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ヴェイルとの決闘を経て、校内でのフゥへの評価は、より目に見える形で現れた。爆炎の中に立つあの頭を隠したシルエットは、生徒に強烈なインパクトを与えたのは間違いない。
様々な噂、呼び名の中に、やはりそれはあった。
「魔王」
その言葉を聞いてそちらを向く。女子生徒数人がヒソヒソと話している。
「魔王を知ってるのか?」
思わず声をかける。やばいという顔をして、1人は既に1歩下がった。
「いや、すまない。最近世論もうるさいだろ?その余波は僕にもあって、魔王について調べる必要があるからさ」
半分は嘘だ。頼まれて調べてはない。
「知らない。魔族とかと同じ」
「上位互換って訳だ」
「てか、魔王ってもう居ないんでしょ?」
「正確には、居なくなっただけど」
そこから適当に会話したが、特に何も無く、ただこの生徒達の、他人への冷めた感情だけが浮き彫りになっただけだった。
「魔王どこだよ」
そんな声にまた振り返る。その隙に女子生徒達はそそくさと居なくなる。冒険者証を目指す生徒だ。フゥ達よりも明確な上級生にあたる。
「魔王?」
また声を掛けに行く。今度の生徒は楽しそうだ。ヴェイルと同じ。
「お、先生!すげぇ魔法使いが居るんだろ?」
レオロスは魔法剣士という特異な立ち回りを行っている、上級生の中でも相当な強者だ。彼ならとっくに冒険者証は手に入れる事は容易だろうに、それをせずまだ生徒をやっている。
「頭に黒い布を被った、義肢の生徒だと聞いています」
もうひとりはカシアン。レオロスとコンビで戦闘をしていて、こっちは後衛の魔法使いだ。
「あぁ、居るな。決闘か」
「もちろん」
「お前いつ卒業するんだよ」
「本当はもう卒業するつもりだったけどさ。本当の魔王消えたんだろ?今冒険者になるよりも、その時が来てからの方が楽しそうじゃん」
資格を取ることで卒業という形式は、こういう奴を産む。学校側からしたら、学費を落とし続ける良い存在だが、校内の強さのバランスが崩れるのは考え物だ。
「彼女は1人だから、お前ら2人なら戦ってくれる仲間を見つけてやってくれ」
「メルプが乱入したんだろ?あいつでいいじゃん」
「彼女……その方は女性なんですか?」
「まぁ」
2人は顔を見合せつつ、レオロスは笑みを隠さない。
「とりあえず、ちょっと2人を探してくるわ」
「あと、魔王って呼ぶのはやめな。失礼だ」
「やだねー。俺に勝ってから言いな」
レオロスはそう言って立ち去ろうとする。うん、無理だ。勝てない。と言って引き下がる気はない。
手をかざす。立ち去ろうとするレオロスが僕の目の前に来る。その肩を掴む。
「……なんだよ」
「お前が挑戦者だ。それは理解しておけ」
僕を振り払って、レオロスはまた立ち去る。今度は何もせず見送る。思い切り息を吐く。どっと疲れた。精神的な話ではなく、魔法の演算として。
フゥが使うので、僕も転移魔法を僕も色々試している。当然ながら魔法攻撃なんて転移させられないが、人は条件次第では可能だ。相手の意識がこちらから逸れている時だけ。意識されて拒否されると転移できない。
それにしても厄介な話だ。決闘はなかなか止められるものでは無い。
そもそも冒険者証を目指している生徒にとって、決闘は授業と同じだ。これからの魔王無き世界において、対人戦はより重要視される。
学校側もそれを理解しているし、何より治癒魔法がある。だから決闘自体はかなり推奨されている。
「あ、先生!」
ヴェイルが来る。1人らしい。
「フゥは?」
「知らないな。でも今から探すところだ」
「お、俺も今日は体術の練習に付き合ってもらう予定だからな。一緒に行く」
「……多分、無理かもしれないぞ」
「は?」
「決闘を申し込まれてる。2対2で」
「…………フゥと、誰が」
「メルプ」
「なんで俺じゃねぇの?」
「相手が上級生だからな。それにこの前メルプに負けてるから、相手もメルプを選んだんだろうな」
「ぐぬぬ」
とりあえず、ヴェイルとふたりで旧校舎に行く。とっくに人が集まっていて、既にフゥとメルプが居た。メルプは口を窄めて、嫌だなというのを全面に出している。
「まぁ、上級生の戦いを見るのも、1個の経験と思おう」
「ぐぬぬぬ」
如何にも主役かのように、遅れてレオロスとカシアンが場内に上がる。歓声の中に、ヒソヒソと不安の声が混じっている。
前回の決闘の話を聞いているなら、レオロスとカシアンはどう立ち回って来るのか。今日初タッグのフゥとメルプがどうするのか。これが赤の他人なら、菓子と酒を持ってきただろう。
レオロスが剣を抜く。カシアンが手を前に構えて魔法の準備をする。
メルプがゴーグルを付ける。フゥは、相変わらず棒立ち。




