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【第八十八話】一階層探索②

「ふぁーー、ちょっと眠り過ぎたな……」


 仮眠スペースから這い出してきたユウイチは大きな欠伸をした。


「ユウイチさん、目が覚めましたか?

 もう、ダンジョンが見えてきましたよ!」


 夜通し運転していたユウイチは明け方にアルマと交替した後に仮眠スペースで熟睡していた。


 そんなユウイチを起こさない様に三人は気を使っていたようである。


 この、三人のやさしさに包まれて幸せな夢を見ていたユウイチだったが内容をよく憶えていない。


 だが、前世の「真夏の夜の夢」に出てくる『もしも、私たちの姿がご不満なら、夢でも見たと思って許してほしい』という台詞だけは、はっきりと憶えている。


「ユウイチ所長、見て下さい。

ダンジョン周辺が以前より整備されています」


「ほう、あの辺りは宿泊施設のようだな」


 ダンジョンが誕生して一ヶ月も経っていないのに前回の探索の時には無かった施設がチラホラと見受けられることにユウイチは驚くばかりである。


「そう言えば、リーネさんがダンジョン周辺の開発に参入していると聞きました」


 アルマの情報によると、リーネは魔晶石の鉱床から得られる莫大な利益を惜しみなくダンジョン開発に注ぎ込んでいるらしい。


「この間、ゴルフ場と蒸留所の規模を大きくしたばかりだよな?」


 リーネは更なる利益確保のために既存の教会施設の充実も図っている。


「そう言えば、ミエスク様からワイン畑と醸造所を買い取ったそうです」


 元ファーレン領のワイン畑のことを気にしていたミレイが、「あの日に帰りたい」と思わないようにリーネは買収を決めたらしい。


 これは、如何にも人情味溢れる話だが、リーネなら抜け目なく算盤を弾いているはずだとユウイチは考えている。


「将来的には、この地にバーガー・カテドラルを出店したいそうです」


「あははは、商魂たくましいな」


 この調子で開発が進めば、いずれデパートダンジョンへと続く森林道も中央フリーウエイ化しているはずだとユウイチは予想する。


「いえ、リーネさんによると飽くまで布教活動の一環だそうです」 


「ものは言い様だな」とユウイチは思うが口には出さない。


「そう言えば、私達も月に一度は教会騎士団の訓練に参加するように言われました」


「非常事態に備えて騎士団と連携ができるようにしようとしているんだろう?」


 王都騎士団に比べて規模の小さい教会騎士団は少数精鋭を目指す必要があるのだろとユウイチは推察する。


「いえ、リーネさんによると騎士の新規募集のためだそうです」


 教会騎士団は仮にも一国の騎士団なのだから戦力の増強を図るのは間違った考えではない。


 リーネのことだから、「君もラボラトリー・エンジェルズと訓練しよう」などと謳ってエンジェルズを広告塔として利用するつもりなのだろうとユウイチは推察する。


 ここでユウイチは、財力と軍事力を得たリーネが次にどんな手を打つか考えてみた。


 「もし、思いのままに組織を管理して情報を統制すれば独裁者への道をひた走ることになる。

 そんな独裁者が次に狙うのは他国への侵攻。

 これは、前世の残虐な独裁者達を例に挙げる間でもないな……」


 だが、さすがに飛躍し過ぎたと思いユウイチは考えることを止めた。


「ユウイチさん、難しい顔をしてブツブツと呟いてどうしたんですか?」


 前世の独裁者のことを思い出していたユウイチの表情が穏やかなものになるはずがない。


「うん、ちょっと恐ろしい魔獣のことを考えていただけだよ」


 人の言葉が届かない点に於いては独裁者も魔獣も同じようなものである。


「ユウイチ所長、訓練通りにやれば大丈夫です」


 近頃のアルマには随分と余裕が感じられる。


「所長様のことは私達が全力でお守りします」


「あははは……

 カミューヨ君、よろしく頼むよ」


 カミューヨに守ってあげたいと言われて素直に応じるユウイチである。


 ユウイチ達が車内であれこれと話をしている間にダンジョンの入口に到着した。


「ここがデパートダンジョンですか!」


「カミューヨ君が潜ったダンジョンと何か違いはあるかな?」


 ユウイチが知っているのは自動販売機を設置した初心者ダンジョンぐらいのものである。


 だが、その初心者ダンジョンにさえユウイチは足を踏み入れていない。


「私が潜ったダンジョンは地上部分が一階層でした」


 普通のダンジョンの出入口は地上の洞窟で、そこから地下へと降りていくらしい。


「このダンジョンは地面に開いた穴から出入りするんだよ」


 その穴の上には出入口が分かり易いように小屋が立てられている。


「ダンジョンに潜る前にあちらで受付を済ませて下さい」


 見知った顔の騎士が小屋の前で話し込むユウイチ達に声をかけてきた。


「お兄様!」


 リリアが実の兄を見て驚いている。


「これは、カーク殿ではないですか。

 ダンジョンに派遣されていたのですね」


 ユウイチは一先ず当たり障りのない挨拶をしておく。


「ごきげんよう、アレミロード様……

 ユウイチ所長、受付は私がしてきます」


 カークを見て態度がぎこちなくなったアルマが慌てて受付へと走って行った。


 それを見たリリアは、「二人の間に春よ来い」と祈らずにはいられない。


「馬車はあちらの馬車小屋で預かってもらえますよ」


 どうやらカーク達はダンジョン探索ではなく案内役や治安維持が役割のようである。


「それでは馬車を停めて必要な物を降ろそうか」


 空間収納に入れた荷物を降ろすだけなのだが未知のスキルである空間収納はリリアモデルの国家機密である。


 何故なら、ユウイチの空間収納のスキルに対して周囲がどのような反応を示すのか予測がつかないからである。


 大っぴらに公表して良いのは「勇者の覚醒」と「ミレイの聖女の称号」ぐらいだとリーネから厳命されている。


 ユウイチ達が機密を保持に気を配りながら荷物を降ろし終えたのは午後三時頃である。


「それでは、私達は仮眠をとってきます」


 ユウイチは移動の疲れを考慮して、三人には少し仮眠を取ってもらうことにした。


「俺は、その間に情報収集をしておくよ」


 前世の桶狭間での大番狂わせは情報が勝利をもたらしたそうである。


 更には、「彼を知り己を知れば百戦危うからず」や「情報を制する者は世界を制する」という言葉があるぐらい情報はとても重要である。


 早速、ユウイチは門番らしき騎士にダンジョンについて質問した。


「各階層には魔獣が襲って来ない小屋があるそうです。

 しかも、その小屋の奥にある「戻る」と書かれたドアはダンジョンの出入口に繋がっているそうです」


 その小屋は前世のRPGゲームのセーブポイントのようなものだとユウイチは理解した。


「そうすると、出入口にも小屋に戻れるドアがあるのか?」


「よくお分かりになりましたね。

 小屋から出入口に戻った者が、再びダンジョンへ潜ろうとすると小屋に繋がるドアが出現するそうです」


 その、答えを聞いたユウイチの睨んだ通りだとほくそえむ。


 何故なら、これを上手く使えばダンジョン探索がグッと楽になるからである。


 例えば、疲れたら小屋から地上へ戻って身体を休め、再び小屋へ戻り探索を再開する。


 これは、何とも嬉しいユーザーフレンドリーなシステムである。


「他に何かないか?」


「階層毎に地形が違うみたいですよ」


 どうやら、魔鏡に書いてあった通り階層毎に違う地形になっているようである。


「それから、一階層は日が昇ったり暮れたりしないそうです」


「それだと、時計が必需品になりそうだな」


 この辺りは前回の合同探索で知っている情報だが、知ったかぶりは相手に良い印象を与えない。


 だから、ユウイチは話を合わせておく。


「時計なら小屋にあるそうです」


 このように、話を合わせておくと新たな情報が手に入ることもある。


 それにしても、どこまでもユーザーフレンドリーなシステムだなとユウイチは感心する。


「良い情報を教えてくれて有り難う」


「頑張ってダンジョンを攻略して下さい」


 ユウイチは門番にお礼を言って馬車に戻ってきた。


「まるでファンタジー世界の空間転移の魔法みたいで面白そうです」


「もし、魔法陣を発見できれば世界がひっくり返ります」


「ファンタジーの世界を現実にしてみたいです」


 ユウイチから情報を聞いた三人は、未発見の空間系魔法の発見を期待しているようである。


「うーん……

 だが、ダンジョンの持つスキルの可能性も捨てきれないな」


 我々の体内では好中球などの白血球が血管壁をすり抜け、体内に侵入した細菌を退治するために移動する「血管外遊走」というものがある。


 小屋から出入口への移動はそれに似たスキルかもしれないとユウイチは推察する。


「魔法ならリーネさんが大喜びするんですけどね」


「きっと、ミエスク様とミレイ様も喜んで下さいます」


 それを聞いたユウイチは、「スキルではなく魔法であってくれ」と願わずにはいられない。


「やはり。デパートダンジョンは常識の通じない非常識なダンジョンだと思います。

 気を引き締めてかかりましょう!」


「もしかしたら、非常識なお宝が眠っているかもしれません」


「非常識な魔獣がいるかもしれません。

 戦うのが楽しみです」


 慎重派のカミューヨが警戒を深めるなか、じゃじゃ馬コンビが鼻息を荒くしている。


「デパートのような非常識な作りと、RPGゲームのような非常識なシステムのダンジョン……」


 もしかしたら、このダンジョンは自分と同じ様に、こちらの世界に転生してきた日本人かもしれないとユウイチは妄想する。


 もし、ラノベ小説にしてタイトルを付けるとしたら「転生したらダンジョンだった件」か「デパ地下好きの下剋上」だなとユウイチは思う。


「ユウイチさん、真剣な顔をしてどうしたんですか?」


「ダンジョンにいそうな魔獣のことを考えていただけだよ」


 本当は、ラノベ小説にすれば面白くなるかもしれないと粗筋を考えていただけである。


「ユウイチ所長、訓練通りにやれば大丈夫です」


 近頃のアルマからは随分と余裕が感じられる。


「所長様のことは私達が全力でお守りします」


「あははは……

 カミューヨ君、よろしく頼むよ」


 何故か到着前の馬車の中での会話が繰り返されたようである。


 もしかしたら、どこかでリフレインが叫んでいるのかもしれないとユウイチは思うのであった。


 (解説:リフレインとは「幻惑の魔法」で同じ動作や言葉を繰り返させる悪戯好きな魔木のことである)


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