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フゥと共に家の門を潜る。家に入ると、キッチンでフローラが座って待っていた。
「おかえりなさいませ」
「うん。ただいま」
コートを脱いでネクタイを緩める。フローラに服を渡す。フゥもブレザーを脱いでフローラに渡し、そのままダイニングに座る。
「洗濯を回してきます」
「よろしく」
コップに水を入れて、フゥに渡す。そのままフゥは水を飲み干す。
「あいあお!」
「どういたしまして」
僕用の茶を淹れている時、門の金具が鳴った。風じゃない。人が鳴らした音だ。
廊下に出てくるフローラを制し、僕が玄関に出る。門の外には、ヴェイルとイグリアが立っていた。気まずそうに横に視線を逸らし、片方の口角だけを上げている。
「どうしたの」
「えっと……その……」
吃るイグリアの後に、ヴェイルが顔をあげて、真っ直ぐ僕を見る。
「フゥちゃんに、謝りに来た」
こんな時間に、この歳の男女が、こんな所に。いや、男女は関係ないか。とはいえひとまず家に上げる。
ダイニングで座っていたフゥに、ヴェイルは片膝を付いて頭を下げた。イグリアまで驚いている。
「さっきはごめん!!咄嗟に何も出来なくて……俺が見せてくれって言ったのに」
「…………」
こういう所作は、流石は名家の息子だ。わざわざその日に謝罪に来るところも含めて。
フゥは固まっていたが、席から立って、ヴェイルの前で膝立ちをする。顔を上げたヴェイルに、フゥはサムズアップをする。
「あいあお!」
「…………なんて?」
「ありがとだってさ」
「…………なんで?」
茶を人数分用意する。フローラが戻ってきて、夕食の準備を始める。
「お茶位は飲んでいってくれ。君らが良ければ夕食も」
「失礼します」
ヴェイルが小さく礼をして席に着く。学校での態度とはまるで違うので、イグリアは終始ヴェイルに驚いている。
「僕は別に、名のある家系でもなんでもないから、気にせず砕けていいよ」
「……じゃあ、そうする」
イグリアに手招きする。4人が席に座る。
「わざわざ謝りにくるなんて」
「ヴェイルが行くって言うから……」
「なんだよ、イグリアも行きたがっただろ」
「うるさいなぁ」
僕と目が合ったイグリアが、カップを置いて手を下ろす。
「……私、医療協会志望じゃん?本当はあそこで止まったらダメだったなって、ちょっと思っちゃって」
「なるほど」
「というか、治らないの?」
「あぁ、フゥの身体は、治癒魔法も再生魔法も掛けた上で、この状態だ」
フゥの元に食事が運ばれる。フゥは両手を握り合わせて祈る。見た目だけはそれっぽい。片手で布を持ち上げて、もう片方の手でフォークを使い、人工の顎の中に入れて咀嚼する。
「……食えるんだ」
「食うために付けてるからね。喋るのはまだ」
いつもは食事中、布を取るか上まで全部上げてしまう。やっぱりどこか、2人に拒絶の反応をされた事を気にしているんだろうか。
「……水魔法は、瞼が無いから、瞬きの代わりに眼を潤すため。物体操作魔法は、四肢を動かすため」
「顎もね」
ヴェイルが口に出す。補足を入れてやる。
「すごいね、フゥちゃん」
咀嚼しながら、フゥはフォークを持った手でピースをする。そのままフォークを落としてしまった。僕が立ち上がってフォークを拾い、シンクに持っていく。
実際、フゥは才能の塊だ。本来は魔力を使わずに皆がやる生理現象を、意図的に魔力を使って動かしている。その上で、転移魔法をあれだけ操った。
素の魔力容量は、少なくとも僕の3倍はある。処理能力も、とんでもなく高い。
だからこそ、フゥについて、あの疑惑がふと過ぎる時がどうしてもある。
魔王なのかもしれない。
もしもフゥが魔王だとしたら、モスウッドはなんと言うだろうか。
「経過観察の結果、脅威はないと見なし、魔王は消滅したとして再度世間に、魔王の消えた社会を目指して貰います」
いや、言わない気がする。どれだけ最高な未来も、すぐに蜃気楼になる。結果として残る、最悪な未来しか見えてこない。
「シャッテン様」
「何?」
「お食事が出来ました」
机に置かれた食事は、僕の分とフゥの分だけだ。当然と言えばそうだ。これから作るかどうか、僕が指示するのだから。
僕の分の食事を、ヴェイルとイグリアがじっと見つめている。
「……僕の分、2人に分けてあげて。僕は、今日は無しでいいよ」
「承知しました」
0.5人分の食事を受け取って、3人が席を囲って食事をしている。ヴェイルがフゥに話しかけ、喋れないフゥの代わりにイグリアが割り込む。
あの時の自分が重なって見えた。リヒトと、リヒトの母と、僕の3人。村が壊滅したあと、3人で生活してた。家族が全員死んだ僕にとって、リヒトの母は、僕には第2の母でもあった。
羨ましいような、微笑ましいような。彼らの未来を見ながら、僕は僕の過去を見ている。
3人がこれからどうなるのか。僕は、彼らの若い縁に何処まで踏み込むことを許されるだろうか。
過去が増える事に、考えることも増えていく。まだそれを、心の底から心地良いとは言えそうにない。
こういう感情的な場面において、前世の記憶があまり役に立たない。残念な事に。




