【第八十五話】新たなスキルと模擬戦
昨晩、寝る前にユウイチは自分の得た鑑定のスキルに気が付いた。
それは、もどかしさが生んだ偶然の産物であった。
勇者が現れたその日、ユウイチは違和感を抱えたままベッドに入った。
それは、自分に何かが起きているのだが何が起きているのか分からないという、前世の出来事にも例え様のないものであった。
そんなユウイチは、「こんな時、鑑定のスキルがあればなぁー」と自分の手を見て呟いた。
その瞬間、突如として目の前に前世のゲームでよく観たステータス画面のようなものが現れたのである。
【名前:ミズシマユウイチ】
【種族:人族】
【性別:♂】
【年齢:55歳】
【職業:冒険者】
【魔力:0】
【属性:無属性】
【スキル:創造・付与・鑑定・空間収納】
【称号:転生者・所長・賢者】
「おおー!
もしかしたら俺のステータスか?
だとしたら職業が間違っているんじゃないか?
それに、鑑定と空間収納のスキルなんかもらった覚えはない。
後、前世の年齢が引き継がれているのか……」
初めて見たステータス画面は納得できないことが多かった。
「だったら、これも鑑定できるか?
鑑定!」
ユウイチは目の前にある机を鑑定してみた。
【名前:机】
【種族:植物】
【魔力:0】
【属性:土属性】
【魔法:無】
【スキル:無】
【称号:ユウイチの部屋の机】
「そうか、生物とは項目が少し違うんだな」
この後に幾つか部屋にある物を鑑定をしたユウイチは新たなスキルを得た確証を持つに至った。
「ひょっとしたら異世界で頑張っている自分へのご褒美かもしれない」と考えたが、あの神様なら褒美を授ける前に一言二言あるはずだとユウイチは考え直した。
「昨日は皆が違和感を抱いていたよな。
念のためリリア君達も鑑定してみるか」
ユウイチは明日の朝にリリア達が来るのを待って確かめることにした。
「ユウイチさん、おはようございます」
そして、翌朝になりいつものようにリリアが元気に出勤してきた。
昨日、違和感を感じたからといっても食欲不振や睡眠不足だということはなさそうである。
「リリア君、おはよう。
調子はどうかな?」
ユウイチは、いきなり鑑定せずにタイミングを伺っている。
何故なら、前世のゲームやアニメのステータス画面を散々見てきたユウイチなら、女性限定の項目としてスリーサイズや体重が表示される恐れがある。
ただ表示されるだけなら何の問題もないのだが、何かの拍子に口が滑ってスリーサイズを知っていることがバレたらセクハラで訴えられる以上の惨事が起きるかもしれない。
「ユウイチさん、何かありましたか?」
今朝は面白い物センサーではなく、野生の勘が反応したようである。
「実はだな……」
後々、誤解を生まないようにユウイチは昨晩の出来事を包み隠さずに話すことにした。
「へぇー、何だか面白そうな話ですね」
ユウイチの「鑑定スキル」に対してリリアの面白い物センサーが反応した。
リリアも昨日感じた違和感の正体を知りたいようで、これならすんなりと鑑定させてくれそうな雰囲気である。
「俺、ミズシマユウイチは嘘偽りなく真実を述べることを創造神様に誓います」
だが、鑑定させて貰う代わりに察しの良いリリアから鑑定結果を正直に話すように宣誓させられてしまった。
「じゃあ、良いですよ」
この際、ユウイチが創造神を信じていないことはリリアに黙っておく。
何故なら、創造神よりも怖いリーネやミレイの前で宣誓させられそうだからである。
「では、遠慮なく。
鑑定!」
【名前:リリア=アレミロード】
【種族:人族・貴族】
【性別:♀】
【年齢:20歳】
【職業:助手】
【魔力:110】
【属性:光属性】
【魔法:身体強化】
【スキル:変幻自在】
【称号:竜騎士・剣聖】
「わ、私が剣聖ですか?!
何かの間違いでは……」
ユウイチは鑑定結果を嘘偽りなく話したのだが、リリアは俄には信じられない様子である。
「俺の職業が冒険者になっていたから多少の間違えはあるのかもしれないな」
ユウイチは、それとなく自分は冒険者ではなく技術者だということをアピールしておく。
「そうですね、二人だけではサンプルが少な過ぎます。
アルマ様やミレイ様も鑑定しましょう!」
面白い物センサーが反応しているリリアの言う通りサンプルは多い方が良い。
だが、アルマは別としてミレイやリーネには「私は自分のことはよく分かっております」と言われそうで、かなり高いハードルのような気がしている。
そこで、リリアがユウイチの鑑定スキルについてリーネ達に話をしてくれることになった。
ユウイチが事務所にある物を鑑定しているとリリアがリーネ達を連れて戻ってきた。
「違和感の正体が分かるなら」とリーネ達もユウイチの鑑定を受けることを承諾したようである。
この時、ユウイチは嘘をつかないと創造神に誓わされた後に「嘘ついたらスライム百匹飲ます」と指切りをさせられた。
前世の針千本とスライム百匹が同じ苦痛なのだろうかとユウイチは疑問に思ったが口には出さないでおく。
何故なら、スライム百匹に針千本が追加されそうだからである。
「先ずは大司教様からね」
リーネが一番恐ろしい相手をチョイスした狙いは、ユウイチに嘘をつかせないためだということは想像するに難くない。
【名前:ミレイ=ファーレン】
【種族:人族】
【性別:♀】
【年齢:20歳】
【職業:神官】
【魔力:135】
【属性:火属性】
【魔法:火魔法】
【スキル:治癒・浄化】
【称号:大司教・聖女】
「やはり、私は聖女にされたのですね……」
そう呟いてミレイは勇者に一瞥をくれる。
勇者の「ふ、不可抗力です……」という心の声がはっきりとユウイチに聞こえた。
そして、ユウイチはミレイを皮切りに次々と鑑定をしてみた。
得られた鑑定結果を嘘偽りなく当人に伝えたが、何ヵ所か納得できない項目や明らかに間違っている項目があったようでユウイチの鑑定スキルは不完全であることが判明した。
これに関しては「伸びシロですね」と思いたいユウイチである。
最後に勇者を鑑定して、今回の違和感の原因が勇者の「任命スキル」にあるという推測も立った。
「各々のスキルについては考察する価値はあるな」
新たなスキルを思うように使えれば戦力アップ間違いなしだとユウイチは考えている。
「聞き馴染みのないスキルについては図書館で調べてみましょうか?」
ミレイによると王立学院の図書館に「発掘あるあるスキル大辞典」という本があるらしい。
その辞典には過去から現代までに現れたスキルが網羅されているようである。
「大司教様、午後から模擬戦の打合せがあることをお忘れですか?」
只今、「剣鬼」の称号に不満なリーネのご機嫌は斜めである。
「あら、そうでしたわね。
所長さん、これを読んで返事を聞かせて下さらないかしら?」
ユウイチがミレイから渡されたのはバイアリターク王国の国王からミレイに届けられた親書である。
「リリアモデル対バイアリターク王国の模擬戦だと……?」
ユウイチが目を通した親書には、国対国の模擬戦を要請すると書いてあった。
ユウイチは、ダンジョン探索の折にニジンスキーからの模擬戦の申し出をやんわりとだが断ったと認識していた。
「所長、国王陛下には借りがあるわ。
その国王の名前がある以上、この話からは逃げられないわよ」
リーネの言う通り、国王にはリリアモデル建国を認めてもらった借りがある。
ニジンスキーはその辺りを巧みに利用して模擬戦を実現させようという腹のようである。
「ユウイチさん、新たなスキルを試す絶好の機会です!」
「リリア様の言う通りです。
ユウイチ所長、受けて立ちましょう!」
「所長様、私もグレートソードや新たなスキルを使って戦ってみたいです」
研究所の三人の助手が揃って賛成の声を上げた。
「これは、受けるしかなさそうだな……
それなら、こちらから出場するのは三人、足りないなら教会騎士団に応援を頼むか……」
端から不参加を決め込んでいるユウイチは、せめて自分に御鉢が回って来ないように誘導する。
「所長、私も参加するわ」
意外なことにリーネも模擬戦でスキルを試してみたいようである。
「リリア様、こちらは四人でいいわよね?」
模擬戦までにリーネのご機嫌が治っているようにユウイチは祈る。
さもなければ、八つ当たりされる対戦相手が可哀想だからである。
「それなら、四対四の集団戦にしましょう」
「今晩から集団戦に向けての特訓ですね!」
「そうですね、連携の成果を試してみたいです」
こうして、模擬戦はリリア、アルマ、カミューヨにリーネを加えた四人で戦うことになった。
貴賓席で王族と並んで観戦する予定のミレイは模擬戦には不参加である。
ミレイは王族と並んで観戦することが、よほど嫌なのか「私、風邪でも引こうかしら」とボヤいていた。
そして、あっという間に模擬戦当日がやってきた。
今回の対戦相手は王城で王妃や王女の護衛を務める女性騎士団「シールドメイデン」の中から選抜された四名である。
隊長のキャロルは心技体の整ったシールドメイデンの絶対的エースである。
それから大柄でパワータイプの副隊長のキゼラ、息の合った連携攻撃を得意とする双子のヤンカとユルザである。
ルールとしては通常使用している武器を模した木剣で戦うことになっている。
魔法の付与は認められているがリリアとカミューヨは「剣技での駆け引きを楽しみたい」という理由から魔法を付与せずに挑む。
さて、舞台となる闘技場には多数の障害物が設置されている。
その中で、陣地の旗を取られた負けというシンプルなルールで戦いは行われる。
効果的な攻撃がヒットした場合は退場処分となるため、公平を期して王都騎士団団長のリズンスターが審判を務める。
「それでは、訓練通りにいくわよ」
ラボラトリー・エンジェルズはカミューヨとアルマの二人で旗を守り、リリアとリーネが打って出る戦略を事前に立てていた。
だが、リズンスターの「始め!」の合図と共に剣技に勝るシールドメイデンがマンツーマンの戦いを仕掛けて来た。
隊長のキャロルは「一番、厄介そうな相手」であるとして一対一の相手にリーネを選んだ。
「作戦変更です。
リーネさんが持ちこたえている間に、こちらは二対三の状況を作りだします。
リリア様は隙を見て敵陣へ向かって下さい」
エンジェルズの陣地に三人が攻めてきたため、シールドメイデンの陣地はがら空きである。
それを見た副リーダ格のカミューヨの判断で直ぐに作戦が変更された。
「分かりました!」
見せ場がたっぷりの作戦にリリアがやる気満々のようである。
「アルマ様は私の後方からいつものように槍で攻撃して下さい」
今はヤンカとユルザの連携攻撃をカミューヨが一人で凌いでいる。
カミューヨの指示を受けたアルマは後方から槍を伸縮させて二人を牽制をする。
「これぐらいなら避けるのは簡単ね」
「そうね」
ヤンカとユルザは、いとも簡単にアルマの槍を躱して見せる。
「アルマ様、訓練の成果を見せる時です!」
この、カミューヨの一言でアルマの槍の使い方が変わった。
「槍の軌道が読めなくなりました」
「まるでサーペントのようですわ」
これは、アルマが槍を伸縮させながら上下左右に揺すって起こした目の錯覚である。
分かり易く例えるなら、前世の小学生がよく行っていた鉛筆が曲がって見える手品のようなものである。
「おまけに槍の出所が分かりません」
器用なもので、カミューヨは後を見ずにアルマの槍をきれいに避けている。
カミューヨの身体がスクリーンとなっているためヤンカとユルザにはアルマの槍の軌道が分かり辛いようである。
一方、そんな二組から少し離れた場所でリリアが大柄なキゼラと対峙している。
キゼラはデモンストレーションとばかりにブンと剣を一振りして見せる。
「一撃でも入ると致命傷になりかねません」
キゼラの攻撃はかなりの破壊力がありそうで、リリアも迂闊には近付けないようである。
「それならスピードで撹乱します」
いずれ、カミューヨとアルマがキゼラを何とかしてくれることを信じてリリアはスピードにモノを言わせて動き回っている。
「次にどう動くか予測がつかないわ……」
リリアは、右かと思えば左へ、左と見せかけて真ん中から攻撃を繰り出している。
これは元々の自己流の剣技に加えて「変幻自在」のスキルをフル活用した動きである。
そんなエンジェルズの陣地から、かなり離れた場所でリーネ対キャロルのマッチアップが始まっている。
「どちらにも勝って欲しいです」
「ずっと、決着が着かなければ夢のような時間が続きますのに……」
「反対側の席にすればよかった……」
二人のマッチアップに観客席(特に百合族)がざわついている。
ざわめきの中、先ずリーネが斬撃を飛ばして遠距離から攻撃を仕掛けた。
斬撃をキャロルが避けたところを狙ってリーネが一気に間合いを詰めて双剣で打ち込むがキャロルはこれを難なく躱して見せる。
再びリーネが間合いを取って、もう一度斬撃を飛ばしてから間合いに飛び込んだ。
今度は避けずに剣で斬撃を弾き飛ばしたキャロルがリーネを待ち構えている。
それを見たリーネは飛び込むのを止めて間合いを取った。
これを何度か繰り返していくうちにリーネは双剣の魔力を使い果たした。
「その甘い踏み込みでは私には届かないわよ」
キャロルは既にリーネの双剣の軌道を見切っているようである。
斬撃を失ったリーネにキャロルは絶え間なくロングソードで攻撃を仕掛ける。
「これでは埒が開かないわ……」
キャロルの剣を躱しながらも、このままではジリ貧だと判断したリーネは一か八かの賭けに出る。
「今ね」
キャロルの攻撃が止んだ一瞬、リーネは片方の剣を投げて一気に間合いを詰めた。
「それまで!」
突如としてリズンスターの声が掛かり、お互いの剣が相手の喉元で寸止めされた。
「やりましたよ!」
リーネが振り返るとリリアが満面の笑みで王城騎士団の旗を掲げている。
実はキャロルとリーネが一進一退の戦いを続けている最中に戦況が変化した。
カミューヨがヤンカとユルザの攻撃を受け切り、その隙を見てアルマがキゼラにちょっかいを出し始めた。
そして、キゼラがアルマに気を取られているのを見たリリアが隙を突いて敵陣へ猛ダッシュした。
そして、追いすがるヤンカとユルザを振り切ってリリアが見事に旗を奪い取ったのである。
「おおー、すげぇー事が起こった!」
「シールドメイデンが負けたぞ!」
戦前の予想では、人気のエンジェルズに対して実力のシールドメイデンであった。
この番狂わせに闘技場の歓声は暫く鳴り止むことはなかった。
「王城騎士団のエリート相手に素晴らしい戦いだったよ!」
ユウイチも興奮気味に四人の健闘を褒め称える。
「今回は、作戦が功を奏しただけです」
"勝って兜の緒を締めよ"カミューヨは先を見据えているようである。
「私は懲り懲りだわ……」
キャロルとの熱戦で更に女性ファンを増やしたリーネは、女性騎士に囲まれて「是非、シールドメイデンに入って下さい」と乞われていたようである。
「俺も懲り懲りだな」
ユウイチはニジンスキーから「次は私と所長殿のサシの勝負ですな」と脅されていたのであった。




