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旧校舎への人集りは、何時もよりざわめき声が乱反射している。場内に立っているのは、レオロスとカシアン。そして、ヴェイルとフゥだ。
「あいつ、魔族の家系だろ?」
「そうなのか?」
「ギルバート家のヴェイル」
「あー、入学早々暴れてた奴か」
人一人分の空白のある場所で、魔力を集中させる。場内に居るフゥを、目の前に転移させる。会場は一瞬のどよめきの後、次々と声を取り戻し、こちらに視線が集まる。
「フゥ、何考えてんだ。この決闘はダメだ」
フゥは僕と、こちらを見ているヴェイルを交互に見る。
「おも、あち……」
友達。多分そう言った。義手の指が強く握りしめられる。
「だったら、ヴェイルも止めないといけない。フゥまで乗ったらダメだ」
棒立ちのフゥの顔は、相変わらず布で見えない。それでも、少しだけ悲しそうな気がした。
「……まぁ、始めようぜ」
ヴェイルが言う。レオロスとカシアンが構える。
「やめろ!!」
怒鳴り声を掻き消すように、周りの生徒達が盛り上がる。僕の背中を生徒が押さえ付けた。地面に押し倒される。
抗っても解けない僕を、フゥがじっと見ている。
「フゥ、ヴェイルを場外に出してくれ!!この決闘はダメだ。差別が大きくなるだけなんだ!!」
僕を押さえ付けている生徒が反応する。
「先生。魔族の肩を持つんですか?」
「ヴェイルは魔族なんかじゃない。フゥもだ。こんな事は間違ってる」
「先生が作ったんですよね?それまで僕らを見下してきた魔族共を見返す為に」
「……違う」
場内から光が溢れる。ヴェイルが火の魔法を展開する。その球の大きさは、ひとつで場内の半分を埋め尽くす大きさだ。
「フゥ!!頼む!!」
そう言いながらも、僕も必死に転移魔法を試みる。それなのに、ヴェイルは動かない。
ヴェイルの火球が動き出す。カシアンが氷壁を展開するが、呆気なく溶けて崩れる。
その火の魔法が、急に向きを変えた。空にゆっくり登って行く。フゥだ。
「…………あーあ」
ヴェイルが空を見ながら言う。レオロスが小さく息を吐くのが見える。
「フゥちゃんに助けられたな。お前ら」
「……舐めてるのか?」
「俺が?当たり前だろ。お前らみたいな下衆に、本気なんか出すかよ。ここに居る奴ら全員来ても、纏めて倒してやるよ」
「ヴェイル!!やめろ!!」
観客がザワつく。それでも動き出す人は居ない。
「さて、再開しようか」
ヴェイルが火を両手に出す。上に投げたそれが無数に分離して、一斉にレオロス達を襲う。何個か転移するのが見えるが、全く足りてない。
レオロスとカシアンは防御に手一杯だ。場内にフゥが現れる。ヴェイルに歩み寄ろうとするのを、ヴェイルが一喝する。
「来んじゃねぇ!!あっち行けよ!!」
「あ……」
「………………」
「俺一人でも、余裕だ」
レオロスが詰めてくる。ヴェイルが手を翳す。レオロスの足元から炎柱が登る。飛んでくる氷柱を、ヴェイルが火球をぶつけて相殺する。氷柱のひとつが、カシアンの背中に現れた。カシアンはそれを間一髪で躱す。
「…………フゥ」
ヴェイルが振り返る。
「………何してんだよ」
「……や」
ダメだ。それはダメなんだ。一緒にやってはダメだ。友達なら、止めないといけないのに。
ヴェイルの顔は、少し歪みつつ笑っていた。そして前を向く。
ヴェイルの展開する無数の火球、炎柱は、カクカクと転移を繰り返し、カシアンとレオロスを捉える。その予測不可能な攻撃にレオロスは捌ききれず、炎柱の中に消える。黒焦げになって倒れる。
「レオロ……」
カシアンの叫び声を潰し、更に炎柱が登る。ふたつの黒い人型が、場内に横たわる。
「…………雑魚がよ」
ヴェイルがそう言った。会場は声をあげない。黒焦げのレオロスがピクリと動く。
「勝負は付いたろ!早く治癒しに行けよ!!」
僕がそう叫ぶと、数人がゾロゾロと場内に駆け出す。拘束を解いて走り出した瞬間、空に影が過ぎった。
うねうねと動く体躯。身体の細さに不釣り合いな大きな翼に、針金のような脚が何本も伸びて場内に着く。旧校舎の2階まである大きさの、触手のような頭がヴェイルを見る。
「魔物だ!!」
誰かが叫んだ。生徒が一斉に逃げ始める。治癒魔法の為に向かっていた生徒も、レオロスとカシアンを置いて逃げ出した。何人もの肩がぶつかる。顔に物が当たる。転移出来ない。逃げる生徒の向こうで炎が上がる。鼻血が出るがそれどころじゃない。
やっと人が捌けた空間に、魔物とヴェイルが相対している。魔物についた焦げ跡は、まだ止まる理由にはなっていない。
レオロスとカシアンは、既にフゥによって集められている。
「ギ?ギギ……!ギギ……?」
どこから鳴らしてるか分からない音を発しながら、触手の根元にある無数の目がのひとつが、こちらを向く。




