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「魔法攻撃の転移、ねぇ」


「ムムは出来る?」


「もちろん。でも、わざわざ主軸にしようとは思わないわ。疲れちゃうもの」


街の路地裏から続く薄暗い地下道の、更に細くなっていく抜け道の先。ムムが商売をしている店の前に椅子を置いて、2人で話す。

時折来る客にムムが対応する。汎用性の高い覇権魔法から、それひとつの取引で家が建つような上級魔法まで。戦闘研究生活あらゆる要素の魔法のプレハブ化を行っている。


「せっかく才能があって、本人が戦闘系に進むなら、もっと強い魔法を覚えさせてあげたら?」


「……いや、だめだな」


「何故?」


「魔王疑惑をかけられてるんだから」


ここまでは、あくまで転移魔法で相手の魔法攻撃を打ち返す使い方だ。爆炎の中見えるフゥの姿は、確かに僕でも畏怖を感じたのは認めざるを得ない。

ただしそれでも、ヴェイルの魔法だと言う逃げ道がある。


「事実がどうかじゃない。どう観測されるかが重要なんだ」


「それで危険な目に合っても意味無いと思うけど?」


「そこなんだよなぁ」


天井のレンガの網目をジグザグとなぞる。空気口からの風抜け音が少しだけ強くなる。


「防御魔法は、あってもいいんじゃない?」


「転移での回避を見る感じ、魔法防御は必要無さそうなんだけどな」


「こうやって考えるの、なんだか楽しいわ」


会話に満足したのか、ムムはようやく目的の品を出してくれる。カバンから掌サイズの袋を取りだし、ムムに渡す。


「……そうか。助かるよ」


「いいえ。これを同じ境遇の人達に販売してあげれるから、あたしも助かるわ」


「同じ境遇の人ができるだけ少ない事を願うよ」


受け取った札をカバンにしまい、扉に手をかける。去り際にムムが尋ねてくる。


「あの子がもしも魔王なら、あなたはどうするの?」


「……フゥと一緒に魔王城まで行って、僕が次の魔王にでもなるよ」


「面白そう。あたしもついて行こうかしら」


扉を開けて外に出る。地下道を抜けて街に戻ってくる。深夜の街は静かで、灯りの付いている室内がちらほら残ってはいるが、外まで声が漏れている程騒いでいるところは無い。


もちろん魔王になるなんてのは冗談でしか無い。ただ魔王城に行くというのは割と本気だ。

今僕に、他にやりたいことは無い。何の足枷も無ければ、今すぐにでも行くだろう。


問題は距離と許可だ。この街から魔王城までは徒歩で1ヶ月程かかるし、何より今の状態でモスウッドが許可を出してくれるか不安だ。


いや待てよ。それこそモスウッドに付いてきて貰えばいいのでは無いか?フゥが疑わしいのならそれが一番だ。往復で2ヶ月、近衛兵士長が席を外してもいいのならば。無理そう。


「しばらくは大人しくしないとな」


後ろを付けて来ている気配に話しかけてみる。当然返事はかえってこない。気配の消し方から盗賊等では無さそうだ。それこそ監視の目だろう。


真っ暗な家に辿り着き、玄関を静かに開ける。フローラは既に帰っている時間で、この時間ならフゥも寝ているだろう。


キッチンの電気を付いている。カバンを机に置く。一息付いて後ろの廊下を見ると、黒い影が立っていて飛び跳ねた。


「おぅ!?」


フゥだった。びっくりした。いつも通り頭に布を被っており、その上から付けたアイマスクを額に上げている。頭の布は、内側からは見えるようにしてある。原理は知らないが、ムムが持っている物は8割くらい僕には分からない領域だ。


「い」


フゥが義手を開く。そこには、あの日投げたピアスがあった。投げてから何処に行ったか、全く探していなかった。フローラが掃除してる間に拾っている物と、勝手に思っていた。


「……んんん、ありがとう」


はっきり言うなら要らない。でもフゥと生活していて、彼女なりに色々と考えているのは伝わってくる。これも、きっとそうなのだろう。


「寝ないのか?」


フゥが首を傾げる。


「じゃあ魔導書、持ってきてくれ」


頷いたフゥが廊下を走っていく。ピアスをとりあえずポケットに入れて、カバンから先程買い取った札を2枚取り出す。

 

戻ってきたフゥの魔導書を開いて、まずは水魔法から。これまで手動だった目への潤いを、一定量で常時行う設定に改変したプレハブに変える。

布をあげたフゥは、顎を外している。


「どうだ?意識しなくても水が出るようになっただろ」


フゥが頷く。これまで睡眠中も、目だけはずっと魔法を掛けてたらしいから驚きだった。暗いなら眠ること自体は出来るらしいが、少し目の前を通るとすぐ起きるので、やっぱり視界は開きっぱなしらしい。

これで寝やすくなるといいが。


もう1個の方は、次のタイミングでいいか。もう夜も遅いし、今から確認する程でもない。


「寝ようか」


「あ」


フゥはそのまま、自身の寝室に向かう。開けっ放しのドアを、身体を押して閉める。ドアの金具は外してある。


フゥが学校で資格を取った後に、モスウッドに魔王城まで言ってもいいか聞いてみよう。なんだか眠くないが、どうせ明日辛くなるので、ベッドに向かうことにする。

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