15
「魔法攻撃の転移、ねぇ」
「ムムは出来る?」
「もちろん。でも、わざわざ主軸にしようとは思わないわ。疲れちゃうもの」
街の路地裏から続く薄暗い地下道の、更に細くなっていく抜け道の先。ムムが商売をしている店の前に椅子を置いて、2人で話す。
時折来る客にムムが対応する。汎用性の高い覇権魔法から、それひとつの取引で家が建つような上級魔法まで。戦闘研究生活あらゆる要素の魔法のプレハブ化を行っている。
「せっかく才能があって、本人が戦闘系に進むなら、もっと強い魔法を覚えさせてあげたら?」
「……いや、だめだな」
「何故?」
「魔王疑惑をかけられてるんだから」
ここまでは、あくまで転移魔法で相手の魔法攻撃を打ち返す使い方だ。爆炎の中見えるフゥの姿は、確かに僕でも畏怖を感じたのは認めざるを得ない。
ただしそれでも、ヴェイルの魔法だと言う逃げ道がある。
「事実がどうかじゃない。どう観測されるかが重要なんだ」
「それで危険な目に合っても意味無いと思うけど?」
「そこなんだよなぁ」
天井のレンガの網目をジグザグとなぞる。空気口からの風抜け音が少しだけ強くなる。
「防御魔法は、あってもいいんじゃない?」
「転移での回避を見る感じ、魔法防御は必要無さそうなんだけどな」
「こうやって考えるの、なんだか楽しいわ」
会話に満足したのか、ムムはようやく目的の品を出してくれる。カバンから掌サイズの袋を取りだし、ムムに渡す。
「……そうか。助かるよ」
「いいえ。これを同じ境遇の人達に販売してあげれるから、あたしも助かるわ」
「同じ境遇の人ができるだけ少ない事を願うよ」
受け取った札をカバンにしまい、扉に手をかける。去り際にムムが尋ねてくる。
「あの子がもしも魔王なら、あなたはどうするの?」
「……フゥと一緒に魔王城まで行って、僕が次の魔王にでもなるよ」
「面白そう。あたしもついて行こうかしら」
扉を開けて外に出る。地下道を抜けて街に戻ってくる。深夜の街は静かで、灯りの付いている室内がちらほら残ってはいるが、外まで声が漏れている程騒いでいるところは無い。
もちろん魔王になるなんてのは冗談でしか無い。ただ魔王城に行くというのは割と本気だ。
今僕に、他にやりたいことは無い。何の足枷も無ければ、今すぐにでも行くだろう。
問題は距離と許可だ。この街から魔王城までは徒歩で1ヶ月程かかるし、何より今の状態でモスウッドが許可を出してくれるか不安だ。
いや待てよ。それこそモスウッドに付いてきて貰えばいいのでは無いか?フゥが疑わしいのならそれが一番だ。往復で2ヶ月、近衛兵士長が席を外してもいいのならば。無理そう。
「しばらくは大人しくしないとな」
後ろを付けて来ている気配に話しかけてみる。当然返事はかえってこない。気配の消し方から盗賊等では無さそうだ。それこそ監視の目だろう。
真っ暗な家に辿り着き、玄関を静かに開ける。フローラは既に帰っている時間で、この時間ならフゥも寝ているだろう。
キッチンの電気を付いている。カバンを机に置く。一息付いて後ろの廊下を見ると、黒い影が立っていて飛び跳ねた。
「おぅ!?」
フゥだった。びっくりした。いつも通り頭に布を被っており、その上から付けたアイマスクを額に上げている。頭の布は、内側からは見えるようにしてある。原理は知らないが、ムムが持っている物は8割くらい僕には分からない領域だ。
「い」
フゥが義手を開く。そこには、あの日投げたピアスがあった。投げてから何処に行ったか、全く探していなかった。フローラが掃除してる間に拾っている物と、勝手に思っていた。
「……んんん、ありがとう」
はっきり言うなら要らない。でもフゥと生活していて、彼女なりに色々と考えているのは伝わってくる。これも、きっとそうなのだろう。
「寝ないのか?」
フゥが首を傾げる。
「じゃあ魔導書、持ってきてくれ」
頷いたフゥが廊下を走っていく。ピアスをとりあえずポケットに入れて、カバンから先程買い取った札を2枚取り出す。
戻ってきたフゥの魔導書を開いて、まずは水魔法から。これまで手動だった目への潤いを、一定量で常時行う設定に改変したプレハブに変える。
布をあげたフゥは、顎を外している。
「どうだ?意識しなくても水が出るようになっただろ」
フゥが頷く。これまで睡眠中も、目だけはずっと魔法を掛けてたらしいから驚きだった。暗いなら眠ること自体は出来るらしいが、少し目の前を通るとすぐ起きるので、やっぱり視界は開きっぱなしらしい。
これで寝やすくなるといいが。
もう1個の方は、次のタイミングでいいか。もう夜も遅いし、今から確認する程でもない。
「寝ようか」
「あ」
フゥはそのまま、自身の寝室に向かう。開けっ放しのドアを、身体を押して閉める。ドアの金具は外してある。
フゥが学校で資格を取った後に、モスウッドに魔王城まで言ってもいいか聞いてみよう。なんだか眠くないが、どうせ明日辛くなるので、ベッドに向かうことにする。




