20
フローラに服を着せてもらっているフゥは、人形みたいに固まっている。いや、元から何もしてない時は義肢を動かさないから、ピタッと止まっているようには見える。
女性の服というのは、男性よりも遥かに着る事そのものが面倒だなと、見ていて思う。後ろに紐を通したり、キツく締めたり。
フゥがどうこう関係なく、ひとりで着れないのはどうなんだ。
「終わりましたよ」
フローラに言われ、フゥが立ち上がる。ヒラヒラとした襟やスカートに、リボンの付いたゴシックな服。
……派手すぎるかもしれない。僕の中のイメージするオシャレがこれだったのもあるが、もっと素朴な方が、友達と街に遊びに行くのには合ってるかもしれない。
それでも、クルクルと回ってピースするフゥを見ると、まぁ……大丈夫かなと思うことにする。
玄関のノックでドアを開ける。ヴェイルとイグリアだ。イグリアはそれなりにオシャレしてきているが、それでもフゥの服よりは落ち着いている。ヴェイルは割と普通の服だ。
「おっ、可愛いじゃん」
ヴェイルがフゥを見て言う。頭の布は相変わらずだ。こういう言葉がパッと出てくるのは、年下の子供とはいえ尊敬する。
と、思っていたのも束の間、ヴェイルは頭の布を捲りあげる。
「なっ……」
イグリアが零す。僕もビクッとする。だがフゥは何事もなく受け入れている。
「おっ、目の充血、落ち着いて来てる」
そう言ってヴェイルは笑う。フゥもピースをする。これは……どっちだ。許容されるべき事なのか、それとも咎めた方がいいのか。
後ろに居るフローラを見る。フローラは何も言わずに肩をすくめる。イグリアがヴェイルの頭を叩く。
「変態」
「は?」
「行くよ」
「い」
「行ってらっしゃい」
門を出ていく3人を見送る。見えなくなった後も、しばらく無人の門を見つめる。
「入りますよ」
「……あぁ」
「シャッテン様の提言ですよ。友達と街で遊びに行かせようって」
「そうだけども」
あぁ不安だ。やっぱり服が派手すぎたかもしれない。いや、それ以前に、学校であれだけ忌避の目で見られていたのだ。やっぱり見に行くべきか。
「街は学校とは違うと、ご自身で言われたのですよ」
僕の考えを見越したフローラが言う。学校は年齢の若い、より閉鎖的な場所だ。街はもっと色んな人が居て、色んな生活がある。
見た目だけでどうこう言われる事は中々無い。はず。
家に入った後でも、貧乏揺すりが止まらない。何も手につか無い。とりあえず部屋の掃除をする。こんなに綺麗だったんだなと、意味の分からない事を再確認する。
何故そう思ったかと言えば、僕は自分の部屋は汚いイメージがあるからだ。
「……シャッテン様」
「ん?」
「家事は私の仕事ですが?」
「あぁ、いつもありがとう。さっさと終わらせてしまおう」
フローラは怪訝な顔をして、わざとらしく首を傾げて家事に戻る。掃除が終わり、夕食の準備が終わり、干してある洗濯を畳む。
「……次は」
「お茶にでもしよう」
「私が?」
「君と」
「……承知致しました。ご用意します」
窓の外を見ると、日が傾きはじめている。それなりに時間は経ったが、まだ帰ってくる時間じゃない。
「シャッテン様は、今後どの様になさるおつもりですか?」
「アバウトな質問だなぁ」
言いたい事は分かる。研究者らしい事は殆どせず、教師の仕事と溜め込んだ財産でぼんやり生きてる。もちろん、リヒトの事は話してない。
「フゥ様が卒業なさり、魔王城に行くご予定が終わった後です」
「そういう君こそ、人生設計はあるのかい?確か、妹の学費だろ?」
僕の居る学校とは別の、もっと公的な事務の仕事のための学校だと聞いたことがある。
「いいえ。なので参考までに聞いてみようかと」
「無いなぁ。そもそも、素直に魔王城まで行けるかどうか」
魔王が消えた後の魔王城は、人間がバッチリ管理してる。それこそ公的な許可証でもない限り難しいだろう。生憎それを素直に通してくれるとは思えない。
フローラがカップを置く。窓の外をゆっくり見る。僕の気まぐれで仕事として雇ってから、彼女もそれなりに長くここに居る。
研究を協力してくれるエンバーが居て、研究を広めた後も、僕と居てくれるムムが居て、日々の生活はフローラに給料を払う為に生きてきた。
そしてその前には、ずっとリヒトが居た。そして今はフゥが居る。思えば僕は、自分の外ばかりに意味を置いてばかりだな。
自分の中にある物は、自分のかもよく分からない、別の世界で生きた記憶と、あの日まであった復讐心の残りカスだけだ。フゥが居なかったら、僕は何をしていただろう。リヒトの死を、どう受け止めただろう。
ぼんやりと考え事をし、空が赤くなり始めた頃、外から楽しそうな話し声がする。椅子から立ち上がり、玄関に向かう。




