【第八十三話】合同探索報告会
初日のダンジョン探索を終えたユウイチ達は、教会騎士団と王城騎士団と共に王都へ戻って来た。
リリアとアルマは、居残って探索を続ける予定である王都騎士団を羨ましそうにしていた。
そして、一日の休みを挟み研究所で報告会を行うことになっている。
「所長様、本日から宜しくお願いします」
「公爵殿、こちらこそお願いします」
ユウイチ達がダンジョン探索から戻ってきたタイミングでミエスクが魔法検査局から出向してきた。
因みにミエスクは非常勤の出向扱いなので毎日いるとは限らない。
「カミューヨには、ここでの護衛を務めてもらうことになっております」
幾ら公爵といえど国外にある出向先の職場に護衛騎士を連れてくることは認められない。
だが、「公爵に護衛がいないのは何かと都合が悪い」と元宰相で夫であるパーソロンから指摘があった。
だから、側仕え役であったカミューヨを教会騎士団所属の騎士扱いにしてミエスクの護衛にあたるということで手を打ってもらった。
「「おはようございます」」
ユウイチとミエスクが挨拶を終えたタイミングでリーネとミレイが研究所にやってきた。
「研究所に来るのも随分と久しぶりのような気がいたしますわ」
ユウイチ達がダンジョン探索に行っている間、ミレイは儀式などについて勉強していたようである。
「大司教様、まだ一ヶ月も経っていませんよ」
感傷に浸っているミレイにリーネが現実を突きつけた。
「コホン、取り敢えず席に座りましょう」
現実に戻ったミレイはリーネを伴って以前と同じ席に着いた。
因みにミエスクには、お誕生日席の位置に座って貰うことにしている。
「それでは、ダンジョン探索の報告会を始めます」
いつもの様に司会進行はリリアが務め、アルマは新たに設けられた書記役に収まっている。
「デパートダンジョンは階段を使って行きたい階層にいけるという珍しい作りをしています」
研究所では、他のダンジョンと区別するためにユウイチが呟いた「デパート」を頭に付けて「デパートダンジョン」と呼称することにしている。
「それは珍しい作りですわね。
何か理由があるのかしら?」
魔法以外にも精通しているミエスクをもってしてもデパートダンジョンの作りは珍しいようである。
「そうすると、順番に階層を降りていく必要がないのですね」
「価値のある魔獣がいる階層に冒険者が殺到しそうね」
ユウイチが書いたデパートダンジョンの概略図を見てミレイとリーネが口々に感想を述べている。
「半日だけ一階層を探索しましたが、魔物の森にいる魔獣の他に初めて見る魔獣も生息しています」
リリアが「半日だけ」を強調したのは消化不良の現れだろうとユウイチは推察する。
「探索が半日だけでしたのでリリア様が倒した鳥形の魔獣しか持ち帰れませんでした」
アルマも「半日だけ」を強調しているので消化不良なのだろうとユウイチは推察する。
「成果はそれだけかしら?」
「半日の探索なので成果が少ないのは仕方がない」とユウイチは思うが敢えて口にしない。
何故なら、消化不良だと思われたくないからである。
「後は、この謎の鏡です」
リリアが全員に見えるように鏡を掲げてみせる。
そんな、リリアを見てユウイチは前世の格闘技でお馴染みのラウンドガールを思い出した。
「これは普通の鏡なのかしら?」
ミエスクが不思議そうに鏡を覗き込んでいる。
「これは、階段の壁に貼ってあったのを剥がして持ち帰ってきました。
公爵様は、この鏡についてどう思いますか?」
「私には何とも言えませんね」
アルマは、「ミエスクなら分かるかも」と期待していたが当ては外れたようである。
「このうっすらと見える線とデパートダンジョンの階層は同じ数のようです。
ですから、デパートダンジョンの何かを表しているかもしれません」
ダンジョンからの帰り道にユウイチが立てた仮説を引用する形でリリアが補足した。
「この鏡について他に分かったことはありませんの?」
今度は、ミレイが鏡を覗き込みながら質問した。
「実は鏡について面白いことが分かったんだよ」
久し振りにユウイチがドヤ顔を披露している。
「ユウイチさん、何か新しいことが分かったんですか?」
「面白いこと」の一言で司会進行役のリリアの目が輝きだした。
「少し暗い場所の方が分かりやすいので、開発室に移動して説明しよう」
そして、ユウイチに促され全員が開発室の中に入った。
「所長さんは、部屋を真っ暗にして何をするつもりかしら?」
「別に襲いかかるつもりはないので安心して欲しい」という言葉をユウイチは飲み込んでおく。
「これを鏡に当てると不思議なことが起こるんだよ」
そう言ってユウイチが鏡に光を当てた。
「壁に光が反射されているだけね。
特に面白くも何ともないわ」
部屋は真っ暗だがリーネの冷たい視線をユウイチはヒシヒシと感じている。
「だが、こうするとだな」
リーネの冷たい視線に耐えてユウイチは光の当たる角度を変えた。
「まぁ、壁に文字が浮かび上がっておりますわ。
一体、何の魔導具なのかしら?」
ミレイが驚いたように声を上げた。
「実は、魔鏡になっているんだよ」
魔鏡とは、一見すると普通の金属鏡だが光を反射させると模様が浮かび上がる不思議な鏡である。
表面の肉厚のわずかな凹凸によって光に明暗が生まれる仕組みで、前世の邪馬台国の女王も使っていたとされている。
「何故、魔鏡があんなところに貼ってあったのでしょう?」
リリアの素朴な疑問である。
「これはダンジョンの各階層の案内板のようなものだと思うんだ」
読者の皆様には前世のデパートに貼っているフロア案内版を思い浮かべてもらえば分かり易いはずである。
「階層毎の地形や属性、それから略図などが書かれているみたいね」
壁に浮かび上がった文字などをリーネが目で追っている。
「所長様、このデパートダンジョンで七貴石を集められるかもしれませんわ」
壁に浮かび上がった文字を読み終えたミエスクが徐に口を開いた。
「公爵様、七貴石ってなんでしょうか?」
ユウイチは星マークの付いた丸い石なら前世のアニメの主人公が探していたことを知っている。
確か、その石を七つ集めると竜が願い事を叶えてくれると記憶している。
「七貴石とは、古文書である『王国書紀』に記されているオリハルコンを作るために必要とされる素材のことです。
確か、ダンジョンで手に入れたと書いてあったはずです」
但し、「一書曰く」と複数の伝承が掲載されているようで、どれが本当の事なのか分かり辛いそうである。
「王国書紀ですか……」
前世の古文書と呼ばれる類いのものには眉唾な物が混ざっていたとユウイチは記憶している。
「それと、『三大陸史の北大陸の書の王国の条』にはオリハルコンの作り方が分かったと落書きがしてありました」
三大陸史も古文書であり、昔のとても健康な神官が特にすることがなく手持ちぶさたな状況でノートに向かって心に浮かんできたことを当てもなく熱中して書いたものらしい。
「落書きですか……?」
ミエスクによると「私はオリハルコンの真の作り方を発見したが詳しい説明を書くには、この余白は狭すぎる」と書いてあったらしい。
話を聞いたユウイチは、前世の古い文献などの要素が混ざり合い過ぎていて胡散臭さを感じている。
「所長様、王国の条には「ダンジョンは魔鏡を使ってよく衆を惑わす」とも書いてありました。
デパートダンジョンに魔鏡があったのは偶然ではないかもしれません」
古文書を読み込んでいるミエスクが言うと信憑性が高くなるが、やはり俄には信じ難い話である。
「所長さん、私もオリハルコンを見てみたいですわ」
ミレイは、ただオリハルコンが見たい好奇心だけである。
「もし、オリハルコンで創造神像を作ったら更に教会本部の権威が上がるわ」
リーネは素早く算盤を弾いて布教活動に利用したいだけである。
「ユウイチさん、デパートダンジョンをクリアしてオリハルコンを私達で作りましょう」
リリアは面白い物センサーが反応しているだけである。
「ユウイチ所長、クリアすれば全ての謎が解けるかもしれません」
アルマはダンジョンなどの謎解きがしたいだけである。
「しかし、ダンジョン探索するのに三人では心許ないな」
ユウイチとしては一度のダンジョン探索で十分に中二病が治まっている。
だが、ミレイとリーネに加えてミエスクの圧の強さに押されてとても断れる雰囲気ではない。
だから、戦力不足を訴えてあわよくば探索不可の結論を勝ち取る作戦に出た。
「所長様、もしよければカミューヨをメンバーに加えて下さい」
ここで、ミエスクから思いもよらぬ提案が出てきた。
「ミ、ミエスク様……」
当の本人のカミューヨも驚いて言葉に詰まってしまったようである。
「貴方には教会の騎士よりも、こちらの方が似合うんじゃないかしら?」
ミエスクはカミューヨに優しく語り掛けた。
ミエスクが七貴石の話を持ち出したのは、カミューヨにダンジョン探索をさせるためかもしれないとユウイチは訝しむ。
「えっと……
カミューヨさんは研究所の助手になるということで宜しいでしょうか?」
二人の間で話が纏まりそうなのでユウイチは大切なことを質問しておく。
「はい、助手として働かせて下さい。
勿論、リリアモデルでの私の護衛は続けてもらいます」
やはり、結論ありきの話だったようである。
「戦力アップの観点から仲間が増えるのは大歓迎です」
「カミューヨさん、一緒にダンジョンクリアを目指しましょう!」
ダンジョン探索にとても前向きな二人は既にカミューヨの受け入れを決めたようである。
「カミューヨさん、宜しく頼むよ!」
こうなっては多勢に無勢である。
ユウイチもカミューヨの受け入れを決めた。
「こちらこそ、宜しくお願い致します」
急転直下でラボラトリー・エンジェルズに新たな天使が加わることになったのである。




