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姫月ちゃん、早く起きて! お誕生日とアジトがなくなっちゃう~><!  作者: 小屋隅 南斎


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第6話

「ただ、代わりに……」

 イセはそう続けて、顔色を窺うように僅かに口ごもりながら条件を提示した。

「見せて欲しいものがあるのです」

「見せて欲しいもの?」

「はい……先程、標本がどうとか言っていませんでした?」

 その言葉に、ノアとアゲハの視線はカカシへと集まった。

「かかしーの骨格標本のことだよ、きっと!」

 アゲハが彼女の両肩に手を乗せ、笑顔で彼女の顔を窺う。カカシは目を丸くしたままきょとんとしていた。

「骨格標本……それです。そしてもしよろしければ、いくつか売って頂くことは可能でしょうか。どのような動物のものかにもよりますが……ええと。お名前を伺っても?」

「カカシだよ」

「素敵なお名前ですね」

「……それ、『ラビット』の子には禁句だから覚えておいた方がいーよ。皆自分の名前なんて気に入ってないんだから……」

 苦い顔でカカシが社交辞令を咎めると、イセはすんとした顔のまま「そうなのですね」と頷いた。

「カカシさん。それで、いかがでしょう」

「いいよ。でも、何か勘違いしてそうだけど……カカシが集めてるのは、人体の骨格標本だよ」

「……人体? 人間ってことでしょうか?」

「そう。コレクションは全部人体」

 沈黙が訪れる。イセは数度瞬きを挟んだ後、表情を変えないまま再び口を開いた。

「すみません、わたくしは人体には美を見出していないもので……。でしたらお手間を取らせるわけにはいきません。それに人骨ならそこかしこに転がっていますしね……」

「そう? 残念。あの美しさが分からずに美術を扱うなんて、二流ねえ」

「感性は人それぞれですから」

 イセは気を悪くしたようにも見えず、無表情のまま話を終えた。同時にカカシの趣味を悪く思っているわけでもないようだ。二人の交渉は、あっけなく決裂してしまった。会話を横で聞いていたノアとアゲハが、俄然慌て出す。

「えっ? それじゃあカールグスタフの話もなし?」

「ってことは、お前の悲鳴で起こさなくちゃいけなくなるけど?」

 アゲハがイセの顔を見上げて眉を顰める。自身に身の危険が迫っていることをなんとなく察したらしいイセは、ぼんやりとアゲハの顔を見つめ返した。これが『ラビット』に誰も近づかない所以の一端である。

「……いえ、カールグスタフをお貸しすることは出来ますよ」

 彼女は眉一つ動かさないままそう述べた。脅されたからというより、もともとこうするつもりでいたようだ。

「何やらお急ぎのようですしね」

 その言葉に、三人の顔が明るく晴れた。今度こそ、カールグスタフを手に入れることが出来たようだ。三人は安堵とともに笑顔で手を叩き合った。

「ちなみに、どのように使うかお伺いしても?」

 盛り上がって喜ぶ三人へ、イセは首を傾げてみせる。ご機嫌のノアがにこやかに答えた。

「キャプテンの誕生日を守るために使うんだよ!」

「……。なるほど……?」

「アジトを撃ってキャプテンを起こすの! 今日はキャプテンの誕生日だから!」

 続くアゲハの跳ねる声での補足に、イセは淡く笑みを浮かべた。

「芸術は爆発ですからね……」

 何かを心得たように、イセは爽やかに頷いた。そして彼女はハイヒールを響かせ、一歩足を前へと進めた。

「良いでしょう、カールグスタフを取りに行きましょう。『レッド』の縄張りを抜けた街の外れに、わたくしの倉庫の一つがあります。ここから車で大体一時間程でしょうか。お急ぎなのですよね? 参りましょうか」

「い、一時間!?」

 アゲハが仰天して叫ぶ。喜びに染まっていたノアとカカシの顔も、はっとしたように固まった。

「今何時!?」

「? ……二十一時半前、というところですね」

 イセは白手袋とジャケットの間に覗く腕時計を確認して悠然と答えた。三人は険しい顔を見合わせる。

「倉庫までつくのに二十二時半……倉庫が『レッド』の縄張りの外なら、そこから『ラビット』のアジトに戻るのには一時間半から二時間くらい……?」

「た、誕生日が終わっちゃう……!」

 カカシが愕然として呟く。慌てふためく三人を、イセは不思議そうに眺めていた。

「ど、どうしよう?」

「車! 車で行くって言ったよね!?」

 アゲハがイセを勢い良く振り返る。イセは緩慢に頷いてみせた。

「飛ばせばなんとかなるかも……!?」

 苦肉の策といったように絞り出したアゲハの声に、ノアがぱあと顔を明るくした。

「ならボクに任せて! 運転はねー、得意なんだ!」

 るんるんと張り切るノアを見て、アゲハとカカシはその表情を安堵したように緩めた。

「良かった……!」

「ノア、お願いね!」

「任せて! ついでに過去最高得点も叩き出そう~! あっ、一人千ポイントだよ!」

 にこにことするノアを見て話がまとまったことを理解したらしく、イセは「途中で乗り捨てられている車がありました。行きましょう」と言って歩き出した。『ラビット』の三人はジャケットの背を追い駆け、楽しそうに厚底を鳴らして去っていった。コンクリートに零れて広がった液体だけが、誰もいなくなった『ブルー』のアジト前で赤黒く燃え続けていたのだった。




***




「今何時!?」

「二十三時五十分! ……間に合った!」

 ノアとアゲハ、カカシの三人は、カールグスタフM4を『ラビット』の敷地に運び込んでいた。ノアが無反動砲と共にその場に残り、アゲハとカカシは急いで執務室へと向かった。館内に入ってエレベーターで上へあがり、オフホワイトの廊下を厚底を響かせて走っていく。真っ直ぐと執務室へ飛び込むと、そこには三人が出かけた時のままの光景が広がっていた。放り出された昼食時のゴミ、カーペットに広がるアイスの染み。そして事務机の上には、突っ伏してすやすやと眠ったままのキャプテンの姿。二人はその手にラッピングされた包みとミニホールケーキの乗った小皿を持ち、姫月の横を通り過ぎて奥の窓辺へと駆けて行った。窓から外を見下ろせば、ノアがカールグスタフを肩に担いで待機しているのが見えた。アゲハはレースカーテンを跳ねのけ、乱暴に窓を開けた。身を乗り出して、腕で頭上に円を作りながら全力で叫ぶ。

「ノア! オッケイだよ~~!」

「うん!」

 耳栓で聞こえてはいないはずだが、ノアの元気な返事が敷地内に小さく木霊した。そして——


 『ラビット』の敷地は、鼓膜を突き刺すような爆音に包まれた。




***





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