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夏が終わる前に、君は消える  作者: きなこもち
夏が終わる前に、君は消える

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14/36

残り時間


翌朝。


目が覚めた瞬間、まず確認する。


「鈴」


沈黙。


心臓が跳ねる。


数秒後。


「いるよ」


声はある。


でも昨日よりさらに遠い。


薄い膜を何枚も隔てた向こうから届くみたいだ。


蓮は天井を見つめたまま静かに言う。


「今日、調べる」


「何を」


「消えない方法」


即答だった。


鈴が小さく笑う。


「なにそれ。RPGの隠しイベント?」


甘く軽い口調。


でも息が浅い。


「うるせえ」


蓮は体を起こす。


「四十九日って言ったの隼人だろ」


「うん」


「なら四十九日で何かあるはずだ」


鈴は黙る。


否定しない。


それが答えみたいだった。


---


学校。


授業なんて頭に入らない。


蓮はノートの端に日付を書く。


7月15日。


今日、7月23日。


8日目。


指で数える。


残り41日。


「まだある」


小さく呟く。


自分に言い聞かせる。


昼休み。


蓮は隼人を捕まえる。


「おい」


「なんだよ」


「四十九日ってさ」


隼人は少し驚く。


「気にしてたのか」


「ああ」


隼人は真面目な顔になる。


「昔から言うだろ。魂がこの世にいる期間」


「そのあとどうなる」


「旅立つ」


即答。


胸がきつく締まる。


「戻る方法とか」


「ねえよ」


現実的な声。


隼人は蓮をじっと見る。


「蓮」


「なんだ」


「ちゃんと今見ろ」


その言葉が痛い。


今。


雫。


未来。


でも。


「今が消えるかもしれねえんだよ」


本音が漏れる。


隼人は何も言わない。


ただ肩を軽く叩く。


「お前、ほんと不器用だな」


苦く笑うしかない。


---


放課後。


蓮は鈴の家の前に立っていた。


事故以来、初めて来る。


軒先の風鈴が揺れている。


ちりん。


胸が締めつけられる。


「来ちゃったね」


鈴の声がかすれる。


「嫌か」


「嫌じゃない」


少し嬉しそう。


「ちょっと怖いだけ」


玄関は閉まっている。


灯りもついていない。


静まり返っている。


蓮は風鈴に手を伸ばす。


透明なガラス。


指先にひんやり触れる。


「これ」


「うん」


「お前、好きだったよな」


鈴が小さく笑う。


「音、涼しいじゃん。夏って感じするし」


風が吹く。


ちりん。


その音と同時に。


鈴の気配がふっと揺らぐ。


「蓮」


声が遠い。


「今、なんか変」


背筋が冷える。


「何が」


「足元が」


かすれる。


「透ける感じ」


胸が凍る。


「やめろ」


「止まらない」


声が急速に薄くなる。


「おい」


呼吸が荒くなる。


風が強く吹く。


風鈴が激しく鳴る。


ちりん、ちりん。


音が重なる。


「蓮」


ひどく遠い。


「好きって言ってくれて、よかった」


「ふざけんな」


蓮は風鈴を強く掴む。


ガラスが震える。


「まだ早いだろ」


必死に言う。


「まだ8日目だぞ」


風だけが吹く。


「鈴」


呼ぶ。


返事がない。


胸が冷える。


「鈴」


もう一度。


長い。


永遠みたいな数秒。


やがて。


かすかな声。


「いる」


弱い。


でも確かにいる。


蓮の膝から力が抜ける。


「びびらせんなよ」


声が震える。


鈴は小さく笑う。


「ごめん」


息が荒い。


「今、ちょっと本気でやばかった」


冷たい汗が背中を伝う。


8日目でこれだ。


四十九日まで持つのか。


「絶対消さねえ」


思わず言う。


「何を」


「お前」


沈黙。


やがて鈴が優しく言う。


「アンタ、ヒーローじゃない」


現実的な声。


「でも」


小さく。


「そう言ってくれるの、嬉しい」


風が止む。


風鈴が静かになる。


ちりん。


最後に一度だけ鳴る。


蓮はその音を聞きながら思う。


時間は確実に削れている。


でも。


好きだと分かった今。


ただ見送るなんてできない。


四十九日。


その意味をちゃんと知る。


鈴が消えるその瞬間まで。


抗う。


夏はまだ終わらない。


でも。


終わりが近づいている音が、確かに聞こえ始めていた。


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