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夏が終わる前に、君は消える  作者: きなこもち
夏が終わる前に、君は消える

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記憶の杭


十三日目。


午前。


蓮は一人、小学校の前に立っていた。


夏休みで校門は閉まっている。


鉄柵越しに見える校庭。


照りつける太陽。


白く光るアスファルト。


「鈴」


呼ぶ。


少し間があって。


「いるよ」


昨日より、ほんの少し濃い。


それだけで胸が軽くなる。


「来たぞ」


「分かる」


小さな笑い。


「懐かしい匂いする」


校庭の砂。


夏の湿った空気。


蝉の声がやけに大きい。


蓮はフェンス越しにブランコを探す。


赤いブランコ。


「覚えてるか」


「うん」


鈴の声が、ほんの少し近づく。


「アンタ、押すの下手だった」


「うるせえ」


思わず笑う。


その瞬間。


鈴の気配がふっと強くなる。


「今、ある」


少しはっきり。


「濃い」


胸が強く打つ。


効いている。


確実に。


「小四のとき、リレーで転んだの覚えてるか」


鈴が一瞬黙る。


「やめて」


でも笑っている。


「あれ、めちゃくちゃ泣いてた」


「アンタがバトン落としたからでしょ」


声が確実に近い。


夕焼け。


悔しそうな鈴。


必死に笑わせようとした自分。


思い出が鮮明に蘇る。


そのたびに。


鈴の輪郭が戻る。


「戻る」


鈴が息を吐く。


「ちゃんと、ここにいる感じ」


蓮はフェンスを強く握る。


「まだいける」


希望が、確かにある。


---


午後。


帰り道。


鈴は少し元気だ。


「次どこ行く」


「欲張り」


「だって、濃いほうがいい」


素直な声。


蓮は笑う。


「川、行くか」


一瞬、静かになる。


「あの日の」


「そう」


二人で落ちた川。


夏の水。


夕焼け。


川沿いの草が揺れている。


水音が静かに響く。


蓮は川を見下ろす。


「覚えてるか」


「覚えてる」


声が確実に近い。


「アンタ、服のまま飛び込んだ」


「当たり前だろ」


「ヒーローぶってた」


笑う。


その笑いが胸を震わせる。


「怖かったけど」


鈴が小さく言う。


「嬉しかった」


蓮は息を止める。


「なんで今言う」


「今しか言えない」


その言葉が重い。


川面がきらめく。


風が吹く。


鈴の気配が、昨日よりはっきりしている。


思い出は杭になる。


確実に。


---


夕方。


帰り道。


鈴がぽつりと言う。


「でもね」


声が少し揺れる。


「長時間はきつい」


蓮の足が止まる。


「どういうことだ」


「濃くなるけど」


一拍。


「消耗もする」


胸が締めつけられる。


「燃えるみたい」


その表現が怖い。


「濃くなって、でも削れる」


増えているようで、同時に減っている。


「やめるか」


蓮が言うと、鈴はすぐ否定する。


「やめない」


即答。


でも。


「アンタが覚えててくれるなら」


小さく。


「怖くない」


胸を打つ言葉。


---


夜。


日記を開く。


13日目。


今日は濃かった。


すぐに文字が浮かぶ。


楽しかった。


線が昨日より強い。


蓮は書く。


全部思い出す。


消えないように。


沈黙。


やがて。


消えるよ。


小さく。


でも。


アンタが覚えてるなら、消えない。


蓮は目を閉じる。


それが答えかもしれない。


物理的な存在は消える。


でも記憶と想いは残る。


それで納得できるほど、大人ではない。


「鈴」


「なに」


「俺、まだ足りねえ」


震える声。


「足りない」


「足りない」


正直だ。


鈴は優しく笑う。


「欲張り」


風が吹く。


風鈴が鳴る。


ちりん。


今日は音が長い。


十三日目。


残り三十六日。


思い出は確実に繋がる。


でも濃くなるたび、燃える。


この方法が正解かは分からない。


それでも何もしないよりはいい。


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