【第八十九話】一階層探索③
「いざ、ダンジョンへ!」
前世の鎌倉時代の御家人は、「いざ、鎌倉」を合言葉に駆けつけることになっていた。
(因みにユウイチは『いいくに作ろう鎌倉幕府』と教わった世代である)
「ユウイチ所長、偵察用ドローンには誰の魔力を登録しておきますか?」
「いつものようにアルマ君に魔力を登録してもらおうかな」
ユウイチは何の気なしに答えた。
いや、答えてしまった。
「私には新たに得た探知と結界のスキルがありますからドローンの助けは要りませんよ。
もしかして、ユウイチ所長は私が一番弱いと思っているんですか?」
以前は戦闘馴れしていないという理由でアルマにはドローンを付けていた。
しかし、アルマは素材採集や模擬戦で経験を積んで自信をつけているようである。
そんなアルマの気持ちを読めなかったユウイチは盛大に地雷を踏んでしまった。
だが、前世で総理大臣を務めた犬養毅が言ったように「話せば分かる」ものである。
(因みにユウイチは五一五事件を『いくさに邪魔だと犬食う五月』と教わっている)
「いいかい、アルマ君。
常にスキルを使っていると体力を消耗してしまう。
だから、ドローンで異常を発見した時にアルマ君の探知のスキルを使ってもらうつもりでいる。
つまり、アルマ君の側にドローンがいなければタイムラグが発生するんだよ。
それでは時既に遅しという事態になりかねない。
それとだな、結界のスキルも使い続ければ体力を消耗してしまう。
だが、ドローンがあれば体力を消耗する前に敵を撃退できるんだよ。
これは、カミューヨ君が身体強化のスキルを持っているがパワードスーツを着用しているのと同じ理屈なんだよ」
ユウイチは地雷を回避しながら、できる限り丁寧に言葉を尽くしてアルマに説明した。
「なるほど……
話が少し長かったですが理解はできました」
「私はアルマ様のスキルを頼りにしてます」
「皆を守れるのはアルマ様のスキルだけです」
カミューヨとリリアがグッドタイミングでフォローを入れる。
「私が皆を守る……できるでしょうか?」
「『為せば成る為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり』だよ。
アルマ君ならできるはずだよ」
ユウイチは前世の名君の言葉を丸パクりしてフォローを入れておく。
(因みにユウイチは上杉鷹山絡みの語呂合わせは教えてもらっていない)
「それでは、改めてダンジョン探索開始だ!」
「「「はい!」」」
機嫌の直ったアルマを先頭に四人は一階層を目指してダンジョンの階段を降りていく。
「もしかしたら、ミノタウロスと戦闘することになるのでしょうか?」
ダンジョンの門番と言われるミノタウロスに遭遇する可能性は高い。
「その時は『是非に及ばず』だな」
一度、ダンジョンに足を踏み入れた以上、どんな魔獣が相手であろうが腹を括って戦うしかないと、ユウイチは前世のカリスマ武将の言葉を拝借した。
(因みにユウイチは本能寺の変を『いちごのパンツで本能寺の変』と教わっている)
「カミューヨさん、今のうちにブーツの風魔法を使ってみませんか?」
ブーツの風魔法は、アースドラゴン討伐時に活躍したパワードスーツの機能の一つである。
「リリア君、移動時間短縮のためには有効だが、俺とカミューヨ君は魔石の魔力頼みだから魔力の無駄遣いは避けたいところだな」
「所長様の言う通りです。
ダンジョンでは非常事態に備えておくことも必要です」
慎重派で常識人のカミューヨがユウイチの説明を補足した。
「残念です。
風魔法を使うと移動が楽になるんですけどね」
「リリア君、『不自由を常と思えば不足なし』だよ」
ユウイチは前世で二百五十年もの長きにわたる泰平の世を築いた初代将軍の言葉を拝借した。
(因みにユウイチは『ヒーローおっさん、家康の江戸幕府』と教わっている)
「分かりました。
いざと言う時に備えておきます」
どうやらリリアも納得してくれたようである。
「ところでユウイチさん、今日の目標をフロアボスにしませんか?」
納得したはずのリリアから突然の無茶振りである。
もしかしたら、リリアの辞書には「不可能」の文字は載っていないのかもしれないとユウイチは思う。
「『夢なき者に成功なし』とは言うが、些か目標が高過ぎないだろうか?」
ユウイチは維新の精神的指導者の言葉を引合いに出した。
(因みにユウイチは『人は号泣、安政の大獄』と教わっている)
「ノルマではなく、あくまで目標ということなら良いかもしれません」
意外にも慎重派で常識人のカミューヨとじゃじゃ馬娘の意見が一致した。
「それなら、目標を一階層のボス部屋を発見することにしよう」
超慎重派のユウイチは例えボス部屋を発見しても戦闘に入るか否かは状況次第ということにしておく。
「あそこに小屋が見えます!」
先頭を進むアルマが指差す先に棟続きになっている小屋が見えてきた。
「これは、変わった作りですね……」
「藁と木と煉瓦ですか……」
「何だか、三匹のオークのお話みたいです……」
前世の子ブタの話は、こちらの世界ではオークの子供になっているようだ。
「うーん、何か意味があるのか……」
前世の三匹の子ブタの教訓は「手間を惜しまず準備する」ことであったが、セーブポイントとして使うのならどの小屋でも問題ないだろうとユウイチは思う。
「一番頑丈そうな煉瓦造りの小屋に入ってみませんか?」
どうせ入るなら頑丈な小屋に限る。
「そうだな。
じゃあ、俺が最初に入るよ」
「してみせて 言って聞かせて させてみて 褒めてやらねば 人は動かじ」と前世の海軍大将である山本五十六は言った。
(因みにユウイチは戦争の引金になった事件を『行くよ一気に真珠湾』と教わっている)
「ユウイチ所長、待って下さい!」
ドアノブに手を掛けようとしたユウイチをアルマが止めた。
「アルマ君、藪から棒にどうしたんだ?」
「探知のスキルに反応が有ります。
小屋の中で、魔獣が待ち伏せしているかもしれません」
「セーブポイントに魔獣がいるのは反則だろ」とユウイチは思う。
「情報によれば小屋の中は安全のはずなんだが……しかし、ここはアルマ君のスキルを信じよう」
慎重派のユウイチの辞書に「飛んで火に入る夏の虫」という文字は載っていない。
「所長様、小屋を鑑定してみてはいかがですか?」
「そうだな、鑑定!」
慎重派のユウイチの辞書に「石橋を叩いて渡る」の文字は載っている。
【名前:クレタカルーフォ】
【種族:魔木】
【魔力:30】
【属性:土属性】
【魔法:無】
【スキル:幻惑】
【称号:人喰植物】
「ユウイチさん、鑑定の結果はどうでしたか?」
「危ないところだった、こいつは人喰植物だよ。
幻惑のスキルで小屋に見せているようだ」
アルマの探知のスキルの精度は大したものだとユウイチは感心する。
「後から来る人のために始末しておきますか?」
本来なら触らぬ神に祟りなしであるが、冒険者同士の協力も必要である。
「小屋の中に手榴弾を放り込んでみるか」
ユウイチは空間収納から手榴弾を二個取り出した。
「アルマ君、俺が手榴弾を放り込んだら槍を伸ばして扉を閉じてくれるかな。
それと、念のために結界を張っておいて欲しい」
慎重派のユウイチの辞書には「転ばぬ先の杖」の文字は載っている。
「私とリリア様も念のため攻撃の準備をしておきましょう」
「分かりました」
アルマが張った結界の中で二人は剣を構えた。
「では、攻撃開始だ!」
ユウイチが扉を開けて手榴弾を二つ放り込んだ。
「閉めます!」
すかさず、アルマが扉を閉めると「ドーン、ドーン」と激しい爆発音が聞こえた。
「ユウイチさん、あれを見て下さい!」
煙の立ち込める辺りをリリアが指差した。
「ほう、これが人喰植物か!」
立ち込めた煙が晴れるとボロボロになった人喰植物が姿を現した。
「何だか気持ち悪いです」
アルマの言う通り前世の蓮の実を彷彿とさせる形とハレーションを起こしている色使いが、とても気持ち悪い。
ユウイチは夢で聞いた「もしも私たちの姿がご不満なら、夢でも見たと思って許してほしい」の言葉を思い出したが、討伐した後では許すも許さないもない。
「今ので藁葺きの小屋も消えましたね」
「残った木の小屋がセーブポイントなんでしょうか?」
「鑑定の結果、セーブポイントで間違いないようだな」
慎重派のユウイチの辞書に「念には念を入れよ」の文字は載っている。
「所長様、情報通りに出入口に戻れるのか試してみませんか?」
慎重派のカミューヨの辞書には「百聞は一見に如かず」の文字は載っているようである。
「そうだな、検証は必要だな。
目標のボス部屋は発見できなかったが、今日のところは馬車に戻ってゆっくり休もうか?」
「私は賛成です」
慎重派で常識人のカミューヨは賛成してくれたが、二頭のじゃじゃ馬の反応が心配である。
「私も賛成です」
「私もお腹が空きました」
食いしん坊のリリアの辞書には「腹が減っては戦ができぬ」の文字は間違いなく載っているとユウイチは思う。




