【第八十四話】入隊試験と勇者覚醒
「カミューヨ君は、どんな得物がいいんだ?」
ユウイチは探索に向けてカミューヨの装備を準備することにした。
「私は身体強化が使えるので、大きな剣がいいです」
カミューヨは魔力はないが身体強化のスキルを持っているらしい。
「身体強化ができるのならパワードスーツは不要かな?」
パワードスーツは身体強化ができない団員向けにユウイチが開発したものである。
だから、身体強化が使えるカミューヨには必要ないとユウイチは考えた。
「いえ、常に身体強化している訳ではないので、有ると助かります」
スキルを使うと体力を消耗してしまう。
だから、パワードスーツを着用して非常時のために体力を取っておこうということらしい。
「皆、それぞれ違う色のパワードスーツを着用しているんだよ。
カミューヨ君の色はシルバーになるが問題はないかな?」
現在、赤・青・緑・黄色は使用中なので候補から外している。
それと美魔女の館用にミエスクにピンクのジャージを用意したので桃色も除外しておいた。
「所長様、色違いでなければならないのですか?」
味方か敵かを見分けるには同じ色の方がいいに決まっている。
だが、前世の戦隊物は色違いがマストである。
しかし、そんなことをカミューヨに説明しても理解してもらえるはずもない。
「パワードスーツは特徴があるから直ぐに味方だと分かる。
だから、色を変えることによって戦闘中に誰が何処にいるか直ぐに分かるようにしているんだよ」
ユウイチはもっともらしい理由を説明しておく。
「しかし、シルバーだと目立ち過ぎませんか?」
前世の戦隊物の追加メンバーなら妥当な色だとユウイチは思うのだが、そんなことをカミューヨに説明しても理解してもらえるはずもない。
「いや、逆に目立たないかもしれないな。
もっと目立つ色の方が良いのかな?」
他のメンバーは前世の戦隊物に倣った原色を着用している。
「特に拘りはありませんから私はシルバーで構いません」
カミューヨは目立つことを遠慮しているようだが、パワードスーツを着用した時点で目立ってしまうことには慣れてもらうしかない。
「そうか、パワードスーツと剣は直ぐにでも用意するよ」
「宜しくお願いいたします」
これで、前世の戦隊物の定番であった追加戦士がラボラトリー・エンジェルズにも誕生した。
そんな追加戦士であるカミューヨが、リリアとアルマの良い刺激になっているようで、毎日のように美魔女の館でトレーニングした後に三人で連携の訓練をしているようである。
そんなカミューヨのリクエスト通り背丈ほどある巨大な剣(通称グレートソード)をユウイチは用意した。
剣は巨大ではあるがドラゴンの鱗を混ぜて作っているので重さはそれほどでもない。
「所長様、ありがとうございます!」
このグレートソードはカミューヨの想像以上だったようで嬉しそうにユウイチに礼を述べている。
「皆、精が出るわね」
カミューヨのグレートソードのお披露目を兼ねて四人で訓練に励んでいるところに珍しくリーネが姿を現した。
「リーネさん、どうしたんですか?」
「リーネさん、何かあったのですか?」
リリアとアルマはリーネが来たことではなく、パワードスーツを着ていることについて質問している。
「これは、少し運動をしようと思っただけよ」
少し照れ臭そうにリーネが言い訳をする。
「もしかして、カミューヨさんの実力が気になっているんですか?」
迂闊な一言を発したリリアがリーネにジロリと睨まれている。
「身体強化のスキルを使った戦いがどれ程のものかと思っただけよ」
少しだけ本音を漏らしたリーネは依然として照れ臭そうにしている。
「やっぱり気になっているんですね!」
ツッコミを入れたアルマもリーネにジロリと睨まれている。
「ちょうど、所長様から頂いたグレートソードでの戦い方を考えていたところです。
せっかくなので、相手をお願いできませんか?」
カミューヨもリーネの実力の程が気になっているようである。
「ふふふ、
お望みなら私がお相手しましょう」
今のリーネは、まるで追加戦士の実力を測ろうとするリーダーのようだとユウイチは思う。
そして、ユウイチ達が見守る中で二人は訓練用に作った木剣を持って対峙した。
「木の双剣だと斬撃が飛んで来ないのが残念です」
グレートソードを構えたカミューヨが挑発的な言葉を発している。
「私はこれを着ているのだから、ちょうど良いハンデじゃない」
その、カミューヨの挑発をリーネはさらりと受け流す。
ユウイチの目には、どちらも自信があるように映っている。
「始め!」
リリアの合図を聞いたリーネがブーツの風魔法を使って一気に間合いを詰めた。
だが、カミューヨが巨大木剣でリーネの一撃を受け止めた。
「さすがの早さですね」
カミューヨがリーネの瞬発力を褒める。
「へぇー、その大きさだと盾にも使えるのね」
一度、間合いを取ったリーネは巨大木剣の使い方を褒める。
ユウイチの目には達人同士が一撃だけで相手の力量を掴んだように映っている。
「これなら、どうかしら?」
再び間合いを詰めたリーネは巨大木剣を盾にしたカミューヨの右側に回り込んでから一撃を入れる。
「あら、居ないわね……」
だが、巨大木剣の裏にカミューヨの姿は無かった。
「貰った!」
カミューヨは地面に巨大木剣を突き立てたかと思うと柄を掴んでリーネの頭上でクルッと一回転して蹴りを入れた。
「クッ!」
リーネは、寸一髪のところでカミューヨの蹴りを左手で受け止めた。
「攻撃から防御への早さはさすがです」
今度はカミューヨが距離を取ったが巨大木剣は地面に突き刺さったままである。
「かなり重い蹴りね。
パワードスーツじゃなかったら腕が折れていたかもしれないわ」
まだリーネには痺れが残っているようで、左手の握力を確かめている。
「でも、素手で私の攻撃が躱せるかしら?」
握力を確かめて、もう一度リーネが間合いを詰めて剣を交互に振る。
「ウッ!」
リーネの鋭い攻撃に怯むことなくカミューヨは手首に手刀を入れて受け止める。
「えーい!」
今度は、リーネの首筋辺りを狙ってカミューヨが上段の蹴りを繰り出した。
「リーネさん、そこまでですわよ!」
リーネがスウェーをして間合いを取ったところで、悠然と現れたミレイが戦いを止めた。
「これからなのに……」
心の声が漏れたカミューヨはリーネから視線を外さない。
「私も楽しくなってきたところよ」
リーネもそう答えて、カミューヨから視線を外さない。
「リーネさんが戻ってくるのがあまりにも遅いので私自ら呼びにきましたのよ」
ミレイが痺れを切らせているのは、この言葉だけで十分に伝わった。
「残念、時間切れのようですね」
そう言って、カミューヨは力を抜いたが視線は外していない。
「次の機会があればいいわね」
そう言って、リーネも力を抜いたが視線は外さない。
「もう、リーネさん参りますわよ」
「分かったわ」
リーネは踵を返すとミレイと共に教会本部へ向かって歩いていった。
傭兵に育てられた娘と元諜報員の世紀の一戦は水入りとなったが、カミューヨの入隊試験は無事に終了したようである。
「カミューヨさん、凄い戦いでした。
私とも手合わせをお願いします」
「私もお願いします!」
世紀の一戦に触発された二人はカミューヨと戦いたくてうずうずしているようである。
「二人共、連携訓練はいいのか?」
「「そうでした……」」
この、ユウイチの一言で本来の目的を疎かに出来ない葛藤と戦っている。
そんな入隊試験騒ぎがあった数日後の日暮れに勇者が新たな大司教に挨拶するために教会本部を訪れている。
だが、何処でどう間違えたのか過ってプライベート空間である神官寮に迷い込んでしまった。
「うーん、ここは何処だ……?」
勇者には何かに気を取られると無警戒になる悪い癖がある。
「貴方、何者?」
無警戒になっていた勇者の首筋と背中にリーネの双剣がピタりと当てられている。
リーネはリリア達の連携訓練に参加しようと研究所へ向かっている途中であった。
「最早、これまでか……」
勇者はリーネが放つ殺気のこもった冷たいオーラを受けて死を覚悟した。
これは余談だが、前世の一子相伝の暗殺拳は「相手に死を覚悟させるもの」であって「相手が死を恐怖する」と暗殺拳とは呼べないらしい。
勇者に死を覚悟させたリーネなら一子相伝の暗殺拳の伝承者になれるかもしれない。
だが、絶体絶命のピンチを迎えた勇者は図らずもスキル覚醒の条件を満たした。
そして、スキルが覚醒した勇者は身体能力と剣技が急激にアップした。
「これは、失礼した」
覚醒してアップした身体能力を活かして勇者はリーネの双剣から瞬時に距離を取った。
「へぇー、動く気配を全く感じなかったわ。
本当に貴方は何者なの?」
双剣を下ろしながらリーネが勇者に改めて質問をした。
「お褒めに預かり光栄だな。
私は勇者だ。
新たな大司教様に挨拶をしに参った」
九死に一生を得た勇者は、この場をできる限り穏便に済ませようと画策している。
「リーネさん、そちらはどなたかしら?」
そこにリーネを探していたミレイが現れた。
このところ、ミレイはいつもリーネを探して歩いているようだが決して暇な訳ではない。
「大司教様、こんな所にお一人で姿を見せては危険ですよ」
無防備なまま現れたミレイをリーネが嗜める。
「ほう、聖女様かと思ったが違うのか……」
何処をどう見て判断したのかは分からないが、勇者はミレイを聖女と認識したようである。
だが、これにより覚醒した勇者が持つとされる「任命」のスキルが発動した。
聖女に任命されたミレイは「治癒」と「浄化」のスキルを得た。
「なるほど、先ほど鬼の様な殺気を放った貴方は聖女様をお護りする騎士なのだな?」
ここでも、リーネに対して勇者の任命のスキルが発動した。
勇者から剣鬼に任命されたリーネは「神出鬼没」のスキルを得た。
「何だか変な感じが致しますわ……」
「私も変な感じだわ……」
「私もだ……」
三人は新たに得たスキルに戸惑っているようである。
この後、勇者は改めてミレイに挨拶をしに来たことを伝え事なきを得た。
そして勇者は、挨拶序でに傷みが激しい聖剣の修理を魔導具研究所に依頼しに来たことを伝え三人で研究所にやって来た。
その研究所の庭先ではユウイチ達が探索に向けて二対二に分かれて戦闘訓練していた。
「アルマ様、リリア様を牽制して下さい」
「はい!」
アルマは言われた通り槍を伸縮させてカミューヨの背後からリリアを撹乱する。
「ほう、あれは魔術か何かなのか?」
この時、勇者はアルマを魔術師と認識した。
勇者から魔術師に任命されたアルマは「探知」と「結界」のスキルを得た。
「そうすると、豪胆な彼女が魔術師の護衛だな」
勇者はグレートソードを振り回しリリアの攻撃を凌いでいるカミューヨを魔術師の護衛と認識した。
カミューヨは剣豪に任命され「一刀両断」のスキルを得た。
「ちょっと、待ってくれ。
大司教様がいらしている!」
ミレイ達を見付けたユウイチは、直ぐに戦闘訓練を中断した。
「続けて下さってもよろしかったのですよ」
聖女に任命されたミレイからは慈母のオーラが満ち溢れている。
「お忙しい大司教様をお待たせする訳にはいかないでしょう。
先に御用をお伺いしますよ」
前世では、上司の用件は優先して聞くように指導されていた。
但し、用件次第では聞くだけ聞いてスルーしていたことが往々にしてあった。
「所長さんに、こちらの勇者様の剣を直して頂きたいのですわ」
ユウイチはミレイの雰囲気が違うことを感じ取っているが、要らぬ地雷を踏まないように黙っておく。
「所長、これがそうよ」
勇者が佩いていた剣を手渡したリーネからはいつにも増して圧を感じているが、敢えて口には出さないでおく。
「これには、どんな魔法が付与されているのですか?」
ユウイチの横から覗き込んだリリアはいつものように面白い物センサーが反応している。
「この剣には「結界の魔法」が付与されていたのだが、先ほど亀裂が入ってしまったのだよ。
その為、結界の魔法が発動しなくなってしまって困っているんだよ」
何故、亀裂が入ったのか現時点で理由は定かではないが、原因がリーネではないことは確かである。
「俺に修理できるかどうか……」
ユウイチは他人の作った魔導具を修理した経験はない。
「リリア様の剣やアルマ様の槍を作ったのは、所長さんなのですから何とかなりませんの?」
何とかしたいのは山々だが全てはスキル頼みのユウイチである。
「ほう、彼女が持っている剣も魔導具なのか……
どの様なものか見てみたいな」
勇者がリリアの剣をまじまじと見ている。
「魔力を込めると「雷魔法」が発動します。
やって見せましょうか?」
勇者を見て面白い物センサーが反応しているリリアが安請け合いをしてしまった。
「あぁ、やって見せて欲しい」
二つ返事をした勇者も面白い物センサーの持ち主なのかもしれないとユウイチは思う。
「アルマ様、いつものをお願いします」
リリアが少し距離を取ってからアルマに指示を出した。
「はい」
リリアの指示にアルマは返事をして地面に槍を突き立てた。
「リリア君、ご近所迷惑にならないように控え目に頼むよ」
日が暮れた教会本部はシーンと静まりかえっている。
リリアが全力で雷魔法を放てばどうなるのか、結果は明らかである。
「分かりました。
腹八分目にしておきます。
いきます、疾風迅雷!」
リリアが上段から剣を振り下ろすと、いつものように上空に閃光が走りリリアモデル全土に轟音が響き渡った。
「……」
予想外の衝撃だったのか勇者は言葉を失って固まってしまった。
「リリア様、腹八分目でこの威力ですか?」
毎日の戦闘訓練で威力が上がった雷魔法にリーネも驚いている。
「これを貴方が作ったのか?」
勇者はユウイチを尊敬の眼差しで見ている。
勇者に尊敬されたユウイチは賢者に任命されて「鑑定」と「空間収納」のスキルを得た。
そして、勇者はリリアを賢者の護衛だと認識した。
賢者の護衛に任命されたリリアは剣聖のスキルである「変幻自在」を得た。
「ユウイチさん、何だか変な感じです……」
「ユウイチ所長、私もです……」
「所長様、私もです……」
「俺もだ……」
ユウイチ達も自分の身に起きた変化に戸惑っている。
この後、七人が自分の身に起きた変化について知ることになるのだが、それはユウイチが自分の鑑定のスキルに気が付いてからのことである。




