【第七十九話】合同ダンジョン探索②
「所長殿、一緒に来てくれ!」
ユウイチがシェーケンに連れていかれた先ではリズンスターと王城騎士団団長のニジンスキーが難しい顔をして立ち話をしている。
「リズンスター殿、何か問題でも起こったのか?」
今回の探索では、団長が三人もいるのでお互いに名前で呼ぶ事になっている。
「いや、問題と言う程ではないのだがルールを設けようと思ってな」
カークの進言を受けたリズンスターはラボラトリー・エンジェルズ対策を考えついたようである。
「ルールは打ち合わせで決めたはずだぞ。
今更、何のルールを設けると言うのだ?」
シェーケンの口振りから三人で事前に打ち合わせを行っていたようだが、ユウイチ達の参加で少々事情が変わったようである。
「いや、このまま研究所の馬車が先頭にいると各騎士団の訓練の機会がなくなってしまう恐れがあると思ってな」
その言葉を聞いたユウイチは、偵察用ドローンで魔獣を発見するや否や、王国一のじゃじゃ馬娘が嬉々として馬車から飛び出して行く姿を想像する。
これでは、リズンスターの言う通り騎士団の訓練の妨げになってしまいそうである。
「あははは、俺達は最後尾でも構わないぞ」
端からそのつもりであったユウイチに否やは無い。
「所長殿に理解してもらえたようで助かる。
だが、最後尾のままというのも申し訳ない。
だから、魔獣を討伐した騎士団は最後尾へ移動する事にしないか?」
これなら、じゃじゃ馬娘もフラストレーションを溜めずに馬車の中で大人しくしてくれるかもしれないとユウイチは打算する。
「なるほど、その方が公平でいいな」
リズンスターの提案にニジンスキーは納得したようである。
「ウチもそれで、構わない。
所長殿もいいだろ?」
シェーケンにも異論はないようで残るはユウイチの意見だけである。
「ああ、全く問題ない!!」
問題ないどころか、ユウイチは両手を上げて賛成したいところである。
「じゃあ、それで頼む」
急遽の話し合いが終わって各騎士団が再び隊列を組んで森林道を進み始めた。
現在、最後尾を進んでいるユウイチ達は後方を警戒しながら着いていく。
「アルマ様、次はどんな魔獣が相手でしょうか?」
最後尾に回ったじゃじゃ馬娘は、団長達の狙いも虚しくクールダウンするどころかヒートアップしているようである。
「どうせなら、もう少し手応えのある魔獣がいいです」
リリアの質問に対するアルマの答えを聞いたユウイチは「あの慎重だったアルマ君は何処へ行ってしまったのだろう」と心の中で嘆かずにはいられない。
「連携の訓練の成果が確認できるような相手がいいです」
「騎士団の皆様に私達の努力の成果を見てもらいたいです」
どうやら、リリアとアルマは"美魔女の館"で鍛えた後にダンジョン探索に向けて連携の訓練をしていたようである。
「二人共、先ほどの連携は見事だったと思うよ。
訓練の成果は十分に発揮されているから安心していいよ」
「これで満足して大人しくしてくれないかな」との願いを込めて、ユウイチは取り敢えず二人を褒めておく。
「単体のワイルドボアを仕留めたぐらいでは何とも言えません」
「そうですね。
せめて群れで向かって来て欲しいです!」
リリアは、ともかくとしてアルマに対しては「アルマ君、カムバック!」とユウイチは叫びたくなってしまう。
「あっ、隊列が止まりました!」
「どうやら、王城騎士団が戦闘に入ったようです」
アルマが馬車を止めると同時にリリアがモニター画面を食い入るように観ている。
もし、モニターで映像が観られなければリリアは馬車を飛び出し隊列の先頭まで行って騎士団の戦闘を見学しているかもしれない。
そんな気疲れもあってか、早くも銭湯に浸かりたい気分にユウイチはなっている。
「これではダンジョンに着くまで、かなりの時間がかかりそうだな」
アースドラゴンのいた洞窟に繋がる森林道よりも、こちらの森林道の方が魔獣に遭遇する機会が多そうである。
すると、必然的に戦闘の機会が増えて待ち時間が多くなる。
「ユウイチ所長、私達は"サクッ"と仕留めますから安心してください!」
「騎士団の皆様には負けられません!」
ここに至り、「馬車の中には、じゃじゃ馬娘が二人いる」とユウイチは認識を改めた。
「アルマ様、やっと先頭に戻って来ましたね」
「次の獲物はなんでしょうか?」
王都騎士団に続いて王城騎士団も魔獣を討伐したため、再びユウイチ達が隊列の先頭を進むことになった。
だが、リリアとアルマが期待しているところ申し訳ないが、直ぐにでも日が暮れてしまいそうなので、この辺りで野営地を探すことになりそうだとユウイチは思っている。
案の定、「もう少し進んだら野営に適した場所がある」とロベルトが連絡して回っている。
「アルマ様、残念ですね」
「日が暮れるのが早すぎます」
魔獣との戦闘の機会が無くなって残念がる貴族令嬢はリリアとアルマぐらいだろうとユウイチは思う。
「ですが、見張り役があります」
「早く、日が暮れて暗くなって欲しいです」
二回目の戦闘は明日に持ち越しになってしまった分、見張り役での戦闘を期待しているようである。
見張り役で魔獣との戦闘を期待する貴族令嬢はリリアとアルマぐらいだろうとユウイチは思う。
「ここが野営地のようだな」
ユウイチは誘導する先遣隊の騎士に従って馬車を左隅に停めた。
どうやら、ロベルト達が騎士団毎に区割りをしているようである。
因みに今日の野営地はロベルト達がダンジョンを発見した時に夜営した場所らしい。
その、野営地には大きな岩が横たわっているが開けた場所なので三方は見通しが良く近くに川も流れている。
「よし、騎士団毎に食事の用意を始めてくれ!」
準備を一緒に行わないのは騎士団毎に食事のルールが違うためである。
「今日は、角煮を載せたインスタント麺だ」
お湯を沸かしながらユウイチは二人に小声で話した。
何故、ユウイチが小声で話したのかは、説明するまでもないと思う。
「ユウイチさん、角煮ってなんですか?」
「名前を聞くだけで美味しそうです」
ユウイチは、二人が仕留めたワイルドボアの肉を持参した魔導圧力鍋で煮込んでおいたのだ。
この魔導圧力鍋は熱源となる魔石を内蔵しているのが最大の売りで、火を使わなくても煮込むことが可能である。
因みに出発前に魔導圧力鍋を見たリーネは、早くも販売計画を立てているようで、これからの旅の必需品になるかもしれない。
「これ、絶品です。
インスタント麺のグレードが一段上がりました」
「インスタント麺のトッピングとして最高です」
リリアとアルマの舌を満足させられてユウイチはホッとしている。
「教会騎士団に配ってくるよ」
ユウイチはワイルドボアの解体を手伝ってもらったお礼にシェーケン達に角煮をお裾分けをしておく。
何故なら、三人だけ食べたのがバレると後が恐いからである。
そう、食べ物の恨みは恐いのである。
「ほう、脂身がトロトロしているな」
「口の中で肉が解れていきます」
「味がしっかり染み込んでいます」
お裾分けした角煮は、シェーケン達にも好評のようである。
「ユウイチ所長、他の騎士団の方が"じっ"と見ています」
多くの騎士達が漂う匂いの先にいるユウイチ達に注目しているようである。
「明日の分が無くなってしまうが……」
諄いようだが、食べ物の恨みは恐ろしいのである。
仕方なくユウイチは、残りを二つの騎士団に持って行くことにした。
「いや、催促したようで申し訳ない。
所長殿、感謝する」
完全に目で催促していたリズンスターがユウイチにお礼を述べながら角煮をパンらしき物の上に載せてパクついた。
「これは旨いな!」
リズンスターが食べたの見て、他の騎士達も同じよに角煮をパンに載せてパクついていた。
「リリア君、スイーツは止めておいた方がいいみたいだな?」
この場でスイーツを食べる勇気はユウイチには無い。
「はい、止めておきましょう」
さすがのリリアにも勇気は無いようである。
今回、持参したスイーツが陽の目を見ることはないかもしれないとユウイチは思う。
「それでは、見張り役の順番を発表する」
ユウイチはシェーケンと二名の騎士と同じ班に振り分けられた。
一方、リリアとアルマは教会騎士団の二人の女性騎士と同じ班に振り分けられた。
「私とリリア様は女性騎士用のテントで寝ることにしました」
「そうか、それなら明日の朝はゆっくり起きてきてもいいよ」
女性同士ならではの情報交換という名の女子トーク及び女性騎士から質問攻めに遇って寝るのが遅くなるだろうとユウイチは予想する。
だから、二人の睡眠不足を考慮してユウイチは集合時間を遅めに設定しておいた。
「ありがとうございます。
ところで、ユウイチさんはどうするんですか?」
「二人が使わないのなら俺は馬車で寝るよ」
前世でアウトドア派ではなかったユウイチには、地面の上で寝袋に入って寝るのは辛いものがある。
だから、せっかく特等席が空いているのなら使わない手はない。
したがって、ここから先はリリア達とは別行動である。
「さて、見張り役まで仮眠でもしておくか」
何の因果か、シェーケン班の見張りの順番は、ちょうど真ん中である。
最初か最後なら続けて寝られるのだが、シェーケンのくじ運は良くないようである。
もしかしたら、シェーケンは神様への祈りが足りないんのではとユウイチは思う。
そんなことを考えながら、うとうとし始めた頃に、コンコンと窓を叩く音が聞こえてきた。
「初めてお目にかかります。
リリアの兄のカークと申します」
こんな夜更けに予期せぬ来客である。
「こちらこそ、初めまして。
もう、見張りの順番が回ってきたんですか?」
ユウイチは寝過ごしたのかと一瞬だけ焦った。
だが、もし寝過ごしていたら呼びにくるのは、カークではなくシェーケンのはずである。
「いえ、挨拶を兼ねて少しお話でもと思ったしだいです」
「そうですか、ここでは何ですから中へどうぞ」
まさか、リリアの兄を追い返す訳にもいかないのでユウイチは馬車の中へ誘う。
「カーク殿の順番は、もう終わったのですか?」
コミニュケーション能力に自身の無いユウイチは、無難な質問をぶつけてみる。
「いえ、この後です」
短く返事をしたカークの班はユウイチ達の一つ前のようである。
「それなら、コーヒーを淹れますので眠気覚ましに飲んでいって下さい」
思いの外、話が広がらず会話が途切れてしまったので、ユウイチはコーヒーを淹れて時間を埋めることにした。
「これは忝ない。
野営の見張り役は睡魔との戦いですから助かります」
相変わらず話が広がらないのは、カークにコミニュケーション能力がないせいだとユウイチは責任転嫁する。
「それで、お話とはなんでしょうか?」
相手のコミニュケーション能力が不足しているのなら自分が頑張らないと静かな時間が流れてしまうと思いユウイチは意を決して尋ねてみた。
「不躾な質問ですが、妹は研究所のお役に立っていますか?」
極めて妥当な質問であるが、この話しも広がる気がしないユウイチである。
「はい、とても助かっていますよ。
色々と活躍してもらっています」
社交辞令でなく今やリリアは研究所の貴重な戦力である。
「それを聞いて安心しました。
昔から何を仕出かすか予測が付かない妹でしたから……」
「あははは、確かに予測不能ですね」
期せずして、リリア被害者の会が設立されたようである。
「子供の頃のリリアは礼儀作法をそっちのけで剣術の訓練をしていました。
しかし、基本の型は全く覚えようとしなかったので殆どが自己流なんですよ。
だから、模擬戦で年上の男子と互角に渡り合ったかと思えば、初心者にコロッと負けることもありました」
この場にいない共通の知人の話は盛り上がるもので、カークがリリアの過去を語り始めた。
「あははは、とてもリリア君らしいですね」
実にリリアらしいエピソードだとユウイチは思う。
「騎士を目指すのかと思っていたら、学院では魔法課に進むと言い出して父上を困惑させました」
「何か理由があったんですか?」
聞かなくても理由は分かるが、ユウイチは一応聞いてみることにした。
「ただ、『面白そうだから』でした」
"さもありなん"ユウイチの予想通りの答えがかえってきた。
「そんな妹が毎日楽しそうに研究所に通っているので、私は所長殿に興味が湧きましてね。
一度、話をしてみたいと思ったんですよ」
「俺にですか?」
ひょっとしたら「カーク殿は、こっち系?」とユウイチは身構える。
「そろそろ見張りの時間なので、私はこれで失礼します。
コーヒーご馳走でした」
そう言って、馬車を降りていくカークを見て"ホッ"とするユウイチである。
「カーク殿、色々と聞けて楽しかったですよ」
"こっち系"疑惑の晴れたカークを見送るためにユウイチも馬車を降りた。
「あー、そうだ。
参考までにお伺いしますが、所長殿から見てアルマ嬢はどの様に映りますか?」
突然の質問に勘の良い者ならば"何故、アルマ君のことを?"となるところである。
「アルマ君は、リリア君の影響を受けていますね。
謂わば、じゃじゃ馬が二頭いると言ったところです」
たが、鈍感なユウイチは思うところを隠すことなく答えた。
「はははは、じゃじゃ馬が二頭ですか……
それは、手綱を捌く所長殿も大変ですね」
カークは大笑いしながら馬車を後にしていった。
「子供の頃からリリア君に振り回されていたカーク殿の方が大変だったのでは?」の言葉をユウイチは飲み込んでカークの背中を見送った。




