表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夏が終わる前に、君は消える  作者: きなこもち
夏が終わる前に、君は消える

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/36

祭りの余韻


夜の道を歩きながら、蓮は何度も深呼吸を繰り返していた。


好きだ。


言ってしまった。


ずっと隣にいた幼馴染に。


死んでしまった幼馴染に。


胸の奥がじわじわと熱い。


でも同時に、ひどく冷えている。


「鈴」


呼ぶ。


「なに」


返事はある。


でもさっきよりさらに薄い。


好きだと伝えた瞬間、鈴の気配は一瞬だけ濃くなった。


それが今、急速にほどけていく。


「さっきさ」


蓮は言葉を選ぶ。


「言ってよかったのか」


沈黙。


やがて鈴が小さく笑う。


「よかったに決まってる」


声が震えている。


甘いのに、今にも消えそうだ。


「ずっと言えなかったんだよ」


蓮は夜空を見上げる。


「でも」


喉が締まる。


「これで余計に消えたら」


鈴が少しだけ強く言う。


「消えないよ」


即答。


けれど声は頼りない。


「私、今すごい満たされてる」


ぽつりと落ちる言葉。


「それだけで十分」


十分という言葉が、刃物みたいに胸に刺さる。


十分ってなんだ。


まだ何もしていない。


まだ何も始まっていない。


「十分じゃねえ」


思わず言う。


「俺、まだ何も返してねえ」


鈴がふっと息を吐く。


「今日、答え出してくれた」


「遅いだろ」


「遅いけど」


小さな笑い。


「嬉しい」


その一言がすべてだった。


蓮の胸が強く打つ。


でも鼓動が強くなるほど、鈴の気配は遠ざかる。


「鈴」


沈黙。


「鈴」


返事がない。


足が止まる。


胸が凍る。


「おい」


呼吸が荒い。


やっと、かすかな声。


「いる…ちょっと」


途切れ途切れ。


ノイズみたいに崩れている。


「なんか変」


背筋が冷える。


「何が」


「分かんない」


声が揺らぐ。


「さっきから感覚が」


感覚。


鈴にはもう体がない。


でも蓮の中にある何かが揺れている。


「薄くなるとき」


鈴が小さく言う。


「足元なくなる感じする」


胸が締めつけられる。


「落ちるみたいな」


蓮は強く拳を握る。


「掴まれ」


思わず言う。


「俺に」


沈黙。


やがて。


「掴んでる」


かすかな声。


「アンタの中」


その言葉が痛いほど温かい。


家に着く。


玄関を開け、部屋に入る。


電気をつける。


現実が戻る。


夏祭りは終わった。


屋台も花火も提灯もない。


ただの部屋。


机の上の日記帳がやけに目立つ。


蓮はすぐに開く。


好きって言った。


震える文字。


しばらく沈黙。


ペンがゆっくり動く。


聞いた。


線が細い。


嬉しかった。


その下に、にじんだ跡。


涙みたいに。


蓮はすぐに書く。


消えるな。


強く。


インクが濃い。


長い沈黙。


やがて。


努力する。


その一文が妙に切ない。


努力ってなんだ。


どうやって。


誰が。


「鈴」


声に出す。


「なに」


さらに薄い。


風に紛れそうな声。


「もし四十九日なら」


初めて数字を口にする。


鈴が静かに震える。


「うん」


否定しない。


「まだ七日目だ」


計算する。


四十二日。


まだある。


まだあるはずだ。


「時間ある」


必死に言う。


鈴は小さく笑う。


「アンタ、必死」


「当たり前だろ」


胸が痛い。


「やっと分かったのに」


声が震える。


鈴は少し静かになる。


やがて。


「ねえ、蓮」


優しい声。


「もし私いなくなっても」


反射的に怒る。


「やめろ」


「最後まで聞いて」


静かだけど強い。


「もし消えても」


一拍。


「好きって言ってくれたことは消えない」


胸が軋む。


「アンタの中に残る」


涙が込み上げる。


「それでいい」


蓮は首を振る。


「よくねえ」


即答。


「足りねえ」


沈黙。


長い。


やがて。


鈴が優しく笑う。


「アンタ、欲張り」


でもその声は嬉しそうだ。


外で風が吹く。


風鈴が鳴る。


ちりん。


その音が今までより少し短い。


蓮ははっきり感じる。


両想いになった。


でも。


幸せと同じ速度で、消失も進んでいる。


好きだと気づいた瞬間から。


失う怖さは何倍にもなった。


四十九日という数字が、現実味を帯びる。


まだ七日目。


でも。


時間は確実に削れている。


蓮は初めて決意する。


ただ待つだけじゃない。


消えない方法を探す。


どんな形でもいい。


夏が終わる前に。


必ず。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ