?」


こっちを見たモスウッドは、冷ややかな目をしていた。


「このように彼は、大魔法使いムムの素性について知りません。彼は操られている可能性があります」


は?


「本調査は、被告の調査と共に、これまで足掛かりの無かった大魔法使いムムの逮捕への大きな一歩になると、我々は期待しています」


空いた口が塞がらない。そこからの話は、何も入ってこなかった。


——————


研究の発表が無風で終わり、僕の部屋でエンバーと酒を囲む。


『クソッタレの既得権益者共め』


『まぁ』


こうなる事は、薄々予想はしていた。誰にとって有意義かという話だから。だが僕らには、それ以外の方法は知らなかった。


『もっと良く出来るのかも』


『あ??お前、俺の力が足りないって言いたいのか?』


『違うよ。でもさ、大事なのはどう受け取って貰えるかでしょ?そもそもの発想なのか。それともデザインの問題か。考える余地はあるはずだよ』


酒で誤魔化そうとするには、この空気は不味すぎる。エンバーに睨まれるので睨み返す。ドアをノックする音も、最初は無視してた。人と顔を合わせる気にはなれなかったからだ。


それでも何度も戸を叩く音に、渋々立ち上がる。ドアを開けると、知らない女性が立っていた。


『あ、どうも〜』


『……どうも』


見るからに魔法使いだ。馬鹿にしに来たのかと思った。その女性は僕の手を取って握手してきた。冷たい手だった。何分も待たせたんだから当然だ。


『あたし、あなたの研究に感動したわ。空気は最悪だったけど、あの人達には受け入れられなくて当然よ』


『そんな事は、今酔っ払いの僕らでも出た結論だよ』


『流石ね。だからあたし、あなた達の研究を広める手伝いをしたいの。魔法使いのコミュニティじゃダメ。これを広めるべき場所を、あたしは知っている』


エンバーと顔を合わせる。この時の僕らにとっては、認めてくれるそれだけで嬉しかった。


『あたしはムム。魔法使いをしているけれど、魔法を使えない人を助ける事をしているの』


名前は聞いた事があった。魔法使いを神格化する世間にとって、それを下々に無償で行う行為には、あまり良い噂は聞かなかった。

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