残り時間
翌朝。
目が覚めた瞬間、まず確認する。
「鈴」
沈黙。
心臓が跳ねる。
数秒後。
「いるよ」
声はある。
でも昨日よりさらに遠い。
薄い膜を何枚も隔てた向こうから届くみたいだ。
蓮は天井を見つめたまま静かに言う。
「今日、調べる」
「何を」
「消えない方法」
即答だった。
鈴が小さく笑う。
「なにそれ。RPGの隠しイベント?」
甘く軽い口調。
でも息が浅い。
「うるせえ」
蓮は体を起こす。
「四十九日って言ったの隼人だろ」
「うん」
「なら四十九日で何かあるはずだ」
鈴は黙る。
否定しない。
それが答えみたいだった。
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学校。
授業なんて頭に入らない。
蓮はノートの端に日付を書く。
7月15日。
今日、7月23日。
8日目。
指で数える。
残り41日。
「まだある」
小さく呟く。
自分に言い聞かせる。
昼休み。
蓮は隼人を捕まえる。
「おい」
「なんだよ」
「四十九日ってさ」
隼人は少し驚く。
「気にしてたのか」
「ああ」
隼人は真面目な顔になる。
「昔から言うだろ。魂がこの世にいる期間」
「そのあとどうなる」
「旅立つ」
即答。
胸がきつく締まる。
「戻る方法とか」
「ねえよ」
現実的な声。
隼人は蓮をじっと見る。
「蓮」
「なんだ」
「ちゃんと今見ろ」
その言葉が痛い。
今。
雫。
未来。
でも。
「今が消えるかもしれねえんだよ」
本音が漏れる。
隼人は何も言わない。
ただ肩を軽く叩く。
「お前、ほんと不器用だな」
苦く笑うしかない。
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放課後。
蓮は鈴の家の前に立っていた。
事故以来、初めて来る。
軒先の風鈴が揺れている。
ちりん。
胸が締めつけられる。
「来ちゃったね」
鈴の声がかすれる。
「嫌か」
「嫌じゃない」
少し嬉しそう。
「ちょっと怖いだけ」
玄関は閉まっている。
灯りもついていない。
静まり返っている。
蓮は風鈴に手を伸ばす。
透明なガラス。
指先にひんやり触れる。
「これ」
「うん」
「お前、好きだったよな」
鈴が小さく笑う。
「音、涼しいじゃん。夏って感じするし」
風が吹く。
ちりん。
その音と同時に。
鈴の気配がふっと揺らぐ。
「蓮」
声が遠い。
「今、なんか変」
背筋が冷える。
「何が」
「足元が」
かすれる。
「透ける感じ」
胸が凍る。
「やめろ」
「止まらない」
声が急速に薄くなる。
「おい」
呼吸が荒くなる。
風が強く吹く。
風鈴が激しく鳴る。
ちりん、ちりん。
音が重なる。
「蓮」
ひどく遠い。
「好きって言ってくれて、よかった」
「ふざけんな」
蓮は風鈴を強く掴む。
ガラスが震える。
「まだ早いだろ」
必死に言う。
「まだ8日目だぞ」
風だけが吹く。
「鈴」
呼ぶ。
返事がない。
胸が冷える。
「鈴」
もう一度。
長い。
永遠みたいな数秒。
やがて。
かすかな声。
「いる」
弱い。
でも確かにいる。
蓮の膝から力が抜ける。
「びびらせんなよ」
声が震える。
鈴は小さく笑う。
「ごめん」
息が荒い。
「今、ちょっと本気でやばかった」
冷たい汗が背中を伝う。
8日目でこれだ。
四十九日まで持つのか。
「絶対消さねえ」
思わず言う。
「何を」
「お前」
沈黙。
やがて鈴が優しく言う。
「アンタ、ヒーローじゃない」
現実的な声。
「でも」
小さく。
「そう言ってくれるの、嬉しい」
風が止む。
風鈴が静かになる。
ちりん。
最後に一度だけ鳴る。
蓮はその音を聞きながら思う。
時間は確実に削れている。
でも。
好きだと分かった今。
ただ見送るなんてできない。
四十九日。
その意味をちゃんと知る。
鈴が消えるその瞬間まで。
抗う。
夏はまだ終わらない。
でも。
終わりが近づいている音が、確かに聞こえ始めていた。




