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【第八十七話】一階層探索①

「シェーケン殿、留守の間を頼んだ」


 出発の挨拶をしたユウイチ達は一路ダンジョンを目指す。


「土産話を楽しみにしているぞ」と返してパチリとウインクをしたシェーケンを見て蕁麻疹が出来たのではないかと思ったのはご愛嬌である。


 だが、朝痒いのは勘弁して欲しいユウイチである。


 それはさておき、何度もダンジョンに足を運ぶことを考えて改造を施した馬車に「いつもの馬車と違いますね」とリリアの面白い物センサーが反応したようだ。


 そんなリリアにつられたアルマも「ユウイチ所長、座席の後ろはどうなっているんですか?」と車内をキョロキョロと見回している。


「ここにはキッチンとシャワールーム、それから仮眠スペースを設置してあるんだよ」


 以前は荷台であった部分をユウイチは居住スペースにしている。


 これは、前世のキャンピングカーを真似たもので謂わばキャンピング馬車である。


「連結している窓のない馬車は何のためのものですか?」


「アルマ君、よくぞ聞いてくれた。

 それは保冷馬車だよ!」


 ユウイチは苦心の末に大型化に成功した魔導冷蔵庫を馬車に搭載して保冷馬車にした。


 こうやってキャンピング馬車に連結しておけば狩った魔獣を冷蔵保存したまま移動できる。


 これは、ダンジョン探索における強い味方になるとユウイチは自負している。


 因みに長時間の冷却に適したスノーマン(雪男)の魔石はリーネの伝で手に入れることができた。


「これなら、どれだけ魔獣を狩っても全て持ち帰れますね」


「狩った魔獣で満杯にしたいです!」


 魔獣を狩り放題だと考えたリリアとアルマのテンションは既にMAXのようである。


「だが、この馬車はダンジョン内には持ち込まないからな」


 ダンジョン内では魔獣に馬車を壊される可能性がある上に通れない場所もあるはずだとユウイチは考えている。


 空間収納には大量の食料や武器、それから野営などに必要な道具を入れてあるので馬車を入れるスペースはない。


 この辺りは前世のネコ型ロボットの持っているポケットが羨ましいと思うユウイチである。


「アルマ様、ダンジョンに着くまでが勝負ですね」


「リリア様、頑張りましょう」


 二人は森林道で遭遇する魔獣を全て狩りそうな勢いである。


「ダンジョンに何日ぐらい潜るか分からないから、道中はスピード重視でいくよ」


 今回は運転手を交替制にしてダンジョンを目指すノンストップ作戦で臨む。


 前世のモータースポーツのピットイン回数を減らす作戦のようなもので移動時間の短縮に繋がるはずだとユウイチは計算している。


「うー、仕方ありませんね。

 道中の鬱憤はダンジョンで晴らしましょう」


 ユウイチは一階層の魔獣達に「リリア君が、お騒がせします」と心の中で謝っておく。


「カミューヨ君、ダンジョン探索の先輩として色々と指導して欲しい」


 カミューヨは傭兵団と生活していた頃に何度もダンジョンに潜った事があるらしい。


 だとしたら、ダンジョン探索について豊富な知識を持っているはずだとユウイチは考えている。


 そんなカミューヨにパーティーのリーダーを任せたいところだが、「Bランク冒険者を差し置いてリーダーになるのは無理です」と、お断りされてしまった。


「カミューヨさんが潜ったダンジョンの話を聞かせて下さい」


「私も聞きたいです!」


 二人が話に夢中になるあまり警戒が疎かになりそうなので、慎重派のユウイチは念のため偵察用ドローンを飛ばしておくことにした。


「私が潜ったのは「ピンクレディー」と呼ばれている桃色の蝶型の魔獣がラスボスのダンジョンでした。

 全部で五階層のダンジョンでしたが、フロアボスはどれも強力でした」


 カミューヨは当時を思い出ししみじみとしているようで意識がダンジョンに飛んでいる。


「どんなフロアボスがいたのですか?」


 話を聞いているリリアも既に意識がダンジョンに飛んでいるようである。


「一階層には飴で冒険者を誘う「大蟻キャンデーズ」という三匹の蟻型の魔獣がいました。

 二階層では数十匹のキャスパーリーグが潜む「ニャン子クラブ」と呼ばれるモンスタールームがボス部屋でした」


「フロアボスは、一匹とは限らないのですね……」とアルマが嬉しそうにしているのは、連携の成果が試せるからだろうとユウイチは推察する。


「三階層は、禁忌を犯して処刑された子供達がゴーストとなって飛び回る「禁忌キッズルーム」がボス部屋で、中に入ると少年部隊と少女部隊に分かれて攻めてきました。

 四階層は、嵐を巻き起こすトルネードと呼ばれる魔獣がいました」


「何だかアイドルグループみたいなフロアボスだな」という言葉をユウイチは飲み込んだ。


「所長様、興味がありませんでしたか?」


「あやや……

 いいや、そんなことはない。

 続けてくれて構わないぞ」


 咄嗟のことに「いいや」を噛んで「あやや」と言ってしまいユウイチは赤面する。


「ところで所長様、今回の目標はなんですか?」


「今回の目標は一階層の攻略なんだが、カミューヨ君はどう思う?」


 三人には内緒だがリーネからは「月に一階層」という前世のブラック企業並みのノルマが課せられている。


 因みに内緒にしているのは、じゃじゃ馬コンビが暴走しそうだからである。


「潜ってみないことには何とも言えません。

 ですが、無理せず撤退することも考えておかなければなりません」


「確かにそうだな。

 チャンスは幾らでもあるからな」


 ミレイとリーネがいない以上、パーティーに慎重派がいることが心強いと思うユウイチである。


「連携の成果を出せば一階層の攻略は間違いありません」


「そうです。

 撤退しないように皆で頑張りましょう!」


 跳ね馬ならぬじゃじゃ馬コンビは、前世のV6エンジンを搭載したスポーツカーのようにダンジョンを爆走しそうである。


 だから、このパーティーに慎重派の存在は必須であるとユウイチは強く思う。


「ユウイチさん、運転はお昼に交替するんですよね?」


「アルマ君の次はリリア君が運転する順番だったな」


 交替する前にリリアには食事をさせておかなければならない。


 これは、運転していると食事ができないからで、お腹を空かせたリリアが不機嫌になるからではない。


「リリア君とカミューヨ君は今のうちに食事を済ませておいてくれるかな」


 本日のランチは、アボガドキウイベーコンサンド(AKBサンド)とソーセージ角煮エッグサンド(SKEサンド)から好きな方を選べる。


 もし、「腹が減っては戦ができぬ派の方」にはリリアが選んだSKEサンドをお勧めしたい。


「ユウイチ所長、今回は至れり尽くせりの野営ができなくて残念です」


「カミューヨさんにも豪華な野営を経験して欲しかったですね」


「野営=豪華は間違っている」とユウイチは思うが口には出さないでおく。


「リリア様、この食事だけでも随分と豪華ですよ」


 コンビニやドライブインのない、こちらの世界の旅はこれが常識である。


 慎重派の上に常識人のカミューヨはユウイチにとっての心の友(アミーゴ)である。


「カミューヨ君が潜ったダンジョンにはどんな薬草があったんだ?」


 AKBサンドを食べ終えたユウイチはミルクを飲みながら心の友に質問をしてみた。


「強壮剤になる「モモノフ」という名の桃色のクローバーと畑の肥料になる「トキオの実」、それから煎じて飲むと目覚めがスッキリになる「モウニングウスメ草」などがありました」


「そうか、薬草も色々とあるんだな……」


 フロアボスに続き前世のアイドルグループ名に似た薬草ばかりである。


「それにしても所長様の空間収納のスキルは便利ですね」


 空間収納のスキルは勇者から賢者に任命されて偶然得たスキルである。


 断っておくが、飽くまで偶然得たのであって決して「ご都合主義」ではない。


「徒歩移動の時にバッグは不要だし、馬車移動でも積み降ろしを減らせるから大助かりだよ」


「ダンジョンを探索するには有利なスキルだと思います」


 ダンジョン内ではリュックを背負って戦闘することも考えられる。


 当然のことながらリュックが邪魔になることもある。


「荷物持ちは任せておいてくれ!」


 戦闘に自信の無いユウイチはポーター役に意欲を見せる。


「食料を持っているユウイチさんと、はぐれたら大変です」


 ダンジョン内で、ユウイチはパーティーのライフラインそのものである。


「私には探知のスキルがあります。

 ですから、はぐれても直ぐに見付けられます」


「アルマ様、羨ましいです!」


「リリア君の野生の勘なら食料の気配を辿って探し出せそうだ」とユウイチは思うが黙っておく。


「アルマ様には結界のスキルもありますから盾役として力を発揮できそうです」


 慎重派で分析が的確なカミューヨは既にパーティーのリーダー的な存在だとユウイチは感心する。


「私とカミューヨさんは前衛、ユウイチさんは後衛しかできませんが、アルマ様は前後どちらでもできますね」


 探知と結界のスキルを得たアルマもパーティーに欠かせない存在である。


「リリア様の「変幻自在」のスキルから繰り出される攻撃は魔獣でも躱しきれないはずです」


 決め技である疾風迅雷に加えてパワードスーツの性能を最大限に引き出せる「変幻自在」のスキルを持つリリアもパーティーには欠かせない存在である。


 だから、ユウイチは三人から「足手まといだ」と言われないように決意を新たにする。


「ユウイチ所長、SKEサンドをお願いします!」


 先ほど、リリアと運転を替わったアルマが後部座席に移動してきた。


 完璧なポーターを目指すユウイチは、直ぐさま空間収納からSKEサンドを取り出してアルマに渡す。


「ユウイチ所長はどんな武器を持ってきたんですか?

 あの反則スレスレの魔導具はミレイ様にプレゼントしたんですよね?」


 反則スレスレの魔導具とはアースドラゴン討伐で使用した前世のマシンガンを魔導具化したものである。


「あははは、新しい武器を用意してあるよ。

 俺には攻撃系のスキルはないから、あれくらいの装備は必要不可欠だからな」


 ユウイチは反則序でに魔導ショットガンと魔導ランチャーの装備で挑む。


「そうですね。

 身を守る術は多い方が良いですね」


 リリアは、「ユウイチ=ラブ」ではなく「食料=ラブ」なだけである。


「食料確保のためユウイチ所長を全力で守らなくてはいけません」


「三人で所長様を守りましょう」


 アルマとカミューヨは「ユウイチを守る=食料を守る」と考えているようである。


 何れにしても女性から守られることになりそうで、これでは親衛隊に守られた前世の昭和のアイドル歌手のようだとユウイチは思った。

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